ミルクの未来を考える会
第4回酪農をめぐる情勢 ~生乳需給の安定に向けて新しい酪肉近の概要~

委員
(質問)
今回の資料では専門的な内容が多くて、私のような素人には少し難しく感じました。特に「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」というタイトルが50年も使われているということで、「近代化」とは何なのか、とても興味を持って聞いていたのですが、なかなか難しいと感じておりました。そこでまとめの図にあった「目指す方向性」について、もう少し詳しく教えていただきたいです。方向性は4つありますが、特に「持続的な畜産の推進」に関心があります。環境や資源、動物福祉などに配慮しながら、将来にわたって安定して畜産を続けていけるようにするということだと思いますが、具体的にどのような取り組みがあるのか知りたいです。また、「近代化」という言葉についても、単に機械を導入したり規模を大きくしたりするだけではなく、時代に合った形で酪農や畜産を進めていくという意味があるのではないかと思います。そのあたりも含めて、まとめの図の内容をもう少しかみ砕いて説明していただけるとありがたいです。
講師
まとめの図は、今回の酪肉近の全体図の中から、主要な酪農版のところを載せさせていただきました。
目指す方向性のところですが、生乳需要量の5年後の目標が732万トンで、長期的なところは780万トンというのが、この中で一番言いたい内容になっています。持続性の確保は非常に難しいところですが、やはり需要を拡大していくことが酪農、乳業にとって一番重要ということを、酪肉近の中でも一番言っています。今もいろんな場面で需要拡大の重要性を検討させていただいているところです。それから近代化の意味ですが、変えてほしいという意見もございましたけども、そこは法令上の話でもございますので、なかなか変えられないというのが正直なところです。
委員
(質問)
需要拡大が鍵だというお話をいただきましたが、具体的に、需要を拡大するために有力な対策にはどんなものがあるのか教えていただけますでしょうか。
講師
やはり「需要があってこその生産」だというのが基本です。ただ、国の立場から「これが正解です」とはっきり言うのは難しくて、そこはまず事業者さん自身が考えるべきことだと思っています。私たちとしては、乳業メーカーさんや生産者団体が「こういうことをやりたい」と思う方向性を、補助事業などでしっかり後押ししていきたいと考えています。たとえば新商品の開発もその一つですし、ヨーグルトのPRもいろいろ方法があると思います。今回はテレビCMでしたがSNSを使うなど、手法はさまざまです。そういった業界の取り組みを、農水省として支援していくという姿勢です。実際に動くのは事業者さんなので、国としてはその努力をしっかり支えていきたいということです。
委員
(質問)
北海道でも牛乳離れといった声が出ていて、なかなか決定的な打開策が見えないのが現状です。そうした中で、今回「輸出」も一つの方向として挙げられていましたが、それも有力な対策として見ていらっしゃるのでしょうか。
講師
最近は若い人や小学生でも土日や夏休みに牛乳を飲まないという声があって、業界としても「土日ミルク」などのPRを進めています。ただ高校を卒業すると一気に飲まなくなる傾向があって、特に生産年齢世代が一番飲んでいないんです。だから年代ごとに合ったPRの仕方が必要だと思っています。今回のヨーグルトのCMもその一環ですし、いろいろ試行錯誤しながらやっていくしかないというのが正直なところです。今回の目標設定の中でも「毎年取り組みを検証していこう」としているのは、そうした試行錯誤を前提にしているからです。
輸出についてですが、今後人口が減っていく中で、酪農や乳業を維持していくには海外にも目を向ける必要があると思っています。今はLL牛乳やチルド(冷蔵)牛乳に期待していますが、乳価の差や物流コストの問題も大きいです。たとえば国内の生乳は120円、海外は80円くらいで、さらに販売価格も国産が800円、海外産が300~400円と大きな差があります。これは乳価よりも物流の問題が大きいと思っていて、そこをどう改善するか、みんなで課題を共有して、物流コストを抑える方法を検討していく必要があると考えています。輸出は必要だけど、すぐに大きく伸ばせるわけではないので、地道に取り組んでいくことが大事だと思っています。
委員
(質問)
「牛乳・乳製品の輸出について」にある主要品目の中で、育児用粉乳って中国など海外で人気があると聞いていたんですが、国産原料の使用が5%しかないというのは正直知りませんでした。育児用粉乳って脱脂粉乳から作るんじゃないのかなと思っていたんですが、もう少し国産原料で置きかえられたらいいのにと感じました。やっぱり価格差の問題で難しいということなんでしょうか。
講師
確かに育児用粉乳は昨年で145億円くらいと、かなり大きな市場になっています。ただ、実際のところ原料のほとんどはホエーなんですね。これはチーズを作るときに出る副産物で、そのホエーを使って育粉を作っております。脱脂粉乳も多少は使われていると思いますが、割合としてはそんなに多くないです。
原料はアメリカからの輸入が多く、アメリカは日本の何百倍もチーズを作っているので、ホエーも大量に出るんです。それを輸入して、加工しているという流れです。ただ、国産の脱脂粉乳も一部使われているので、そういった取り組みは今後も支援していきたいと考えています。ちなみに、中国向けの輸出はほとんどできていなくて、これは検疫の関係で市場が開いていないという事情があります。
委員
(質問)
中国じゃないんですね。
講師
はい。現在、最も多いのはベトナムです。ただし、中国についても今後開放できるよう、さまざまな条件について交渉を進めていく必要があると考えています。
委員
(質問)
あともう1点。たしかフランスとの比較の話がありましたが、フランスは補助金の額自体は日本とあまり変わらないのに、より安く生産できるというのは、大規模酪農だから、ということなんでしょうか?
講師
これは酪農側の話で、生産コストの違いは、主に自給飼料、つまり餌の違いが大きいと思います。特に日本では、濃厚飼料はほとんど輸入に頼っているんですね。北海道などでは自給飼料を使っているところもありますが、それでも配合飼料や穀物は輸入です。
一方で、フランスのような国は自国で麦などを生産していて、飼料も国内産が中心だと思います。そういう意味で、餌に限らず、さまざまなコストが日本よりも安く済んでいる。つまり、生産条件の違いが大きいということです。
委員
(質問)
このお話はなかなか難しくて、すぐには理解しきれないところもあります。それともう一つ、脱脂粉乳についてですが、余っていて問題になっているという話をよく聞きます。でも、昔は各家庭に1缶くらい脱脂粉乳があったような気がするのです。子どもの頃、溶かして飲んだ記憶もありますし。今はあまり一般向けには売れていないんでしょうか?スキムミルクって、昔はよく見かけましたよね。今はもう、あまり人気がないということなんでしょうか?
乳協
昔と比較して、市場は拡大しておりますが、売れてるというほどでもないかと思いますし、大きな市場ではありません。
講師
スーパーでは、コーヒーコーナーによく置いてあります。
乳協
スキムミルクは、大手では2社ぐらいしか市販してないので、家庭用の市場規模としては、小さな分野でございます。
委員
(意見)
わかりました。いろいろなものが時代も変わって、なかなか難しくなっているなと思いながら。ありがとうございます。
講師
脱脂粉乳の主な用途としては、やはりヨーグルト向けが多いのではないかと思います。
今回、脱脂粉乳については、ヨーグルト需要の拡大を目指して、乳業協会を中心に積極的に取り組んでいただいています。その結果、昨年は販売量がプラスに転じてきており、一定の成果が出ていると認識しています。今後もこうした取り組みが継続されるよう、私たちとしても補助金など必要な支援については、しっかりと予算要求を行って確保していきたいと考えています。
委員
(質問)
まだ十分に理解できていない部分もあるのですが、「脱脂粉乳在庫低減対策の実施状況」について、もう少し具体的にどのような対策が行われたのか、お話を伺えればと思います。また、令和2年(2020年)には国の支援割合が多かったようですが、その後減っているのは、他の団体や企業が積極的に活用するようになったから、という理解でよろしいのでしょうか?
講師
国の対策費が減ってきた背景には、需給が徐々に改善してきたという面もありますが、そもそも令和2年(2020年)は、コロナの影響が急激に出た年で、制度が整っていなかったため、まずは国費で一気に対応したという事情がありました。令和3年には、生乳の生産が特に北海道で非常に順調だったこともあり、ホクレンにかなり頼っていた部分があったと思います。
令和4年には、国・生産者・乳業メーカーの三者で、基本的に「1:1:1」の割合で費用を拠出して対策を行うという枠組みが決まりました。その結果、費用負担のバランスが整い、現在のような金額構成になっています。ただ、令和4年当時はまだ需給がかなり緩和していたため、脱脂粉乳の在庫対策は引き続き必要で、国も含めて相当な額を投入することになりました。
令和5年については、対策期間の関係などもありましたが、全体としては需給が引き続き緩んでいたため、やはり大きな対策費が必要だったと理解しています。
令和6年になると、特に北海道で生産抑制の取り組みがかなり進んだこともあり、需給が引き締まり、対策費そのものも縮小され、そこまで大きな支出をしなくてもよくなった、というのが現時点での理解です。
委員
(質問)
国としての、国費を使っての対策としては、飼料転用という部分ですよね。
講師
「脱脂粉乳在庫低減対策の概要」をご覧ください。このページの左側に、在庫解消の方法として「飼料転用および輸入調整品との置き換え」と記載されています。
令和4年には、脱脂粉乳を輸出する取り組みも行われました。ただし、WTOのルール上、輸出に対して国費を投入することは原則として認められていません。そのため、国費は使わずに、生産者団体や乳業メーカーなどの事業者団体が主体となって輸出を実施しました。このあたりはWTOの規定でもややグレーな部分があるのですが、国費を使わない形で、いわば"安売り"のための原資として活用されたということです。こうした取り組みも含めて、脱脂粉乳の在庫低減に向けた対策が進められているという理解です。
委員
(質問)
先ほどの需要拡大の話に関連して、もう一点お伺いしたいことがあります。現在、日本人の食生活では「米離れ」が進んでいるといわれていますが、一方で植物性食品の市場は非常に伸びています。特に一般の方々の間では、健康志向や、若い世代を中心に「環境負荷を抑えたい」という意識から、植物性食品を増やし、動物性食品を減らしたいという声が増えているように感じます。実際、データを見ても、今後そうした傾向がさらに強まると予測されています。そのような中で「酪農」というと、どうしても「環境に悪い」というネガティブな印象を持たれてしまうことが多いように思います。資料に「国際的な動きや消費者ニーズに対応するために、環境負荷低減の取り組みを見える化していく」という方針が示されていますが、牛乳・乳製品や畜産全般について、環境面での取り組みや、アニマルウェルフェアといった、特に若い世代が関心を持っているテーマに対して、どのようにアプローチしていくのか、まだ十分に見えてこない印象があります。そこでお伺いしたいのですが、こうした点について、今後どのように「見える化」を進めていくのか、具体的な取り組みや方向性があれば、ぜひお聞かせいただければと思います。
講師
国全体の施策の中でも、SDGsに関連する脱炭素や環境負荷の「見える化」については、取り組みが進められているところです。需要やニーズの多様化を踏まえ、事業者団体においても対応可能な範囲で環境負荷低減の取り組みが進められています。特に酪農分野においては、Jミルクと連携し、SDGsに関する取り組みの加速化が図られており、補助事業の活用も行われていると承知しています。今後も、GHG(温室効果ガス)排出量の削減に向けた取り組みを引き続き支援してまいりたいと考えております。
委員
(質問)
SDGsや環境負荷低減といった取り組みは重要である一方で、一般の方々にはやや伝わりにくい部分もあると感じています。そうした中で、牛乳・乳製品の価値や魅力をより多くの方に知っていただき、日常的に飲んでもらえるよう、今後はさらに力を入れていく必要があると強く感じております。
乳協
補足させていただきますと、農林水産省などにおいては温室効果ガス(GHG)の排出量が少ない商品に星印を付けて販売する取り組みが進められています。他の農産物では、特定地域の産品をまとめて販売することが可能ですが、牛乳の場合は「合乳(集乳)」の仕組み上、すべての酪農家が同様の取り組みを行っていないと、個別の環境配慮の成果を商品に反映することが難しいという課題があります。そのため、こうした取り組みは牛乳には適用しにくく、現時点ではあまり進展していないのが実情です。特定の地場産牛乳を個別に販売している事業者であれば対応可能な場合もありますが、制度的・流通的なハードルが存在している点は留意が必要です。
委員
(質問)
京都の百貨店でご当地ヨーグルトを販売する催事を行ったところ、平日の来場者の半分くらいがインバウンドのお客様でした。最近もいろいろな事業者さんを訪問していたのですが、ニセコに行った際、ニセコブランドのヨーグルトが海外、特に香港などの高所得層がいる地域に輸出されていて、空輸でも3倍の価格で売れるという話を聞きました。ブランディングがうまくいっている好例だと思います。また日本のヨーグルトは世界的に見ても賞味期限が非常に短いので、そこを見直して延ばすことができれば、インバウンドや輸出の需要はもっと広がるのではないかと感じています。「牛乳・乳製品の輸出について」に主要品目の輸出状況を示すドーナツグラフがありましたが、そこにヨーグルトや加工乳が出てこないのは、まだ主要品目とは言えない状況だからなのか、そのあたりを教えていただきたいです。それから、チーズやアイスクリームの輸出についても、日本ブランドとして高付加価値の商品として扱われているのか、それとも日常的な価格帯の商品が多いのか、もし分かれば教えていただけるとありがたいです。
講師
ヨーグルトの輸出については、正確な数字は分かりませんが、多少は行われていると思います。ただ、やはり流通の過程で一番のネックになるのは賞味期限や消費期限の問題だと感じています。たとえば牛乳の場合、最近では賞味期限の長いチルド(冷蔵)牛乳も出てきていて、そういった商品は輸出がかなり拡大しています。以前はLL(ロングライフ)牛乳が中心でしたが、今はチルド牛乳の輸出に切り替わってきている印象です。
ヨーグルトの賞味期限がどのくらいあるのか、私も詳しくは承知していませんが、やはりそこが輸出の際の課題になるだろうと思っています。結局のところ、消費期限や賞味期限は輸出先の国の政府がどう判断するかにもよるので、日本側だけで勝手に決められない部分があると思います。ですので、そういった情報についても、ぜひ教えていただければと思っています。また、近隣諸国へのヨーグルト輸出に関心を持っている事業者さんの声もありまして、現在、各国と輸出に向けた条件整備を進めているところです。
チーズについては乳業メーカーさんに聞いていただいたほうが詳しいと思います。輸出されているチーズのうち、国産割合が40%というのは、基本的にナチュラルチーズの輸出を指していて、高付加価値化された商品だと理解しています。一方で、プロセスチーズについては、日本独自のフレーバーを加えたものなどが輸出されていると聞いています。

委員
(質問)
「国産生乳の需要傾向と、過去の目標と実績」にある、牛乳の仕向実績と目標のグラフを拝見して、平成15年から25年の10年間での生乳・牛乳の生産量の減少幅が非常に大きいと感じました。目標値との乖離も大きくて、当時は予想していなかったような要因があったのではないかと思うのですが、その一番大きな要因について、分かる範囲で教えていただけるとありがたいです。もう一つ、今後子どもの人口が減っていく中で、牛乳を飲む新しい世代をどう広げていくかが課題だと思っています。そうした中で、高校に牛乳の自動販売機を設置するという施策はとても良い取り組みだと感じています。現在どのくらいの高校で導入されていて、どんな効果や反応が出てきているのか教えていただきたいです。
講師
牛乳の消費が減っている要因についてですが、資料には書かれていないものの、やはり他の飲料との競合に牛乳が負けているのではないかと思っています。特に、分析のところでも触れましたが、成分無調整牛乳は比較的健闘している一方で、加工乳や乳飲料は落ち込みが大きく、今もその傾向が続いていると思います。どの飲料に負けているのかまでは把握していませんが、そういった競合関係が背景にあるのではないかと考えています。そのため、消費拡大を図る際には、加工乳ばかりを支援すると、逆に成分無調整牛乳の販売に影響が出る可能性もあるので、そこは慎重に考える必要があると思います。生乳を使った製品の販売拡大についても、どう進めていくか、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
高校への自動販売機の設置についてですが、昨年はある農業高校に設置させていただきました。ただ、実際には赤字になってしまったというのが一番の「効果」だったというのが正直なところです。乳業メーカーさんにもご協力いただきたいと思っているのですが、24時間売れるわけではないですし、納品や運営にかかる費用の負担が大きく、採算が合いにくいという課題があります。今年はその反省を踏まえて、なるべく赤字にならないように、どう工夫できるかを全酪連さんが中心になって検討しながら、引き続き取り組んでいるところです。うまくいけば、他の高校にも横展開していければと考えています。
ちなみに、この取り組みを進めるにあたって、都庁を通じて都内の高校に声をかけたのですが、なかなか手が挙がらず、営業活動を重ねてようやく1校で実現したという状況です。今後は、できればもっと広げていきたいと思っています。
乳協
成分無調整牛乳と加工乳・乳飲料の関係についてですが、実は他の飲料との競合よりも、これらの間の相関のほうが強いのではないかと思っています。成分無調整牛乳が少し伸びているというよりも、加工乳や乳飲料の売れ行きが落ちて、その分「おいしい牛乳」に戻ってきたというのが、一般的な見方かもしれません。とはいえ、やはり業界としては消費拡大に向けて、いろいろと努力していく必要があると感じています。
委員
(質問)
私は日本のチーズをずっと応援しているんですが、最近チーズ工房の数が350件を超えてきていて、ちょっと不思議な状況が起きています。酪農家さんの数は減っているのに、工房は増えているんです。地元の小さな工房さんたちが、それぞれ頑張ってチーズを作っていて、量としてはそこまで多くないんですけど、自分のミルクが“見える化”されることで、酪農家さんにとっては大きな希望になっていると聞いています。それから、チーズプロフェッショナル協会さんもアジア向けの輸出に力を入れていて、最近は活動も活発になってきているのが見えていて、そこにも希望を感じています。私はもう一つ別の仕事もしていて、それはチーズとは関係なく、「エコフィード」といって、食品工場から出る残渣を酪農や畜産の現場に飼料として提供する仕事です。ここ最近、この取り組みへの関心がすごく高まってきています。数年前に輸入飼料が高騰して、酪農家さんが次々と離農していった時期がありました。たとえば、1キロ60円台だった飼料が100円を超えたりして。さらにウクライナ情勢などもあって、コストがどんどん上がっていきました。現場では「搾っても赤字」という声が本当に多くて、ミルクの価格が上がっても追いつかない。後継者がいないという話もよく聞きます。だからこそ、国産飼料を活用することはすごく意味があると思っていて、私も微力ながら取り組んでいます。まとめにあった「国産飼料の生産・利用拡大」について、国としてどんな取り組みがあるのか教えていただけたらと思っています。
講師
国産飼料の生産・利用拡大については、本当に重要なことだと考えています。畜産全体に言えることですが、国土に根ざした国産飼料、国産の飼料基盤に立脚した畜産というのは、酪農に限らず必要だと思っています。私が牛乳課に来たのは令和4年なんですが、ちょうどその頃から円安やウクライナ情勢の影響で、輸入飼料の価格が一気に高騰して、今も高止まりの状態が続いています。もちろん、海外の情勢に左右されるのは酪農だけじゃなくて、他の産業でも同じなんですけど、国産飼料を使っていないと、経営が本当に海外事情に振り回されやすくなるんですよね。今回のことを踏まえても、やっぱり国産飼料をなるべく使った経営を目指すべきだと思っています。実はこれ、初めての話じゃなくて、平成17~18年頃にもリーマンショックなどの影響で輸入飼料が高騰したことがあって、そのときも国産飼料を推進しようという動きがありました。ただ、その後円高が進んで、為替が100円を切るような状況になって、今とは逆の流れになってしまったんです。そうなると、やっぱり「餌を作らない方が楽だよね」という流れになってしまう。でも、長い目で見れば、国際情勢や経済の変化に左右されにくい体制を作るためにも、国産飼料の生産と利用はしっかり進めていく必要があると思っています。支援の内容としては、たとえば機械の導入支援などがありますし、地域計画の中でも国産飼料の生産目標を立てるようになってきています。これは畜産局の話ではないんですが、「人・農地プラン」の後継として、地域で「これだけ国産飼料を作りましょう」といった計画を立てる動きが進んでいます。エコフィードについては、今回の資料には明記されていませんが、私自身も都府県の酪農現場をよく訪問していて、たとえば千葉のような都市圏に近い地域では、エコフィードが非常に有効だと感じています。効率的に活用されている例も多く、そういった取り組みもぜひ広がってほしいと思っています。いずれにしても、国産飼料の生産・利用拡大は今後も重要なテーマであり続けますし、具体的な支援内容についてはまだ申し上げられませんが、必要な予算を確保しながら、しっかり検討を進めていきたいと考えています。
委員
(質問)
食料安全保障の観点からですが、お米には備蓄米のような制度があって、ある程度備える体制が整っていますよね。牛乳についても、たとえばLL牛乳(ロングライフ牛乳)などを備蓄・保存するような取り組みがあるのかなと。国として、牛乳の需要をしっかり維持・拡大していくという方向性があると思うんですが、それが食料安全保障の一環としてどう位置づけられているのか、また輸入量との関係でどういうふうにバランスを取っているのか、そのあたりを教えていただけたらと思っています。
講師
牛乳や乳製品の備蓄についてですが、これは基本的に民間ベースで行われているもので、国として何か備蓄をしているということは、今のところは考えていないです。ただ、たとえば脱脂粉乳なんかは民間在庫ではあるものの、賞味期限が2年くらいあるので、ある意味で食料安全保障に資する物品と言えるかもしれません。
LL牛乳については、皆さんのほうが詳しいかもしれませんが、賞味期限はだいたい90日程度ですよね。なので、備蓄として考えるには回転が早くて、少し難しい面もあると思います。ただ、LL牛乳は能登地震や熊本地震などの災害時には支援物資として活用されていて、これは乳協さんや各乳業メーカーさんのご協力によるものです。とはいえ、国家としての備蓄品という位置づけにはなっていません。
ただ、産業としての食料安全保障という考え方はあると思っていて、家畜そのものが「倉庫」のような存在でもありますから、家畜がいるということ自体が、ある意味で食料安全保障の一部を担っているとも言えるのではないかと思っています。
乳協
ご説明の中では、「消費拡大が最大の課題だ」という話が何度も何度も出てきましたが、これは本当に難しい課題で「言うは易し行うは難し」の典型だと思います。国の支援もいただきながら、乳業協会が事業実施主体となって、昨年度からヨーグルトの消費拡大対策事業を実施してきました。今年もまた引き続きこの事業に取り組んでいく予定です。この点について何か意見等があればお願いします。
メーカー1
ヨーグルトの消費・需要拡大に向けて、当社ではいくつかの方向から取り組みを進めています。ひとつは付加価値のある商品の需要を広げていくこと。そしてもうひとつは、新しい価値を持った商品の開発・発売。それから、ヨーグルトを食べるシーンをさらに広げていくことです。たとえば「明治プロビオヨーグルトR-1」のブランドでは、「医師が奨める」というメッセージを、商品パッケージやテレビCMなどで訴求しています。また、「明治プロビオヨーグルトLG21」などの機能性表示食品のブランドでは、複数のブランド合同でプロモーション施策を実施するなど、機能をよりわかりやすくお客様に伝える工夫もしています。今年の3月には、「明治Wのスキンケアヨーグルト」という機能性表示食品を発売しました。これは、紫外線や乾燥が気になるこれからの季節に向けて、体の内側からサポートするという新しい価値を提案する商品です。また、ヨーグルトの食シーンの拡大については、「明治ブルガリアヨーグルト」ブランドを中心に、ヨーグルトをそのまま食べるだけでなく、普段の食事の中に取り入れてもらえるようなさまざまなレシピを提案しています。広報部門としては、今お話ししたような内容や市場の動きも踏まえて、今後の情報発信に取り組んでいきたいと考えています。
委員
(意見)
「業界を挙げた消費拡大の取り組みの例」でヨーグルトのCMが3本とTikTokのショート動画が紹介されていて、これは乳業協会が出されたCMだったかと思います。主に機能性ヨーグルトの「免疫」や「体調管理」といったテーマで作られていて、すごくポップな感じの消費拡大向けのCMだったなという印象があります。正直に言うと、あのCMは「ミルクの価値」を語っているというよりは、どちらかというと「乳酸菌」や「発酵の力」を前面に出した内容だったなと感じました。もちろんそれも大事なんですけど、個人的には、ヨーグルトのもともとの魅力である「ミルクのおいしさ」や「乳製品としての保存性の高さ」といった価値も、もっと伝わってくるような内容だったらうれしいなと思いました。そういった視点があると、消費者にもより深く伝わると思いますし、何より酪農家さんたちのモチベーションにもつながるんじゃないかなと、CMを見ながら感じていました。
乳協
消費拡大対策ではチーズ関連の事業について、引き続き現行と同じぐらいの需要量を見込んでいるということなので、チーズに関する記述が酪肉近の本体にはいっぱい書いております。チーズに関してご意見があれはお願いします。
メーカー2
チーズに関しては、国産の乳を使用し、国産チーズの品質の良さをしっかりと伝えていくことが今後の課題だと考えています。 そのため、北海道や茨城の工場の強化を進めています。 また、新しい価値を提供することも重要です。新たな需要を創造できるような新しい商品の生産ができる体制を整え、新しい価値や食シーンの広がりを考慮し、新しい提案を続けていきたいと考えています。
委員
(意見)
メーカーがつくっているナチュラルチーズをプロセスチーズの原料として使うことが、需要拡大には一番の近道じゃないかなと思っています。現状、プロセスチーズの原料はほとんどが輸入品だと思いますし、それが価格の問題だということも十分理解しています。でも、そこがなんとか国産原料に切り替えられれば、さまざまな場面で、見えないところであっても国産チーズを食べてもらえる機会が増えるはずですし、それが需要拡大にも自然につながっていくんじゃないかと思っています。
乳協
ありがとうございました。時間がきましたので、この辺で終わりにしたいなと思います。
講師
本日はありがとうございました。私自身も非常に勉強になりました。酪農だけでなく乳業も含めて、双方がこれからも残っていくためには、そして酪農地域が存続・拡大していくためにも、やっぱり需要拡大が一番の鍵だと思います。こちらも需要拡大につながるような産業であれば、当然支援もしやすくなってきます。そういった意味でも、業界の皆さんと連携して、この酪農・乳業産業がしっかりと発展していけるように、需要拡大に向けてみんなで取り組んでいきたいと考えています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました。
【出席者】
「ミルクの未来を考える会」委員(50音順)
- ・チーズプロフェッショナル 大和田百合香 氏
- ・グラフィックデザイナー ミルクマイスター(R)高砂 氏
- ・科学ジャーナリスト 東嶋 和子 氏
- ・北海道新聞社 編集委員 中村 公美 氏
- ・株式会社Food Connection 代表取締役 橋本 玲子 氏
- ・産経新聞社文化部 記者 平沢 裕子 氏
- ・フリーエディター 宮村 美帆 氏
- ・一般社団法人ヨグネット 代表理事 向井 智香 氏
乳業メーカー広報担当者他
酪農・乳業 専門紙記者
日本乳業協会