ミルクの未来を考える会
第2回日本のナチュラルチーズが「Culture」になる日を夢見て
4.きれいごとだけに終わらない、次のステージへ
チーズ工房を訪ね続けて出会った「エコフィード」と関東圏の酪農
20年チーズ工房さんを訪ね続けているなかで、10年ほど前、エコフィードというものに出会いました。八王子にある磯沼ミルクファームさんにしょっちゅう子供を連れて遊びに行っており、そこで、SNSを通じて知っていたエコフィードというものを営業されている会社の社長さんにお会いしたのです。食品製造時の副産物を利用して製造された飼料の話を聞き、食品残渣(ざんさ)の問題がエコフィードとつながることを知りました。産業廃棄物として捨てられている物、例えば豆腐のおからや、日本酒の製造現場の酒かす、ビールを作るときのビールかす、日本ですので、醤油かすや味噌、それ以外にもいろんな食品工場の、例えばリンゴや人参ジュースをつくったときの搾りかすとか、最近ではパイナップルの皮などもあります。コンビニでもスーパーでもカットパインが必ず売っていますよね。あのカットパインは歩留まりが低いといいますか、輸入されてきたパインの可食部が半分ぐらいで、皮のほとんどが捨てられてしまいます。それを粉砕して水分を取って、フレコンというパックに詰めたり、皮のままの状態で家畜の飼料にしていたりします。
エコフィードは、小さくとも意義のある、双方よしを実現
そういったものに出会って話を聞いていたら大変おもしろくて、その会社の社長さんが行く先々の営業先が、私の知り合いのチーズ農家さんや、酪農家さんだということがリンクしていてわかってきました。そして3年前だったと思うのですけど、冬にチモシーが100円を超えましたというニュースを聞きました。チモシーとは酪農家さんが購入している海外の牛の牧草で、100円を超えたとなると、もうとんでもないことが起きていると感じました。実際、酪農の現場やチーズ工房を20年も回っていると、いろいろな酪農ショックやバター不足などから酪農家さんの大変な日常を見聞きしてきましたが、買っている飼料がその値段ということは、いくらミルクを搾っても全くペイできないという状況が容易に想像されました。それまで日本のチーズ工房さんを訪ねてセミナーや楽しむ会をしていたのですれども、そういうことをやっていっていいのだろうかと思ってしまいました。私のしてきたことは、ただのきれい事だったんじゃなんじゃないか?とその時感じまして。牛乳飲みましょうとみんなでいくらやったとしても、そこには搾ったら搾った分だけ赤字になっていくという現実がありました。その時に、エコフィードの会社の社長さんといろいろ話しができ、10かかる経費のたった0.1でも、こういったエコフィードを使用することで経費が下がっていくならば、これは意義のある、双方よしとなるような仕事なのではないかということをお話しされ、関東圏の営業担当さんがちょっと足りないということもわかり、私が少しでもお役に立てるならと思い、昨年からエコフィードの営業もやっています。
面白い、エコフィードのマッチング
こちらに載っている牧場さんは営業先なのですが、例えば千葉の野田市にある知久牧場さんは、河川敷で牧草を育てて、それをシーズン中何度も収穫して牛にあげている、なかなかユニークな酪農家さんです。そこに例えば酒かすとか、和菓子生産現場で出る小豆のかす、そういったものも卸しています。
また秩父のやまなみチーズ工房さんは、埼玉県秩父の小鹿野町にある吉田牧場から生乳を得てらっしゃいますが、その吉田牧場さんも本当にさまざまなエコフィードを行っています。
さっきお話しした八王子のモンベリアルド牛で、フランシーヌちゃんという名前がついているのですけど、その八王子の磯沼さんには川越にあるCOEDOビールのビールかすとか、小さなクラフトビール工房さんのビールかすを卸す仕事のお手伝いをしています。いま本当にあんまりまだ役に立ってないのですが、酪農家さんのところに行って現状どうですかと、今後どういったエコフィードをお探しですかということを聞き取りする形の営業を、チーズ屋の傍らやっている昨今です。
日本のナチュラルチーズが「Culture」になるために
ヨーロッパの現場の話からずっと、日本のチーズまでいろいろ話をしてきましたが、日本のチーズ工房は約350軒と20年の間でずいぶん増えたけれども、酪農家さんの数は反比例するように減っていて、これはすごく大きな乖離であるなとチーズ業界にいながら思っています。チーズ業界は国産チーズについてもとても盛り上がっているように感じますが、じゃあ酪農の話を誰がするのだろうかというと、なかなかそういう話をする人が多くありません。私自身は農業大学で実学主義ということを学んできたので、とにかく現場に行くことが好きですが、自分がナチュラルチーズのセミナーのためにお客さんとして伺った時にはいい話しか聞かなかったけれども、営業担当として行くと全く違う現実を目の当たりにするわけで、これはちょっとお客さんとしてだけではいられないなと思いながらやっているところです。
酪農家の努力が視覚化する喜び、ナチュラルチーズ
酪農家さんを訪ねると、自分が出荷して搾ってきた生乳を誰がどこで飲んでいるかというのはこれまでわからなかったけど、その生乳がナチュラルチーズという形になって販売されたとき、自分の搾ったミルクから作られたチーズがおいしいと言われたときに、すごくうれしくて、それがとても励みになっているとおっしゃっていて、なるほどと思っています。
生産量でいくと日本のナチュラルチーズの工房のチーズは本当に少なくて、酪農の経済に寄与するほどの量にはまだまだなっていないのですけれども、モチベーションを保つ下支えの一助にはなるのだなと思って、たとえ歴史は浅いとしてもチーズ工房が増えているということは一つ朗報ではないかと思っています。
生乳を捨てなきゃいけないとなったときに、チーズ工房の皆さんが、「じゃあ、すぐにはお金にならないけどハードチーズをつくろうや」と言って、頑張ってハードチーズをつくっている、長い熟成をかけて大きなチーズをつくったりしているのも見てきました。なので、酪農と合わせて日本のチーズ工房を応援する一人になれたらいいなというふうに思っています。
日本のナチュラルチーズも、味噌・醤油のレベルをめざして
最終的にまとめてお話ししたかったことは、ヨーロッパのチーズがよくて日本のチーズがどうとか、そういう話では全くなくて、ヨーロッパの歴史があって日本のナチュラルチーズの歴史もありますよというお話をしつつ、外国のチーズは何百種類も日本全国で販売されていて、実は買おうと思えば、多品種の外国のチーズをいろいろ買えるのに、日本のナチュラルチーズを一手に買えるような場所はまだあまりありません。みそ、しょうゆのようなレベルまでに、日本のチーズがCultureと呼べるようになるということは難しいかもしれませんが、大手メーカーさんや小規模なチーズ工房さんの垣根を越えた日本のナチュラルチーズミュージアムみたいなところが東京のどこかにできれば、ハレの日からケの日までナチュラルチーズが日常にある、そんな酪農の背景が見えるような場所ができたならいいなと個人的には思っています。
日本の正確な商流網にも敬意を
私ができることというのは本当に小さなことなので、それを20年コツコツとやっているわけですが、そういったことをちょっと、このような皆さまが集まる場でご提案させていただきたいと思って、今回お話をさせていただきました。ヨーロッパに行くと痛感するのですけれども、日本の流通サービスは、時間通りに届いて本当にすごい、昨日つくったフレッシュチーズが今日届く、しかも午前中と言ったら必ず午前中に届くって本当にすごいと思います。
毎日生乳を生み出してくださっている酪農家の皆様、それから乳製品の製造に携わっている全てのメーカーの皆様、ナチュラルチーズ生産者の皆様、そして日本のコールドチェーンという冷たいものを冷たいまま運ぶ流通の根幹を支えている皆様全ての努力と、乳文化を築いてくださってきた多くの皆様に、この場をかりて感謝を申し上げたいと思います。
最後になりますが、本日試食で皆様に召し上がっていただきましたコンテは弊社チーズ王国で販売しているコンテ18ヶ月以上の熟成となります。弊社社長が皆様に自慢のコンテをせっかくの機会なのでご紹介したいということで塊からの切り立ててお持ちしました。
(講演ここまで)
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