ミルクの未来を考える会
第3回乳・乳製品の魅力を知る ~食品安全の視点から~
委員
(質問)
気になったのは、食中毒事例に富山県のメーカーさんの例があった点です。その事例は学校給食限定で発生し、同じ生乳と原料乳を使用していたはずなのに、市販ロットもあったと思われます。なぜ学校給食のみで発生したのか、子供が特に発症しやすいのか疑問です。食品安全上、特に免疫力が十分でない子供は、微量の菌が集団で広がりやすいことが考えられます。
講師
市販されていたかどうかは、資料を見る限りにおいてはなかったと思います。
委員
(質問)
給食だけということですか。
乳協
非常に小さな事業者さんで、学乳中心に製造していると思います。一部1リットルの大きな牛乳もつくっていたのですけれども、当日は200ミリリットルの学乳だけ製造しておりました。
委員
(質問)
6人規模の小事業所においても、2021年6月のHACCP完全施行に合わせて迅速な対策導入が求められました。しかし、施行のタイミングに準じた準備が十分でなかったと考えて良かったでしょうか?
乳協
HACCP全面義務化に関する現場の取り組みについて補足させていただきます。
2021年6月からHACCPが完全に施行され、この食中毒事故も同月に発生したことから、HACCPあるいはその理念に沿った衛生管理対策を講じるのは当然の課題となりました。同時期に金属異物混入などの不祥事も明るみに出たため、義務化に合わせた準備や対策が十分ではなかったという点も指摘される状況です。
当協会では、非常に危機感を持って各種講習会を実施し、HACCPの基本的な知識や運用方法についてお伝えしてまいりました。しかし、対象となる小規模事業所は従業員が5~6名程度しかおらず、東京まで数日間出向いて講習に参加するのは現実的に困難であったため、参加者がなかなか集まらないという問題もありました。そこで厚生労働省と協議した結果、特に小規模な現場に対してはプッシュ型の支援体制を作り、協会から専門の担当者を派遣して直接出向き、HACCP導入に際して何をすべきか具体的な指導を行う方式を取ることにいたしました。昨年度は5事業者、今年度は7事業者に対して、手引書に基づいた管理方法だけでなく、洗浄方法や機械のメンテナンスのやり方といった一般衛生管理全般について実践的な指導を提供しています。
また、小規模事業者では、充填機や殺菌機が導入から20年~30年と経過した旧型設備を使用しているケースがよく見受けられ、こうした機械は機器メーカーのサポートが得られにくいため、故障や不具合が生じた際の迅速な対応が難しいという現状があります。適切なメンテナンスが行われなければ、その結果、細菌の汚染や異物混入といった衛生上のリスクが一層高まる恐れがあり、これは一つの大きな課題となっています。
そこで、当協会ではこうした現場のニーズに応えるため、端的で分かりやすい機器メンテナンスのショート動画の制作にも着手いたしました。具体的には、充填機の洗浄部分の正しい手順や、ポンプの配置方法など、現場で即実践できる内容を2~3分程度にまとめた動画を、今週より乳協のホームページ上で公開する予定です。こうした動画は、専門知識の習得や長期出向が難しい小規模事業者の方々に、実践的なアドバイスを迅速に提供するための試みです。
現場の安全確保と衛生管理の向上を目指し、引き続き積極的な支援活動を展開してまいります。今後も当協会の取り組みやホームページに掲載される動画にご注目いただき、ぜひ現場で役立てていただければと考えております。
委員
(意見)
ぜひ協会でそういうところもサポートしていただけたらと思います。
委員
(質問)
特別牛乳や未殺菌牛乳についてよくわからないのですが、これは乳等命令で認められているということですか? 詳しく教えていただけますか。
委員
(意見)
製造段階の管理が乳等命令で規定されており、認可施設は4つのみで、それ以上増える予定はなく、未殺菌で飲めるものは少ないです。
委員
(質問)
具体的にどこら辺でそういうものをつくっていて。普通の私たちが手に入れるということはできるのですか?
委員
(意見)
特別牛乳を作っているのは昨年から3カ所になりました。京都のクローバー牧場が製造をやめ、現在は北海道、福岡、神奈川の3カ所です。その中で唯一、無殺菌の生乳を販売しているのが北海道の「想いやり生乳」で、オンラインで購入できます。非常に高級な生乳です。
委員
(質問)
私はナチュラルチーズの販売をしており、無殺菌乳製品の外国チーズを多く扱っています。リステリア問題が発生すると輸入がストップするリスクがあるため、HACCPの導入により衛生管理を徹底しなければと改めて感じています。この点については会社に持ち帰り報告する予定です。また、小さなチーズ工房を訪れる機会も多く、どこも衛生管理に気を遣っています。そこで、小規模なチーズ工房がHACCPの考え方を学んだり導入したりする窓口があれば知りたいと思っています。乳製品関係のHACCP導入について、どういった支援や学習機会があるのか教えていただけると助かります。
委員
(意見)
チーズについては、チーズの普及協会が手引書を作っています。それに基づいた指導内容は、協会に確認してください。ヨーグルトについても発酵乳乳酸菌飲料協会が手引書を作っていますし、アイスクリームも同様です。各乳製品について、それぞれの協会が手引書を整備しています。
司会
チーズ工房は会員となっていなかったので、多分カバーししきれていないのですね。
委員
(意見)
小さいところが本当にふえているので、皆さんそういうのってどこで学ぶのかなと思っています。
司会
日本チーズ協会を作っていますが、まだ小さいので、手引書作りは難しいと思います。これからの発展に期待ですね。
委員
(質問)
2018年の北海道での未殺菌牛乳による食中毒事件についてですが、許可を受けていない宿泊施設が牛乳を提供し、カンピロバクター食中毒を引き起こしたケースです。このように、許可を得ずに食品を提供する宿泊施設が他にもあるのかと疑問に思いました。また、無許可での提供が認められていないことを伝える啓発活動がどのように行われているのかについても興味があります。
講師
認められていないものを出す事例は少ないと思いますが、こうした事例が起きるのは氷山の一角かもしれません。牛乳や生乳を未殺菌で出すことは禁じられていますが、これについて行政が特に強く普及啓発しているかというと、一般的に製造基準を守るように知らされています。
特別な啓発活動については、具体的に何か行われているかはわかりませんが、生乳の安全性を確保するための基準があるという認識が広まることが重要です。
乳協
これまで厚労省や自治体は食品衛生法の違反業者に対して厳しく対応することが少なかったです。
でも、生食用の牛肉や肝臓を裏メニューで出す業者が増えてきて、そうした悪質な事例には自治体も厳しい態度を取るようになっています。特に意識して法違反をする業者には行政も厳しく対応するようにという通知が出ているようです。昔に比べて状況は厳しくなってきていると感じています。
委員
(意見)
こういう事例は悪意より無知で始めたものに思えます。宿泊者によかれと考えて出したのかもしれませんが、そういった人には注意喚起が届きにくいと感じています。
委員
(意見)
知らないことは恐ろしく、こういうことが起きます。この事例に対する特別な注意喚起は聞いておらず、指摘は重要だと思いました。
委員
(質問)
私自身の体験なんですけど、お店で買ってきたばかりの牛乳を開けてすぐ飲んだとき、苦みを感じたんです。最初は舌がおかしいのかなと思って少し飲み進めましたが、やはりおかしいと思って、飲むのをやめました。苦みがあるってことは、その時点で何かに汚染されているとか、おかしいということで、やっぱり飲まないほうがいいのかと悩みました。味がおかしかったらやめたほうがいいのは分かっていますけど、温めれば大丈夫かなとも考えて、結局飲まないことにしました。
それで、苦みがあったらやっぱり飲まないほうがいいのかということと、そういう変化が店の保管状態によるものなのかが気になります。買ってすぐに開けたので、自分の保管どうこうはないと思うんですけど、店の保管で味が変わることがあるのか。また販売側には何か基準があるのか、ご存じでしたら教えていただきたいです。
講師
牛から搾れる生乳の成分は、飼育時の餌によって変わります。苦みがあることもありますが、それが直接食中毒を引き起こすわけではないと考えられます。農場では出荷前に官能検査を行い、品質を一定に保つ工夫が施されています。生乳はこれらのプロセスを経て製品化され、市場へ出荷されます。このような生産段階に詳しい方がおられれば、ぜひ詳しく伺いたいです。
委員
(質問)
販売についてですが、具体的には何度以下で売るような基準があるかと思います。これらはお店ごとに異なるものでしょうか、スーパーで買った商品に関連します。
委員
(質問)
冷蔵なので、10度以下で販売するということは決められています。
委員
(質問)
富山県の学校給食の牛乳で食中毒が発生した件でいくつか質問があります。まず、HACCPの導入についてですが、私はこれが普及していると思っていましたので驚いています。1点目として、従業員50人未満の事業所にはHACCPの考え方の導入で良いということですが、消費者としては具体的でなく、実際の手法による管理が義務づけられている事業所との差がわかりにくいです。どのように違うのか教えてください。
次に、この資料によれば、生産工場では大手5社以外の施設の8割が50人未満の事業所と推測されます。つまり、小規模工場が多いのかと感じました。全体の生乳生産量のうち、どのくらいが50人未満の事業所によるものか知りたいです。HACCP導入済みの安心して飲めるところと、考え方の導入のみの事業所がどれほど流通しているのかという割合が気になります。
さらに、今回1900人近く被害が出ましたが、事業者に対する罰則など対策はどう行われたのかも知りたいです。
最後に製品購入時の表示についてです。HACCP導入済みと書かれている商品もありますが、消費者が選ぶ際に導入済みのものが良いと思います。表示に関する指針や義務があるのか教えてください
講師
HACCPシステムの7原則12手順に基づいた衛生管理を導入している施設と、「HACCPの考え方を導入して衛生管理すれば良い」とされる施設の違いについてですが、規模によって衛生管理の現実性を考慮しています。50人未満の施設に対しても、「HACCPの考え方」を導入することが求められており、これをもって衛生管理が不十分だというわけではありません。それぞれの規模に応じた管理が認められていると理解しています。
大前提としては一般衛生管理があり、それを徹底したうえでHACCPプランを追加し、さらに衛生管理を強化するという形が法的に義務化されています。小規模な施設が劣っているわけではなく、例えば富山市の事例では、法的完全施行の境目にあったことが影響しています。事前準備を進めていたにもかかわらず、導入できなかったことが原因で事故が発生したとも考えられます。
小規模施設の生産割合についてのデータは持っておりませんが、他に詳しい方がいれば情報をお聞きしたいところです。また、表示の関係についてもお話があればと思います。
委員
(質問)
今回の富山市の事業者のように食中毒を出した事業者に対して罰則とか対策はどのようにされたのですか?
講師
現在、法的な行政処分により営業禁止命令が出されています。これは衛生管理の問題が解決され次第解除されます。
表示に関しては既に法的に義務化されており、導入されていますが、衛生管理の方法を表示する義務はありません。そうした表示を進める動きも今のところ聞いていません。
乳協
従業員が50人未満の事業者はHACCPに基づく衛生管理の義務はありませんが、自主的に取り組む例もあります。特に小規模で従業員が10人程度の乳業会社でも、HACCPに基づく衛生管理を実施し、講習会で学び、危害要因分析やHACCPプランの作成を行っているケースが見られます。つまり、50人以下だからといって、すべてがHACCPの考え方を取り入れた衛生管理で済ませているわけではありません。
実際の流通量や生産量を把握するには、個別に詳細な調査が必要と考えています。特に、5人や6人の少人数の事業者では難しい場合がありますが、複数の従業員を持つ会社は、多くがHACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実施している印象です。また、HACCPが食品産業全体に義務づけられたため、すべての販売される牛乳でHACCPに基づく衛生管理が行われています。ラーメン屋やおすし屋でもHACCPが義務化された背景には、7原則12手順の適用が難しいケースへの配慮もあると言えます。
講師
法的に義務化されていますが、第三者認証としてHACCPプランに基づく衛生管理が行われているかをチェックする仕組みは依然として存在しています。
委員
(質問)
最近、ボツリヌス菌で重症になった方がいて、その原因食品が特定されていないため、不思議に思っています。報道によると、問題の食品は要冷蔵にもかかわらず冷蔵庫に入れられておらず、食べる際にブルーチーズのようなにおいがしたという情報があります。ブルーチーズが好きな人には大丈夫なのではと思うかもしれませんが、乳製品でボツリヌス菌が含まれる事例はあるのでしょうか?
講師
ボツリヌス菌は嫌気性菌であるため、酸素のない状態でなければ増殖せず、毒素を産生しません。最近話題になったのは、新潟県で酸素のない状態になる食品が原因で発生したケースだと思います。新潟県の事例については詳細を確認していません。
委員
(意見)
乳製品は通常要冷蔵ですが、表示を見落として常温保存してしまう場合があります。行政の発表した情報が少し足りないとは思っていたのですが、食べ物の安全性についての理解が難しいこともあります。しかし、乳製品は嫌気性菌が発生しにくいため、ボツリヌス菌による食中毒の心配はないと理解しました。
乳協
LL牛乳は特別な規格基準により、120度で4分加熱することで殺菌され、ボツリヌス菌も死滅するため、常温保存が可能です。他の乳製品は一般的に10度以下での保存が必要です。
委員
(質問)
ブルーチーズのような臭いというのは、どんな商品なのですかね?
委員
(意見)
そのにおいが腐敗臭のように独特だったとは思いますが、例として出すのはどうかと思います。ただ、チーズ自体が問題というわけではありません。
委員
(意見)
何が原因だったのか、すごい謎の食中毒だったので。
委員
(意見)
レトルト食品の食中毒は、常温保存するべきでない商品を間違って保存したことが原因と考えられます。これはLL牛乳の容器が常温保存可能な商品と似ているため、逆に普通の牛乳と混同してしまうリスクもあると気づきました。この点に関して、HACCPは製造工程を管理するものですが、消費者が手に取った後にエラーを防ぐためのガバナンスは現在あるのでしょうか?消費者が安全に商品を取り扱うための仕組みや教育が必要だと思います。
講師
現在、家庭における食中毒予防に関して厚生労働省や自治体が注意喚起を行っています。WHOも情報を提供しており、それに基づいて各都道府県が普及啓発活動を実施していますが、具体的な規制は行われていません。
委員
(意見)
常温保存可能と書くだけでは不十分です。直感的なデザインで行動を促す仕組みを作らないと、将来エラーが起こる危険があると感じました。
乳協
常温保存可能な商品は混同しやすいという意見に共感します。牛乳の容器はこれまでは紙パックやガラス瓶に限られ、厳しい規制がありました。しかし2025年6月の容器包装のポジティブリスト化により、用途別規格が撤廃され、一般的な容器も牛乳に使用できるようになります。メーカーがどのように考えるかは未知数ですが、将来的にはLL牛乳に対してパウチや缶といった異なる容器の導入も考えられます。設備投資やコストの課題はありますが、新たな展開を期待しています。
委員
(意見)
ヨーロッパでは、LL牛乳が一般的に購入されており、私が20年前に滞在した際も、ほとんどの人がこの牛乳を選んでいました。その容器は、日本人から見ると柔軟剤のボトルに似た大きなプラスチック容器で、取っ手がついており、スーパーに山積みされています。無殺菌の牛乳は特別なもので、農家から直接購入するイメージでした。この状況を見て、日本でもLL牛乳を導入できれば、バター不足などの問題が軽減できるのではと考えていました。フレッシュな牛乳は期限が短く流通が難しいですが、LL牛乳であれば長期間保存可能で、輸出などの選択肢も広がるでしょう。この容器の形状や考え方を日本でも取り入れることは、ポジティブな変化の兆しだと感じ、意見を述べました。
LL牛乳については以前から繰り返し提言してきたのですが、災害時の備蓄品としてなぜ普及しないのか疑問に思っています。あるメーカーに理由を尋ねたこともあります。脱脂粉乳を用意するのも良いですが、牛乳はたんぱく質を摂取するために非常に重要で、高齢者や子供にも適しています。現在のLL牛乳は、常温保存が可能にもかかわらず、多くのスーパーで冷蔵販売されています。これが普及を阻んでいる一因ではないでしょうか。消費者は冷蔵で販売されていると、常温保存が可能とは考えず、そのまま冷蔵庫で保存するようです。
正しい知識を広め、LL牛乳が災害備蓄として家庭に常備されるようになることを願っています。
司会
日本のLL牛乳は60日から100日程度の品質保持期限しかないので、なかなかそういう災害用に備蓄するほどまでには日もちはしないというところが欠点かなと思っております。
委員
(質問)
日頃、スポーツ選手や子供の母親と接する機会が多く、牛乳の安全性に対する関心が高まっていることを感じています。特に、抗生物質やホルモン剤の使用に対する懸念が強いです。先生もこのような質問を受けることがあると思いますが、殺菌やHACCPを含め、消費者が心配している点に対して、どのように安全性を伝えていらっしゃるか、先生のご意見を伺いたいです。消費者に安心感を与えるための具体的な説明や取り組みがどのように行われているのかを教えていただければ幸いです。
講師
今日は食品衛生管理について、牛乳の食中毒リスクに関する生物的ハザード、病原微生物の話に集中しましたが、実際にはハザードはそれだけでなく、抗生物質やホルモンなどの化学物質性ハザードや異物混入のハザードも重要です。
化学物質については、生産段階での管理や集荷時のチェック、製造段階での原料乳入荷時チェックが行われています。基本的に、日本国内で製造されているものに関しては、farm to tableの理念のもと、生産から消費まで安全が確保されており、特に心配する必要はありません。このように安全が保証されているため、消費者は安心して牛乳を楽しむことができると説明して良いでしょう。
乳協
農林水産省の担当官と話す機会があり、環境汚染物質としてのPFASに関する懸念が議論されました。水道水や井戸水への基準設定や、ミネラルウォーターの規格基準化の動きが進んでいますが、多くの水を消費する牛から牛乳への影響を心配する消費者もいるかもしれません。農林水産省では、これら汚染物質に関する実態調査を行っており、結果を取りまとめて公表する予定です。
幸いなことに、現時点でのデータでは、牛乳への移行はないとされており、安心材料が増えつつあります。牛乳だけでなく、野菜や米についても調査が進行中であり、米に関しても子実への影響は見られないとのことです。これらの情報は、消費者の安心材料として、近々公表される予定です。
抗生物質やホルモン剤の使用については、農家が適切な用法や休薬期間を守ることが重要で、生産段階から消費者までの食の安全は、すべての段階での努力と協力に基づいて成り立っています。今後、これらの結果が公表されることで、さらなる安心が期待できます。
司会
委員の皆様からの質問が一通り終わりましたので、一度メーカーに質問を振りたいと思います。先ほど熊谷先生がお話しされた牛乳・乳製品の栄養的価値についての観点から、食品安全以外に、メーカーの皆様がどのような取り組みをしているのか、お話を伺いたいと思います。

メーカー1
食育活動に関しては、広報部内の食育グループが中心となり、小中学校から高齢者まで全国で食育セミナーを実施しています。当初は牛乳・乳製品の普及がメインでしたが、今はカカオや栄養、水分補給などのテーマも扱うようになり、現在は30以上のプログラムを展開しています。例えば、「なるほどがいっぱい! ミルク教室」では、酪農の現場や牛に関する5種類のプログラムを用意し、これらを学校などセミナー形式で双方向に情報提供しています。こうしたコンテンツ拡大により、教育活動に幅広く貢献しています。
メーカー2
お客様からの牛乳についてのお問い合わせやご指摘では、特に頻度が高いのは、「開封後どれくらい飲めますか?」という質問です。賞味期限は開封前の期限を示すものであるとお伝えしていますが、開封後の取り扱いについて十分にご理解いただけていない場合も多く見受けられます。その結果、「賞味期限内なのに牛乳がどろどろしているが飲めるか」「変な匂いがするが飲んでも問題ないか」といったお問い合わせが寄せられることがあります。
また、「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする」というお声には、弊社の商品「アカディおなかにやさしく(乳糖約80%分解)」をご紹介することで、個別のニーズに応じた対応を心がけています。高齢のお客様からは「コップ一杯飲むとお腹がいっぱいになってしまい、食事ができなくなるのでどうすればよいか」というご相談も受けています。このような場合には、お客様の生活習慣や食事スタイルに合った方法をご提案しています。
報道等の影響で「牛乳を飲むと太る」という懸念により、牛乳を避ける傾向が見られることがあります。弊社ではスキムミルクをご紹介し、低脂肪かつカルシウムを効率的に摂取できる選択肢を提供しています。また、北海道の大学の牛乳愛好サークルと協力してスキムミルクを使ったレシピやメニューを開発し、その魅力を広める活動もしています。
ここで食中毒の話題にも触れさせていただきます。2000年に発生した食中毒事件は、弊社として多くのお客様の信頼を損なう結果となり、大きな教訓を得る出来事となりました。当時、食品製造に携わる者としての基本的な知識や衛生意識が十分ではなかったことが原因でした。その経験から、経営統合後も毎年、全従業員が品質保証理解度チェックを実施し、「食責の日(食の責任を強く認識し、果たしていくことを誓う日の活動)」として年2回、事件の詳細を正確に記憶し続けることで、何が問題だったのかを忘れることなく次世代に繋げるための取り組みを継続して行っています。以上、この場をお借りしてご紹介させていただきました。
メーカー3
当社では食育活動の一環として、小学生向けに工場見学やバターづくりの実習を実施しております。例えば、「牛はこんなに大きいんだ」や「牛のおっぱいは幾つあるの?」といった、普段あまり知られない牛の不思議な事実を紹介すると、学校の先生も驚かれるほどです。見学では実際の製造現場を間近で体験し、試飲も行いながら知識と実感を深めていただいております。
さらに、見学後には子供たちの疑問に応える質疑応答の時間も設けられ、熱心なスタッフが丁寧に解説しています。その結果、より多くの子供たちが食に興味を持つようになりました。
工場見学は神奈川県の関連会社あしがら乳業および群馬県の北関東工場の二か所で実施しており、来年度も継続してお願いしたいとのご要望を承っております。
司会
では、本日の主要テーマである食品安全について、皆様と意見交換をさせていただきたいと思います。
食品安全に関しては、プラス面に加えマイナス面も含め、各社それぞれに多くのご経験があるかと存じます。行政の対応や報道のあり方についても、さまざまなご意見があるかと思いますので、言える範囲でご発言いただければ幸いです。
メーカー4
ご存じでない方もあるかと思いますが、昨年の4月末に、宮城県内の弊社グループ会社で製造される学校給食用牛乳において、「いつもと味が違う」とのお申し出が多数寄せられた件がございました。宮城県内の12市町の一部からこのようなご意見があったものの、商品そのもの、製造工程、流通過程の各検査・検証を、弊社、保健所、及び第三者機関が実施した結果、特段の異常は確認されず、牛乳の風味にばらつきが生じる要因が推定されるに留まりました。
さらに、毎日牛乳を飲用される小中学生は、成人に比べて風味の僅かな違いにも敏感な傾向があるため、今回の現象にはその背景も影響していると考えています。
こうした状況下、酪農家の皆様が安定した品質の原料を供給している現実と、生活者が誤って原乳に問題があるという先入観を持たれないよう、正確な情報発信が極めて重要となります。弊社といたしましては、学校給食を取り扱う上、教育委員会の方々、学校の先生、生徒及び保護者の皆様に対し、牛乳の特性や今回の事案について丁寧にご説明し、理解の促進に努めてまいりました。また、事件発生当時には、弊社現地社員が各教育委員会を訪問し、改めて牛乳の特性をお伝えするなど、情報共有に積極的に取り組んだ次第です。
一方、行政やメディアの連携面では、国が窓口を一本化し、各関係者が一体となって対応できたことは評価すべきと感じています。しかし、現地メディアは各々の取材ルートを通じて得た情報を報道するため、「いつもと味が違う」という申し出の件数や症状の深刻度がばらつき、正確な情報が伝わりにくく、読者や視聴者に混乱を招いた側面も否めません。そのため、今後はどの情報を公式のものとするか、また各機関の役割分担や連携方法について、行政、教育委員会、そして関係者が一丸となって検討し、ガイドラインの策定を進めていく必要があると考えています。
さらに、再供給再開のタイミングについても重要な課題となっております。今回、仙台市を皮切りに、市、保健所、県庁、教育委員会が連携し、外部検査や風味・品質評価の結果を踏まえて、最終的には教育委員会の判断により再開が決定されました。この事例は、今後各自治体で学乳供給停止後の再開のための基準やガイドラインを策定する際の参考になるかもしれません。ただし、学乳に関しましては検査を重ねても原因が明確にならない場合があるため、未知の要因をどのように反映させるかも大きな課題です。関係各方面でのすり合わせが必要となることは明らかです。
最終的には、学校や保護者の皆様の不安が解消されないまま、安全性は確認されているのに「安心感」が得られず、供給再開に支障が生じる状況は避けるべきです。
乳協
Jミルクの「牛乳は生きている」という冊子は、日本乳業協会と共同で制作されました。ご興味のある方は、Jミルクのホームページからダウンロードいただけます。冊子には、風味、季節、産地など多角的な情報が記されていますので、ぜひご参考ください。
司会
食品安全について何かお話しされたいことや、こんな経験があったということがあれば、お願いしたいと思います。
メーカー5
製品事故が発生した際、原因究明はもちろんですが、事実や自主回収について関係機関(農林水産省や厚生労働省、現地保健所)および記者各位へ統一された情報として提供することが不可欠です。そのため、弊社ではお問い合わせ窓口の統一を図るとともに、情報伝達のマニュアル化を徹底し、混乱が生じない体制づくりを進めております。弊社全工場にはHACCPシステムを導入しており、食品安全管理の強化に取り組むことで、今後も安心してご利用いただける製品の供給を目指してまいります。
メーカー6
昨年、システムトラブルにより約半年間チルド製品の出荷を中止し、ご迷惑をおかけしました。棚が空いたため急な注文が入り、嬉しい悲鳴ではなく、生産部門や他社(競合も含む)にもご負担をかけた状況です。
一方、弊社の牛乳は全国でも特定地区限定で販売しており、「販売店はどこですか」というお問い合わせが最も多く寄せられています。品質については、風味や賞味期限に関する質問が少なく、工場では衛生管理を高い基準で実施しております。
メーカー7
弊社では衛生管理を徹底し、出荷不可の商品は一切出さないよう努めております。しかしながら、お客様が通常感じられる風味の違いや小さな変化が予想外のトラブルとなる場合もあるため、その際はお客様の貴重なご意見をしっかり伺い、迅速かつ丁寧に対応しております。
また、先ほど他メーカー様もご指摘された通り、未確定な情報で商品を出荷しますとさらなる問題に発展する恐れがあるため、情報確認を十分に行っております。今後もお客様に安心してお使いいただける製品の提供を目指して努力して参ります。より一層の衛生管理体制を強化し、万全の品質維持に努めて参ります。
講師
本日はこのような貴重な機会に恵まれ、お話をさせていただく機会を得ましたこと、心から感謝申し上げます。
私自身、まだ勉強不足で分からぬ点も多く、本日のご講話から大いに学ばせていただきました。牛乳は栄養価が非常に高いことから、衛生管理についても細心の注意が必要であると痛感いたしました。メーカー各位には、今後も安全第一で努めていただき、牛乳の未来を切り拓くべく「ミルクの未来を考える会」と連携しながら、さらなる発展に寄与していただければと存じます。
引き続き皆様のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。本日は本当にありがとうございました。
【出席者】
「ミルクの未来を考える会」委員(50音順)
- ・チーズプロフェッショナル 大和田百合香 氏
- ・消費生活コンサルタント 鷺 仁子 氏
- ・グラフィックデザイナー ミルクマイスター(R)高砂 氏
- ・科学ジャーナリスト 東嶋 和子 氏
- ・北海道新聞社 編集委員 中村 公美 氏
- ・株式会社Food Connection 代表取締役 橋本 玲子 氏
- ・フリーエディター 宮村 美帆 氏
- ・一般社団法人ヨグネット 代表理事 向井 智香 氏
乳業メーカー広報担当者他
酪農・乳業 専門紙記者
日本乳業協会