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ミルクの未来を考える会

第5回小さな牛乳屋が目指す、“ニュー”ソリューション

4. これからやりたいニューソリューション

事業というよりまだアイデアですけれども、これからやりたいと思ってることをかいつまんでご紹介いたします。

ニューソリューション

酪農や乳業が持っている既存の価値は主に乳製品のことになりますが、それはそれですごく価値がありつつも、最近ほかの業界でもよく言われる「文化資本」の視点でいくと、自分もまだ勉強中ですが、酪農や乳業の中にもまだまだ文化資本的な価値を入れ込める余地があるのではないかと思っています。そういう視点からニューソリューションとした事例をいくつか紹介していきたいと思います。
代官山の水切りヨーグルトのお店がありまして、自分たちもヨーグルトを開発し提供する形で関わっています。2~3年前に韓国へ視察に行きましたら、あちらではすごく流行っていて、日本にもその流れが来ていました。自分たちは、それとは違う路線で甘いだけではない中東のヨーグルト料理などを出せないかなと思いました。それでこういうヨーグルトのお店になりました。特に新しいことではないかもしれませんが、自分たちにとっては新しいチャレンジとしてヨーグルトの製造を始めています。

使うミルクは府中の東京農工大学

使うミルクは府中の東京農工大学

これには東京農工大学のミルクを使っています。CRAFT MILK LABもそうですが、なるべく小さい円の中でやりたいと思っていました。東京農工大学の牧場は塀で囲まれていて気軽に行けない場所ですが、近くに住んでいて近くの牧場があるのに、そのミルクは飲めずに遠くから来たミルクをいつも飲むって、もったいないなって思うんですよね。
全部そうなる必要はなくても、せっかく近くにいるならその選択肢はつくりたいなと。「おいしいな」と思ったらその牧場に行ける。北海道なら気軽には行けないけど、東京にあるならできる。CRAFT MILK LABではそういう「生産地と食べる場所の循環」をつくりたかったのです。
そういうことをやりながら、ヨーグルトのお店も広げていきたいので、今は基本的に東京のミルクしか使わない方針でやってます。テイクアウトオンリーですが、もし代官山に行くことがあれば、ぜひ食べてみてください。

わが家牧場

これは実験的なプロジェクトで名前も変わっていますが「わが家牧場」で検索すると出てくると思います。広告代理店にいた経験やネットワークを生かして何か面白いことができないかなと思って始めました。
基本的には広告会社の人たちとテクノロジー系のインタラクティブ・エージェンシー(デジタルメディアを活用して、消費者との双方向コミュニケーションを重視する広告代理店)の人たちと一緒に、新規事業的なチャレンジをしてみようという感じで始めました。

何か違うアプローチができないかなと模索

指定団体の受託農家戸数の月別推移

牧場がどんどん減っている中で、何か違うアプローチができないかなと思ったのがきっかけです。取材でいろいろ調べて記事を書く中で、酪農に対する「無関心」がすごく強いなと感じていました。最も衝撃的だったのが「ミルクって牛から搾るんですよね?気持ち悪くないですか?」って若い子から言われたことです。そういう感覚もあるんだと驚いたのですが、でも、それもわからなくはないと。酪農があまりにも遠い存在になっていて、よくわからないっていう感覚なんだろうなと。
それでもっと酪農を身近に感じられるようにクリエーターたちとその課題を考え始めました。

注目したのは「推し文化」

注目したのは「推し文化」

ポイントは二つあり、一つ目はアニマルウェルフェアです。
最近よく聞く言葉だと思いますが「生きている限り、動物、特に家畜を大切に育てましょう」という考え方です。
もう一つはコロナ禍以降ずっと続いている「ペット需要の高まり」。ペットに対してどんどんお金を使うようになっていて、そこに価値を感じる人が増えているなと。そこで「推し文化」を酪農にインストールできないかなと思いました。

牛にも「推し」を

牛にも「推し」を

推し文化は今の日本の低迷する市場の中でもすごく頑張ってる分野で、韓流でも動物でも、いろんな形で「推す」行動が広がっています。突然ですが、ペンギンってけっこう浮気性なんですよ。「この子とこの子が浮気してる」みたいなことを飼育員にヒアリングしてつくったコンテンツが話題になっていて「普段見ている人からすると動物園の一部でも面白いコンテンツになるんだな」と、こういう感覚を酪農にも取り入れられないかなと。

日本一小さな牧場「牧歌」で開始

日本一小さな牧場「牧歌」で開始

そこで最初は「日本一小さな牧場」を自称していた神奈川県厚木市の「牧歌」さんと一緒に始めました。その方が今後のことをよく相談してくれたので提案してみたのですが、ほぼ妄想からのスタートです。ミルクの定期便をアバター的な牛を使ってやってみようと。

推しの牛からミルクが届くという提案

推しの牛からミルクが届くという提案

抱き心地がちょうどよくて、電源を入れると尻尾が動いたり、鳴き声が鳴ったりするぬいぐるみがその媒介となって、牧場と自宅をつなぐイメージです。アプリと連動して牧場とリアルタイムにつながるようにしたかったのですが、現状ではそこまでできないので、まずは精巧なぬいぐるみでスタートしました。
牛のぬいぐるみってホルスタイン柄ばかりなんですけど、ジャージー牛を再現しようとすると「小鹿のバンビ」のようにみえてしまうので、牛はこうでなきゃいけないというこだわりを議論しながら作りました。その牛をかわいがると、牧場の牛に餌がたくさん届くようなことです。かわいがればかわいがるほど、ミルクの味がおいしくなるという妄想をしていました。

推しの牛からミルクが届くという提案

理想は牛単位でミルクを届けられることなんですけど、現実的にはそんな簡単にはできないとわかりつつも一回やってみました。ただ、サブスクと組み合わせるのがいいのかは悩んでいて、今は第二弾として千葉県館山市の須藤牧場と一緒にプロジェクトをスタートしています。当面はもう少し地に足のついた形でこのぬいぐるみを活用していきますが、またオリジナルでつくる予定もあります。
2025年10月後半には近くのホテルと組んで「ホテルに行ったらぬいぐるみがあって、かわいがって、そこから牧場に行くとリアルな牛がいる」といったアバター的なおもしろさを実験的に販売してみようと思ってます。

推しの牛からミルクが届くという提案

「印度乳業」の取り組み

「印度乳業」の取り組み

イベントに近いですが「印度乳業」をやっています。
乳業と呼ぶには大げさですが、3週間くらいかけてインドのいろんな牧場に行きましたら、インドでずっと牛乳飲んでる変な人がいるといろんな形で紹介してくれる人が出てきて、インフルエンサーや現地のスタートアップの方々と繋がることができました。

クラフトミルクチャイ マカニアラッシー マカニアラッシーキラサントゥーア

その中で、すごくウマが合ったインド料理研究家の方が何人かいて、その人たちと一緒にチャイなどインドの乳製品を開発して販売するイベントをやっています。日本ではチャイやラッシーは有名ですけど、インドにはあまり知られてない乳製品がたくさんあり、例えばマカニアラッシーという西インドの非常に濃いラッシーがあります。またキラサントゥーラというミルクシチューみたいな乳の料理もあります。

インドには1万種類の乳製品がある

インドには1万種類の乳製品がある

インド人に言わせると「インドには1万種類の乳製品がある」って言い張るんですね。実際はそんなにないと思いますが、そのくらい地域ごとにこだわりの乳製品があるということだと思います。特に甘いものが多いので日本人に合うかどうか微妙ですが、その中でも合いそうなものを実験的に出していく、半分遊び、半分実験みたいな、プロジェクトです。

京都では屋台を引いてチャイを売っています

京都では屋台を引いてチャイを売っています。
東京では不定期ですがポップアップストア(期間限定で出店する店舗)として展開しています。

ミルふりプロジェクト

ミルふりプロジェクト

ミルクのフリーズドライを短くした「ミルふり」というプロダクトの開発を行っています。これは2024年の元日に起きた能登半島の地震がきっかけです。被災地支援の仕事もずっとしていたので、災害が起きると現地に行くことが多いのですが、最近は繋がりの多い酪農にも関わるようになっています。
能登にいる牧場主も知っていたので何かできることはないかと考えていたら、ミルクが余ってると聞き、一緒に取り組むことになったのです。

珠洲や能登、穴水、七尾などの被災エリアを回っていた

災害ってどこもそうですが、水(断水)と電気(停電)の問題が大きいです。能登の珠洲は特に大変でしたが、それ以外の地域は比較的早くインフラが復旧しました。しかし建物の復旧は今でもまだまだです。能登の先端にある松田牧場、西出牧場、寺西牧場、たんぽぽファームなどによく行ってました。
寺西牧場は放牧でジャージー牛を4頭だけ飼っていて、農協には卸さず、全部近くの星付きのフレンチレストランに出していました。南向きの小高い丘にある、立山連峰や海が見えるすごく景色のいい場所です。

災害があると個人や小規模なところほど弱い

災害があると個人や小規模なところほど弱い

その寺西牧場のミルクは、見た目がコーンポタージュみたいな黄色さですが、飲むとぶっ飛ぶくらいおいしいんですね。少量ながらもレストランに全量出荷していて、付加価値をつけて販売することでうまく回ってたんですけど、災害があるとこういう小規模なところは弱いんです。農協みたいな中間組織があると、余ったミルクを他県に回すこともできるんですが、個人だとなかなかそうはいかない。

そこで余ったミルクをフリーズドライにしてみた

災害後の能登の酪農に関わって初めて個人でやることの難しさを感じました。牧場自体に大きな被害はありませんでしたが、出荷先のレストランが倒壊してしまいミルクの行き場がなくなって困っていました。そんな悩みを聞かされたので、以前から付き合いのあった岐阜のフリーズドライの会社にミルクのフリーズドライを相談したら「やりましょう」ということになりました。

フリーズドライ

岐阜の会社の方と一緒に牧場に行って話をして製品化しました。当時はミルクがすごく余っていたので、採算度外視で東京の吉祥寺へ送り殺菌して、それを岐阜に送ってフリーズドライにしました。生乳を送ってもらうのはリスクもあって怖かったですが、品質管理を一から勉強して丁寧に行いました。
それで3種類の味に分けてテスト販売しました。クラウドファンディングでスタートしたのですが、フリーズドライにすると味の違いがすごくわかるのです。

シェフ池端さん考案

たんぽぽファームのミルクをフリーズドライにしたものは、β-カロテンが187ugあり(普通の牛乳は26ug程度)、放牧だとこんなに成分に差が出ると知り驚きました。味もとてもよかったので販売したかったのですが、価格がなかなか下げられませんでした。寺西牧場では今後の展開が見えてきたたため一旦やめましたが、別の牧場でやりたいという方がいて、今はそこと契約して開発を進めているところです。これも継続して販売につなげたいと思っています。

牧場

最後に、まだお話しできる内容は少ないのですが、能登の牧場にオーベルジュ(宿泊付きレストラン)を作りたいと考えています。
本州の牧場ってそんなに広くないところが多いと思っていましたが、能登では10~20haくらいあり、北海道ほどではないですが比較的広いです。立地も山頂付近のところが多く、景色が本当にきれいです。こういった酪農の景色などの文化的な価値を伝えるには、ミルクだけじゃ限界があると思いますので、観光や体験といった価値に落とし込めないかと考えています。
オーベルジュって数千万円ぐらいで実現できると最初は思ってましたが、一泊で15~20万円ぐらいの高級施設を目指すとなると、建物も数億円規模なんですね。素人ながらも資金調達して、何とか実現したいと思って汗をかいているところです。

ニューソリューション

これらをニューソリューションと呼んでさまざまに取り組んでいます。
まだまだ種というかネタのような段階で、ちゃんとお見せできるレベルではないものも含まれていたと思いますが、酪農や乳業が持つ価値はまだまだ多いと思っておりますので、そのような可能性に自分も賭けていきたいと思っています。

うちは小さい牛乳屋なのでリソースには限界がありまして、今はいろんな人を仲間に引き入れながらやっているところです。でも小さいからこそできることもあります。乳業メーカーの方が来てくれたりすることもありますが、大きい会社だとなかなか無邪気にチャレンジするのは難しいですよね。自分も大企業に所属していたことがあるので、そのあたりはすごくよくわかります。たまに「プライベートで一緒にやりましょう」って声をかけていただけることもあってそれがありがたいです。

ある意味「何でもできる箱」として仲間に入ってもらいながら、一緒にチャレンジしていきたいと思っています。今日参加されている皆さんは役職のある立派な方ばかりですので、一緒にやっていただけるかわかりませんが、もし少しでも興味がありましたらぜひ連携していろんな取り組みができたら嬉しいです。

ありがとうございました。