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ミルクの未来を考える会

第4回酪農をめぐる情勢 ~生乳需給の安定に向けて新しい酪肉近の概要~

1.酪農の近代化に関する基本指針

今回は「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(通称:酪肉近)について、行政の思いも含め、四つのポイントに絞ってお話しさせていただきます。
この酪肉近は今年4月11日に策定されました。正式には「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」といい、昭和29年に制定された「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」に基づくものです。名称には「近代化」とありますが、この意味についてはいろいろな意見もあるところです。

政府としては、酪農・肉用牛生産の中長期的な振興策をこの方針に基づいて示しております。これまでも約5年ごとに、情勢の変化を踏まえながら次の10年を見据える形で策定しており、今回で第9次、つまり半世紀以上の歴史ある計画です。

本日ご説明する基本方針の柱は四つです。具体的には、
1:酪農の近代化に関する基本指針
2:生乳需要の長期見通し
3:近代的な酪農経営の基本的指標
4:乳業の合理化に関する基本事項
です。
これらが資料内では入り組んで記載されていますので、今日は理解しやすいように、四つの柱に整理してお話を進めてまいります。

本日は理解しやすいように、四つの柱に整理してお話を進めてまいります。
また、生乳の需要は主に牛乳の需要に連動してきました。「生乳」は乳全体を指し、「牛乳」は飲用牛乳と、区別してご説明いたします。

情勢の変化

国産生乳の需要傾向と、過去の目標と実績

国産生乳の需要傾向と、過去の目標と実績

まず一つ目のポイント、情勢の変化についてお話しします。酪肉近は、過去のデータを振り返りながら政策を構築しています。
青い線が実績を示しています。左上のグラフは牛乳にどのくらい仕向けられたか、右下は生乳全体の生産量の推移です。昭和50年代前半では、牛乳需要の伸びに伴い生産量も増加し、高い目標値が掲げられていました。たとえば昭和56年には生産実績が661万トン、10年先の目標は842万トンという高水準でした。その後牛乳需要が一巡して生産量はおおむね500万トンで横ばいとなり、目標も一時は1,000万トン近くと高めでしたが、実態との乖離も見られました。最近では東日本大震災以降、牛乳需要が横ばいとなっており、目標も現実に即した780万トン前後に設定され、実績と並ぶ水準となっています。

今後の人口動態の影響

今後の人口動態の影響

目標を定める上では現状の的確な把握が重要です。あまり口にしたくない話ではありますが、人口減少は基本的な前提として避けて通れません。
左側のグラフは総人口の推移で、平成27年には1億2,700万人だったものが、令和5年には1億2,400万人。令和12年には3%減、令和17年には6%減となる見込みです。
右側のグラフは、年齢構成をもとに飲用牛乳の消費量をウェイト付けしたものです。令和5年の1人あたり牛乳消費量は約28.6kg。これを年齢別に加重した結果、少子化の影響により若年層が減少する一方、高齢層の増加では補いきれず、令和12年には消費量は1%減少となる見通しです。人口減少率(3%)と組み合わせると、単純計算でも牛乳需要は計4%の減少となります。酪農政策とはやや分野が異なりますが、こうした要因も総合的に勘案しなければならないと考えております。

生乳需要の長期見通し

令和12年度までのすう勢線の計算方法

令和12年度までのすう勢線の計算方法

今回は10年先ではなく5年先を目標にしています。
というのも、「10年先の目標を定めても途中で変更されてしまい、検証できないのではないか」といった外部のご意見もありました。そこで今回は、令和7年時点で令和12年を見据えるという、5年単位で目標を設定する形に切り替えています。先ほどの人口の話もこの5年を基準にしています。

消費量と需要のすう勢について

牛乳等向け生乳 消費量のすう勢推計

牛乳等向け生乳 消費量のすう勢推計

今後の牛乳・乳製品の需要量の推計についてご説明しています。推計方法は、品目ごとの1人当たり消費量のトレンドを分析し、令和12年の推計人口を掛け合わせるという方法をとりました。たとえば成分無調整牛乳(いわゆる普通の牛乳)、学乳、加工乳・乳飲料など、品目ごとに分けて試算しています。生クリーム、バター、脱脂粉乳も同様に品目別に推計しています。
まず注目していただきたいのが成分無調整牛乳です。これについては、実は1人当たり消費量が少しずつ増加傾向にあります。人口が若干減少する見通しでも、個人の消費増を踏まえれば、全体の仕向け量としては3万トン程度増加する見込みです。
一方、加工乳や乳飲料については明確に右肩下がりです。人口減少とあいまって、今後の需要量は10万トンほど減少する見通しです。学乳についても、小・中学生の人口減に伴い需要が減少します。これらを合算すると、全体で12万トン程度、牛乳向け仕向け量は減少する見込みです。

生クリーム等・脱脂粉乳・バター向け生乳 消費量のすう勢推計

生クリーム等・脱脂粉乳・バター向け生乳 消費量のすう勢推計

生クリーム、脱脂粉乳、バターについても同様に1人当たりの消費量トレンドを用いて需要量を推計しました。
脱脂粉乳は継続的に減少傾向にある一方、バターは多少の変動はあるものの、全体としては増加傾向にあります。したがって今後5年間でバターの需要は伸びる見通しです。ただし、バターを製造する過程で副産物として脱脂粉乳が増えることになるため、バター向け仕向け量の増加は同時に脱脂粉乳の生産増も意味する、という点は注意が必要です。

チーズ向け生乳 消費量のすう勢推計

チーズ向け生乳 消費量のすう勢推計

チーズについて左側にあるグラフはソフトチーズの推移を示しており、カマンベールやモッツァレッラといった商品が該当します。これらは近年、比較的1人当たりの消費量が増加傾向にあります。
右側のグラフはそれらソフトチーズを除いたハード系のチーズになります。これらはプロセスチーズなどの製造に使われる原料で、消費量は右肩下がりにあるのが現状です。
今後5年間を見通すと、チーズ全体の生乳仕向け量は令和5年度の43万トン程度からやや減少するか、同程度で推移するものと見込まれています。つまり、ソフトチーズの消費増を一部カバーにしつつも、プロセス用原料チーズの減少傾向が続く見込みです。

増加と減少が見込まれる生乳の総需要量

増加と減少が見込まれる生乳の総需要量

牛乳、乳製品、チーズ、バターなどをすべて1人当たり消費量の推移で確認し、これに将来人口を掛け合わせて、総需要量(生乳仕向け量)を試算しています。その積み上げによって得られた数字が、総需要量732万トンという今回の基礎数値になっています。
このうち、牛乳等向けは令和5年度で390万トン。令和12年度の見通しでは378万トンと、12万トンの減少が予測されています。ただし一方で、バター向け需要は増加しており、これが全体需要の落ち込みをある程度補完する構造です。とはいえ、バターを製造すれば必然的に脱脂粉乳も同時に発生するため、製品ベースで4万5,000トンの増加が見込まれており、脱脂粉乳への対応策が極めて重要になってきます。こうした品目別の積み上げによって導かれた732万トンという数字が、今回の酪肉近の要点のひとつです。

需要拡大と副産物の調整策を確実に講じて実績を積み上げていく

一方下部にある780万トンという数値は、特定の年次を明示したものではなく、長期的な方向性を示す目標として掲げられたものです。ただし、この780万トンという水準を目指すには、まず需要拡大や副産物の調整策を確実に講じ、需要実績をしっかり積み重ねる必要があります。まず732万トンを確保した上で、初めてその先が見えてくる、という現実的な見方に立っています。右下の赤い枠の中にあるように、今後5年間で牛乳需要が10万トン以上減少し、脱脂粉乳の在庫が4~5万トン増加するという見通しの中で、いかに需要を拡大し、持続可能な需給構造をつくっていくかが鍵となります。毎年業界をあげた努力と成果を蓄積していく姿勢が求められております。