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ミルクの未来を考える会

第1回ヨーグルトにおける乳・クラフトマンシップの価値訴求の可能性

1.はじまりはヨーグルトマニアの好奇心から

ヨーグルトにおける乳・クラフトマンシップの価値訴求の可能性

「ヨーグルトにおける乳・クラフトマンシップの価値訴求の可能性」というテーマでお話をさせていただきます。

今日皆さんと一緒に考えていきたいテーマ

ファジーさを孕む日本のヨーグルトが消費者により親切に、そしてより豊かな乳食文化の一部へと進化していくには、どのような手段があるでしょうか?

今日皆さんと一緒に考えていきたいのは、「ファジーさを孕む日本のヨーグルトが消費者により親切に、そしてより豊かな乳食文化の一部へと進化していくには、どのような手段があるでしょうか?」です。

これまでの活動

このテーマを語るにあたって、私の略歴をなぞりながら、どういうことを考えてどういう活動をしてきたかというのを、お話ししていきたいと思います。

私は大阪府出身で、大学院までは現代アートを専攻しておりました。卒業・修了後も特に就職はせずに、国内外で展覧会活動などをしながら、ライスワークとして大学の非常勤講師だったりウェブデザイナーをしていました。

いろいろ経て、今はヨーグルトで生計を立てている状態なのですが、きっかけになったのは、2011年からSNSでヨーグルトのレビューを発信し始めたことです。

これ、何があったかと言いますと、森永乳業さんの「パルテノ様」と呼ばせていただいているのですが、初めてのギリシャヨーグルトが出たときに、あまりにも感動して、「何だ、このおいしいヨーグルトは」ということをポストしたのが始まりです。

当時はまだインフルエンサーという存在も知らなかったので、まさか自分がSNSで何か活動するとも思っていなくて、普段の日常の写真の一つというくらいの気持ちでアップをしておりました。

この「パルテノ様」と出会う前からヨーグルトは毎日食べてはいたのですけれども、それらとは明らかに違う。だけどヨーグルトとして売られている。じゃあこれとクリームチーズとの違いは何なんだろうかとか、いろいろ気になり始めて、ヨーグルトの食べ比べを始めました。そこから数年間はただひたすらレビューをしていたのですが、2015年ぐらいに一度SNSでバズりまして、そこからヨーグルトの人として認知されるようになってきました。

2016年になると、私はワークショップを自主開催し始めます。SNSのフォロワーさんに呼びかけて、不定期開催なんですけれども、毎回テーマを決めてヨーグルトを7種類から10種類ぐらいチョイスして、私の説明つきで食べ比べてもらいつつ、皆さんからも感想を言ってもらうというようなことをしておりました。

今でいうと、オンラインサロンのオフ会みたいなポジションになるんだろうとは思うのですが、当時は本当にそういう概念もなかったので、ただただメンバー不定のサークル活動みたいな認識でやっていました。私は多分こういうコミュニティづくりに関心があったんだなと、今振り返れば思います。

当然、ワークショップなので、ヨーグルトについて解説をするために、一生懸命本を取り寄せたりして勉強しましたが、びっくりしたのが、日本にはヨーグルトの規格がないということで、調べても調べてもヨーグルトという言葉に対する法的な定義が出てこなかったというところで、一消費者だった私はすごく驚きました。

乳製品の分類比較

たどり着いたのが、発酵乳という言葉でまとめられていることでした。だけどすごく大き過ぎる言葉の定義という感覚がして。海外だともう少し、ヨーグルトはこの菌とこの菌とというような話があるんですけれど、日本では、発酵乳という大きな中の一つがヨーグルトなんだけど、イコールで結ばれているように見えるなというのが、私の感覚でした。

さらに調べると、ヨーグルトにはプレーン、ハード、ソフト、ドリンク、フローズンという5大分類みたいなのがあるのですが、どうやらメーカーさんによって解釈が違って、あるところでは、ハードというのは凝固剤を使って固めたヨーグルトだと書いてあるけど、あるところでは乳酸菌の力で強く固まっていたり、水切りしたものがハードと言われていたりしました。

調べれば調べるほど、どんどん混乱をしていき、なおかつ、ヨーグルトという言葉に対して法的な定義がないがゆえに、ものすごく自由に使われているなという感覚も持ちました。

今でこそ、公正競争規約で、乳酸菌飲料に何々ヨーグルトと書いてはだめですよとか、そういう一応ルールみたいなものはあるというのはわかってきてはいるんですが、当時、手当たり次第に食べたり飲んだりしたヨーグルトは、ご当地系はもうその辺のルールがどんどん崩壊していっていて、乳製品乳酸菌飲料だけどヨーグルトと書いてあるみたいな商品に出会ったりとか、○○&ヨーグルトとか、○○inヨーグルトみたいな言葉で、無脂乳固形分はすごく低いのだけれどヨーグルトを使っている商品ということでヨーグルトという名前がついていたりして、その辺の区別が、すごく難しかったというのが、当時の感覚です。

チーズやアイスクリームは、すごく細かくジャンル分けされていたり、評価制度があったり、アイスクリームには植物性脂肪分が入ってないような区分があったりするにもかかわらず、ヨーグルトは何でもかんでも発酵乳。乳脂肪分を使っていても発酵乳だし、植物油脂で油分を足していても発酵乳だし、すごくクラフトマンシップが育たない世界だなというふうに感じました。言いかえると、それが伸び代だなとも思いました。

消費者の疑問・誤解

発信し、フォロワーさんとコミュニケーションする中で、言葉が全然通じていないということに気づきました。「生乳100%」とフォロワーさんにお伝えしたところ、「それは濃厚という意味でしょうか」と聞かれたりして、メーカーさんの謳い文句が全く伝わってないと感じることが多々あって、これはだめだと思いました。

私は、情報というのはおいしさの一要素だと思っているので、生乳100%って意味が伝わることで、よりおいしくなると私は考えています。ただ、この生乳の価値・意味を伝える中で、還元乳の存在を否定したくないというのが強い考えです。

脱脂粉乳を水で溶いて発酵させるヨーグルトもたくさんあるわけですね。だけど、生乳100%がこんなに素晴らしいんだよという話をしちゃうと、じゃあ脱脂粉乳のヨーグルトは買わないでおこうとなってしまうと、それはまた私の意図とは違うというわけで、とてもここはデリケートなところだなというふうに感じました。

もう一つ、発酵に関与する菌と添加される菌があるというのも、マニアになって初めて知りました。例えばビフィズス菌。私はてっきりヨーグルトは、乳酸菌のヨーグルトもあれば、ビフィズス菌のヨーグルトもあると思っていたんですよ。だけど、マニアになってちゃんと調べると、全てのヨーグルトはちゃんと乳酸菌で発酵されていて、ビフィズス菌はどちらかというと添加される、死んでない、生きてるというだけの、発酵にはあまり関与していないということを知って、なるほど、機能のためにある菌と、滑らかさ、香り、おいしさ、深みとか、そういうところをつくる菌はまた別なんだと思いました。

だけど、お店に行って手にとって見えてくるのは、機能の菌の名前ばかりなんですよね。本当はすごく滑らかにしてくれる菌、すごくいい香り、いい酸味を出してくれる菌を一生懸命選んで、それに適した発酵温度で管理して、頑張って調整しておいしい味を作っているはずなんですけど、発酵に関与する菌が語られている商品ってあまり無いなと。

これもまたクラフトマンシップというところと付加価値というところが全然区別されないまま、菌として一塊りになってしまっていてもったいないなと。機能が先行する中で、情緒的価値という部分の訴求がなされていないのがヨーグルトなんだなというふうに、気になり始めました。

加えて、ヨーグルトに関していろいろ情報収集する中で、腸活の切り口でお話をする方はたくさんいらっしゃいましたけど、乳の話をしてくれるヨーグルト関係の人はあまりいませんでした。

そんなときに、私がたまたまウェブメディアに取り上げられたことがきっかけで、乳業界の人が私を知ってくれて、2018年に第1回全国ヨーグルトサミットin小美玉という大きなイベントに登壇させていただくことになりました。これが本当に大きな転機でした。

今まではワークショップを自主開催していたわけですけれど、初めて依頼されて人前で話す。これが、自分の情報に価値があるんだと気づいた瞬間でした。

このヨーグルトサミットというのは、全国からご当地ヨーグルトが小美玉市に集結して、物産展や総選挙を行うような一般向けのイベントであると同時に、工場長会議やクラスタースクールのような作り手向けのコンテンツもあるものだったので、そこで酪農・乳業関連の知り合いが一気に増えました。