6.花粉症とヨーグルト
近年、花粉症は4000万人位の方が罹っており、社会的に大きな問題となっている。ハウスダストやダニアレルゲンによる通年性アレルギー鼻炎との併発が多い現状となっている。
その増加の原因の一つとして、「衛生仮説」が唱えられている。
赤ちゃんの免疫応答性は、もともとアレルギー型とも考えられるヘルパーT細胞が2型であるTh2型に偏っており、成長と共に腸管の微生物刺激に暴露される機会が増加してTh1型に移行し、Th1/Th2 バランスのとれた状態となるのが一般的であった。しかし、近年では余りにも清潔な状態で育ったために、幼児型のアレルギー状態を維持したまま大人になってしまった方が多く、これを衛生仮説と呼んでいる。そこで、乳酸菌やビフィズス菌などの良い微生物からの刺激により、免疫システムをTh1型へ移行させアレルギーを低減させるという戦略に基づき、ヨーグルトによるアレルギー疾患の予防や治療の研究が進められている。
免疫系を活性化させるために、本来悪い菌で刺激するところを良い菌でありながら悪い菌と同じような刺激性を持っている菌を用いてヨーグルトを作ることで、免疫系が錯覚するような刺激を与えることでアレルギーを低減させる機能性ヨーグルトが開発されている。
2004年に新発売された花粉症の軽減が期待される機能性ヨーグルト
アレルケア(カルピス)
体内バランス調整に優れ、抗アレルギー効果が動物実験と臨床試験で確認されたL.アシドフィルスL-92 菌を使用。
KW乳酸菌ヨーグルト(キリンビール・小岩井乳業)
ヘルパーリンパ球のTh1/Th2のバランスをとる能力の高いL.パラカゼイKW3110 菌を使用、アレルギー改善機能が期待される。動物実験でもIgE量を減少させた。
7.インフルエンザとヨーグルト
最近の知見では、乳酸菌が菌体の外に作りだすある種の多糖類(EPS)が、最終的にはナチュラルキラー細胞の活性を高めることで、風邪に罹りづらくなるということがわかってきた。山形県と佐賀県で行った臨床試験でも、効果が実証されている。佐賀県有田町の小中学生1900人がラクトバチルス・ブルガリカスR-1株を用いて作成したヨーグルトを1年間食べたところ、近隣の伊万里市とか武雄市に比較しインフルエンザの罹患率が有意に激減したデータが得られた。
多糖類が100%有効に作用したかはわからないものの、この効果は間違いないと推察された。
8.肥満とプロバイオティクス
これまで腸内細菌叢の乱れは肥満の結果だと言われていたが、ある種の腸内細菌が肥満の原因の可能性があると指摘されてきている。
ラクトバチルス・ガセリ(ガセリ菌)SP株による、成人の腹部肥満症の制御は可能だという論文が出され、最近では「ヨーグルトで痩せる」とのダイエットへの新しいアプローチも可能になって来ている。
9.疾病原因菌の置換・排除・阻害肥満とプロバイオティクス
私どもの最新の研究内容を紹介したい。
炎症性腸疾患(IBD)における潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などが、日本の若年層でも急増している。UC患者は、日本全体では10万人を越える政府指定の難病である。UCの候補原因菌も単離されているので、これらをより優れたプロバイオティクスで置換・排除・競合阻害などが腸管内で出きれば、予防医学的にみて大いに期待がもたれている。
In vitro試験であるが、実験条件によっては80~90%の置換率(最初にバリウム菌が存在した場合、後から血液型付着性の強いビフィズス菌を食べさせることによる)を示すヒト腸管付着性の血液型ビフィズス菌も発見され、UC患者の「寛解維持」にも有効であることが期待されている。
治療などの将来的なビフィズス菌の高度利用を目指して、ヨーグルトのみではなく同菌を使用した経腸栄養剤なども考えている。
ヨーグルトを食べた時に効く人と効かない人と個人差がある。ヨーグルトの使われている機能性の乳酸菌はどなたかの糞便から採っているため、その人の血液型を反映しているということは十分考えられる。総じて、自分の腸内フローラの微生物波長にあった菌を選ぶ、ということが重要である。
私が皆様にお勧めするのは、調子のいい時のご自身の糞便中のいい菌を採って-80度に凍らせ「貯菌」しておくという手法です。将来体調が悪くなった時や加齢が進んだ時などに、自分の菌は腸管付着性が高いため、これを使うことで必ずくっ付き、免疫賦活化や抗ガン効果が期待できるというものです。私はこのシステムを、「腸内有用バクテリア銀行」として設立を提案しています。