MEMBER

第84回 日本における乳文化の導入とその後の変遷史

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
Q1.乳酸菌のことについてお伺いします。いろいろな効果が謳われていますがその効果の程度をお知らせいただきたい。
A1.
  • 乳酸菌の機能効果を評価するということは非常に難しいことです。メーカーが最も苦労するところです。例えば商品を開発した際、どのように証明したら良いのかということが大きな問題となります。時間、費用が莫大にかかります。そうだからと言っていい加減な証明はできません。「メタアナリシス」という高度な数学的手法を使うと因果性が判明します。しかし、それでも証明出来ない部分があります。従って、各メーカーも法律が許容するぎりぎりのところで製品の機能表示をしている場合が多いようです。
    薬と違い食品の機能評価は「絶対に効く」と言い切れません。こうした食品の機能に関する議論は古い時代にもあり、例えば食文化研究家として知られた桜沢如一は今から70年前に「食品の身体的効果に関して画一的に訴求することは如何なものか。まして、効果に万能性を与えることはどうなのだろうか。」と疑問を投げかけています。
Q2.チーズの製法についてお伺いします。先ほど「厚生新編」の説明の中でチーズを作る際に羊の糞の汁を入れることは稀ではないとありました。現在でもそのような製法があるのでしょうか。
A2.
  • その製法は1700年代から1800年代にかけて書かれたもので、その時代はそうであったかもしれませんが現在はありません。
Q3.乳糖不対症についてお伺いします。日本人の80%がラクターゼ欠損とありました。明治以降多くの国民が乳製品を多く摂取するようになりましたが、まだ数世代しか経ていません。その中で現在、乳糖不対症が減少してきているのか、または遺伝的にラクターゼの欠損ということがそのままなのかということをデータで証明出来るのでしょうか。
A3.
  • データはあります。日本人に拘わらず、人間は生まれてから2~3年は乳糖分解酵素(ラクターゼ)がありますが成長するに従い減少します。
    西洋人に牛乳不耐症が少ないことについて、一説によりますと、中東のある地域で突然変異により乳糖分解酵素が減弱しない人が生まれるという出来ごとが太古に起こり、その子孫達がヨーロッパに移動して行ったため西洋人は遺伝的に牛乳を飲める、つまりラクターゼを持っていることになったと言われています。
Q4.胎児は母体中では無菌だとこれまで言われてきていますし、さる医者からもそうだといったことをこれまで聞いてきました。胎児のうちに腸内に菌が入っていくという説は証明されたのでしょうか。また、現在の進歩した技術では胎児の腸内を機器で観察出来るのではないでしょうか。
A4.
  • ご紹介した論文は、臨床的エビデンス(知見)を記したものです。ですから、現在医学界では多少の混乱があるようです。実際に新生児の便と母親の便や初乳を調べた結果です。
Q5.日本人の約80%がラクターゼ欠損だとどのようにしてわかったのでしょうか。次に、「酪」「酥」「醍醐」と言う字には干支の「酉」が使われていますが、牛乳に関連した字なのに「酉」を使っているのはなぜでしょうか。
A5.
  • 最初のご質問ですが、今から約20年前に大々的に調査して統計的に処理したものです。
    二つ目のご質問ですが、「字統」(白川 静編)には「酉」は壷の中のものが醗酵すると記されています。また、「酪」の「各」は神が壷に光臨する意味で、「酥」の「禾」は稲穂が垂れる様、つまり実ることと記されています。
Q6.日本では、特に江戸時代から乳製品が広まったわけですが、誰がそのように利用したのだろうか、また当時は冷蔵技術も無いため運搬や貯蔵はどのようにしていたのでしょうか。
A6.
  • 近世日本に乳製品が広まったのは寛政年間の嶺岡牧場が始まりと言っていいでしょう。そこから牛を飼うことが広まったのではないでしょうか。その当時は近隣でそれなりに飲用したのではないでしょうか。明治になりますと「衛生」ということが問題になってきます。明治6年に「牛乳殺菌についての心得」が東京府知事通達で出され、警視庁は「牛乳取扱人取締規則」を定め、牛乳器具の取り扱いを規制し、加水を禁じました。このことは、前田留吉の牛乳販売店の広告文のように牛乳の清潔さを訴求していることにも現れています。答えとしては、不完全だと思いますが。
Q7.1)胎児は出産時に産道を通過する際に腸内に菌が入るという説ですが、帝王切開の場合はどのように腸内に菌が入るのでしょうか。
2)飛鳥時代から鎌倉時代までは乳製品の利用があったわけですが、そこから江戸時代まで途絶えてしまうのはなぜでしょうか。その間、「馬の牧」等があり乳製品は利用されていたのではないでしょうか。当時の文献はないのでしょうか。
A7.
  • 1)帝王切開で誕生した新生児はどの段階で腸管の菌叢を形成するのかの問に対し、胎児の腸管は母体内では無菌であると言う説からは答は得られません。母体にある菌が腸管壁から血液によって胎児の腸内に入る説では、すでに母体内で菌は胎児に入っているわけですから説明はつきますが・・・。
    2)乳製品の利用が途絶えてしまったのは謎とされています。ただ、仏教思想の影響だとか、戦国時代は戦乱が激しかったためではないかという説はありますが、正確にはわかりません。ある歴史家は、「応仁の乱」によって京都が焼失してしまうような戦禍に会い貴重な文献が失われてしまったため、「応仁の乱」がなかったら、意外な事実が明らかにされていたかも知れないと言っています。
Q8.漬物にも乳酸菌が活用されていますが他にも乳酸菌を利用した食品はありますか。
A8.
  • そもそも乳酸菌はなぜ乳酸を出すのか、酵母はなぜアルコールを出すかについてから説明するのが一番よいと思いますが、発酵について説明致しますとさらに1時間程かかりますので、乳酸菌の遺伝子の数が意味するところから説明します。乳酸菌の遺伝子の数は4千個程度、人間は2万2千個位、トウモロコシは3万9千個です。生物におけるその数の違いはどのような意味を持つのかということになりますが、遺伝子の多い少ないは適応力が有るか無いかの違いを意味しているのです。つまり、数が少ないほど適応範囲が狭いことになります。従って、乳酸菌は小さな細胞で且つ、ATP(アデノシン三リン酸=エネルギーと考えてよい)を僅かしか作れない上に遺伝子の数は少ないことは適応出来る環境が著しく狭いということなのです。それなのに35億年も前から今日まで生き残って生きています。それはヒトや動物にパラサイト(寄生)に徹してきたからです。温度と栄養物が確保されたありとあらゆる所に寄生して生き残ってきたのです。ですから、そうした所を中心に乳酸菌を探せばまだまだ見つかる可能性が残されています。