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ミルクの未来を考える会

第3回乳・乳製品の魅力を知る ~食品安全の視点から~

2.牛乳・乳製品の微生物的ハザード(危害要因)とは

乳及び乳製品の微生物ハザード(危害要因)と食中毒の例

乳及び乳製品の微生物ハザードと食中毒の例

牛乳や乳製品は栄養価が非常に高く、日常的な食事において重要な食品ですが、その栄養価の高さが病原微生物にとっても好条件となるため、適切な衛生管理が不可欠です。
このスライドでは、1990年以降、日本および海外の牛乳・乳製品を原因とする食中毒事例を病原微生物ごとに整理しています。主要な病原微生物として、サルモネラ属菌、リステリア・モノサイトゲネス、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、エルシニア菌などがあります。

国内の具体例としては、まず1991年長崎県で発生した事例が挙げられます。患者の飲食物の喫食調査を実施した結果、 患者の共通食品 は各家庭で購入した牛乳が原因であると特定された事例です。発端は家庭での食中毒事例でしたが、保育所の昼食で提供されていたことから、最終的に291名の発症者を出す食中毒事件となりました。

2000年和歌山県では、腸管出血性大腸菌が学校給食の牛乳を介して発症者1名という少数ながらも食中毒を引き起こしました。この事例では、牛乳のO157汚染菌量が非常に少なかったため、製品間でばらつきがあり、O157が含まれていない製品が多かった可能性と、生徒達の検便を実施した日がO157の検出された牛乳が給食として出された日から2週間以上経過していたため、他に感染者がいたとしても菌検出に至らなかったことが考えられると報告されています。

同年、低脂肪牛乳が原因となる全国的な規模の事件も発生しました。この事例では、脱脂粉乳が黄色ブドウ球菌の耐熱性エンテロトキシンに汚染され、その結果1万4780名が発症するという大規模な食中毒事件に発展しました。背景には、製造過程の停電などによる衛生管理の問題があり、この事件を契機に衛生管理の重要性が再認識されました。

その後、長らく乳製品による大規模な食中毒事件は発生していませんでしたが、2018年には未殺菌牛乳が原因でカンピロバクターによる38名の食中毒事例が発生しました。特別牛乳として認可されていない生乳が宿泊施設で未殺菌のまま提供されたことが原因でした。
そして2021年には富山市で学校給食の牛乳が病原性大腸菌に汚染され、1896名もの発症者を出す食中毒事件が発生しました。

富山市内の学校給食で発生した集団食中毒について

富山市内の学校給食で発生した集団食中毒について

2022年3月に開催された厚生労働省食中毒部会で報告された資料をもとに作成した富山市の事例です。富山市内の小学校で1097名、中学校で481名、保育所で318名、合計1896名が牛乳による食中毒を発症しました。原因は病原性大腸菌で、血清型は特定されておらず「病原大腸菌OUT」と表記されています。この牛乳を製造していたのは従業員6名の乳処理施設で、製造工程における衛生管理上の問題が指摘されました。
問題点として、工場全体の記録が少なく経験に頼った製造が行われていたこと、作業工程ごとに手袋を交換していなかったこと、また次亜塩素酸ナトリウム消毒液を直射日光に当たる場所に保管していたことが挙げられます。これらにより、製造工程での衛生管理が十分に行われず、大規模な食中毒発生に繋がりました。
この事例は、基本的な衛生管理の徹底がいかに重要かを再認識させるものです。特に食品の製造過程では、記録を残し作業工程を適切に管理することが不可欠であることを示していると思われます。

富山市内の学校給食で発生した集団食中毒について

食中毒を発症する微生物のタイプ

食中毒を発症する微生物のタイプ

食中毒を発症する微生物は、大きく「感染型食中毒」と「毒素型食中毒」の2つに分類されます。
感染型食中毒は、生きている微生物が消化管内で作用し発症するため、生きた微生物を摂取しなければ予防可能です。具体的な病原菌として、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ属菌、エルシニア菌、リステリア・モノサイトゲネスがあり、ノロウイルスもこれに該当します。

毒素型食中毒は食品中で微生物が産生した毒素が原因で発症します。この場合、微生物が食品中で増殖し毒素を産生しない環境を作ることが予防につながります。代表例として、黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型)、ボツリヌス菌が挙げられます。

ウェルシュ菌と下痢型のセレウス菌は、両型の中間的な特徴を持っています。
ウェルシュ菌では食品中で増殖して産生した毒素が熱に弱いため加熱で予防可能ですが、生菌状態で摂取された場合、腸内で芽胞を形成し毒素を産生することで食中毒を引き起こします。この特性から、感染型と毒素型の両方の要素を併せ持つとされています。

これらの食中毒を防ぐには、各微生物の特徴を理解し、適切な衛生管理を実施することが欠かせません。食品の製造や保存工程で基本的な管理を徹底することで、微生物の増殖や毒素の発生を効果的に防止することができます。

感染型食中毒の病原体の発症菌数

感染型食中毒の病原体の発症菌数

食中毒を引き起こす微生物にはさまざまなタイプがあります。ここでは、感染型食中毒菌がどれくらいの菌数で発症するかを示しています。
腸管出血性大腸菌やカンピロバクター・ジェジュニ/コリ、サルモネラ属菌などは、少ない菌数でも発症する病原細菌です。一方、ウェルシュ菌やセレウス菌の場合、発症するには108や109という非常に多くの菌を摂取する必要があります。

食品が腐敗する状態とは、食品内の一般細菌が増殖し、それらが産生する酵素によって食品成分が分解され、腐敗臭が出ることです。一般的に菌数が1グラムあたり107個以上になると腐敗したと判断されます。ただし、食品は1グラムだけではなく100~200グラムほど摂取することが多いので、発症菌数が108~109である場合でも、食品がまだ官能的に食べられる状態であっても発症する可能性があります。

また、リステリア・モノサイトゲネスは重要な病原微生物の一つで、健常者グループとハイリスクグループでは発症する菌数に差があります。発症菌数は103から106以上と幅があります。このように、感染型食中毒菌がどれくらいの菌数で発症するかは菌の種類によって異なるため、その点をここで説明しました。

食中毒の原因となる細菌の特徴など

食中毒の原因となる細菌の特徴など
食中毒の原因となる細菌の特徴など

食中毒の原因となる細菌についてですが、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、サルモネラ属菌、リステリア・モノサイトゲネス、黄色ブドウ球菌、セレウス菌などの病原菌の特徴や、それによる症状について種類、性質・感染源等、ヒトの主な症状に分けて表で説明しています。これらの微生物は、牛乳にも含まれる可能性があるものの、長年の経験から加熱殺菌により安全性が確保されることが明らかになっています。現在「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」では「保持式により63度で30分間加熱殺菌するか、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること」と規定されています。その方法には、低温保持殺菌、連続式低温殺菌、高温保持殺菌、高温短時間殺菌、超高温瞬間殺菌の5つがあり、いずれも安全性を確保する上で有効です。