1.イントロダクション
神戸大学の大澤朗先生がオーストラリアに留学していた時に、コアラが重い結膜炎にかかり目が開けられなくなっていた。そこで獣医として抗生物質を打って結膜炎を治療し結膜炎は良くなったものの、コアラはお腹を壊して全部死んでしまった。抗生物質を投与した事が原因と考えられた。
コアラはユーカリの葉を選んで食べているが、ユーカリの葉の中にはタンニンと言う毒性の高い成分が入っており、他の動物はユーカリの葉を食べることができない。もしこのタンニンを無毒化できれば大変優れた食材として利用できる。
ところで、コアラのお腹はやや膨れているが、その中は殆どが盲腸で満たされている。この盲腸の中には特別な微生物が生息しており、コアラがユーカリの葉を食べられるというのは、この盲腸の微生物が毒消しの役割を担っているのではないかと推察され、タンニンを分解して無毒化する菌、タンナーゼという酵素を作る菌を同定した。これは腸内細菌の重要性を示した好例である。
地球上の微生物は非常にたくさんの種類が存在するが、その研究の現状に関しては、その1%も単離されておらず、まだ全てに名前も付いてない、と殆どがわかってない状態である。
我々の体の中にもたくさんの微生物が存在する。本当は腸内細菌はいない方がよく、いなければおそらく120歳くらいまで生きられるのではないかと考えられる。菌が腸内にいるために寿命が短くなっているのは事実と考えられる。ただ、我々の日常生活の中で、無菌で過ごすことはできないため、お腹の中の腸内細菌と如何にいい関係を保つか、ということが全身の健康を保つ秘訣である。
人間の腸のことだが、小腸が7mで大腸が1.5から2m位と言われている。全部拡げるとテニスコート1枚分位の面積になり、我々の体の免疫細胞の70%が小腸にあることがわかっており、腸管の健康が全身の健康を司っていることはほぼ間違いない。我々の体の細胞は60兆個と言われているが、腸内にはその150倍くらいの菌がいることがわかってきた。また種類も1000種類を超えると言われている。その種類を見ると基本的に我々のお腹の中にいい菌はほとんどいないことがわかった。それだけに、いい菌を大事にするか増やすという方向性を持たないと、健康は維持できないということになる。我々のお腹の中で、健康の鍵を握っている大きな部分は、光岡知足先生が研究されたビフィズス菌だと考える。
2.プロバイオティクスとは?
1989年にイギリスの微生物学者Fullerが提唱した概念で、ヒトが摂取後に腸管内で宿主に有益な効果をもたらす微生物をさす。乳酸菌やビフィズス菌がこれに該当する。
有害物質を作り出す有害菌の増殖を抑えて、腸内環境の改善に働く。病原菌からの感染を防いだり、スムーズな排便を促進する大切な働きをする。
この中でも、基本は便秘を防ぐことが最も重要なことである。大腸癌の約80%が糞便が溜るS状結腸から直腸に発症しており、便秘をしないということが色々な疾病を防ぐことに繋がることが良く理解できる。