ミルクの未来を考える会
第1回ヨーグルトにおける乳・クラフトマンシップの価値訴求の可能性
4.立場を超えた交流がコミュニティとして機能するために
これをどうしたらいいかということで、今取り組んでいるのが、ヨグネットのコミュニティ性です。私たちは群れなんだ、役割の違う人がいっぱいいるんだという感覚を取り戻すために、ヨグネットはこういう構成になっています。代表理事が私、活動家・向井です。次に理事、正会員、準会員、ここがご当地ヨーグルトのつくり手の方々がメインとなっています。次に賛助会員というシステムがありまして、ここがご当地ヨーグルトの容器の商社さんとか、6次化していない牧場さん、ミルクを納品しているだけの牧場さんとか、ヨーグルトの文化を研究している方、小売店に勤務されている方、あとは一般のヨーグルトのファンの方。こういう人たちに賛助していただきながら、コミュニティを作っています。
社会的分断がこのアウトソーシング感覚を奪ってきた、希薄にしてきたのであれば、こういう多様性を持ったコミュニティをもう一度作ってみればどうかなというところがヨグネットです。
「ご当地ヨーグルト」を軸に立場を超越した交流ということで、大変ミニマムではありますが、こういう活動をしてみました。オンライン牧場見学。これはまだテスト開催なので、あまり公にはしてないのですが、ヨグネットの会員さんの牧場をヨグネットのいろいろな立場のメンバーで、オンラインで見学させてもらう。ヨグネットの“ネット”は、ネットワークやインターネットから来ているので、オンラインで交流してなんぼだということで、牧場を見せていただきました。
乳業メーカーの方であっても、「実はあんまり牧場見たことないんだよね」という方が、やっぱりご当地ヨーグルトのメーカーさんでも多数いらっしゃいます。本当は見に行きたいけど、「乳業メーカーの勤務の者です」と言うと嫌がられちゃうから、なかなか自分から行けなかった。こういう機会を作ってくれると非常にありがたいという声をいただいたりしました。
あとはヨーグルトのファンの方々や一般消費者の方は、観光牧場しか知らなかった、こんなふうに飼われてるんだというのを楽しんでいただけます。牧場の人は、当たり前と思っていたけど、みんなこういうことを知らないのか、こういうのを伝えていけばいいのかと気づいてくれる。そういうような交流を作ってきました。これもいずれコンテンツ化したいな思っています。
もう一つ、活動事例ということで、催事ボランティアです。高島屋さんの催事とかで、乳業メーカーが立って説明するのは当然のことなんですが、賛助会員さんにもボランティアを募集しました。すると、本当のヨーグルトファン、ただの消費者の方がボランティアで売り場に立ちに来てくれるわけですよね。
文化祭的に売るのが楽しいという感覚の人ももちろんいらっしゃいますし、あとはいざ大好きだったヨーグルトを説明しようとすると意外と言葉が出てこないとか、質問されたときに返せない、大好きなはずなのに意外と知らなかったというところに気づいてくれます。あるいは、ここは乳業メーカーの方も立ってくださるんですけど、他社商品も一緒に売るという経験がないので、めちゃくちゃ貴重だったと言われます。
ご当地ヨーグルトがギュッと一堂に集まったときに、「これ、生乳100%ですよ」と言っても、そんなのご当地ヨーグルトの中では当たり前で、実は売り文句にならない。そうしたら、生乳100%以上の説明をするときに何を話せばいいかというと、やっぱり地域性とかクラフトマンシップとか、そういうところ、情緒ですね。そういうところを出していかないといけないんだけど、用意してなかったと。この売り場に立って初めて気づくというようなことが出てきます。
あと、ご当地ヨーグルト事情とも言えますが、たまにパッケージ表示に問題があるものあります。小さい工房さんが作っていらっしゃるので、よくわからずに「濃厚」と書いちゃったりとか、「無添加」と書いちゃったりとか、いろいろグレーなことがいろいろあります。百貨店催事はとても審査が厳しいので、リジェクトされてしまう商品も多いんですよね。そうなったときに小さな工房さんだと、ダメと言われると諦めちゃうんですけれど、ヨグネットの場合は賛助会員の中に容器の商社さんがいらっしゃるので、そこのサポートを受けながら、何がだめだったのか、これはこういう表記があって、生乳と書いてあるのに生乳の割合が書いてなかったからダメなんだ、じゃあ、訂正シールを張って出そうよというようにチアアップしていきながら、1社では対応できなかったところをヨグネットで総合的にやっていって、自浄作用的にパッケージ表示もご当地ヨーグルト、ブラッシュアップされていくという、そういうような活動をしていました。
そういうところで消費者フレンドリーになる努力というのを、私たちヨグネットはやってきています。
今後のヨーグルト業界に期待すること
最後に、今後のヨーグルト業界に私が期待していることということで、散々語ってきましたが、ミルクの価値やクラフトマンシップの見える化ということですね。
率直に申し上げて、現在スーパーマーケットにあるヨーグルトは、乳酸菌の話が多過ぎて、どうもミルク大好きなヨーグルトマニアからすると寂しい部分もあります。乳酸菌のところばかりをアプローチしていくと、やっぱりどうしても安価につくれてしまう乳酸菌飲料の方にシェアをとられてしまうというのは、もう既に起きている現象です。
それに対してやっていくことといったら、ミルクやクラフトマンシップの部分で、それを訴求した商品も出ています。そういう商品がどんどん増えていってくれないかなと、すごいわくわくしています。
ただ一方で、還元乳の価値を下げたくないと申し上げました。これをもう少しブランディングはできないものだろうかと思っています。例えば水ですね。地域の名水を活用して、脱脂粉乳を何の水で溶いて、それに対してどういう乳酸菌でどういう発酵をしたら、こういう地域性の味になったみたいなことですね。これは一例ですが。そんなふうに、何かしら地域性とクラフトマンシップが見えるやり方って、まだあるんじゃないかなと思っています。このアイデアは、クラフトビールとか似たようなものを見たときに、やっぱり水じゃないかというところで思いついたんですが、そういうことをやりたいです。
次、ラグジュアリー商品の開発です。最近のA2とかの傾向はこれに近いのかなとは思いますが、先ほどの百貨店催事の海外の方の反応だったり、富裕層の方の反応だったりを見ると、やっぱりまだまだこの層には需要があるんですよね。どんどん拡大していける。ちゃんとストーリーを持って、意味のある価格の乗ったものであれば買ってもらえる。
例えば、石垣島のヨーグルトをヨグネットで販売させてもらっているんですが、そこの工房さんは、搾乳ができなくなった牛さんをペットとして飼われていて、その子の食料代もヨーグルトに乗せているので、飲むヨーグルト1本でも店頭価格で570円前後になってしまうヨーグルトがあるんです。だけど、それがいいと言って買ってくれる人がいて、それで成り立つんだったらそれでいいじゃないかと。そういうふうなところに向けた商品の開発もちゃんとしていって、多様性を出していけたらいいなと思っております。
最後が、立場を超越したコミュニティの形成ということで、先ほどのアウトソーシング感覚を獲得したいというところですが、何か最近そういう活動が増えてきましたね。ヨグネットもそうですけれど、「牛乳でスマイルプロジェクト」だったり、「みんなのヨーグルトアカデミー」というヨーグルトの総合サイトがあるんですが、ここもいろんな立場の方が寄稿しているようなサイトです。こういうふうなコミュニティ形成というのは、どんどん可能性があると思っています。
というのも、最近のヨーグルトの流行、グリークヨーグルトとか、そういうものを見ていると、企業が仕掛けたから流行るではなくて、ニーズがあってそれに対して小回りがきいて対応できる人たちがいたから流行ったというような流行り方をしているので、一方的なコミュニケーションではなくて、ちゃんと消費者、対象とされてこなかった若い人たちの声を聞けるようなコミュニティがなくてはならない。何か呼吸ができるようなコミュニティが欲しいなというのが、私の考えです。
ということで、ぜひとも皆さんと、今日、意見交換をしたいのは、ファジーさを孕む「日本のヨーグルト」が消費者により親切に、そしてより豊かな乳食文化の一部へと進化していくには、どのような手段があるんでしょうかという意見を頂戴したいです。
(講演ここまで)
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