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ミルクの未来を考える会

第4回酪農をめぐる情勢 ~生乳需給の安定に向けて新しい酪肉近の概要~

4.生産基盤の安定と食糧安保

収支差と飼養戸数の減少率の関係

収支差と飼養戸数の減少率の関係

「生産基盤の安定」と「食料安全保障」というよく使われる言葉について触れています。
ただ、そもそも生産基盤とは何かという点については、かなり抽象的で分かりづらい部分もあります。私としては、家畜そのものはもちろん、自給飼料の生産体制や土地、施設・機材、それに飼養管理の技術も基盤だと思っています。そして何より、ひと、つまり農家の戸数が、生産基盤の大きな要素だと考えています。

このページでは、特に、農家戸数(人)に注目し、過去20年間の農家戸数の推移と酪農経営の収支の関係を整理しています。青い線が農家戸数の減少率、黒い線が経営の収支差を示しています。収支が悪化している時期には、農家の減少率が高くなっており、特に令和4年・5年の厳しい経営環境では、減少率がマイナス8%近くまで達しています。

都府県でも、収支が安定しているときは農家の減少が比較的緩やかですが、それでも減ってしまうという傾向があります。北海道でも同様の傾向が見られます。酪農経営の安定は、農家の存続や地域の活性化、さらには農地・農村の維持発展にも関わる重要な課題だと捉えています。

生乳取引価格の推移について

生乳取引価格の推移について

酪農経営の安定には、やはり生産コストの管理と取引乳価の確保が欠かせません。
生産コストが上昇すれば、それを販売価格に反映させるのが基本であり、これが酪農の健全な経営にもつながると考えています。最近では、飼料価格の高騰などの影響を受けて、酪農家の手取りである総合乳価が上昇してきました。具体的には、乳業者さんと生産者団体さんによる商談の結果、飲用向けは今年8月から4円、加工向けは6月から3円~10円の値上げが行われています。
引き続き、皆さんの交渉や商談がうまく進むよう、私たちもさまざまなサポートや検討を進めていきたいと考えています。

乳価交渉の環境整備や経営危機への備え

乳価交渉の環境整備や経営危機への備え

酪農経営を支えるには、需要の安定・拡大が重要ですが、いま最も課題となっているのは脱脂粉乳の需給改善だと考えています。特に生乳の需給には大きなポイントです。
令和4年11月以降、生産コストの上昇を受け、乳価は乳業者のご理解のもと、これまでに4回、そして今回で5回・6回と段階的に引き上げられてきました。その結果、資料下にもある通り乳価引き上げによって乳業者側では約1,200億円の支払い増、生産者側では売上の増加となり、さらに今年6月・8月の値上げ分で300億円程度の効果が見込まれ、合計すると1,500~1,600億円の経済効果が生じる見通しです。国費の支援と比べても、乳価の引き上げには非常に大きなインパクトがあると考えています。
今後、生乳の需要減少が懸念される中でも、飲用向けの需要を拡大し、脱脂粉乳の需要も改善することが、持続可能な経済環境の確保につながると見ています。

また、右のグラフでは加工原料乳のナラシ対策についても触れており、長期的な収支の安定や内部留保の強化に向けて、皆さんと協議しながら対応を検討しているところです。最後に、生産性の向上や経営の高度化に向けて、飼養管理技術や経営診断の活用が求められています。国産飼料をはじめとした経営資源に見合った安定的な経営体の育成が、酪農経営改善の鍵になると考えています。

乳価交渉の環境整備や経営危機への備え

北海道における牛分娩間隔と乳量等の関係

北海道における牛分娩間隔と乳量等の関係

飼養管理が酪農経営に与える効果について分析した一例を紹介します。
右の表を見ると分娩間隔が短いほうが1頭あたりの乳量が多い傾向にありました。分娩間隔が短いということは、それだけ飼養コストが抑えられるということでもあります。また、農家の所得にも差が出ていることが確認されました。具体的には、間隔の短い農家と長めの農家を比較した場合、所得に約34%の差があったというデータも示されています。飼養管理の改善は酪農経営の安定・向上に欠かせない要素であると改めて認識しています。

牛の頭数規模と利潤の関係

牛の頭数規模と利潤の関係

「経営規模は大きいほど良い」という声を耳にしますが、今回酪肉近の中で整理したデータ分析から見ると、必ずしもそうとは言い切れないということがわかってきました。
下のグラフは、横軸が飼養規模、縦軸が生乳1kgあたりの利潤を示した国の生産調査データを基にしています。もし規模と利潤に正の相関があるなら、右へ行くほど利潤が高まるはずですが、実際の分析では、規模の大きさと利潤が必ずしも一致していないことが明らかになりました。つまり、経営規模が大きければ儲かるという単純な話ではなく、自らの土地基盤や資源に見合った飼養規模を選ぶことが、持続可能で安定した酪農経営につながる、ということが改めて示されています。

戸数・頭数・1頭あたり乳量と生産量の関係

戸数・頭数・1頭あたり乳量と生産量の関係

「農家が減れば生乳の生産量も減る」と言われ、農家を守ってほしいという声もありますが、実際のデータを見ると、農家戸数の減少と生乳生産量には明確な相関が見られないことがわかっています。
農家戸数が減っても、生産量自体はむしろ増えている傾向も見て取れます。ただ、特に伝えたいのは、農家戸数の維持には「需要」が起点になっているという点です。まず需要があり、それに応じた経産牛の頭数が決まり、それに見合った農家戸数が存在しているという考え方です。つまり、農家戸数を維持するには、需要の拡大がとても重要であり、それが生産基盤の維持にもつながるということになります。
酪肉近の中では明確には書かれていませんが、私たちとしては農家の生産基盤が維持されるよう、情報発信なども積極的に行っていきたいと考えています。

まとめ

まとめ

今回は732万トンという生乳生産量の背景や、酪農基盤強化のために乳業者の力が不可欠であること、そして最も重要なのは「需要の拡大」であるという点をお伝えさせていただきました。