ミルクの未来を考える会
第5回小さな牛乳屋が目指す、“ニュー”ソリューション
2. 課題解決のヒントを求めてインドへ
コロナ禍に起きた生乳の破棄問題

ミルクスタンドをスタートさせながらいろんな牧場を回っていると、皆さんもご存じのように生乳の廃棄問題とか、環境の問題とか、酪農業界が抱える課題に直面し、本当に大変な状況だと実感しました。
生乳破棄問題を記事にするとヤフトピに

朝日新聞の「withnews」というウェブメディアで連載を持っていましたので、数年前の生乳破棄問題を紹介しようと、いろんな人に聞いたり資料を読みながら業界の構造的な問題や本質を調べて記事にしていました。
当時はちょうど話題にもなっていて、記事を出すたびにYahoo!ニュースのトップに載った事もあり、たくさんの方に読まれたので、いろんなコメントもいただきました。よくあったのは「捨てるくらいなら安く売ってよ」「余ってるならバターやチーズにすればいいじゃん」「農協や組合が悪いんだろ」などです。

でも、当たり前ですけど、一般の人がすぐに考えつくようなことは大部分やっているし、逆にできないことにはできない理由があるんですよね。そこで何よりも感じたのは、業界と一般の人たちとの間にある大きな隔たり。業界がいろんな情報を発信しても、そもそも誰も興味を持ってくれない。だから、伝わらない。
自分がその中間にいる、というのはちょっとおこがましいかもしれないけど、そういう立場としての取り組みは意味あるのではないかと。なるべく客観的に見て、伝える役割があるんじゃないかと感じていました。
問題が山積みの酪農業界

もちろん「このまま牛乳をやっていて大丈夫なんだろうか」と思うこともありました。皆さんには釈迦に説法ですが、日本の乳文化は制度的にいろんなものが組み合わさって成り立っているんですよね。たとえば、給食で牛乳を飲むのもその一つ。
人口減少や牛乳離れが進み、需要は下がっていく中で、燃料や穀物の高騰など外からの圧力があってもバランスが崩れないような、新しい乳文化をつくる必要があるのでは、と考えるようになりました。
そうだ、インドに行こう!

帯広畜産大学の平田昌広先生に、牛乳をちゃんと勉強したいので海外に行きたいと相談したら、世界で一番牛乳を生産していて、消費量も事実上世界一のインドを勧められたのです。いろんな飲み方をしてるらしいし、自分は水牛のミルクが大好きで、水牛のミルクがたくさん飲めるかも?という下心もあってインドへ行きました。無理やり休みをつくり3週間くらいかけてインドをざっくり一周周りながら、ひたすら牧場を訪問する旅でした。
自由な牛乳の楽しみ方に触れる

インドでは街中に牛たちがいて「野良牛」と呼ばれていますが実はちゃんと飼われていて、広い意味での放牧だなって感じたり、面白い発見がいろいろありました。水牛のミルクはスーパーや街角で売っていて気軽に飲めたし、それぞれの家庭で牛乳を買ってはチャイやパニールというチーズといった乳製品に加工する。こういう生活に密着した乳文化をもっと日本に根付かせたいなと思いました。
それから海外の牧場を訪問することが面白くなって、たまたま出張で行ったり、プライベートで海外旅行をするときは、いろんなルートを使って牧場や牧畜民、遊牧民のもとに伺うようにしています。
UAE、オマーン、カタールなどの中東の牧場めぐり

オマーンの遊牧民のところに一緒に行ったときは、ラクダのミルクを生で飲みました。かなり砂が入っているのですが、砂を沈殿させて飲む器を使います。多少砂は入りますが、それでもめちゃくちゃ美味しいのです。
ケニアのマサイ族、ザンビアのトンガ族などアフリカの牛飼いめぐり

2024年の初めにケニアとザンビアの牧畜民のところへステイしに行きました。ケニアはマサイ族で、ぴょんぴょん跳ねるイメージありますよね。向こうでは「70年前まではミルクしか飲んでなかった」という、本当かどうかわからない話をすごい熱量で語られました。しかも日常会話の7~8割は牛の話だと言うんです。
「俺らはすべてが牛だ」と言い、最近ではお金を持っていても「お金だと不安だから牛に変えちゃう」そうです。資産運用として牛を飼ってるとも言ってました。そういう話がいろいろ聞けました。
ほかにも発酵乳に近いミルクがありました。少し炭が入ったミルクを、瓢箪(ひょうたん)のような専用容器に入れて数週間発酵させたものです。普段はミルクやチャイを飲みますが、体調がすぐれない時などはこれを飲むそうです。旅先では幸いにもミルクでお腹を壊したことは一度もないので、とにかく世界中を周りいろんなミルクを飲みながら、牧場をひたすら回りました。
家畜文化は文字より長い歴史を持つ
これらはもちろん遊びではなく、自分の中ではずっと思いがあります。1万年くらいの歴史があると言われる家畜文化は、文字より古いという話もあります。そして世界中にはたくさんの乳製品があります。例えばインドだと、ムンバイとかデリーなどの都会には外資系や政府系の何万頭規模の巨大牧場もありますが、昔ながらの伝統的な牧場もあります。同じ国の中にも、こんなにも多様な酪農があるのかと驚きました。日本にいたらあまり感じなかったような「乳のおもしろさ」が、海外に行くとすごく感じられます。その乳のおもしろさを生かせば、酪農業界のいろいろな課題解決ができるんじゃないか。そういうおもしろさを生かしながら、何かやりたいなっというのが私の思いです。そこでCRAFT MILK LAB(クラフトミルクラボ)という施設を、CRAFT MILK STANDの地下につくりました。
CRAFT MILK LABの立ち上げ
酪農家の大半は生乳を農協出荷

酪農乳業界にはいろいろな人が関わっていますが、普通の人は「牧場の牛乳がそのままパックに入って届いてる」と思っています。でも実際は、大半は農協に出荷されて、それがいろんな形でまとめられて殺菌されて、ようやく一般の人の手に届くという流れです。
こういう話をすると「じゃあ牧場の牛乳をもっと6次化(生産、加工、販売にトータルで取り組み収益向上を目指すこと)すればいいじゃん」という話がよく出ますが、牧場目線で見ると牛乳の製造は非常に大変です。まず設備投資に数千万円以上の費用がかかるし、そのための準備もすごく大変。新規就農の方は多額の借金を背負ってる人が多いし、休みがない人も多く、簡単ではないのです。


いざ牛乳の製造場所を作れたとしても、商品開発してさらに県内外に営業活動なんて、普通の酪農家から見ればできないレベルの話だと思います。だからこそ「自分たちでそういうことができないかな」とCRAFT MILK LABを作りました。もとは飲料水を置いていた倉庫をリノベーションして作った工房です。
イベントができるようにしていますが、基本は製造のための工房です。ミルクスタンドで培った牧場との関係を生かして、牧場単位の牛乳のヨーグルト、アイス、そして牛乳の製造しています。
一番初めは、東京の練馬区にある23区で唯一の牧場、小泉牧場さんの牛乳を使ってつくりました。周りは家やアパートなどが密集しているのですが、そういう場所にある牧場の面白さを何とか伝えたいなと思って、約1年間販売しました。

今は第二弾として、府中にある東京農工大学のミルクを製造し、販売を始めています。







