- 2. 今後の方向性(自給率向上を目指して) -
今後の方向性については、これまでの補足になりますが、自給率向上を目指すということです。北海道の酪農をどういう方向性を持つべきか。このお話をする前提として、以下のグラフをご覧ください。
私たち一人一人を支えている農地は、日本にどれくらいあるのでしょうか。グラフは農地全体を人口で割った数字で、オーストラリアが一番多く、211.8アールです。世界平均が24.9アールで、北海道はそれより低く20.9アールです。日本は、3.6アールで107坪です。シンガポールは農地がありませんからゼロです。しかし、シンガポールでも、食糧自給率は必要だということで、農業振興を始めたそうです。国として農地がないのは、バチカンと香港、この2か所位になるそうです。日本は1人当たりの農地面積が非常に少ない。
なぜ少ないのかは、下記の総務省と国交省のデータで説明できます。
上段は、総務省の人口データです。1965年に1億人を超えて、今少し減っていますが、このグラフは2009年までのデータで1億2800万人、年間25万人減る状況です。人口が増えている時代に、農地はどうなったか。日本の国土面積を100とした場合、ほぼ8割が森林・原野・河川、人が住めないところで、可住地帯とは言えません。農地を作った最後は、ほぼ50年前の八郎潟の干拓です。残り2割を農用地と宅地・工業用地で分け合っているのがこの国です。経済が発展するにつれどう変遷したか、住宅地が増え、工業用地も増えました。1965年当時4%だったものが、2009年9%までなった。何から変わったのか。農地からです。日本各地の中で、つい最近まで農地だったところに、大型商業施設や工場ができている。また、新たな宅地開発で農地の割合がどんどん落ちてきている。17%あった農地が、12%までその割合を落としている。
この12%の割合の農地面積を人口で割ったら、1人当たりの農地面積がでます(下図)。
かつて1人当たり6.5アールあった農地が人口が増え農地が減ることによって、現在3.7アール、実は直近3.6アールまで減少しています。これに対して自給率はどうなのか。1965年当時自給率は7割あったものが今は4割を切っています。1人当たりの農地面積が減って来たのと自給率はパラレル(平行・並列)で動いているのです。こういった話は誰もしません。国交省のデータと農水省が出している自給率のデータで、このことは証明できますので、是非、検証して頂きたい。実は日本の自給率が低い理由は、単純にこれだけのことです(1人当たりの農地の減少)。他にも理由はあると思いますが、このことがベースに有ることをご理解下さい。
国民1人当たりの農地の利用状況をご説明します(下図)。
我々1人1人を支えている農地は107坪ずつあります。そこで何を作っているのかというと、お米38坪、麦6坪、その他のものは図のとおりです。牧草地が20坪、樹園地7坪あります。その他のところが18坪、実はこの内の10坪位が耕作放棄地と推定されています。そもそも少ない農地の中に、耕作放棄地が出てくる中に現在の問題があるのですが、しかし「そもそも少ない」ということを食糧自給率の問題として捉えて、何が大きい理由かと考えると、農地が減って来たことの方がはるかに大きい問題だったことをご理解頂きたい。
北海道では、こういう利用状況になります(下図)。
北海道は、20アール程あります。世界の平均は25アールなので、平均より少ないのですが、まだ日本の中ではあるほうです。道民が260万人いますので、北海道は自給率は非常に高いと言えます。実は半分が牧草地、デントコーンなのです。残りは何を作っているかというと、米63坪、麦65坪で、北海道は麦の方が多いのです。てんさい(砂糖大根)、グラニュー糖の原料です。馬鈴薯30坪、他は図のとおりです。その他が54坪ありますが、北海道は耕作放棄地は殆どありません。北海道の耕作放棄地と言うのは、トラクターも入り込めないような傾斜地、沼地を開拓したような土地です。これは耕作放棄地にならざるを得ませんが、それ以外のところでは、耕作放棄地は殆ど出ておりません。十勝や北見では、逆に土地が足りない状態です。このように、農地利用をしている訳ですが、半分が牧草地、デントコーンです。
この農地利用状況の中で北海道は何をやっているか。比較として、各国の自給率を農水省が調査したものに、1人当たりの耕地面積を重ねてみると、北海道はこれだけ高い自給率を上げています。(下図)。
世界平均の農地の25アールよりも、北海道は20.9アールと少ないのですが、自給率は約200%で2倍あります。実は、集約された高能率な農業を北海道でやっている。他の国々と比較するわけですが、簡単にいかないのはカロリーベースでの調査ですので、例えばアメリカ人は、1日3300キロカロリー位の摂取ですが、日本人は2200キロカロリーですから、1.5倍位アメリカ人は食べます。ヨーロッパ人はもう少し少なく、2400~2500キロカロリーではないでしょうか。この調査は食べる量でも影響が出るので一概に言えませんが、非常に高い自給率を北海道はあげている。
それでは、どのような物を作っているのかと言いますと、上図を見ると日本の自給率で白菜は、ほぼ100%です。たまねぎは、北海道産は42%ですが、輸入はだいたい25%で国産は75%です。色々な作物を作っていて、国内自給率が8割以上の物が多いのです。しかし、徐々に自給率が落ちてきて、ここにある3品、小麦・大麦・大豆、特に小麦と大豆の自給率が非常に低いため、全体の自給率が4割しかないということになります。完全に集約してしまったためです。国内で生産し易いもの、白菜等の野菜類は鮮度が命ですから、これはやはり国内で作るということになります。お米は日本人の命ですから、これも国内生産です。日持ちのする野菜類は国外から入ってくる。実は、小麦も大豆もアメリカから買っています。戦後、アメリカから買うことで自給を諦めたといったアイテムがあった。戦後復興から起こって来た日本の農業と食糧のあり方によって、自給率が狭められてきたと思って頂いても結構かと思います。北海道で生産している作物としては、実はカロリーの高い作物を作っています。つまり、北海道はカロリー自給率、本当に困った時に、最低でも生きていくためのカロリーを北海道で生産しようということです。これは国が決めたことかもしれませんが、北海道の風土に最もあっていたため始めたということがあるかと思います。
このような背景を持つ北海道ですが、お米の10アール当たりの平均収穫量533㎏で、日本の519㎏より高く、直近ですと北海道は、572㎏まで来ております。アメリカが541㎏、これは気候の良い地域で二毛作をやっているから、この数字になりますが、北海道は恐らく世界一の単位当たりの収穫量を上げている。最近では、お米もおいしいです。寒い気候で、ここまでの収穫量をあげているのは、皆の努力した結果なのです。トウモロコシ、アメリカは遺伝子組換で、937㎏と多いですが北海道は1,197㎏でそれより多いのです。オランダは、技術が高く1.121kgでさすがですが、北海道のほうがそれより多いのです。残念ながら小麦は、ヨーロッパの国に大きく負けておりますが、世界の中では北海道は高い位置です。小麦の収穫量を上げてきてはいますが、先程少し説明しましたが、なぜ小麦をアメリカから輸入するようになったのか、少し詳しく説明します。オランダと北海道はどちらも世界の大生産地です。気象条件をアムステルダムと帯広で比較すると、前者は最高気温がマイナスになりません、最低気温が1~2月にマイナスになるかならないかです。ですから土は凍りません。後者は、1~3月位はマイナス、4月中旬以降はようやくプラス、また11月以降はまたマイナスです。小麦はいつ植えるかというと、だいたい9~10月に植えます。世界中その時期です。オランダはこの時期に植えても、マイナスの気温にならないため伸びて、冬の間でも伸びています。大きく伸びた8月に収穫です。ところが北海道ですが、植えた後伸びますが、すぐにマイナスになり成長は休止します。冬になり、畑の雪の下になりますと、日も当たらないため光合成もありません。そしてようやく、4月、5月になってようやっと伸び始める、これでは収穫量が足りません。もう一つの要素として、オランダは収穫時期に雨があまり降りません。北海道は、この時期雨が多く降ります。雨が降ると収穫できません。北海道には、こういう2つの厳しい条件がある。これを技術でカバーしているのが、北海道の農業です。ですから、小麦は外国産のほうが条件が良いわけです。
北海道とニュージーランドの酪農を比較すると、国土面積は北海道が84,000平方㎞、ニュージーランドは北海道の3.2倍の268,000平方㎞です。牧草地面積は、北海道の19倍あります。なぜかというとニュージーランドは、山があまりなくて国土の約半分が牧草地です。羨ましいかぎりです。気候も殆ど雪が降りません。一年中牧草が生え、伸びている。北海道から見ると、桃源郷のようなところです。牛の頭数は、北海道の約8.5倍います。しかし、生乳の生産量は4.5倍しかない。1頭当たり北海道の半分しか搾っていない。そこが両者の違いの1つと言えます。まとめると、ニュージーランドは温暖な気候と、牧草が1年中伸びることと、国土の半分が牧草地であることを活かして、数多くの牛を飼って、生乳を搾っている。
北海道は、冬の半年間牧草は雪の下にあり、成長はお休みです。ニュージーランドは、1年中育ちます。酪農はどうなるかというと、牧草は大量にありますから、配合飼料のようなアメリカの穀物を買ってくることはない。牧草だけで育てることができる。しかし、牧草だけですから、1頭当たりの乳量は北海道の半分しかない。だけどそれでいい、たくさんの牛を飼えるだけの牧草がある。雪が降らないため牛舎はいりません。放し飼いで、外で飼っています。牧草を刈り取って、冬に備える必要がないのです。刈り取る機械は必要ない。農機具もいらないからお金がかからない。コストは、日本の3分の1以下です。日経新聞に取り上げられましたが、「ニュージーランドは世界の最先端の酪農」という書き方をされていました。最先端かもしれません、本当に省力化されているのですから。だけど、それは地の利と気候の利を活かしてできることであるということです。
一方、日本では大規模酪農では、大きな牛舎が必要です。こういった規模ですと5億円はかかっているのではないでしょうか。そして、牛舎の他に牧草を貯蔵するところ、機械類をしまっておくところが必要です。こういう施設を全て作らないと、冬場は駄目になってしまう。ニュージーランドでは、広い牧場にただ牛がいて、搾乳の施設だけあればいいのです。先程ご説明した回るパーラーがあるだけで良いことになります。こういう酪農の形態なのです。
北海道はニュージーランドになれるのか。現在牧草地、デントコーンを育てていますが、これを2倍にすれば現在の牛の頭数は変わるのかもしれません。乳量は100万t位減るかもしれません。そうすると、乳業メーカーは大変になるかもしれません。ニュージーランド型の酪農をやろうとすれば、北海道で今作っている米も、芋も、タマネギも、全部止めて牧草地にしなくてはいけない…。しかし、他の重要な農産物を北海道で作っているかということを考えると、これは絵空事になってしまいます。ニュージーランド型の牧草だけで北海道酪農をやっていこうとすれば、乳量は半分になってしまいます。日本の酪農乳業のシステムをきちんとやっていこうとすると、実はニュージーランド型は参考にすることはできても、そのようには上手くいかない。
- 3. 終わりに -
産業力会議、規制改革会議、こういった会議が安倍首相のもとで日本再生、農業再生ということで様々な検討がされています。最近では、対外投資を持ってくる懇談会というのがあり、このような3つの会議から北海道の農業・酪農・農協は何をやっているのだと言われております。我々も、いきなりどうしてこのように言われるのかと多少アタフタしているのですが…。私自身も産業競争力会議に喚問され1時間程お話をしてきました。その経験から言うと、先程触れましたが、なぜ自給率が低いのかという根本のところ、土地があって、その土地で耕して何かを作っているのだという根本の理解をもう一度して下さいということです。そこから発想して、今の日本でできることを結構良いところまで、我々はやっているのだということを理解頂けると思います。直さないとならないところは直さないといけないし、ニュージーランドについて学ぶべきところは沢山あると思っています。したたかに取り入れるものは取り入れられますし、しかし、北海道の農業の今後は、今までやって来たことを更に効率的にやっていこうということに尽きると思います。まだまだ、酪農家は減っていくかもしれませんが、本当に厳選されたやる気のある酪農家が大きくなることで、何とか日本の生乳生産、そして健康を国民の皆様にずっとお届けすることを続けてきたいと思っています。