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ミルクの未来を考える会

第2回日本のナチュラルチーズが「Culture」になる日を夢見て

3.個人戦で多品種の、日本のナチュラルチーズ

普段のチーズ専門店のお仕事について

普段はヨーロッパを中心としたナチュラルチーズを年間200種類ほど販売していて、チーズのビュッフェをしたり、プラトーと呼んでいますチーズを盛り合わせたものを販売したり、イベントなどできれいに飾りつけてチーズを並べ出したりしています。

社を挙げて力を入れているのは、国産ナチュラルチーズの商品開発です。熟成庫がチーズ王国の本社地下にありまして、そこでチーズを熟成し仕上げて出荷するというスペシャルな企画や、イベントやセミナーなどの裏方業務などをしています。

チーズを切りながらいつも面白いなと思うのは、元々は白いミルクの一滴がこんなにバラエティーに富んだ様々な味わいのチーズになって世界中で食べられていることです。それをカットして盛り合わせにしたりして楽しむ、この現代のチーズ専門店の仕事をとても楽しんでいます。毎回、チーズというか、ミルクはすごいなと思いながら働いています。

日本のナチュラルチーズに魅せられて20年

フランスから帰ってきた後に日本のナチュラルチーズに出会いまして、そこから日本のナチュラルチーズの工房さんを訪ねる旅を始めました。長野県に清水牧場さんという、野麦峠の方といいますか、岐阜県境の1,500メートルの国有林にブラウンスイス牛を放っている牧場で、延べ40年近く牧場を経営されているチーズ農家があります。

ミルクとヨーグルトとチーズを作ってこられた方なのですが、20数年前に清水牧場さんに行ったときに、プティニュアージュという名のリコッタチーズのできたてや、ちょっと香りの強い羊のウォッシュタイプチーズを食べさせていただきました。フランスのコルシカ島のチーズみたいだなと思ったのですが、コルシカ島には羊や山羊でつくるブロッチュという名前の伝統的なリコッタチーズがありまして、くみ上げ豆腐のようにお鍋の中でふつふつと雲のように湧いてくるリコッタをすくい上げて作るのですが、それにかなり近いものでした。こんなチーズを作っている人が日本にいる、何千年と歴史のあるヨーロッパとは違い、まだ150年に満たない日本のミルクの歴史のなかで、個人でこんなチーズを作っている人がいるのだと大変感激しました。

そこから私の日本のチーズの旅が始まり、今のライフワークのようなものになっております。

ちらっと宣伝を書いていますけれども、日本列島チーズ工房リレーという、日本チーズファンの方が持ち回りで書いているNOTE内の記事があり、あまり頻繁には更新されないのですが、長野県担当ということで、この1年かけて頑張って長野県のチーズ工房さんを取材して記事を書いています。もし興味がございましたら、ちょっとずつ更新していきますので、ご覧になっていただければと思います。

日本のナチュラルチーズ工房のいま・むかし

ナチュラルチーズの日本国内生産量は、昨年度の需給表で4万5,146トン。チーズ工房の数はいま約350軒以上もあります。そのうち北海道が100軒以上で、本州は全都道府県にチーズ工房があります。

小さなチーズ工房には1970年代から1980年代にナチュラルチーズをつくり始めたパイオニアの方々が多く、皆さん本当にご苦労されたと思うのですけれども、ヨーロッパに行かれ勉強して戻ってきて、日本で酪農をしながらチーズ工房を構えるというケースが多く見られました。2000年代以降は生乳を購入してチーズ生産を営むスタイルが増えてきまして、それから一気にチーズ工房が増えたなというような印象があります。

6次産業化によって、酪農家さんが自分の出荷する生乳の一部分をチーズ製造、もしくはヨーグルトとか、ソフトクリーム、ナチュラルチーズをつくって牧場内で販売し観光牧場のような形でやっている方もたくさんいらっしゃいます。そういった様々なチーズ工房がとても増えてきました。私の脳内にはチーズ地図みたいなのがあり、何とか村と聞くと何とかチーズ工房さん、といったように、チーズ地図がどんどん更新されている昨今です。

また10月19日~20日にも日本で開催されるチーズのコンテストが大規模になり、業界ではかなり注目度が上がっていると思っています。World Cheese Awards のように毎年開催される大きな世界のチーズコンテストもありますが、そういったところに出品されるチーズたちも大変素晴らしい賞を受賞していることもありまして、日本のナチュラルチーズの技術とか味わい、品質というのが上がっており、本当にここ10年ほどで注目度が上がっています。

チーズ工房それぞれの努力が、日本チーズの道筋に

ここに掲載したコンテストでいいますと、1998年から中央酪農会議さんの主催の「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」そして2014年からチーズプロフェッショナル協会さんが主催している「Japan Cheese Awards」これが隔年ごとに開催されているので、毎年大きなチーズコンテストが開催され、そのグランプリを取るとなかなか注目度が上がりますね。

日本のナチュラルチーズ、私がお訪ねしてきた小さな工房さんはやっぱりパイオニアの方々があったからこそと思っています。もう今はないチーズ工房さんもありますが、私の知り得る限りで幾つかレジェンドチーズ工房を紹介したいと思います。

1970年代からチーズを作り始めた北海道せたな町のこんどうチーズ牧場さん、北海道クレイルさん、それから横市フロマージュ舎さん。一番有名なのは共働学舎さんかなと思いますが「さくら」という桜の塩漬けののった小さなチーズがとても有名です。このチーズは、日本の食卓に、日本の食事に本当に合うなと思いました。カマンベールとは違う小さなチーズですけれども、酵母の香りがして「さくら」がスイスの山のチーズオリンピックで金メダルを受章したことを皮切りに日本のチーズが大変注目されたのではないかなと思っていまして、この共働学舎新得農場さんの功績は大変偉大だと思っています。

それから蔵王酪農センターさんや、「プロフェッショナル」などにも出てらっしゃる岡山の大変有名な吉田牧場さん。そして観光牧場として長年認知されていたのですけれども、実はとてもいいチーズをつくっていらした長野県のアトリエドフロマージュさんや、清水牧場さん。1980年代にチーズ作りを始められ、そういった方々のご苦労があって、だいぶん日本のナチュラルチーズの文化的な部分が花開いてきたのではないかなと思っています。

個人戦で多品種の個性光る日本のチーズ工房

「個人戦で多品種のナチュラルチーズを生み出す個性光る日本のチーズ工房を訪ねて」というふうに書かせていただきましたけれども、数多あるチーズ工房さんの中でも皆さん、本当に小さな工房で、1人とか2人とか、多くても3~4人でチーズを製造されて、牧場もやってチーズを作っているところもありますし、生乳を買ってチーズを作っているところもあるのですけれども、多くの皆さんは、多品種製造なのですよね。

「生乳の個性に似合うチーズ」というカルチャー

一番左の三良坂フロマージュさん、こちらはチーズコンテストの常勝者という感じで、いくつも賞を取られています。日本だけでなく世界のコンテストでも賞をとる、とても有名な工房さんですが、山羊や牛などの家畜、ブラウンスイス牛たちと人とで山を切り開いて放牧する山地酪農という方法でミルクを得て、春から秋は草もつくり、いろんなチーズを作っていらっしゃいます。ちょっと見づらいですが、アカショウビンという檜の皮をチーズの周りに巻いたとてもユニークなチーズがあります。三良坂フロマージュの松原さんとお会いしたとき「僕は山地酪農というものを選択していろんなチーズをつくっているのだけれども、長年チーズをつくってきて、このアカショウビンというヒノキの香りのするチーズが僕たちの得る生乳にとてもよく似合う。生乳の個性に似合うチーズがあるんだよ」と。また「どんな人にも似合う服があるように、自分たちの生乳には似合うチーズがあって、そういうチーズが日本のチーズと呼べるのではないか」ということをおっしゃられて、なかなか感動したチーズです。

ヨーロッパのチーズ作りとは一線を画す面白さ

真ん中に載せたのは、もう本当にマニアックな方で、ブルーチーズに心酔されているアトリエドフロマージュさんの塩川さん。長年いろんな種類のチーズをつくっているのですが「僕、本当はブルーチーズだけをつくりたいのだ」と。山梨の小淵沢にある雪印チーズ研究所にいらした方からいろいろ教えていただきヒントを得て、ちょっと特殊なつくり方をしているブルーチーズなのですけれども、ヨーロッパのブルーチーズのつくり方とはちょっと違っていて、そういう創意工夫といいますか、こうじゃなきゃならない、チーズづくりはヨーロッパにすべてを習わなきゃいけないみたいなことは、もう皆さん、あまりなくて、独自の考え方や独自の哲学を持って、日本ならではのチーズを生み出しているところにとても面白味も感じています。

個人のパッションと哲学を持つ、日本のナチュラルチーズ

茨城県稲敷市の新利根チーズ工房さんは、関東圏では珍しい牛を放牧している酪農家さんで、先ほどお話しした共働学舎さんで学ばれた西山さんが新しく工房を開いて、びっくりするぐらいたくさんの種類のチーズをつくっていらっしゃいます。ヨーロッパの伝統的なチーズを一種類毎日作ることが楽だとはもちろん言いませんけれども、同じルーチンで毎日同じようにチーズを作ることがヨーロッパのチーズのスタイルだとすると、日本のこれだけバラエティーに富んだチーズを作るにはスケジュール管理も道具もものすごく必要です。今日はこのチーズを作るために何時から生乳を殺菌しようとか、この型を洗って用意しておこうとか、ものすごく手間がかかるというのが私の印象なのですけど、それを1人2人でやっている、もう本当にマニアック過ぎる人たちの集まりといいますか。大変な個人戦ですね。

1000年単位で団体で戦っているヨーロッパの伝統チーズvs個人のパッションと哲学を持ってチーズを作っている日本人たちが、同じ世界の舞台で戦っているということに、私はとても格好よさを感じています。日本のチーズも大好きで、心から応援させていただいています。

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