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第78回 北海道の酪農の現状と今後の方向性

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第78回 北海道の酪農の現状と今後の方向性
日時
平成26年5月19日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館 3階 A会議室
講師
ホクレン農業協同組合連合会代表理事常務 板東 寛之
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
管理栄養士 荒牧 麻子
毎日新聞 記者 今井 文恵
日本経済新聞 編集委員 岩田 三代
消費生活コンサルタント 神田 敏子
評論家・ジャーナリスト 木元 教子
作家・エッセイスト 神津 カンナ
日本大学芸術学部特任教授 菅原 牧子
科学ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当者・酪農担当者
乳業協会:白川専務理事 他
【内容】
TPPの交渉が決着していれば、従前から計画していた「TPPの交渉結果と今後の酪農乳業の方向」のテーマで講演・意見交換を行なう予定でしたが未だ決着を見ておらず(5月19日時点)、このテーマを取り上げる状況に至っていないと考え、明確な方向が示されるまで延期させていただくこととしたい。
そこで、今回は委員の先生から、「最近、国内で牛乳・乳製品の需要を満たすだけの生乳生産ができていないのではないか、特に生乳の生産が期待される北海道においても生産が減少している。その原因・背景と今後の対策について知りたい」とのご意見を伺ったので、北海道の酪農に直接関与しておられるホクレン農業協同組合連合会代表理事常務の坂東寛之様にご講演をお願いした。
- 1. 北海道酪農の現状(失速しつつある生乳生産) -

まず、どのような現状かをお話いたしますと、生乳生産が失速しつつあるのが現状です。日本の乳業・酪農が健全に育って行くためにはまずは生乳の生産がないと始まらない。そこが、現状として調子の悪いところではないかということです。
どのくらい悪いかと言いますと、下記の表をご覧ください。

日本の生乳生産量(農水省牛乳乳製品統計)

○日本の生乳生産は、平成8年度がピークでありその後は減少が続いている。
○北海道の生乳生産も、非常に残念なことに、ここ5年間で3度のマイナスとなり特に平成25年度は97.9%と前年対比約2%と大きく減少しています。
私も永い間この仕事に携わってきて、自然的にマイナスになってしまうことは表内に3回ありますがその他に1回しかありません。他のマイナス時は大概ブレーキを踏んだ時になりますが、今回は全くブレーキを踏んでおりませんから、本当に自然に減ってきたことと、もう一つ平成25年度がここまで減ってしまったということは私共も本当に驚いておりますし、乳業メーカーの皆さんを不安に陥れるような状態になってしまっているということができると思います。

我が国の生乳生産量の推移

上のグラフをご覧いただきたいと思います。平成8年がピークで、ここに至るまでは順調に日本人の需要に合わせて生産が増えてきていました。この生産が増える過程において、府県の生産量は少しずつ増えてきて、平成2年にピークとなりました。もう20年以上前の話になります。この後、なだらかに横ばいだったところが平成8年からマイナスに転ずるに至りました。北海道はたまに凸凹はありますが、一貫して増やしてきてはいました。ただし、増えるスピードが徐々に穏やかになってきており、北海道の増えるスピードより府県の減少するスピードが明らかに大きかったために、全国の生産は平成8年から段々マイナス化していってしまったことになります。平成22年には北海道と府県の生産量で、北海道が5割を超える状態となりました。これは北海道が頑張ったわけではなく、府県が落ちたと言うことになります。北海道が5割を超えてとよく言われるのですが、望んで超えたということではなく、府県の生産はどうなのだろうと思っていた矢先に、北海道は平成22・23年度とマイナスのトレンドとなって、現在我々は、かつて府県が平成2年のピークから落ちてきてしまったことと同じことが、北海道で起こってしまったらどうしようと、それを如何に防止していこうかと頭が一杯という状況です。

北海道の地域別生乳出荷乳量(平成25年度)

北海道の生乳生産はどういうところで行われているか、上図の緑の○印部分は「はじはじ」になります。この部分は酪農しかできません。お米はもっての外、麦も難しい、ほぼ酪農しかできない、草しか採れない地帯です。この地帯、根室・釧路・稚内です。この地域でほぼ北海道の生産の半分があります。図の茶色の○印は畑作地帯です。お米のできはあまり良くありません。やはり、天候的に厳しいのです。しかし、おいしい麦・ジャガイモ・タマネギ・砂糖大根が作られているところです。ここでも酪農は盛んです。十勝は100万トン、網走・北見オホーツク沿岸地帯は50万トン位。これらの地域はお米が採れない地帯と考えて頂いて良いと思います。こういった地帯で全体の生産の7~8割の生産があり、この地帯が酪農になった訳があります。本当はお米を作りたかった。今から140年前の北海道を開拓し始めたとき、何とか米作りをと進めたが、全く採れない。そこで、かなり早い段階で酪農を導入しました。導入の結果、こういった地帯がもう酪農でしか生きられないがこれだけの大きな生産をあげるまでに140年かかって、今に至っています。
この北海道ですが実は昨今、ニュージーランドの企業が北海道に牧場を作りたいとの新聞記事が出ております。実は私も明日、ニュージーランドのフォンテラさんの日本法人とお会いすることになっております。どういう内容になるかはお会いしてみないとわかりません。(その後の新聞報道で、牧場を作るのではなく、放牧酪農普及の協力をしたいということが判明しております。)
ニュージーランドは、酪農のメッカとして今脚光を浴びております。非常に大きな生産量を持っています。日本の約3倍の生産量があります。ここの気候はどうなっているのか見て頂きます(下図)。

ニュージーランドと北海道根室の気候比較

オークランドというニュージーランドの一番北の都市で、その側が一番酪農が盛んです。最低気温がマイナスになりません。年間を通じて最低気温が10℃を割ることすら少なく、ほとんど10℃以上です。最高気温もそこから10℃以上高く、20℃ちょっと超えるくらいです。これを北海道の気温と比べてみます。1~2月は最高気温でもマイナスです。最低気温はマイナス10℃、時にはマイナス20~30℃となります。また年間で一番暑い時期ですが、これはオークランド並みとなりますが、そこから急激に下がって11月を過ぎると最低気温マイナス。最低気温マイナスの時に降った雨は雪になります。ニュージーランドの皆さんは北海道に夏しかお見えになっておりません。冬の北海道は如何に違うか、知ってもらう必要があります。このグラフからも分かるように、気温の面からも大変厳しいところです。私は札幌の近郊にすんでおりますが、そこでも昨年の冬はマイナス20℃の日が約1週間ありました。降雪量は7m、いちばん多い積雪量は1m60cmでした。こんな厳しい気候でなぜ農業をやっているのか、世界的にもこの厳しさの中で農業を営んでいるところは有りません。後ほどヨーロッパには触れますが、そういう厳しさだから酪農しかできなかったということが正直なところです。そういう土地の酪農ですから極めて技術的に難しかった。これが北海道です。

北海道における主要な乳業工場

北海道ですが、日本で一番生乳生産量が多い。日本の過半を占めていて、これだけの工場があります(上図)。
本日は、乳業協会主催です。この工場のメーカーは、全て乳業協会に加盟されています。そして、この協会の中で様々なことを検討され、また我々とも一緒になってやっている。北海道において乳業工場(メーカー)と我々ホクレン、そして生産者はパートナーである。よく車の両輪といわれ、どちらかが無くなったら成り立たないということでは、非常に大切なパートナーとしてあり続けたい。そのためには、生乳の生産をもう少し何とかしたいと思っています。上図の青で表示した工場は乳製品、黄色で表示した工場は飲む牛乳の工場です。飲む牛乳の工場は、北海道では2割程度しかありません。ほとんどが乳製品の工場です。脱脂粉乳、バターもありますが、乳製品の中でも最近伸びているのは生クリームです。こちらに来る前に、スターバックスに立ち寄りました。「ラテ」類には非常にたくさんの生クリームが使われています。実は現在の日本は、生クリームの大きな消費国になりつつある。その生クリームのほぼ全てが、北海道の工場で作られているといっても過言ではありません。いろいろなアイテムがあり、チーズもあります。こういった製品で、乳業メーカーの皆さんと日本人の健康を更に増進させようとやっているのが北海道の酪農乳業です。

全国的にはどのようになっているのかは、下図の通りです。指定生乳生産者団体とは、生乳の取扱い団体のことです。各県に1つあったのですが、現在、府県はブロックに1つとなっています。我々(ホクレン)が実は半分を占めているわけですが、その次は関東、九州、東北、東海の順です。それぞれの地域にこの団体があって、生乳を取り扱っています。このことを頭において頂きたいと思います。

指定生乳生産者団体の出荷乳量(平成25年度)