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第100回 牛乳・乳製品の摂取習慣と高齢期の健康について

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 食品摂取の多様性とサルコペニアとの関連 -
ベースライン時のサンコぺニアの評価

サルコペニアの診断基準についてです。ヨーロッパとアジアでは診断基準が異なっています。体格によって体力測定の結果が異なっているからなどが背景として挙げられます。

サルコペニアの判定方法は、まず握力と歩行速度を測定し、一定の基準を下回る人に対して、体組成計で四肢骨格筋量を計測します。左右の腕・足の筋肉量を足し合わせ、身長の2乗で割るというやり方で、四肢骨格筋量を算出します。四肢骨格筋量の基準も下回った場合にはサルコペニアという判定になります。したがって、判定基準が変わると、結果の解釈も変わってくるということになります。「サルコペニア」に関する研究を比較して論じる時は、その判定基準の方法をきちんと確認する必要があります。

サルコペニアに該当する人は大体全体の1割です。握力が低い人は女性の方が多い、骨格筋量が低下している人は男性に多い、等の特徴があります。

牛乳・乳製品の摂取量とサンコペニアとの横断的関連

牛乳・乳製品の頻度で見た場合、アウトカムをサルコペニアにしますと、普通乳・高脂肪乳を頻度多く摂取する方は、頻度が少ない人よりもサルコペニアに該当する人が有意に少ないという結果が出ています。
量で見た場合も同様です。牛乳・乳製品を多めに摂っている人は少なめに摂っている人よりもサルコペニアに該当している人の割合が有意に少ないという結果が得られています。

考察

牛乳・乳製品の役割として、フレイルよりは、筋力減少症のような症状に対して強い関連性が得られたということで、考察の内容はフレイルで論じた内容と似たものとなっています。
ただし、乳製品の摂取以外の関連性を併せてみると、加齢に伴ったサルコペニアと乳製品の摂取との関連性が高いのではないかという指摘を加えています。

まとめ

牛乳・乳製品の習慣的摂取を頻度で表すのか、量で表すのか、どのようにお伝えするのかによって結果が変わりますが、今回得られた結果から言えることは、「普通乳を習慣的に摂取するということは、フレイルよりサルコペニアの罹患に防御的ということが示された」ということです。あと、フレイルに関しては、「牛乳・乳製品を摂取することも重要ですが、低栄養の対策としてバランス良く多様な食品も摂取しよう」というメッセージが出すことができました。

「牛乳・乳製品の摂取と認知機能」について

先ほどの研究は横断的関連を分析しましたが、この研究は縦断研究になりますので、因果関係が言える研究内容です。

研究の概要は、先ほどと同様です。認知機能になぜ牛乳・乳製品が関与してくるのかを調べようと思った背景としては、心疾患やメタボリックシンドロームの発症に対して牛乳・乳製品が予防的な効果があるということが、先行研究で示されています。認知機能は様々なタイプがあるのですが、心血管疾患やメタボリックシンドロームとの関連もありますので、この点を加味した上で、牛乳・乳製品の摂取が認知機能にどのような影響があるのか見たい、ということがきっかけになっています。

食事摂取状況に関する項目

この研究の選定過程は、草津町の対象者を用いて行っています。収集データに関して、先ほどお見せした形と同様の項目を用いて行っています。食事摂取状況に関する項目は、フレイル・サルコペニアの時よりも、もう少し広範囲にわたり調べております。

結果1牛乳摂取状況の動向

性・年齢階級別に乳脂肪分の異なる牛乳の摂取の状況はどのようになっているかということで、一番上が低脂肪乳と普通乳を合わせた量、左側は低脂肪乳、右側は普通乳の分布です。2003年当時は、普通乳の摂取の方が多く、低脂肪乳の摂取の方が少ないことが分かっています。

結果2牛乳摂取による栄養学的特徴

牛乳の摂取が多い人の特徴として、赤字は牛乳の摂取が増えると増加、青字は牛乳の摂取が増えると減少、橙色は性差があるもの、と3タイプに分けて結果を示しています。
栄養学的特徴としては、先ほどお話をした内容とほぼ同じ結果ですが、牛乳・乳製品の摂取が多い人の特徴として、エネルギーが若干少なく、たんぱく質・脂質エネルギー比率が高く、炭水化物エネルギー比率が低い、微量栄養素が全般的に増えるといった特徴があります。食品に関しては、穀類や砂糖、菓子や嗜好飲料の摂取が減るというところがこちらでは見られます。

結果3個人因子および心身の機能・構造との関連

似たようなグラフが続きますが、こちらも先ほどのフレイルの時のやり方とほぼ一緒で、どういう特徴があるのかということで、牛乳の摂取量が多いと喫煙者が少ない、高血圧の既往が少ない、等は先ほど言ったことと同様です。
体力に関しては、牛乳摂取が多い人は握力が強くなる傾向と、最大歩行速度が有意で速い、抑うつ症状が少ない、MMSEという認知機能の評価スコアが高い、ということが分かっています。MMSEは、得点が高いと認知機能がより良好と考えてください。

結果

牛乳摂取とバイオマーカー(生化学検査値)との関連については、各コホートにおける合計牛乳摂取量を性別に三分位に分け、性・年齢階級の影響を調整した一般線形モデルによる分析を行い、横断的比較を行いました。その結果、2003年調査で牛乳の摂取量が多い人は、ヘモグロビン・ヘマトクリット等の貧血の指標と、善玉コレステロールと言われているHDLコレステロールといった脂質の指標が有意に高くなっていましたが、2013年調査はこのような傾向は見られませんでした。牛乳の習慣的摂取による10年後の血中栄養状態への縦断的影響を調べた結果、いずれの血中の栄養関連バイオマーカーの変化に対しても、牛乳摂取量は影響していませんでした。

対象者の選定過程

このような栄養学的特徴、及び血中のバイオマーカーの特徴を踏まえた上で、複数年追跡をして、認知機能の低下が起こったかを検証しました。
411名のうちMMSEが低い人は除外して、最初の段階で認知機能低下がない人を対象者として、その後追跡を行い、MMSEが3点以上の低下を基準として、認知機能低下の新規発生を検討しています。

分析方法

6つのモデルを設定し、様々な交絡要因を調整していくことによって、牛乳・乳製品の摂取の認知機能低下への影響を検証し、最終モデルを以て効果があるのか、という分析を行いました。

結果2地域高齢者の認知機能低下に対する牛乳の習慣的摂取の影響

認知機能の低下がある人は、年齢が高い、握力が弱い、認知機能の点数の初期値が高い、健診の回数が有意に少ない、といった特徴がありました。これらの要因を調整して、最終的に牛乳・乳製品と認知機能低下との関連を見ると、このように細かくなりますので、主要な結果を次のスライドでおみせします。

結果2地域高齢者の認知機能低下に対する牛乳の習慣的摂取の影響

下記に示しました要因の影響を取り除き、最終モデルの全数における結果について、グラフで示しました。1,000kcalあたり牛乳・乳製品の摂取が87.4g以上の人を「牛乳を多めに摂っている人」とした時、少なめに摂っている人は認知機能の低下するリスクが2.73倍高くなりました。エラーバーが95%信頼区間に該当し、このエラーバーにおいても調整オッズ比が「1」を超えていると有意差がある、つまり明らかに差異があるということになりますので、牛乳を多く摂る人よりも少ない人の方が認知機能低下のリスクが高いことが、この結果から示されたことになります。

考察

縦断研究になると、因果関係を示すことができ、より深い考察を得ることができます。今回は、先ほど特性を見て要因を調整していく中で、3つの可能性が考えられます。既往や生活習慣の影響を取り除いた場合、バイオマーカーの影響を取り除いた場合、そして栄養素の摂取状況と認知機能の低下との関係を検討しました。

考察

考察として、牛乳摂取が少ないと認知機能低下のリスクを高める4つの可能性が、この研究から示されました。
一つ目はバイオマーカー(血液指標)です。低栄養に付随した血液指標の影響を介して認知機能が低下したのではないかという点について、この要因を調整しても牛乳摂取の効果は有意でした。二つ目の生活習慣病につながる習慣や既往を介して有意な結果が出ているのではないか、という点については、疾病既往を調整すると、認知機能低下への牛乳摂取の効果は有意で、よりリスクが高くなりました。三つ目は、低栄養に付随しているたんぱく質や微量栄養素が不足するために認知機能が低下するのではないかという可能性があります。あと、女性と男性では摂取している状況が異なっており、男性により好ましい食習慣をもたらしていたことから、認知機能低下への影響に違いが生じたのではないか、ということも示唆されます。

乳製品と様々な健康アウトカムの関連として想定されるメカニズム

今回は、私共の研究結果を主に紹介しましたが、実際には世界各国で研究が行われており、そのメカニズムについてもシステマティックレビュー等で検討されています。牛乳・乳製品に多く含まれるたんぱく質やミネラル、ビタミン、脂肪の含有量、メタボリックシンドロームとの関連性や、心疾患のリスクを下げる効果に関して様々な知見が出ています。このような形でエビデンスがまとめられていることもご理解をいただければと思います。

- まとめ -

本研究では、乳製品の摂取の割合が低いほど認知機能の低下が起こりやすく、その傾向が女性より男性に強いという結果が得られました。その背景として、高齢期の低栄養が考えられ、メッセージとしては「低栄養対策として牛乳を始めとした食品をバランス良く摂取することで、将来の認知機能低下を抑制することができるのではないか」ということがいえます。
ご清聴いただきありがとうございました。