ミルクの未来を考える会
第1回ヨーグルトにおける乳・クラフトマンシップの価値訴求の可能性
3.法人設立し「ご当地ヨーグルト」の確立をめざす
一番新しい活動で、一般社団法人ヨグネットを設立して代表理事の座につきます。これは、ご当地ヨーグルトの認知拡大と、中断してしまったヨーグルトサミットを復活させるための運営母体として作りました。
これを作る前に前身となる活動はいろいろやっていました。GINZA SIXさんとかとコラボさせていただきながら、ご当地ヨーグルトの集積販売とか。いろんな地域のものを集めて、ひとまとめにして売るという活動は、実は個人ではやってきたのですが、個人でやるには。非常にしんどかったので法人にしました。
何をしたかったかといいますと、ご当地ヨーグルトのカテゴリー認知をつくるということをやりたかったんですが、一番大きなのは、量産品との価格競争からの離脱ということです。最近、アルミパウチに入った大きなヨーグルトとか、ご当地ヨーグルトをちょっとずつスーパーで見かける機会が増えてきたと思うのですが、メーカーさんが口を揃えて言うのが「高いって言われちゃうんだよ」です。やはり、量産できるものではないですし、生乳の割合を考えたり、殺菌温度、発酵時間とかを考えると、なかなか効率の悪いことをしているので、たくさん作っていらっしゃる商品と並んだときに明らかに高いのは仕方ないことです。
それではどうするかというと、ご当地ヨーグルトという言葉をちゃんと知ってもらって、なぜ高いのかというところの認知を作っていけば、例えばスーパーのお肉コーナーに和牛があって、和牛が高くても違和感ないのと同じようなポジションをご当地ヨーグルトという名前でとっていけばいいんじゃないかと思います。
それと、生乳の価値向上です。生乳100%と言っても、何じゃそりゃと言われていたようなところをちゃんと伝えていって、ミルクの違いがあるんだよとか、そういうところまで見てくれるようなディープなファンを作っていきたいです。
もう一つ、文化としてのファンづくりということで、ご当地ものですね。この地域に行ったらこういうノスタルジックな商品があるとか、ここの何県のソウルフードになっているのはみんなが給食で食べてきたこのヨーグルトなんだとか、そういうふうなサブカル的なところも十分な訴求ポイントになるかなと思っています。
一般社団法人ヨグネットを設立
法人を設立してからは、販売戦略をちゃんと練って、ターゲットを絞った売り方をするように変わっていきます。
まず1点目、東京ビッグサイトのGOOD LIFEフェアへの出展。これはその名のとおり、GOODなLIFE、いい暮らしに関心がある人がわざわざ入場料を払って買いに来る総合的な展示会で、食べ物に限らず、衣食住、いろんな商品が集まっているところなんですが。わざわざお金を払ってまでいいものを買いに来る人のところに出展をして、ちゃんと言葉で説明して、試食していただきながらご当地ヨーグルトを買ってもらうというようなことをしました。
2点目は、羽田空港第1ターミナルの2階に羽田産直館という、いろいろな地域の物産品を扱うショップが2023年末にオープンしました。ここに対して私たちヨグネットは、中間流通業を始めました。
空港というのはやっぱりハブになるようなところなので、地域性とか体験とかに価値を感じてお金を払ってくれる人たちがいます。そうすると、ここで北海道のヨーグルトがあって、沖縄のヨーグルトがあってというと、すごく喜んでもらえます。
特に、普段、例えば九州にお住まいの人が東京に来て、九州の人が北海道のヨーグルトをすごくいいなと思っていても、送料が高くて、取り寄せはしないというところ、羽田空港に1個だけ買えるところがあるじゃないか、試しに飲んでみようみたいな感じでトライしてもらえる機会がとても増えました。ここで一回でも買ってもらえば、次、お取り寄せのハードルも下がるだろうという考えですね。
次に、高島屋京都店さんで今年の3月に販売させていただいたんですが、これがなかなかおもしろくて、お花見シーズン真っただ中ということもあり外国人観光客さんがとても多くて、日本語が役に立たないぐらいの売り場になっていました。
ホテルで夜食とか、翌日の朝食とかを調達しに、デパ地下に夕方頃に外国人観光客の方がいっぱい来るということをこのとき初めて知りました。ここではヨーグルトばかりを売っていたのですが、「ミルクはないのか、ミルクはないのか」とものすごく聞かれて、こんなに牛乳って需要があるんだと。だけど、それに対応できているデパ地下がないじゃないかということを痛感しました。
右の写真は東武池袋店ですが、これは上得意客様限定のサロン販売で、外商さんがつくお客様だけが入れるサロンにヨグネット含め7事業者出店しました。豪勢なカーペットが敷かれた部屋にぐるりと業者が出店し、お客様は外商さんに連れられて入ってきて、そこをぐるっと一周されます。もうお客さんの中で買うことは決まっていて、恐らくご予算も持たれています。ぐるっと回った中でいい話をしてくれた事業者のところで、もう端から端まで買ってくれるみたいな、考えもしなかったセレブリティな世界で販売をさせていただきました。
ここでは本当に語れないと何の価値もない。「ただのヨーグルトです」と言ったら絶対売れない。「これは富士山の麓の耕作放棄地に牛を2頭放って、そこの牧草を食べてカロリー化して作られたたヨーグルトですよ」とか、「ここは虐待を受けたような子供たちが入るシェルターの子供たちが、牛を通して命を学んでいく。乳業を手伝うことで職業訓練になる。そうして作られたヨーグルトです」とか。そういう話を一生懸命しないと全く売れません。逆にそういう話をしたら、値段も見ずに、ではショーケースの中のヨーグルト一つずつ全部くださいみたいな買われ方をするという経験もしました。
ヨグネット、何がいいかって、こういうところに出展するときに窓口がヨグネット一つで済みます。だから、20商品、20社とかまとめて出ているわけですけれど、百貨店さんからするとヨグネットとだけ取引すればいいので、全国各地のヨーグルトがとても簡単にお店に並べられるということで、ヨグネットを重宝していただいております。
代官山にフォレストゲート代官山という商業施設があって、そこに食品庫という、こだわりの食品ばかり置いているお店があります。そこでワークショップをしながら、ヨーグルトもお店で販売していただくというようなことをやりました。ここも大変好評で、ご当地ヨーグルトの社会的背景、耕作放棄地の活用とかそういう話をワークショップで知ってもらって、そこら辺の価値にお金を払う感覚で買っていただくというような販売をしました。土地柄とか、どの百貨店でどういう出し方をするかで、売れ行きや売れる価格帯が全然違うなという経験をしてきました。
いつも講演等で、「日本の乳食文化の意味的変遷」で、次の第4フェーズに行きたいというのをずっと語り続けています。これは何かといいますと、とても雑なフェーズ分けになりますが、日本人がミルクを活用し始めた第1フェーズというのは、やはり滋養強壮の意味合いが強かったのかなと思います。ミルクの栄養価は非常に高く、欧米人との体格差、を埋めるのはこういう栄養ではないかということで取り入れ始めました。
次に、誰でも栄養にアプローチできるようになってくると、今度は嗜好性が求められます。おいしいものが食べたい、甘いのが食べたい、乳脂肪分の高いほうがおいしいなど。
そういう嗜好性の時代が来た後に、今度は健康管理の時代が来ます。乳脂肪はカットしましょう、低カロリーのほうがいい、たんぱく質、筋肉・美容にいい物を摂りたい、腸活、菌が必要など。ここに代替ミルクも入れたんですけど、これは次のフェーズじゃないのと言われるかなと思うんですが、代替ミルクの商品をどういうモチベーションで皆さんが食べられているかというのを考えたときに、まだまだ日本の一次産業を意識して食べているということは少ないのかなと考えています。というのも、輸入原料のものが非常に多いというところで、どちらかというとやっぱり自己への支出の中に入るのかなと考えています。
この第3フェーズまでは、自分のため、健康のため、おいしさのため、栄養のためという支出をしてきた中で、第4フェーズとして、日本の未来、一次産業の持続可能性に対して選択的に買う時代が来てほしいというのが、私の常々の願いです。
コロナ禍、ロシアの軍事侵攻、震災、いろんなものが来て、日本の一次産業の脆弱性みたいなものが見えてきました。これに対して、社会性を含んだ支出をしたい、してほしい。でもこれ、どうやって作っていったらいいんだろうか、日本人が一番苦手としているような価値観じゃないのか。一生懸命考えました。
そして、やっぱりたどり着いたのがこれでした、「情緒」。先ほどまでのいろいろな物産展なり何なりに出て、一生懸命、人と会話してプレゼンして物を売ってきた中で、やっぱり一番人を動かせるのって「情緒」だなというのがわかってきました。
これを伝えるに当たって大切にしたいのは、アウトソーシングの意識獲得と思っています。これは何かというと、私は大阪で生まれて、今東京に住んでますから、全くもって農とは触れ合わない人生を送ってきました。それでも生活できてしまいます。本来は私も動物なので、自分の食料は自分で本当は確保なきゃいけなかったけど社会というものがあって、農をする人、加工する人、食べる人、ちゃんと分担ができているから生きていけている。ということは、私は食料、食糧獲得をアウトソーシングしているわけですよね。