牛乳・乳製品から食と健康を考える会
第81回ミルクは何故白いのか? ~その白さの奥に広がる神秘の世界~
4.哺乳類のご先祖様とカゼインミセルに日々感謝
乳・乳製品には美肌効果もあります。ミルクは何の目的で進化してきたのかと言うと、もともと卵からミルクに変化していくためには、水分蒸発を抑える機能が必要だった。そうすると、ミルクには水分蒸発を抑える機能が残っているのかもしれません。
日本最古の医学書「医新方」にはミルクを飲むと肌が滑らかになると書かれているそうです。
乳スフィンゴミエリンの肌水分保持効果

牛乳の中に含まれているリン脂質の一部であるスフィンゴミエリンという物質があります。ミルクに多く含まれているスフィンゴミエリンを20~40歳台の人に食べてもらった実験です。
この実験は秋から冬にかけて実施しました。冬季はどうしても肌が乾燥し肌荒れします。左目の下の水分保持性を計測したものです。
6週間後経過すると同量のプラセボの大豆のレシチン場合は保水性が下がってきますが、スフィンゴミエリンは実験開始前と殆ど変わらない。したがって、スフィンゴミエリンの水分保持力が働いたと考えられます。食べるのを止めて2週間するとスフィンゴミエリンの効果もなくなってしまう。
脂肪球被膜の美肌効果

同じような実験があります。これは、よつ葉乳業の実験です。脂肪球皮膜という脂肪の周りに付いている膜があります。その膜にはリン脂質も入っていますが、これを北海道の女性に脱脂粉乳と脂肪球皮膜の粉末を食べてもらいました。4週間経つと脂肪球皮膜を食べた方が水分の蒸発が少ないことがわかります。リン脂質には水分保持能力があるということはミルクの進化から考えてミルクの機能として一部残っていると考えられるのではないでしょうか。
β-ラクトグロブリンのある哺乳類とない哺乳類

β-ラクトグロブリン(β-Lg)はホエータンパク質の一つでアミノ酸組成が非常に優れています。食品タンパク質の中で最も優れたアミノ酸組成があります。分岐鎖アミノ酸が多く、筋肉などの発達に役立つタンパク質です。このタンパク質を持っている動物と持っていない動物がいます。ヒト、ネズミ、ウサギ、ラクダは持っていません。
ヒトにはβ-ラクトグロブリン(β-Lg)の遺伝子だけはあるがタンパク質を合成していない。タンパク質合成がストップさせられています。なぜ、動物によって違いがあるのか、β-ラクトグロブリン(β-Lg)はどのような役割を果たしているのか、未だに判っておりません。
最近の報告によれば、子宮内膜にグリコデリンというタンパク質が、ある一定期間だけ発現するそうです。それとβ-ラクトグロブリン(β-Lg)の構造が非常によく似かよっていることが判り、何か関係があるのではと注目され始めました。
まだまだ、詳しいことが判っておりません。β-ラクトグロブリン(β-Lg)が本来は昔生殖に関係していたのかもしれず、生殖に関係するために優れたアミノ酸組成を持っていなければならなかったのではないでしょうか。
モッツァレラチーズはなぜ伸びるのか

皆さんご存知のモッツァレラチーズですが、低温殺菌されたミルクにレンネットを加えて、乳酸菌でpHを5.2~5.4の狭い範囲に制御します。そして、お湯の中で練って丸めるとモッツァレラチーズになります。非常によく伸びる性質を持っています。なぜ、このような性質を持つのかという理由は判っていません。
pH変化に伴うカゼインミセル中のCaとP含量

しかし、pH5.2~5.4の範囲が、カゼインミセルの中に大量に含まれているリン酸カルシウムが殆ど残っていない状態になります。その時、それまでは硬かったカードが伸びるようになります。この理由は判っていませんが、pH5.2~5.4付近で水とよくなじむようになる性質があることはわかっています。
pHとカゼインミセルの水和

もともと、カゼインミセルの構造が判っていませんし、その中でリン酸カルシウムがどのような役割をするかが判っていません。その関連が判ってくればなぜモッツァレラチーズが伸びるのかが判ってくるのではないかと期待しています。
まとめ
哺乳類にとってカゼインミセルの存在意義は、仔の生命維持と成長にとって必須のタンパク質とリン酸カルシウムを大量に、かつ安定供給する。この難題を解決したのがカゼインミセルであり、カゼインミセルこそ乳の基本であること、その発明をしたのが哺乳類。哺乳類だけがこの難題を解決できた。カゼインミセルが発明されなければ哺乳類、そして私たちは存在しなかった。そして、私たちに最高の栄養と健康を、おいしさとバラエティに富んだ食生活を与えているというわけです。
単にミルクは白いということですが、その奥は非常に深く、未だに判っていないことが山のようにある。
あるのですが、私たちは哺乳類のご先祖様とミルクとカゼインミセルに日々感謝しながら乳製品を食べなければならないと思います。