- 講演後の質疑応答 -
- Q1.「普通牛乳と高脂肪の摂取頻度別属性(既往歴)」のスライドの説明をもう一度お願いします。これは複数回答ですか。例えば、高血圧でも糖尿病もあって、コレステロールも高いという解釈でいいわけですね。
- A1.
- 対象者810名中、毎日1回以上飲む方が419名で53.0%、毎日1回未満飲んでいる方が28.6%、摂取しない人が18.4%という分布であり、その下に書かれている疾病既往別割合は、全て疾病既往ありの方の普通乳・高脂肪乳の摂取頻度別割合となります。また、疾病既往の回答は多重回答で、おっしゃるとおりの解釈で結構です。
- Q2.同じスライドで、この疾病群の中で一番有意差とまでは行かないけれど、可能性として「こういう病気の人は、牛乳・乳製品の摂取の有無によって大きく違う」というところはありますか。
- A2.
- この結果では、P値が0.05未満だと明らかに疾病既往の有無に差異があることになりますが、そのようなこともありませんでした。そのため、乳製品の摂取頻度により明らかに異なる疾病既往があるとは言い切れません。この点が、数字を実際にパッと見た時の印象と、集団データの分布から統計学的に明らかに差があるというところの違いがあるかと思います。
- Q3.「基本チェックリストにより判定する虚弱指標(J-CHS基準)」のスライドで、例えば体重減少や筋力低下は握力計でも測れますし、疲労感も割り合いとはっきり言えるかなという気もして、歩行速度も測れるかなと思います。ただ、身体活動の例えば「軽い運動、体操をしていますか」という質問は、いつも健康診断の時に思うのですが、非常に答えにくいのです。何を以て「軽い運動、体操」と言えるのか、もう少し何か目安が欲しいと思いますが、いかがでしょうか。
- A3.
- 運動を専門分野とした研究では、メッツ(Mets)という単位を用い、運動強度とそれに該当する運動の種類があります。ただし、基本チェックリストの場合は、そこまで細かい限定はしていないのが現状です。個々の考え方によって回答が変わりがちな項目ではありますが、「軽い運動、体操」という表現を以て、質問に回答をしていただくことになっています。
- Q4.テレビなどで「こういうことをやるといい」とよく出てくるものがありますので、例えばスクワットなど、何か目安だけでもあるといいなと思います。
- A4.
- 所内の専門の研究者にも伝えていきたいと思います。貴重なコメントありがとうございます。
- Q5.「食品摂取多様性スコア(DVS)」のスライドで、「ほぼ毎日」だけを1点としてカウントし、「2日に1回」は0.5点等の形でカウントしてもらえない理由はなぜでしょうか。
- A5.
- 「2日に1回」を0.5点としたい気持ちもあるかと思いますが、この指標は食品群別に1点と0点で加算するやり方をしています。
他のスコアリングとしては、FFS(Food Frequency Score)があります。「ほぼ食べない」を0点、「週に1~2回」を1点、「2日に1回」を2点、「ほぼ毎日」を3点として、30点満点で換算する指標です。質問いただいた意図を加味する場合は、FFSを使われると良いかと思います。先行研究では、DVSとFFSを共に使い、結果の比較や考察を行うこともあります。
- 「2日に1回」を0.5点としたい気持ちもあるかと思いますが、この指標は食品群別に1点と0点で加算するやり方をしています。
- Q6.認知機能の最後の「まとめ」のスライドで、牛乳摂取の割合が低いほど認知機能低下が起こりやすく、その傾向は女性より男性に強いということでした。「男性がより(認知機能低下のリスクが高くなる)傾向が強い」ということは、男性の中で牛乳を飲んでいる人は、健康に対する関心が高く、その他の栄養状態なども良好であるため、男性に強く生じるという理解でよろしいでしょうか。
- A6.
- 本日提示しました男女を合計して分析した結果の他に、男性のみで分析した結果と、女性だけで分析した結果があり、「層別分析」といいます。性別によって食習慣も行動も異なり、結果に対して交絡する可能性が高いため、グループを分けて分析します。男女を合計して分析した場合と同様に、様々な要因を調整すると、男性は認知機能低下のリスクがより高く、女性にはその傾向が見られないという結果が得られました。また、乳製品の摂取が多い男性の食品摂取の特徴として、緑黄色野菜と果物をより多く摂取していたという結果が得られ、より好ましい食習慣をもたらした可能性があることから、「男性に認知機能低下のリスクがより高くなった」と考察しました。
乳製品を多く摂取している人よりも少ない人の方が認知機能低下のリスクが高いことは、乳製品の摂取に伴う食習慣が影響していると思われます。
- 本日提示しました男女を合計して分析した結果の他に、男性のみで分析した結果と、女性だけで分析した結果があり、「層別分析」といいます。性別によって食習慣も行動も異なり、結果に対して交絡する可能性が高いため、グループを分けて分析します。男女を合計して分析した場合と同様に、様々な要因を調整すると、男性は認知機能低下のリスクがより高く、女性にはその傾向が見られないという結果が得られました。また、乳製品の摂取が多い男性の食品摂取の特徴として、緑黄色野菜と果物をより多く摂取していたという結果が得られ、より好ましい食習慣をもたらした可能性があることから、「男性に認知機能低下のリスクがより高くなった」と考察しました。
- Q7.牛乳を摂っている男性は健康への関心が高いということかなと思ったのですが、あと一人暮らしだとか、家族と一緒とか、そういった分析もなさっているのですか。
- A7.
- 今回の分析では、最終的に一人暮らしを調整しませんでした。交絡要因として、一人暮らし、家族と一緒、等の家族構成などは「社会経済的要因」といい、健康アウトカムとの関連では考慮すべき要因です。食品摂取に関しても、国民健康・栄養調査で、世帯収入の高い人と低い人を見ると、低い人の方が生鮮食品の摂取が少ないといった結果も出ています。代わりに、社会経済的要因の一つである学歴は、知識や食品摂取などと関連し、この分析では教育年数は調整要因として投入しました。
- Q8.牛乳・乳製品、特に飲用の牛乳の中には、ビタミンCとDがほとんど期待できませんが、その点についてどのような見解でしょうか。
- A8.
- 今回分析をして思ったのは、乳製品を摂っている方は基本的に食習慣が豊かと言いますか、先ほども認知機能低下の分析のところで乳製品の摂取量が多い男性は少ない男性より緑黄色野菜や果物の摂取がより多かったと話しました。そのため、「乳製品にこの栄養素が足りないから強化をせよ」ということではなく、「乳製品と併せて他の食品も摂取することで、乳製品には入っていない栄養素を摂ることができる」と思います。
- Q9.チーズに焦点を当てた時に、女性より男性の方がたくさんお摂りになる機会も多いし、好み(嗜好)もあるとは思うのですが、チーズに関するデータというのは研究中ですか。それを研究するとなったら、かなり種類が多いし、率が違うので大変だと思います。
- A9.
- 質問いただきました研究は、日本より欧米の方が多く行われています。欧米では、リコッタチーズとフレイル・サルコペニアの関連についての先行研究があります。欧米人は日本人よりもかなり乳製品の摂取量が多いため、日本人と単純に比較はできない、つまり得られた結果を日本人にそのまま当てはめられられないと思いますので、国内でもそういった研究をする必要があると思っています。
- Q10.まとめで、「牛乳摂取の割合が低いほど認知機能低下が起こりやすい」という表現になっていますが、これは乳製品の摂取が有効であると言うのであれば、逆に「牛乳摂取の割合が高ければ認知機能低下が起こりにくい」という表現になると思いますが、そのように読み取ってもいいのですか。
- A10.
- そのように読み取っても良いと思います。何を基準としてリスクの高低を言うかによって表現が変わってきます。今回の分析結果で見た場合、牛乳摂取の割合が高い方を基準として、牛乳摂取の低い人の方が認知機能低下のリスクが高いという結果を示しましたので、「乳製品の摂取の割合の低い人は高い人よりも認知機能低下のリスクが高い」という表現にしました。
- Q11.こういうふうに食品関係、栄養関係に興味をお持ちになったのは何歳ぐらいからですか
- A11.
- 以前はひどい偏食でした。栄養学に足を踏み入れる前は化学が専門分野で、研究自体は楽しかったのですが、食事については時間の合間にぱっと栄養がとれるようなもの(栄養補助食品)で済ませればいいだろうという食生活をしていましたら少し体を壊しまして、やはり食は大切だと思い、栄養学を学び直しました。学び直し以前に研究を行っていたこともあり、食を入口とした健康とのつながり、食環境を切り口として疾病予防や健康との関連を明らかにする研究がしたいと思い、現在に至っています。「しっかり食べると心も体も元気になる」ことを、私自身も十分実感しております。
- Q12.東京都健康長寿医療センター研究所では、例えば民族的なDNAの差と言いますか、それにより摂取する食品の内容や、それこそ食品摂取のスコアリングも随分違ってくると思います。そのような研究を行っているチームがあるのですか。
- A12.
- 研究所内では、私共のような社会医学系の専門分野による研究チームの他に、自然科学系の専門分野において、老化や老年病のメカニズムを、様々な遺伝因子としてDNAやミトコンドリアなど、そして環境要因とそれに対する生体応答の複雑な相互作用の過程について研究しているチームもあります。
- Q13.筋肉は鍛えれば嘘は付かないと言われて、みんな運動をしましょう、とやっていますが、体を作る時にどんなものを食べていたかは、結構基礎になっていると思います。そのあたりの研究もやっているのですか。
- A13.
- 私どもは高齢者に特化した研究を行っていますが、本来であれば中年期など高齢期以前の段階から長く追跡し、高齢期の健康にどう影響するかを調べる必要があります。そのような研究を「ライスコース研究」といいます。今回、65歳以上もしくは70歳以上の高齢者を対象に、縦断的関連としての有意性は得られませんでしたが、横断的な結果では有意な関連性が得られたことから、以前の食習慣の蓄積が結果になって現れている可能性を今後検討する必要があると思っています。
- Q14.自分の体を見て、筋肉が本当に落ちてしまったなという状況なんですね。食品摂取スコアを見るとたくさん種類があって、10点満点のうち3~4点が平均点だということですが、自分で料理を作ることを考えると、そんなに種類は作れない、食べられないというのがあって、それを見ただけで何か食欲が減退してしまうということがあります。そこをうまく乗り越えていくには、何をどう考えて作っていけばいいのでしょう。一日中メニューを考えなくてはいけないのではないかと思うと、ちょっとゾッとしてしまいました。
- A14.
- 今回は、疫学研究により結果を数値化してお伝えしました。並行して、低栄養予防教室を定期的に開き、食品摂取多様性のスコアが低い方に対し、食品摂取の多様性を上げるための取り組みも行っています。点数が低いから諦めるのではなく、先ず自分が何を食べていないのかを把握し、足りない食品群の中から1種類でも多く、毎日食べられるような工夫を提案しています。足りない食品群を見つけたときに、その原因が嗜好によるものではなく、普段買いに行かない等の行動である場合もあります。そのような時に、例えば宅配等で定期的に購入することを提案すれば、結果として冷蔵庫の中に牛乳・乳製品が入っているので毎日飲もう、ということにもつながることが期待されます。
作りやすい・取り入れやすいメニューを世の中に普及していくようなアプローチも必要だと思います。実際に調査を行うと、食事作りの負担感が強くなっている動向がありますので、改善に向けて対策を取らなければいけないと感じています。
- 今回は、疫学研究により結果を数値化してお伝えしました。並行して、低栄養予防教室を定期的に開き、食品摂取多様性のスコアが低い方に対し、食品摂取の多様性を上げるための取り組みも行っています。点数が低いから諦めるのではなく、先ず自分が何を食べていないのかを把握し、足りない食品群の中から1種類でも多く、毎日食べられるような工夫を提案しています。足りない食品群を見つけたときに、その原因が嗜好によるものではなく、普段買いに行かない等の行動である場合もあります。そのような時に、例えば宅配等で定期的に購入することを提案すれば、結果として冷蔵庫の中に牛乳・乳製品が入っているので毎日飲もう、ということにもつながることが期待されます。
- Q15.先ほど、リコッタチーズとサルコペニアについて少しだけ触れられたのですが、今回の先生のご研究は横断研究だけでしたが、世界的に見て牛乳・乳製品とフレイル・サルコペニア、あるいは認知機能との関連で介入研究をやって結果が得られているようでしたら教えていただきたいと思います。牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人の場合、他のもので代替できればいいなと思っています。
- A15.
- 当研究所でも介入試験を行い、結果を出しています。鈴木隆雄先生や金憲経先生が中心となって、高齢女性対象にカマンベールチーズ摂取による介入試験を行い、認知機能と関連するBDNFという栄養関連因子の改善が見られたことを報告しております。介入試験による結果なので、エビデンスレベルも高い内容です。
ちなみに、離乳後にラクターゼ(乳糖を分解する酵素)の量が減少することに伴い、乳糖不耐の症状として牛乳を飲んだ後の下痢や腹痛、腹部の膨満感などが現れます。ただし、その感受性は異なり、コップ1杯分飲んだ位では症状が出ないこともあります。乳糖不耐の症状がある方に対しては、乳糖を取り除いたアカディ牛乳、もしくはヨーグルトやチーズになると乳糖が分解されているので、乳糖不耐の症状が出にくいということがあるようです。
- 当研究所でも介入試験を行い、結果を出しています。鈴木隆雄先生や金憲経先生が中心となって、高齢女性対象にカマンベールチーズ摂取による介入試験を行い、認知機能と関連するBDNFという栄養関連因子の改善が見られたことを報告しております。介入試験による結果なので、エビデンスレベルも高い内容です。
- Q16.「食品摂取多様性スコア(DVS)」の中で、「牛乳」からコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を除くと書かれているのですが、なぜでしょうか。
- A16.
- 製品の成分の違いかもしれないとは思いますが、明確な理由はお答えできません。申し訳ございません。
- Q17.食品摂取多様性スコアは1990年代にできた指標で、これとは別にFFSという指標があると説明いただきましたが、1日の多様性を見るにはかなり無理な話ではないでしょうか。最近は、いろいろなものを食べるのに、毎日これを全部食べようと思うと大変だと思います。1週間で大体食べられればいいということが言われてきているので、このスコアを使うのはむしろ適していないような気がします。何かを変えるべきだと思うのですが、変えないのは何か理由があるのでしょうか。
- A17.
- まず、誤解のないように、この指標は1日の食品摂取の多様性を見るのではなく、1週間で食品摂取の多様性を確認する指標になります。指標を構成する食品群につきましては、現在の食生活に適した食品群選択のための改定に向け、新たな研究も行われているところです。簡単に基準を変えると、指標の示す意味・解釈が変わってしまうため、エビデンスが提示されている中で使用する、つまり現状から変えられないということがあります。スコアリングに関しては、確かに肉をほぼ毎日食べるというのは厳しいので、2日に1回の方がいいのではないかといった意見も出ています。構成食品に関しても、現状では牛乳だけなので乳製品を加えるべき、緑黄色野菜だけではなく淡色野菜やきのこも加えるべき、現在はシニアでも主食を食べる頻度や量が少なくなっていることから主食を加えるべき、など様々な意見をいただいておりますので、これらを踏まえて改定に向けた研究を行っているところです。
- Q18.(今のままだと)意味のないスコアだなと思ってしまったので、早く変えていただいた方がいいと思います。
- A18.
- おそらく、個人的に見た時に、少々使いづらいと感じられたのだと思います。しかしながら、本指標は、高齢者集団に対して実施した場合、集団内でスコアの分布が得られ、栄養学的に意味があることが証明されています。このスコアが高い人ほど筋量や筋力との関連性、身体機能低下のリスクの抑制等の先行研究が多い点と、摂取量を気にせずに頻度のみで高齢者自身が回答して評価ができる点から、現在利用されています。スコア改善の要望について、前向きに進めたく思います。
- Q19.私も、このスコアは主食がないのと嗜好品がないのがかなり気になりました。先行研究と比較するという点では外せないのですが、新しいのを早く作っていただければと思います。今、減炭水化物や低炭水化物がはやっていて、ブレーキを掛けた方がいいみたいなところもありますから、ぜひこれは1日も早く新しいのを出していただきたいと思います。
- A19.
- ありがとうございます。指標改定を担当している研究員に伝えておきます。
- Q20.これから先、先ほどの調査票もそうですが、栄養のエンジニアリングを広げていって、国民や社会に還元しなければいけないと思いますが、そのような方向性については、どんなお考えですか。
- A20.
- シニアの健康に向けた食事のバランスをどのように考えるかという点は、非常に難しい部分があります。私どもは、研究のエビデンスを緻密に構築することが目的・使命の一つとしてありますが、もう一つの使命としては、先ほどの食品摂取多様性スコアもそうですが、分かりやすく、誰もが理解して実行ができるツールを開発していくところにも、力を注いでいきたいと思っています。