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第83回 TPP農林水産物市場アクセス交渉の結果

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第83回 TPP農林水産物市場アクセス交渉の結果
日時
平成27年10月26日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館3階 A会議室
講師
農林水産省畜産部生産局 畜産部牛乳乳製品課 乳製品調整官 本田 光広
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
管理栄養士 荒牧 麻子
毎日新聞記者 今井 文恵
ジャーナリスト・実践女子大講師 岩田 三代
消費生活コンサルタント 神田 敏子
産経新聞文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当
乳業協会:白川専務理事、藤原常務理事 他
専門紙記者
【内容】
従前から委員の皆様から「TPP交渉が大筋合意に至れば、定例の8月開催でこれをテーマとして、合意内容について是非取り上げてほしい」とのご要望をいただいていた。そうしたことから、7月末の閣僚会議で大筋合意に至れば、定例の8月開催の会でこのテーマを取り上げる予定だったが合意に至らなかったため延期とした。そうした中、10月5日にTPP交渉が大筋合意に至ったため、ホットなうちに会を開催させていただいた。
本日はその内容をご説明していただく講師として農林水産省 牛乳乳製品課の本田牛乳乳製品調整官をお招きした。本田調整官は「乳製品の追加輸入」や「バターの品薄問題」をはじめ乳業の種々の問題についての対応責任者として乳業界が日頃よりご指導・ご支援をいただいている方である。
TPP大筋合意内容の中の「乳製品分野」について非常に分かりやすくご説明いただけると考えている。

交渉の結果がどのようになったのか、できるだけ分かりやすくご説明いたします。それと併せて今回バターについても、この機会ですので農水省としてどのように考えているかということもお話させていただきます。
TPP農林水産物市場アクセス交渉の結果ですが、重要5品目と言われていた米・麦等の5品目での結果を纏めたものです。
乳製品では(1)脱脂粉乳・バター(2)ホエイ(3)チーズを記載しております。

TPP農林水産市場アクセス交渉の結果
資料1:TPP農林水産市場アクセス交渉の結果

乳製品については主な輸出国は3カ国です。ニュージーランド、オーストラリアが輸出大国です。それに加えて、近年アメリカが国内生産を伸ばして、輸出が多くなっています。特にニュージーランド経済の中で酪農乳業が大きな産業です。そのため、乳製品のアクセスを拡大すべきだとして日本ばかりでなくカナダ、アメリカ等に対しても最後まで交渉を続けていた状況でした。

脱脂粉乳・バター
資料2:脱脂粉乳・バター
生乳需給の構造
資料3:生乳需給の構造

資料1では概要しか掲載しておりませんので資料2、3でご説明いたします。
先ず資料3から脱脂粉乳・バターの可逆性という箇所です。生乳を一旦バター・脱脂粉乳に加工するとそこから乳飲料・ヨーグルト等を作ることができます。バター・脱脂粉乳を輸入するといろいろな製品が製造可能となります。そのため、国内のバター・脱脂粉乳のみならず牛乳をはじめいろいろな商品に影響を及ぼします。国内の牛乳や乳製品の需給上非常に大事な品目として従来からバター・脱脂粉乳は特別措置の輸入制度にしておりました。

次に、バター・脱脂粉乳の輸入制度ですが、【枠外輸入】というのはガット・ウルグアイ・ラウンドが決着するまでは基本的に国家輸入として輸入の割当制度を採っておりました。従って、商社やメーカーが輸入をしようとしてもできない品目でした。平成7年ガット・ウルグアイ・ラウンド決着以降関税を支払えば誰でも輸入が可能となりました。しかし、輸入価格にはバターで29.8%+985円/kg、脱脂粉乳で21.3%+396円/kgの関税がかかります。このように枠外で輸入した場合、国内産よりはるかに高い価格になってしまいます。従って税率が高水準のため枠外輸入の実績はほとんどありません。所謂、輸入禁止的な税率を課しています。つまり、ガット・ウルグアイ・ラウンドで関税化したといっても簡単には輸入できない水準になっています。一方、ガット・ウルグアイ・ラウンド合意前も今でも毎年少量の輸入実績があります。それは、国内で乳製品、特にバター・脱脂粉乳が不足した場合は緊急輸入として輸入したものです。その実績を踏まえてカレントアクセスとしてガット・ウルグアイ・ラウンド以降毎年一定量を輸入することを約束しております。これを約束数量と言っております。

資料2ですが、左側の図が既存の枠組みです。現在のWTO(世界貿易機関)上のルールでは、輸入できるのが国家貿易では誰でもが輸入することができません。農畜産業振興機構(以降ALICと記述)が一元的に輸入することになっています。現在では、ガット・ウルグアイ・ラウンド前の実績に基づく約束数量として13.7万トン(生乳換算)を輸入しています。生乳換算と言うのはバターや脱脂粉乳を製造するためにどれくらい生乳が必要かを換算し、そして数量を決定しています。脱脂粉乳の重量に約6倍、バターの重量に約12倍を掛けると生乳の重量になります。

約束数量の13.7万トンを輸入する場合の関税ですが、枠内税率は脱脂粉乳が25%、あるいは3%、この違いは砂糖が入っているかどうかによります。砂糖が入っているほうが35%です。それにマークアップが加わります。バターは35%+マークアップ。マークアップというのはALICが輸入したものを一旦買い入れ、その上で、入札でバター・脱脂粉乳を商社や乳業メーカーに売却します。買い入れ価格と、入札によって決まった売り払い価格(売り払い価格は入札で高価格を提示したところに売却する)の差額をマークアップと言っております。この差額は国内の酪農振興策に使われます。このマークアップがどれ位の税率になっているのかは資料2の下段*2 ALICの入札によって決定される額をご覧下さい。最近5年間のマークアップは、脱脂粉乳32円/kg~238円/kg、バター77円/kg~649円/kgとなっており非常に幅のある額になっています。この幅は入札による商社や乳業メーカーへ売り払いのため、脱脂粉乳やバターのその時点の需給状況でマークアップ額が変わってきます。当然、市中で品薄状態の場合、入札価格は高くなるためマークアップ額も高くなりますし、逆の場合は低くなります。

基本的な枠組みにプラスする場合は脱脂粉乳やバターが約束数量13.7万トンを輸入しても国産品だけでは不足する時に追加的な輸入を実施します。これもALICが国家貿易でマークアップを取って実施します。その際の輸入量は国内産で不足する分です。追加輸入の実績は生乳換算で2014年度18.8万トン、2015年度15.6万トンを追加で輸入しています。この数量は約束数量とは別に輸入しています。つまり2015年度ですと約30万トン輸入していることになります。

今回のTPP交渉の結果ですが、先ず約束数量の13.7万トンはALICが一元的に輸入する国家貿易は維持することで決着しております。この枠は今後も継続されることになります。TPP枠というのはTPPの日本を除く11カ国に対して低関税の定率関税割当を今回新たに作るということです。この際、ALICによる国家貿易としてTPP枠分とするかということがあったのですが、最終的には民間貿易としてALICは関係しないという決着となりました。TPP枠の数量の問題ですが、脱脂粉乳とバター合計で6万トンからスタートし6年目に7万トンにすることで決着しました。その間は毎年同数量だけ増やしていくことになりました。この数量の脱脂粉乳とバターの内訳ですが製品ベースで同じ数量を輸入するが決まりました。初年度はどちらも3,188トン、6年目が3,719トン輸入することになりました。これを生乳換算するとバターの輸入量が多くなります。

枠内税率、つまり関税はどれ位になるのかと言いますとマークアップの実績を従量税に置換え、脱脂粉乳で130円/kg、バターで290円/kgとしました。これを11年目迄にゼロにすることで枠内税率を設定しました。従って、脱脂粉乳は25%、あるいは35%、バターは35%だけとなります。

ホエイ
資料4:ホエイ
ホエイとは
資料5-1:ホエイとは

続いて資料4、5上段のホエイについてお話いたします。
先ず、資料5ですがホエイは一般的に馴染みの薄い製品ですのでこの資料でご説明いたします。
ホエイはチーズを作る際に固形分以外の上澄み液を乾燥させたものです。白い粉状のもので見た目は殆ど脱脂粉乳と変わらないものです。基本的に脱脂粉乳は生乳からバターを作った副産物、ホエイは生乳からチーズを作った副産物です。
ホエイと脱脂粉乳の成分比較をすると似通った成分となっていますが、大きな違いはタンパク質含有量です。脱脂粉乳ではそれが34%ですが、一方ホエイパウダーは11-15%となっており脱脂粉乳の約半分のたんぱく質含有量です。これが特徴です。ただし、技術の進歩により様々な濃縮技術を使ってたんぱく質を脱脂粉乳とほぼ同じ34-36%に合わせた商品もあります。これがWPC34で34という数字はたんぱく質含有量です。

成分比較の表の中で色は脱脂粉乳を溶かすと乳白色ですがホエイは溶かしたら透明になります。風味ですが、脱脂粉乳とは若干風味が異なります。従って、脱脂粉乳と競合する部分はありますが全て同じと言うわけではございません。
主な用途ですが、乳飲料、パン、菓子、デザート等、育児用調整粉乳やタンパク質濃度を高めたものではプロテイン等の栄養食品に使われています。
資料4の説明を致します。以上に述べたホエイの特性から脱脂粉乳との競合という観点から話を進めます。

ホエイについては3区分に分けて考えます。
■国内で製造された脱脂粉乳とたんぱく質含有量で競合しそうなホエイ、つまりたんぱく質含有量が25-45%未満については(1)の図の取り扱いをします。具体的には関税を撤廃はしますがその期間を非常に長く21年目に撤廃をすることになっています。
■ホエイでもセーフガードを措置しています。(2)の図に示してあるとおり一定の数量を決めておき、それを超えると税率を上げる措置です。最初の年が年間で4,500トンの数量、所謂「トリガー」を決めて、年々増やしていき20年目に16,250トンに増やしていきます。この20年目の水準は現在の国産脱脂粉乳の1割強の水準になっています。この発動数量を超えた場合(1)図に示してありますが21年目で関税がゼロになっていくのですが(1)青線)、赤線2)の水準まで引き上げてしまいます。引き上げられた税率は5年間をかけて段階的に戻していくことになります。21年以降はセーフガードの税率は下がっていき、セーフガードが発動されたか否かで取り扱いは変わってきますが3年から14年くらいでゼロになっていきます。
21年目以降のセーフガード税率は3年続けて発動が無ければ終了します。また、発動すれば毎年1.9%+10.7円ずつ削減が基本ですが、セーフガードが発動すれば削減幅が半減することになり最長34年目まではセーフガードが存在することになります。
■脱脂粉乳と競合する可能性が低いたんぱく質含有量25%未満のものは、セーフガード付きで16年目までの関税撤廃期間を確保します。(たんぱく質含有量が特に高いものは、6年目に無税=含有量45%以上のもので用途が限られているもの)

このように、国産の脱脂粉乳をできるだけ守るという観点から競合の可能性の高いホエイについてもセーフガードと長い関税撤廃期間を設けることができました。