「みんな、食品ロスって知ってる?」
「みんな、食品ロスって知ってる?」と、これが子どもに聞くということです。そうすると案の定、子どもたちは、「がんばって食べる」から「しっかり食べる」と。子どもたちはたっぷり知ってるんですよね。でも、これは消費ですよね。だから、おやさいクレヨンを出して、生産から流通にかけて、先ほどの曲がったキュウリと同じような着眼点ですけど、捨てられてしまうものを何か生かせる方法はないかなって問いかけます。
子どもは、濃淡はあっても知っている
これは、最近知ったのですが、特に衣料品関係でよく言われているアップサイクルです。リサイクルとなるとどうしても元の物より価値が下がってしまうけど、より価値をつけて消費者に届けることの意味に対する気づきが生まれるんですね。これは中学生にするときにはアップサイクルの話もして、さらに食以外に広げていってもいいかなと思います。
役に立ったか確認できるのが学習
私がとりわけ先生方にお願いしているのが、授業の最後に「今日の勉強は役に立ちましたか」と聞いてもらえませんかということです。
これは文科省的に言うと振り返り活動の充実、自己調整学習を充実させようという意味です。なぜこれを聞いているかというと、結局、子どもが自分にとって役に立ったか、意味があるかということが確認できることが学習だと思っているので、伝えた人が教えておしまいではそれは学習ではないので、聞くようにしています。
というのも、昔は聞かなくてもよくて、教師は役に立つと思って子どもたちに問いかけるし、授業の場を用意しますし、企業の方と一緒に授業したりゲストティーチャーを招きます。教師が想定する社会は、子どもたちが大人になったときに生きていく社会とほぼイコールだったと思うんですね。「いいか、君たちが大人になったときにはこういう社会なんだからね。大人の社会ではこれが大事なんだよ」と言っていても、それはうそじゃなかったと思うんですね。ところが令和になったら、先生が「みんなが大人になる社会というのはこういう社会だよ」と言うのは、残念ながら、どんなに誠実であってもそれはうそになってしまう可能性がありますよね。
「子供たちの振り返り」を見る
これほど社会が変わっていくんだから、役に立ったかどうかは、子どもが決めざるを得ない。役に立ったと子どもが言ってくれれば役に立ったのだろうし、役に立たなかったと言われれば、授業をもう少し改善しないといけないと思います。これを聞くと何がいいのかというと、子どもは「役に立ったことがあるのだろうか」というようにして学び直しをするんですね。これは教育の言葉でメタ認知とよく言われています。学んだことを自分でもう一度咀嚼する。そうすると子どもたちは「役に立ちました。リサイクルについての視点が変わった」とか、2人目の子は「今日の学習は、役に立つかもしれない。学べたことは未来について考える想像力で、すみずみまで使うにはどうしたらいいかのところでした。こういう社会に貢献できる力は必要です」と。小学生が書くんですよね。SDGsと一切言ってませんけど、少なくともSDGsを実現するということで育つ資質・能力だと私は思っています。なぜそうなのかというと、食という教材だからなんですね。だから、牛乳・乳製品というのはSDGsを実現するということにおいて極めて質のいい教材になるということが、私が実践を通して実感していることです。
「食品ロス削減の授業の場」を広げる
去年あたりから、それまで農林水産省が進めてきたエコフィードを授業で取り入れる取り組みにも着手しています。これも同じで、食品ロス削減はどうしても消費のところですけど、生産・流通のところに入っていきたいなと思っています。さらにエコフィードがいいのは、地域の小さな循環というのが見えてくるんですね。ただ課題もたくさんあるようです。農水省の方に伺うと、昭和のころにやっていた残飯を豚の餌にすると、じゃあ、残飯の餌を食べた豚肉を食べるのかというイメージがまだあるということと、小売店のベースでたくさんエコフィードの肉を販売しているところが増えていかないというところもあったり、社会の中での仕組みとしてサプライチェーンとしての問題はあるそうです。
でも教育としてはかなり意味があって、私はこれが最後のピースだと思うんですね。エコフィードというピースを入れることによって、小さな地域の循環が生まれてくる。例えばこのエコフィードのところが地方の酪農乳業メーカーの方の取り組みということであれば、またこれが生まれてきますよね。現に堆肥化して地域の方に配っているとか、そういったことが既にされているから。
子供たちの“気づき”を“学び”につなげる
これは兵庫県西部の小学校で昨年やった授業です。右に「SDGs12」と出ているのは、最後に「こういう取り組みってSDGsでいったら何番なのかな」と聞こうと思ったら、何と一番最初にもう出てきてしまったので、板書は左から右には書いてないんですね。左を書いていて、いきなり右に飛んで、最後につなげていった板書です。
「食品ロスってみんな知ってる?」と聞いたんですね。「知ってるよ」「どんなこと?」「食品ロスを少なくしたいの?」「うん、したいね」「でも、どうやってする?」、ため買いをしないとか、旬とか、好き嫌いなく食べるという話をして、「それでも残ってしまったらどうする?」と聞いて、肥料にする、分別する、餌にすると出てきました。「餌にするんだったら、どんなことに気をつけてると思う?みんなだったらどんなように気をつけないといけない?」「すり潰す」「そうだね。みんな忘れてるけど、赤ちゃんのころ離乳食で食べやすくしてたよね」とか。今どきは、ウイルスが入ってないとか、あと異物混入はまずいとか子どもたちが言うんですね。「そうだよね。そういうことで豚さんの餌にしてることがあるんだよ。このことをエコフィードと言います」と。学校教育の立場から言うと、これを大事にしてほしいです。
学校外の専門の方が授業するときには、どうしても「皆さん、エコフィードを知っていますか。エコフィードとは」となるんですね。ところが、エコフィードを知らない子どもたちに「エコフィードとは」と言って問いかけても、子どもたちは自分事にはなりません。あ、なるほど、そういうことがあるのねと。結局教師はどう言うのか。外から来てくださるお客さんだから静かに話を聞きなさいとなってしまうと、学習と違うところに子どもの関心が行ってしまうんですよね。「最終的に、今君たちが話していることはエコフィードなんだよ」という話にすることが大事です。
「食品ロスのことを知っていますか」と問いかけたら
「食品ロスのことを知っていますか」と問いかけたら、この男の子に、授業の冒頭で「SDGsのゴール12(つくる責任つかう責任)につながります」みたいなことを言われました。言われたら言われたでよくて、この子は知ってたけど、知らない子も当然いるということです。
「それでも残ってしまったら?」
今、子どもたちが見ているのは、作った教材なんですけど、それを見てエコフィードの実際の取り組みというのを確認しています。教材を読んでいるんじゃなくて、自分たちが考えたことを確かにやってると確認しています。相模原市の日本フードエコロジーセンターが取り組まれていることです。
「エコフィードを活用すると、どんないいことがある?」
「エコフィードを活用すると、どんないいことがあるんだろうね」。餌代が安くなる、食品ロスを片づける費用が少なくて済む、環境にやさしい、食べ物を大切にできる。まだあるよって。ここでSDGsを出したかったんですけど、SDGsはもう出てしまった後だったということです。
学びを振り返ることによって自分ごとになる
学校給食のよさは、エコフィードで育った豚肉は脂がのっておいしいよと教材に載ってるんだけど、そうなの?という問いが生まれたらそれを食べて確かめられることです。兵庫のブランド豚のひょうご雪姫ポークを給食に出すことができたんですね。4時間目にその話をしたあと給食に出て、ピンク色のところに書かれていることを給食時の校内放送で流しています。脂がのっておいしいと書いてあるけど、本当においしいかどうか、子どもたちは食べることができる。左側に書いてあるのが、子どもたちのそのときの振り返りです。
エコフィードの授業から見えるSDGs
このエコフィードの授業も、SDGsを学校の中で考えることとつながっていると思います。最初から答えのように出てこないということが大事で、子どもにとって必要だと感じた中でエコフィードという言葉、つまりSDGsが出てくることが大事だということです。専門家はやはり情報をたくさん持っているから教えたがりますが、教えても、学ばないと子どもに教えたことにはならない、キャッチボールをしないといけないということです。
右の写真は何かというと、食と全く関係ないことはないですけど、科学教室です。私は大学では理科の教員なので、科学教室もやっているんですね。小学2年生と一緒にやったときに、子どもたちが言ったことです。紙皿に“m&m”というアメリカのチョコレートを丸く並べてぬるま湯を注ぐと、見事にきれいな虹のような色になるんです。これは着色料が溶け出してきて、きれいな色になるのですが、日本の他社のチョコレートだと割と地味です。着色料の話で、溶けるという現象を、単にきれいだねみたいなことを紹介しただけの話だったのですが、小学校2年生の子どもは「先生、SDGsのマークみたいだよ」と普通に言うんですよね。だから、子どもたちの中では、もうSDGsということのアンテナは間違いなく立っています。教員もSDGsをやらないといけないということもわかっています。だけど、環境教育のような轍を踏むという危険性を持っているということであったり、その担い手としてみんながかかわることができるかどうかということ、そして、その質をどう保証するかということが大事な着眼点ではないかと思っています。
エコフィード/SDGsのよさ
同じ授業を、エコフィードについて三重県の中学校の体育館でやりました。1時間目に体育館で曲がったキュウリやおやさいクレヨンをやって、2時間目に各教室で曲がったキュウリをどう活用するかみたいな話をしてもらったんですね。このときに、三重県の高校ではエコフィード認証を取っている高校があって、その高校の事例を紹介すると、生徒の中にも知っている子たちがいました。これほどの人数、11クラスでやったんですけど、それでも知っていると手を挙げてくれたのは4~5人でした。だけど、この「伊勢あかりのぽーく」のようなものが、子どもにとって身近で具体なものになっていくんじゃないのかなということは実感しました。
食を教材として、SDGsへ
牛乳・乳製品の授業の可能性というのを1~4まで整理していますが、毎日給食に出る牛乳とか、大事なことですよね。牛乳というのは小さな循環をつくることができる。あと、牛乳は栄養、健康としても大事ですが、それだけではないんですね。文化的なものだとか、牛乳パックみたいなことを考えたら社会的な意味も持っています。教材としてはすごく広い。特に乳製品になってくるとさらに広くなってくるし、あとSDGsに参画しようと思って小中学生ができるのは、やはり買い物だと思うんですね。
アフリカの飢餓の問題に子どもたちが参画するというのは、なかなか厳しいんじゃないのかな。でも、スーパーへ行ったときに何を買うのかとなったときには子どもたちが参画できるから、消費って大事なことだと思うんですね。ましてや高校生になったら、とても大事なことになる。それが私は牛乳・乳製品の強みではないかなと思っています。うちの妻も朝は必ずヨーグルトを出してくれるし、私は飲むヨーグルトを毎日1本飲まないと何となく落ちつかなくなっているし、ホテルに行くと必ずヨーグルトを食べます。そういうのが大事なんじゃないのかなと思っています。
総合的な学習「地域と生きる酪農家の仕事」から
もう一つ、私が感動して1時間で考えて実践した授業です。神奈川県伊勢原市の石田牧場さんに行って、石田さんに話を聞いてつくった授業です。
「困ったことはないかな?」
「乳牛って飼ってる場所はどんな場所?」と子どもたちに聞いたら、子どもたちは広いとか、牛がのんびりしているとか答えます。「こんな場所?」「そうそう」「でもね、ここも牧場なんだよ。この舗装された道路の向こう側にイオンがあるよ。雪が降ってるんじゃなくて、これは消毒の石灰だよ。ほら、石田牧場と書いてあるよね」「ここでずっと牧場を続けているから、困ったこともあるかもわからないけど、みんなどう思う?」と子どもたちから困ったことを出して、「でも続けているんだから、工夫してるはずだよね」と話し合っていくんですね。
「どんな工夫をしていると思いますか?」
おもしろかったのは、牛さん目線と近所の人目線の両方が出てきたことです。牛さん目線だったら、車が通ってストレスが発生する、餌をどうするのとか、近所の人目線は、においとか鳴き声とか、排気ガスは周りに木などをたくさん植えるとか。ここにも、スーパーで余った野菜などをもらうとかアイデアが出てきています。5年前ですのでICTを使っていませんが、昨年は石田さんとつなぐ授業もしました。
「ここにも工夫があることが分かりますか?」
これはさすがに小学生では見破ることができなかったんですけど、ここにも石田さんの工夫があります。隣で奥様がアイスクリーム屋さんをやっていて、フレーバーに地域の農家の方の農産物を出しているんですね。
地域の人をつなぐ場所にもなる
こうして地域の人をつなぐ場所になっていて、都市部なんだけど、子育ての人たちが井戸端会議をする場所がなかったところに、このジェラート屋さんがそういう場所になっている。これはまさにパートナーシップですよね。住みよいまちとか働きがいとかいうことにもどんどんつながっていくことになるんじゃないのかなと思っています。
期待すること
私が今まで話をしてきたことにさらにつけ加えるならば、学校が学校の外のことを理解することと一緒に、学校の外という言い方はわかりやすく言ってるだけですけど、学習指導要領に位置づけるとか、いつそれを指導するのかとか、いつ説明をするかということをそれぞれが理解していただくことが大事だと思っています。
あと、栄養教諭が一番アンテナが立っているので、畑の人と台所の人とがつながるということも大事なことだと思っています。もちろん提供するプログラムや、質のいいものを実現できるということが、結果、SDGsを真摯に受けとめて実践にもつながっていくんじゃないのかなと思っています。