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ミルクの未来を考える会

第3回乳・乳製品の魅力を知る ~食品安全の視点から~

3.衛生管理のための指標菌とHACCP導入後の衛生管理

牛乳の殺菌条件

乳及び乳製品の変成・腐敗菌

現在、日本のスーパーで市販される牛乳の9割以上は超高温瞬間殺菌が採用されており、この方法は芽胞も死滅させるため、高い安全性が確保されています。その結果、この方法で殺菌された牛乳には「賞味期限」が表示されています。一方で、他の殺菌方法で処理された牛乳については、有害な細菌を除去するものの、すべての菌を死滅させるわけではないため「消費期限」と表示されています。

牛乳および乳製品の変成・腐敗菌

乳及び乳製品の変成・腐敗菌

これらは未開封の状態における期限表示ですが、開封後は環境中の細菌が牛乳に混入する可能性があります。特に低温細菌と呼ばれる7度以下でも増殖可能な細菌が冷蔵保存中に増殖し、牛乳の酸敗や腐敗を引き起こす原因となることがあります。そのため、どれほど殺菌がされていても、開封後は衛生状態が悪化しやすくなります。牛乳を飲む際には、官能的に安全であることを確認しつつ、保存方法にも十分注意が必要です。

牛乳および乳製品の衛生指標菌

乳及び乳製品の衛生指標菌

牛乳に含まれる食中毒の原因となる病原微生物を除去するために、製造工程では殺菌が行われています。また、製造工程全体で衛生管理が十分徹底されているかを確認するために「衛生指標菌」が用いられています。食中毒の原因微生物すべてを各工程で検査することは現実的ではないため、衛生指標菌として特定の試験法で検出される細菌群を基準として設け、その基準を満たせば衛生上問題ないと判断されています。
日本では「一般細菌数」や「大腸菌群」が牛乳や乳製品の衛生指標菌とされています。また、Codex委員会やEUでは腸内細菌科菌群が衛生指標菌として利用されています。

熊谷優子氏

さらに、リステリア属菌も諸外国で衛生指標菌として広く使用されています。その中でも、ヒトへの病原性を持つリステリア・モノサイトゲネスで、妊婦、高齢者、基礎疾患を持つ方々が感染すると髄膜炎、敗血症、流産などの重篤な症状を引き起こす可能性があります。欧米ではアイスクリームやチーズなどの乳製品での食中毒報告事例があり、この菌に対する対策が非常に強化されています。
リステリア属菌は環境中に広く分布しており、衛生指標菌としてのリステリア属菌にはリステリア・イノキュアなどの非病原性菌も含まれます。リステリア属菌は製造施設の機械や壁などに粘液性物質と結合してバイオフィルムを形成し、通常の洗浄や消毒では除去が困難です。そのため、食品製造工程全体で管理が必要とされています。
日本ではリステリア・モノサイトゲネスによる食中毒の報告事例はありませんが、欧米では冷凍トウモロコシを原因とする食中毒も発生しており、注視されています。

牛乳および乳製品の衛生指標菌

乳及び乳製品の衛生指標菌

衛生指標菌の基準を整理した表を示しています。日本では生菌数や大腸菌群が基準として用いられ、ナチュラルチーズについてはリステリア菌も対象です。また、欧米(米国やEU)ではサンプリングプランが設定されており、検体数や許容値(M)の基準が明確に示されています。基準を超過するものがゼロであることや、許容値以下の検体数の条件が定められている場合もあります。
この表は、日本および諸外国の衛生管理基準を比較しながら参考にしていただければと思い、作成しました。

4. HACCP導入後の衛生管理

HACCPとは

HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)とは

2018年の食品衛生法改定により法的に義務化されたHACCPは、Hazard Analysis Critical Control Pointの略で、Codex委員会が示す衛生管理手法に基づいています。12手順7原則に基づき、工場の生産工程を危害要因分析し、潜在的なハザードを管理して安全な製品を製造する手法です。
このHACCPプランでの衛生管理では、製造工程をしっかり管理し、記録やチェックを徹底することで管理しますので、衛生指標菌を用いた管理を行わない場合もあるようですが、衛生指標菌による検査は効果的な管理手段であると考えます。
また、Codex(コーデックス)の具体的な12手順7原則に従わずとも、「HACCPの考え方に基づいた衛生管理」も法的に認められています。特に従業員が50人以下の小規模な工場では、この衛生管理方法が適用可能とされています。

生乳処理工場について

生乳処理工場について

農林水産省の調査によれば、生乳処理や牛乳製造を行う全国の工場は542施設あります。その中で従業員が30人以上の施設は233で、半数以上が30人以下の規模であることが分かります。また、2019年の農水省の調査では、大手5社を除く乳業メーカー144社を対象に経営実態を調べ、59%の回収率で85社が回答。そのうち50人以上の従業員を有する工場は全体の21.9%でした。このことから、HACCPに基づいた衛生管理を行っている小規模事業者が多いという現状が確認されます。

小規模事業者のためのHACCP手引書

小規模事業者のためのHACCP手引書

日本乳業協会では、小規模事業者向けのHACCP手引書が作成されており、この手引書を活用することで衛生管理が徹底されています。同協会では研修会などの取り組みも行われている状況です。小規模事業者に限らず、牛乳製造における衛生管理は、今後もさらに強化が求められる重要な課題であると感じています。

まとめ

まとめ

牛乳は栄養価が非常に高く、古くから世界各地で利用され、独自の乳文化が形成されてきました。現在でも多くの研究成果が発表され、その栄養価は広く認められています。しかし、栄養価が高いという特性上、微生物が繁殖・増殖しやすいという課題もあります。
牛乳は製造工程で加熱処理が行われ病原微生物を死滅させますので適切な衛生管理のもと製造されていれば安全な食品ですが、不適切な衛生管理により病原微生物が増殖し、食中毒の原因となることもありますので、衛生管理を徹底する重要性は非常に高いと言えます。

そのため、HACCPプランを作成し、衛生管理に必要な記録を十分に行うことが求められます。こうした取り組みによって、全ての状況を逐一検証することなく、適切な衛生管理プランを運用することが可能です。
また、施設の微生物汚染レベルを確認することは、衛生的な製造工程の信頼性を高める上で大変重要です。特に衛生指標菌を活用した検査を行うことは、製品の安全性を確保し、信頼性を向上させる上で有効な手法と考えられます。
このように、牛乳の製造における衛生管理の徹底は、今後も継続して取り組むべき課題であると結論付けられます。