今ご紹介をいただきました、日本乳業協会、藤原と申します。皆様方には日頃からお世話になりましてありがとうございます。私自身の経歴も紹介をいただいたところなのですが、昭和56年から主に食品衛生の仕事をずっとやっております。前回中止になってしまったのですが、それ以降も、どういうふうに進めたら皆様方にご理解をいただけるのだろうといろいろ考えたところ、食品表示制度について細かいことを説明すると、非常に散漫になってしまうと思いまして、過去35年位の業務経験がある中で、その時々と言うか、私自身がどう思ったか、そういったことを皆様にお話をしながら、かつ、皆様方もいろいろなご経験をされていると思いますので、例えばその時代時代がどういったものだったとか、あるいはどんな社会情勢と言うのでしょうか。その変化みたいなものがあったかを思い出していただいて、そういう時の流れと現在の食品表示法に基づく食品表示制度というものをどう理解していったらいいのかと私なりに考えております。皆様方からもどう思っているのかむしろお聞かせいただけたら、私共の今後の仕事に役立つのかなと思っていますので、ぜひよろしくお願いいたします。
実際の製品は今お手元にあるかもしれませんが、本来であれば、それ以外にもいろいろな製品の表示があるのでお見せしようとは思ったのですが、なかなか手に入らなくて、一部を画像でご紹介したいと思います。
まず、乳・乳製品の表示制度の経緯ということでお話をさせていただきます。戦後ということでお話をしますと、昭和26年の乳等省令ができた当時から表示の規制はありました。ただ昔はご存じかもしれないのですが、こういう「標示」という漢字を使っておりました。仲間内では、後でまた出てきますが、しるべ標示と言っていました。しるべ標示とおもて表示といいます。意味が違うのですが、なかなかその辺を世の中の方にはご理解をいただけないと言うか。英語で言うとLabellingです。ラベルということになると思うのですが、そういう意味であったわけです。当時は乳処理場の所在地であるとか、処理業者の氏名・名称。種類別、今もありますが、殺菌温度・時間、販売曜日、それから乳飲料等の乳製品は主要な混合物の重量といったことが標示する事項として決められていた。基本的には今の標示事項と変わらないかと思います。ただ、実際問題として、標示の規制が本当に守られていたのかどうかは疑わしいところがありますが。
次に昭和32年に食品衛生法の大きな改正がありまして、この時にご存じだと思いますが、添加物の不純物が原因となった、粉ミルクの問題がありました。それがきっかけで食品衛生法が改正されたということもあって、施行規則というのは食品衛生法の施行規則なので、乳製品以外も含めてですね、標示すべき食品、さらに標示すべき基準が決められて、それから標示に違反したものについては取り締まりを強化することになりました。最初に申し上げたのですが、私の立場としては、食品衛生の規制であり取り締まりということになりますので、私自身も仕事を始めた当初、先輩方から聞いたのは、食品の標示違反を取り締まると言いますか、あるいは標示に問題があったとしても、食べて直ちに具合が悪くなるということではないのかもしれないけれども、誤った標示については直していただくとか、そういった主旨で取り組んでいたのが正直なところであったと思います。
その後、大きな変更としては、製造年月日標示の義務付けということで、それまでは、瓶詰め牛乳だったと思うのですが、牛乳瓶のキャップにその販売曜日を書くということであったと思いますが、それは今で言えば期限表示みたいな考え方もあって、1週間もたないだろうということでそういうことになっていたと思うのですが、販売曜日の標示を年月日の標示に変えたと。ただ、紙とかアルミ箔で密栓したものは製造日を記載すれば良いという形に変わったということで、当時は紙栓と言うと懐かしい思い出がありますが、昔は曜日ごとだったので、7種類で済んだのですが、これが日付表示になったので31種類用意しなければいけなくなったと聞きました。そういった経緯を辿って昭和40年代ぐらいまではそういう取り締まりと言うか、そういった観点での標示という位置付けであったと思います。この辺はまだ私も仕事をしていなかったので、あまり具体的ではないのですが。
次に、先程のいわゆるしるべ標示とおもて表示ということですが、これもご存じだと思いますが、昭和47年に食品衛生法の大きな改正がございました。これはPCB混入の問題で、カネミ油症事件が起こり、そういう事件が起きたことによって改正されたということで、いろいろなところが改正されているのですが、その一つとして、消費者保護の観点からの表示制度改善の一環として掲示による表示、添付文書による表示についても、必要な規制が行うことができることとしたということで、先程言ったこの字からこの字に、法律上の文言が変わったということです。従って、パッケージに表示するというのが普通の考え方で、今もそれは基本的なことは変わっていないと思うのですが、それ以外に消費者にいろいろなことを伝達する手段としてパッケージの表示だけではなくて、それに付随するものと言いますか、今で言うとPOP表示というのもありますし、例えばバーコードみたいなもので、スマホをかざすとどういうものか分かるとか、そういういろいろなものが考えられると思います。広く言えばインターネットでその商品情報を見ることもその一つかもしれません。ただ、実際のところ昭和47年の法律改正ですから、その当時、昭和40年代の終わりから50年代に掛けて、製品に付随するものも含めた表示制度を考えておけば良かったのにと今になって思うのですが、実際にはパッケージの表示が現実的だということで、そちらが中心で今でもほとんどの表示がそうだと思います。
もう一つは、これ実際の具体例ということではないのですが、公衆衛生に危害を及ぼすおそれのある表示の規制について、虚偽の表示、誇大な表示ということで、そのほか広告も含めて禁止をしたという条文が今でも食品衛生法に残っております。表示でもって危害が起こるというのはあまり一般的ではないのですが、例えば日付表示か何かで誤った表示をした時に、中身を見ないで食べてしまうっていうのはあまりないと思うのですが、表示を信じて食べてしまって具合が悪くなったとか、そういうことがあれば該当するかもしれません。ただしその前に表示違反だということで、この条文はあまり使われたことがないということでございます。ただ、条文として今でも残っているかと思います。
先ほどの47年から今度は58年に飛ぶのですが、この10年間ぐらい制度が変わらなかった時代です。私も就職した頃ですのでよく覚えているのですが、当時の消費者運動と言いますか、特に添加物に対してご意見のある方が多かった時代であります。今となっては何でだろうと思うのですが、後でも出てきますが、天然・自然でない不自然なものと言いますか、そういったものに対する感情的なものがまずあって、過去にも添加物でいろいろな問題があったことや食品衛生法でなぜ添加物の規制をしているかというと化学的な合成品による事件が起きたり、もっと言えば、ちょっと鮮度が落ちてしまったような食品でも、添加物を使用することで見た目を良くするというようなことが昔あったんです。当時、もうそれ以上添加物を増やすなだとか、化学的合成品に反対する考えが、そういった考えが非常に大きかったということです。
ただ、そうはいっても外国からいろいろな輸入食品が入ってきますし、外国からの要請、あるいは実際に貿易上のトラブルもあったと思いますが、日本で認められていない添加物を認めてくださいという内容の要請が各所からあるということで、当時実際に担当された方は苦労されたと思います。だから添加物の新規指定がしばらくできなかったんです、あの頃は。どうしても諸般の理由で新規指定をしなければいけないということで、新規指定添加物と従来から表示が必要とされていた添加物を含む表示の方法をそのとき一緒に改正して、新規指定はするけれども表示はしますよという形で認めたということです。ただ、今でもそうですけど、物質名と言いますが、添加物がどういう物質なのかということが分かるように書きなさいと。それから、用途名と言いますが、ここに書いてある八つの用途として使用される添加物を、その用途として使用する旨を一緒に書きましょうと。今では当たり前のことなのですが、ただ、当時ですね、その裏返しとして、合成は駄目だが天然はいいという極端なお考えの方も多くて、事業者の方もやはり合成よりは天然を使うって言うことで、天然がいいか悪いかはともかくとして、そういった風潮があったということです。