世界のチーズの歴史
紀元前2000年頃のアラビアの民話では、次のように伝えられています。
「昔々、砂漠を行く隊商が、羊の胃袋で作った水筒に乳を入れ、ラクダの背にくくりつけて旅に出ました。1日の旅を終えて乳を飲もうとすると、出てくるのは水っぽい液体と白い固まりだけ、その白い固まりを食べてみると、それはおいしくて何ともいえない味でした。」このような偶然のできごとがチーズの誕生とされています。
インドでも、紀元前3000年のものといわれる「ベーダの賛歌」の中にチーズをすすめる歌があります。インドの仏典である涅槃経に、「牛より乳を出し、乳より酪(らく)を出し、酪より生酥(しょうそ)を出し、生酥から熟酥(じゅくそ)を出し、熟酥より醍醐(だいご)を出すが如し、醍醐最上なり」とあり、酥(そ・蘇)や醍醐はチーズともいわれています。
日本のチーズの歴史
日本では孝徳天皇の時代(在位645~654年)に百済(くだら)からの帰化人の子孫、善那(ぜんな)によって牛乳と酪や蘇といった乳製品が天皇家に献上されたのが始まりです。この蘇が一種のチーズにあたるといわれますが、今の製法と違い牛乳を煮つめて固めたもののようです。
醍醐天皇の時代(在位897~930年)には、諸国に命じて蘇を作って天皇に貢進させる「貢蘇の儀(こうそのぎ)」を行ないました。醍醐天皇はこのように酪農への理解者で「醍醐」という乳に関係した語を天皇の名にしたといわれます。その後、権力が武家に移るにつれ、貢蘇の儀も行なわれなくなりました。
江戸時代8代将軍徳川吉宗(在位1716~1745年)はオランダ人にすすめられインドより白牛3頭を入手して、その牛乳から「白牛酪(はくぎゅうらく)」を製造するようになりました。白牛酪は牛乳を煮詰め乾燥させて団子に丸めたもので、バターという説もありますが、よりチーズに近いものといわれています。