ご講演
牛乳のイメージをリ・デザインする
今回の講演タイトルですが、結構大きいテーマというか、少し難しい言葉を使ったかなと思うのですが、「牛乳のイメージをリ・デザインする」、デザインじゃなくて、リ・デザインというところがポイントです。
デザイン業界の用語としてよく使う言葉なのですが、世の中にあるものって、ほとんど全てが既にデザインされたものですけれども、改めて、再びそれをデザインし直す、改めて見直して新しい価値を発掘する、表現するということを、デザイン業界ではリ・デザインという言葉で表現しています。
「100年後の牛乳のために今できること」というところも、今の情報を発信することももちろん大切ですし、もっと先を見て、自分がいなくなった先の世界まで見通して、逆算して、それに向かって今できることは何かというところで私がいつも活動しているので、そういったお話を今日はできればと思っています。
はじめに 自己紹介
私は1983年に山形県の寒河江市というところで生まれました。山形県は東北でもすごく広い自然豊かな地域ではありますが、特段酪農が盛んだとか、すごく牛乳が飲まれているとかそういったことはありません。実家も普通の家で、牛乳に特化したような、親戚に酪農家がいるとかもなくて、普通の家庭に育ちました。
今は世界一牛乳好きなグラフィックデザイナー(自称)と書いているのですが、もしかしたら僕よりも好きな人がいたら、怒られるかなと思って、自称とつけています。
今まで飲んだ牛乳がだいたい600種類以上で、物心ついた頃から牛乳が大好きで、2010年に牛乳雑貨店というちょっと変わったお店をやりました。その後、世界中の牛乳を飲んだりですとか、お勧めの牛乳を紹介したりとか、いろんな牛乳の楽しみ方を紹介させていただいて、牛乳の魅力を伝える活動を牛乳マニアと呼ばれたりして活動しています。
牛乳に育てられた幼少期
「牛乳に育てられた幼少期」と書いてありますけども、私の両親が共働きですごく忙しくて、料理とかも作る時間がないくらいでした。私自身もあんまり体が丈夫なほうではなくて、それをやっぱり心配した親が常に家の冷蔵庫に牛乳を入れておいてくれていました。絶大な牛乳への信頼を注いでいたのです。
私がひとりで寂しいときとかも牛乳が冷蔵庫にあって、それを飲むと気分が落ちついたりとか、すごく牛乳に癒される原体験というか、そういったことがあったんです。なので、僕にとっては、父親、母親、そして牛乳というのが3人目の親ぐらいの気持ちで、本当に牛乳に育てられたというような印象を持っております。
牛乳はどれも同じ。じゃない!?
実家が喫茶店をやっていて、業務用の牛乳を出していました。ロングライフ牛乳だったのですが、それと一般的にスーパー等で販売している牛乳が家の冷蔵庫には並んで置いてありまして、子どもながらに、その牛乳を二つ飲み比べしてみたら、味が違うということに気がつきました。牛乳といっても一言でくくれないような個性があるのだなというのを幼いながら気づきまして、牛乳の魅力にどんどんはまっていきました。
牛乳が飲まれなくなっている!?
私自身、絵を書くことがすごく好きな子どもだったのですが、何か絵を将来生かすような仕事をしようと思っていました。でも、漫画家は話も考えないといけないし、画家になるという才能もなかったので、じゃあ何ができるかなというときに、中学校の先生が、グラフィックデザイナーという仕事があるよということを教えてくれて、じゃそれになりますということで、グラフィックデザインを学ぶ大学に行こうということになりました。
その大学時代に、あなたが一番好きなものをリ・デザインしてみなさいという課題が出まして、私はもう迷わず牛乳を改めてリ・デザインするという課題をやってみようと思いました。
飲用牛乳等の生産量の年別推移
まず、牛乳についてよく調べてみようと思い、大学の図書館に行って、牛乳の消費量とか生産量とか、酪農家の数とか、そういったデータを目にしました。そこで牛乳の消費量が減っているという事実を知り、すごくショックを受けました。自分が大好きなものが飲まれなくなっているということが本当にショックで、何かできないかなともどかしい気持ちになりました。
それが今からだいたい20年ぐらい前の事で、ずっと消費量が伸びていた時期から、若干下降をたどる、消費量がどんどん減るちょうどそのタイミングだったのです。そのときにちょうどこの課題に出会いまして、何でそういうふうに、牛乳の消費量がどんどん伸びていたのに減ってきたのかということを、データとしては出てこない部分ではあるのですが、牛乳好きな私なりに考えたところでいうと、牛乳の魅力が伝わっていないのではと思いました。
牛乳の魅力が伝わっていない?
当時、大学生だったのですが、周りを見ても牛乳を飲んでいる人というのはあまりいませんでした。やっぱり炭酸飲料とか、もう二十歳を超えていればやっぱりお酒とか、いろんな飲み物が有る中で、牛乳を飲んでいるというのはやっぱり私だけ。
それは、大人の方に牛乳の魅力というのが伝わっていないのではないかと思いました。牛乳=給食=子どもの飲み物というイメージが強いと思い、大人にも牛乳の魅力が伝わるようなことができないかなと思いました。自分が好きなものが飲まれなくなっている、本当に育てていただいた牛乳という存在だったので、牛乳に恩返しをしたいなということを強く思うようになりました。
牛乳は本当はもっと楽しい!
そこで、牛乳はもっと楽しい存在ということをテーマに考えました。幼少期に牛乳の飲み比べをしたことで、牛乳それぞれに個性があるというのを私は知っていましたが、恐らくほとんどの方は、例えば給食の1種類の牛乳を飲んでそのまま大人になって、それが牛乳のイメージとして固まっているのではと思います。牛乳って一括りにできない個性があって、知れば知るほどすごく楽しい存在ということをもっと知ってほしいなと思いました。
牛乳をリ・デザインした架空の未来の牛乳
例えば、お米とかお酒とか、お米を買ってきてとかお酒を買ってきてというときに、結構銘柄で言ったりすることがあると思います。「ササニシキ買ってきて」とか「コシヒカリ買ってきて」とか。それって「お米」と名前についてなくてもお米と認識ができたりとか、お酒も「八海山買ってきて」とか、「獺祭買ってきて」とか、やっぱりお酒って名前がついてなくてもちゃんとお酒を想起できますよね。
それは、個々の個性をしっかりとアピールしている、ちゃんと伝わっているからそういう銘柄買いというのが起きるんじゃないかなと思いました。牛乳もそういった感じで銘柄買いが起こるようなことができれば、新しい需要を掘り起こしていけのではないかかなと思いました。
銘柄買いが起こるような牛乳というのは、例えばどういう形なのだろうというのを考えて課題に取り組んでみました。それがこのスライドにある牛乳です。これは既存の牛乳を新しくデザインし直す、リ・デザインした、当時思い描いていた架空の、未来の牛乳みたいなイメージでした。今から20年ぐらい前に考えたもので、ボトルタイプの牛乳をコンセプトモデルとしてつくってみました。