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第76回 乳製品の国際需給の動向について

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
  • 質疑応答
Q1.世界的に乳製品需要が高まるのは歴然としている中で、今後日本がどういう形を取ったらいいのか、乳製品を我々が望むだけ需要通り賄うとすれば、輸出入を含めどう言う形がいいのか、ご意見を頂きたい。
A1.
  • 日本の生乳と乳製品の特徴は、非常に品質がいいことです。国産だから安心というだけではなく、世界的レベルから見て安心なレベルで、そこが最大の特徴です。もう一つの特徴は、残念ながら価格が高いということです。安くて品質が良くて安全でというのは中々ないです。どこかで妥協が必要になってきます。しかし、今の日本の生産のやり方では、餌のコスト、人件費等を考えると大きく値段を下げることは難しいと思います。今35%位輸入に頼っている部分を、以前のように100%国産で賄うということは難しいため、外国の中でも品質のいいものを国内の消費者に輸入で提供しつつ、国内生産のものに対しては価格に目を瞑っていただき、折合いをつけるしかないかと思います。
Q2.品質のいいものを輸入するとなると、オーストラリアなど決まってきますか。
A2.
  • 今は、急激に生産量が増える状況にないので、ニュージーランでももう限界に近い状況といわれており、また自ら限界を認めて、中国に進出していっており、そういう意味では買いたくても物がないという時代が来る可能性もあります。
Q3.中国で生産する場合、自分達のやり方の酪農をやればレベルは高くなるといえますか。
A3.
  • まだあまり時間が経っていないので、どういうことをやっているのかまだ分からない状況ですが、同じやり方はできないと思います。きれいな牧草地があるわけでもなく、またはアメリカの企業経営的なドライロット式にテントを張って、飼料は乾燥で仕入れてきてまたは飼料穀物をあげて、ただ衛生管理だけはニュージーランド式にきちっとやる、という方法が考えられます。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q4.以前中国にいたとき、馬はいたけれど、牛はあまりいなかった、牛には適正地ではないのですか。
A4.
  • 北や内陸の方は、乾燥していると思います。肉牛はできるかと思いますが、酪農は肉牛よりも遥かに良質な土壌と草がないとできません。肉牛は穀物で肉を太らせるだけですが、酪農は、乳を出しますから、タンパク質を与え続けなければならないので、肉牛よりも良質な草や餌が必要になってきます。
Q5.中国は4千トンといわれましたが、これには水牛は入っているでしょうか。中国もインドと同じように水牛が多いのかと思っていますが。
A5.
  • そこの統計は分かりませんが、水牛は入ってないと思います。
    役牛として農耕用に水牛を多く使っているのではないのかと思います。
Q6.牛乳・乳製品の種類と製造工程のところで、濃縮乳というのがありましたが、これは日本国内でも製品として出ているものですか。
A6.
  • コンデンスミルクやエバミルクを指します。国内で製品化されています。
Q7.今のお話しを伺うと、TPPも日本の酪農家の方にとってあまり恐れる必要はないのかなという印象を受けましたが、いかがでしょうか。
A7.
  • 基本的に、生産販売価格、都府県100円、北海道80円でも赤字になってしまうというくらいコストが高いです。その点、アメリカは半分くらいで利幅がないかも知れませんが、ニュージーランドあたりではこの値段でも利幅があり、まだ下げる余地があり、競争力の面では高いといえます。
Q8.日本のものは質がいいといえますので、その値段でも止むなしといえませんか。
A8.
  • ニュージーランドや豪州の質はいいです。ちゃんとしたものを作っています。ヨーロッパもそうです。
Q9.カリフォルニアの砂漠での酪農では、地下水を吸い上げてやっていると聞いたのですが、いつまでできるのかという疑問がありますが、どうなのでしょうか。
A9.
  • 持続可能かどうかは議論になっています。そのような地下水の問題もありますし、自分の農場で餌を作ってなく、他の農家から買ってきています。その農家にしても飼料穀物にするかエタノール原料に売るか、価格の高いところに売りますから、確実にいつまでも餌が確保できるかは微妙なところです。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q10.TPPの関係で、先程販売価格の関係でお答えいただきましたが、生産量の問題などで輸出が増える状況ではないと理解しましたが、その辺の関係は如何ですか。
A10.
  • TPPというと、皆さん特に生産者の方々は全滅してしまうのではないという恐怖心に駆られるようですが、そこまではいかないのではないかと思います。日本も品質のいいものを作っていれば価格差があっても、国産にお金を払ってくれますし、安いから外国産が欲しいといっても、外国の方が輸出量に限りがあってまわしてくれない、或いは国産に近いくらいの価格になってしまうかもしれない、ということもあり得ますから、ゼロか残るかという議論ではなく、お互いある程度の共存ができるような見通しを立てるべきではないかと思います。
Q11.チーズについて、国内の生産は増やす方向で来ていると思いますが、国内の消費に対する国内の生産量と輸入量の比率はどのくらいですか。国内生産は増えてきているのでしょうか。増やしていく方向性はありますか。
A11.
  • 乳製品の輸入の中で、チーズは圧倒的に多いと言いました。この中で、プロセスチーズ原料用が29%あります。このチーズは国内で生産されたナチュラルチーズと合わせてプロセスチーズに生産される分が多いです。国内で生産されたチーズの中にも、直接消費されるナチュラルチーズと加工の原料用に向けられるナチュラルチーズと2つあります。両方合わせても、せいぜい5万トン。チーズの輸入量は20万トンを超えますので、5万トンは寂しいですね。
    チーズは関税が安くて、外から安いのが入ってきますから、作っても採算が合わないので、そのあたりが難しいところです。
Q12.乳製品の輸出のシェアで、全粉乳でアルゼンチンの12%が気になりましたが、アルゼンチンの酪農は盛んなのでしょうか。また、全粉乳だけ輸出している理由は何ですか。
A12.
  • アルゼンチンは酪農、畜産の盛んな国であり、パンパという内陸の豊かな牧草地で肉牛、酪農を広大な放牧で行っています。生乳生産は多いですが、輸出に回ってくる量はそれほど多くはないです。
Q13.乳製品の輸出制度のところで、輸入の殆どがチーズだったのは、早くから関税を低くしたことによると説明いただきましたが、現状保護されているバターや脱脂粉乳というのは、輸入量が現状少ないのですが、TPPの議論ではどのようになっているのですか。例えばオープンになった場合、チーズのようにバターや脱脂粉乳がたくさん入ってくるのかお聞かせ下さい。
A13.
  • チーズそのものも、30%の関税は我々にしては低いと思いますが、輸出国から見ると非常に高いです。多分チーズも関税ゼロを要求してくると思います。日本のように経済的に豊かな国でチーズの消費量がこんなにも少ないのは、そのせいだと言われています。1年間の一人当たりのチーズ消費量は2kgに達していません。フランス、アメリカは20kgです。脱脂粉乳やバターは一般輸入で誰でも輸入できるとはいえ、高い関税になっていますから、TPPでは一番の議論の的になるところです。仮にチーズ並みの30%になっただけでも相当量入ってくると思われますし、ゼロとなると恐らく日本の酪農乳業は、国産の飲用牛乳やヨーグルトのようなフレッシュな物だけのマーケットになってしまうのかという懸念はあります。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q14.EUの酪農に関して、国別の割り当てを廃止することによって、南欧など旧東欧圏の零細酪農がどうなるのだろうかという見通し、例えば再編するのか大規模化するのか、独自でできなければ、EU域内の優良国が進出するようなことはあるのでしょうか。
A14.
  • 2015年4月以降のことは、色々なことが言われていますが、人によってそれぞれ異なりますので、難しいです。実際ポーランドは、チェコやハンガリーとも、東欧の中でもかつての政策が全く違っており、非常に零細な酪農家というか農業をやりながら牛を一頭二頭飼っているような人たちがたくさん残っています。ところがチェコ、ハンガリーは旧ソ連のコルホーズとかソホーズの政策に順応して大規模な国営酪農場がありますが、どちらも効率が悪い状況です。
    東西の壁が崩れて東西統一の時に、始めはみんな浮かれて喜んでいましたが、経済の世界では、東側の安い製品が大量に西側に入ってきて、西側の農業生産はやられてしまうのではとの危惧が多く出されました。ところが開けてみると、逆に東側のものは、商品にならないような物であったため、危惧するようなことはなりませんでした。逆に、西側の高いものを、東側の高所得者が買うようになり、物は西から東に流れて行った、という様に、開けてみなければわかりませんでした。2015年4月以降どうなるかは、無責任なようですが、開けてみないとわからないのが今の気持ちです。
  • 質疑応答
Q15.ニュージーランドの生乳生産コストの下げ幅がまだ残っているとのことでしたが、その理由を教えて下さい。飼料の自給はあると思いますが。
A15.
  • ニュージーランドに関しては、酪農が国家事業といえます。輸出で外貨を稼いでいるのは、圧倒的に乳製品となっています。これ程になると、政府が製品の買い上げなどの政策は行っていませんが、研究補助などに対しては莫大なお金をつぎ込んでいます。少しでも生産効率を上げようという研究開発、牧草の改良など、農地の改良、乳牛の改良等を熱心にやっています。一番能力のある人達が酪農乳業の分野で誇りを持って働くような国で、国を挙げて酪農産業の後押しをしているといえます。オーストラリアも輸出に頼っているところもありますが、国内マーケットが半分くらいあるため、やや緩む部分がありますが、ニュージーランドは、凄い勢いで競争力を高めようとしており、オーストラリアもコストが安いニュージーランド産を輸入しています。
Q16.ニュージーランドの物の日本での評価はどうなのでしょうか。
A16.
  • 以前、農畜産業振興機構にいたときに、以前から脱脂粉乳で輸入していましたが、一時、国産バターが足りなくなって、ニュージーランドから10年ぶりくらいに輸入しましたところ、国内の乳業メーカーやパン屋さんなどから、色が黄色いということで拒否されました。これは牧草に含まれているカロチン、栄養価は高いですが、これがバターの色に出ますから、黄色が強くなります。日本の場合は逆に牧草を控えめにして、穀物を食べさせますから白いバターになります。ケーキ屋さんは白いクリームやバターに慣れているために、黄色になるとおいしくなさそうで、買ってもらえなかったです。また、牧草の香りも、いい香りなのですが、嫌われました。今では大分慣れて使ってくれるようになりましたが、当時はひどい評判でした。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q17.ヨーロッパには、個別のこの村のというようなご当地製品が財産権のような方法で行っていますが、これらは、TPPの場合、高い値段で売れるのではないかと思うのですが如何でしょうか。感想として今の消費者は、少しでもクオリティーのあるものが欲しいという心理から、TPPの場合、個別にクオリティーを追求すれば、イノベーティブになると思いました。
A17.
  • エシレのバターのように高いものは、また高い関税を払って入ってきていますから、高い関税分がなくなることになります。EUではないですが、日本の北海道ブランドというのは、東アジアや東南アジアの中では一定の認識を得ています。台湾などでは、北海道に対し憧れをもっている人が多いです。その意味で、EUはエシレのバターを他の域外に売るように、日本はアジアを中心として、北海道のブランド、アジアでは品質はピカイチですから、値段さえ折り合えば売れると思います。
Q18.一頭当たりの平均乳量で、アメリカとニュージーランドを比べると倍以上の差があるのですが、その理由はなんでしょうか。
A18.
  • ニュージーランドは、チーズやバターとしての輸出が多いですから、乳量よりも乳固形分を多く摂れるように改良を重ねてきています。9800kgと4100kgを比べた場合に、仮に1ha当たりの牧草地で同じ条件で飼育した場合は、ニュージーランドのほうが乳固形分は多くなると思います。乳牛を見ればわかりますが、ニュージーランドの方が小さいですが乳固形分の高い乳を出します。ニュージーランドの牧草地は丘で傾斜があり、そこを上がったり下がったりしながら牧草を食べて、搾乳の時間になると搾乳舎まで歩いてくるような牛です。アメリカはスーパーカウと言われているおっぱいの大きな牛で、おいしい餌さえあげれば10000kgでも出るような牛です。このような牛では坂は歩けないし、長い距離も歩けません。
    人間が人間の都合で品種改良していくということは、家畜にとっては決して幸せなことではないのではと思います。
    おいしいものをいただくためには、家畜に苦労させているということを認識していただければ、「ありがとう。」ということでいいのではないでしょうか。