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第96回 取材活動から感じる日本の酪農の強み・弱み
~海外の酪農事情も交えて~

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
Q1.とても本当に素晴らしい講演をありがとうございました。本当に韓国の話を聞いて、確かに日本もこれからこうなるなというので、すごく牛乳・乳製品ということを考えるのに勉強になる内容でした。また、デンマークはデンマークで確かにそうかと。デンマークって福祉国家のイメージで、農業も、動物福祉も頑張っていると伺うと、なるほどと思いました。ただ、この牛乳がアーラ・フーズ1社独占というのは驚きました。日本はいろいろな牛乳があって当たり前だったので、むしろデンマークもそんな感じかなと思っていたのですが、そうじゃないというのは意外な感じがしました。
あと、日本の生産者が減るというのは、規模を拡大しなければしょうがないなと思っていたのですが、この生乳の生産量も一緒に減っているというのは非常に問題だなと思うので、ここを何とかできないかなと、確かにおっしゃる通りと思いました。
1点教えてほしいのですが、乳牛1頭あたりの年間乳量で日本が8,000kgとありますが、何でこんなに差が出るものなのですか。
A1.
  • 私も日本の酪農の生産性は国際的にも成績が高いと思っていたのですが、まだまだ上には上があるようです。これは酪農に限らず、トマトなど野菜の生産においても、同じことが言えるようです。
  • 質疑応答
Q2.お米もそうですものね。確かに、飼料管理にこだわって、無理に量を搾らないというのも何かこだわりがあってということもあるのですか。
A2.
  • そうですね。北海道の農家に行った時のことですが、飼料の多くを粗飼料にして、濃厚飼料はわずかという牧場がありました。年間に牛1頭当たりの搾乳量は5,000~6,000kgでした。牧場主の話を聞くと、牛の健康を考えてそうしているとおっしゃっていました。無理して多く搾るのではなく、適量を搾り、牛には長生きをしてもらうといった飼い方を心がけていると言っていました。もっとも、多くの牛乳を搾っている牧場であっても、牛の健康に配慮しているところも少なくありません。
Q3.韓国でチーズの消費が急に増えたという話がありましたが、もともと韓国国内のチーズの生産というのは一定程度あったのでしょうか。輸入品が増える中で、国内の生産についてはどんな影響があったのでしょうか。
A3.
  • 輸入が増える前は、やはり一定程度ありました。スライスチーズとかさけるチーズとか、日本とほとんど同じような形のものを大手の乳業メーカーが販売しています。ただ、それはどちらかというと家庭用商品を普通に家庭で食べるという消費で、今韓国で伸びているのは外食で使っている、とけるチーズタイプです。その外食で増えている部分が、輸入物によってまかなわれたのかなと思います。
    国内乳業メーカーもそれをよしとしているわけではなくて、自分たちもこだわりのある乳製品を作りたいということで、牧場の名前を冠したチーズなども作り始めているようです。
  • 質疑応答
Q4.ありがとうございました。いろいろと興味深く伺いました。同じようなチーズの流れでお尋ねしたかったのですが、韓国のチーズを私はあまり存じませんのですが、パッと見た感じではいかにもトロリと溶けて、熟成が短くて万人向きみたいなチーズがたくさん使われているようですが、韓国でも山のチーズ的なものとか、熟成の長いチーズとかはあるのでしょうか。日本はずいぶん上手になって、立派な山のチーズがたくさん世界的な賞を取っていますが、韓国のチーズ界はどうなのでしょうか。
A4.
  • 十分に売り場をこまめに見ておりませんので、間違ったことを申し上げるかもしれませんが、やはりこだわりの牧場ブランドの熟成チーズは、日本ほどはまだ発展していないのではないかと思います。とにかくチーズそのものがこんなにおいしいのだということを消費者が知った段階で、辛い韓国料理にチーズを加えることでひと味違った料理になり、それはそれでおいしいねっていう評価になっている段階だと思うんです。
    ただし、韓国の人たちの、日本の6次産業化に対する勉強意欲というのはすさまじいものがございまして、もう毎月のように毎日のように日本に来たり、北海道でチーズづくりを勉強したり。私が知っている酪農家は、娘さんを北海道に研修に出してチーズづくりを覚えさせて、今韓国に戻ってチーズを作って、牧場発のチーズとして売っています。早晩日本のように国産のもの、また自分の農場の生乳を使った熟成チーズを作るという文化が生まれるのではないかと思います。
  • 質疑応答
Q5.大変面白いお話をありがとうございました。韓国のチーズの話も出たのですが、消費者はこういう国産がどんどん減っていくこととか、6次産業化みたいな商品が出ることへの関心は高まっているのでしょうか。
もうひとつ、デンマークでアニマルウェルフェアを熱心にやっていると思いますが、スーパーカウのように、あまりに乳を出させるためだけの酪農はアニマルウェルフェアではないという話もあり、これだけ乳量が多いって、多分ニュージーランドとかオーストラリアは放し飼いみたいなのでそんなに多くないと思うのですが、牛舎に入れてガンガン乳を出せみたいな感じだったら、ちっともアニマルウェルフェアではないと思いました。
A5.
  • 後半の方は私も存じないので、今後勉強させていただきたいと思います。一番目の質問の韓国の国産志向なのですが、私が見る限り、日本の方が国産志向は高いと思います。
    韓国も一時1995年ぐらいにWTO体制になって、輸入農産物がドッと入ってきた時に、身土不二、そして国産愛用運動ということが非常に広まりました。消費者が身土不二という自分のところのものを自分のところで食べようという地産地消運動を、国を挙げて行いました。こうした背景があるので、韓国は国産志向が高いと私は思っていたのですが、やがて食の西欧化が進んだり、輸入農産物が増えたりして、輸入品もなかなかおいしいという評価が広まってきたように思います。輸入品が増えた点は日本も同じですが、日本ではそういうなかでも「国産がやっぱりいい」とか、「地産地消を大事にしよう」という人は一定程度います。私は日本の方が国産志向が強いと思います。
  • ただ、先ほどのご質問にもありましたが、韓国でも国産の良さを打ち出す製品が開発されれば、あらためて、国産の良さを再度見直そうという動きがでてくるかもしれません。日本がそうであったように。私は国産チーズにこだわりたいとか、この地域の、この牧場のチーズを食べることに価値を見いだすという時代が来るかもしれません。
  • ただ、全般的には例えばFTAによってチリ産のブドウが増えて、国産のブドウが若干減ってしまったりとか、あるいはアメリカのチェリーが、こんなにおいしいものがあったのかということで、みんなどんどんチェリーを食べて、他の果物の消費が減ったりしています。
  • 質疑応答
Q6.韓国は生まれたらキムチを食べさせるとか、食育をやっているという話を聞いていたので。でもそれは理想であって、現実はガンガン変わっているんだなというのを興味深く伺いました。
A6.
  • キムチが嫌いと言いましたが、今でもお母さんたちは小さい子にキムチを洗って食べさせて、徐々に慣れさせてというのをやっているとは思うのですが、ハンバーグとかピザとか、そういうものの登場によって、多少食生活が変わってしまっているようですね。
Q7.日本の酪農の弱みというところで、慢性的な後継者・担い手不足って、これはもう当然と言いますか、よく分かることなのですが、韓国の酪農家が抱える課題のところを見ると、韓国の場合の後継者問題はどうなっているのでしょうか。
A7.
  • 韓国の後継者問題は深刻です。本日は、後継者不足については触れていません。韓国の農業全般でみると、日本と同じように高齢化が進んでおり、後継者不足は深刻です。このため、日本でも導入していますが、就農して間もない若者の所得を補填する政策を導入しました。確か、年100万円ぐらいを所得補填金として提供しています。そうしたこともあり、脱サラをした人が農業を始めるという動きが出てきました。韓国では、田園回帰が日本以上に進んでいます。ただ、この人たちがすべて農業をやっているというわけではなく、都会で身につけた技術とかノウハウを生かして、それを農村に持ち込んで、起業するという人が増えています。今はなくなったのですが、農業大学校や専門学校に通った子は兵役も免除して、農業後継者を増やそうということもしていました。それぐらい後継者難だということでしょう。日本でも同じですが、若い就農者への所得補填によって、就農者が増えるかどうかを見極めるには、今後の動きをみる必要があるでしょう。
  • 質疑応答
Q8.最後に弱みをカバーしていくための課題ということで挙げられた3つですね、ここのところが実は日本は非常に不得手なところではないかと思っています。
例えばこの一元化されたデータ管理及び活用というところですが、例えば消費者問題に関する緊急の相談に応じるようなシステム、あれも実は日本では私は決してうまく行っていると思わないんですね。というのは、つまりITの利用にしても何にしても、非常に全国がバラバラで、一元化して全国で共通のシステムを使おうということがとてもうまく行っていない国だと思うんですね。それに対して韓国は今、マイナンバー制度にしてもすごく徹底してやられていて、あるいは一般の国民のパソコン利用に関する教育は徹底的に行われていて、そういう意味では、韓国は日本よりもはるかにこの点で進んでいると思っていて、そういう意味では、この最後の3つというのは、実はこれは課題と言うよりも、日本の弱みなのではないかと。本当にこういうことが解決されるのだろうかというのが、私はお話を伺った上での感想です。
A8.
  • おっしゃる通り韓国は、トップダウンでものごとが決まることが多いので、酪農の課題に対しても、現状を打開するような対策が今後、トップダウンによって採られるかもしれません。ただし、韓国の農業関係者によると、韓国の農業予算は日本に比べて少ないそうです。そのせいか、韓国の農業者たちが日本に視察などで来ると、日本の農業者を見てうらやましいと言います。補助金頼みの農業は見方に寄れば、弱みになってしまうかもしれませんが、いろいろな分野で助成金が出たり、貿易自由化の影響を最小限で抑えるための保護策がとられており、韓国の農家にすれば、うらやましく映っているのは確かです。
Q9.韓国の話が面白かったのですが、白い牛乳が85~86年で伸びていますよね。倍増ぐらいになっていてすごくびっくりしたのですが。これは政策とか、政権があの頃軍事政権から変わったとか、そういうことで政策なのでしょうか。急に牛乳を飲むように、85~86年のところですね。それだけ急増してちゃんと間に合うような状況だったのかなって。これだけ酪農家が減っているっていうのがその前ぐらいからありますが、その前は結構酪農家の数は多かったんですよね。多分小さいところがいっぱいだったのかもしれないけれども。
A9.
  • 1980年代に韓国経済が大きく飛躍したこと、学校給食が1980年代初頭から始まったこと、また同年代半ばから、生乳生産の川上から川下までコールドチェーンによる物流が整備されたことにより、需要が急速に伸びたようです。
  • 質疑応答
Q10.白い牛乳がすごく急速に伸びているので面白いと思いました。あと、日本でも問題になっている飼料は輸入物が多いのですか。
A10.
  • 日本とほぼ同じで、全面的に輸入に頼っていると思います。飼料の価格を日韓で比較したことはありませんが、以前、韓国の柑橘農家が農業資材の仕入れ価格を日韓で比較し、韓国は日本の農家よりも高いと言っていました。日本は韓国に比べれば農家数が多く、ロットをまとめることで価格交渉ができますが、韓国はそもそも農家数が少ないため、ボリュームディスカウントができないので、同じ輸入依存型の農業であってもコストがかさむと言っていました。
Q11.動物福祉、アニマルウェルフェアというのが最近EUでもすごくうるさく言われてきているという話をいろいろ聞いています。それで例えば鶏なんか平飼いをするのがいいと言われていますが、実はそれを日本でやろうとすると衛生面で問題があるのではないかとか言われているのを聞いたりしました。
お伺いしたいのは、具体的にこのデンマークの場合で結構なのですが、20ページと21ページにあるように、環境保全ということと動物福祉の規制が断続的に厳格化されていて配慮が求められているという件で、それぞれ具体的にどのような項目のようなものが求められているのか、ちょっと具体例をお教えいただければと思います。
A11.
  • アニマルウェルフェアでは豚のところはお話をしましたが、母豚には自由に動けるスペースを確保したり、と畜の際には苦痛がないような方法でと畜されます。また同じ空間で豚を飼うと、強い豚が弱い豚のしっぽをかみ切る恐れがあるので、子豚のうちに断尾するのですが、麻酔せずに断尾することを禁止しています。このように一定の条件を満たした豚肉などには動物福祉の基準をクリアしたことを証明するラベルを貼ることができます。
  • 質疑応答
Q12.26ページのオーガニックの比較のところで、オーガニックと言っても国とか物品によって定義が違うと思います。この場合のオーガニック牛乳というのはどのような定義なのか教えていただければと思います。
A12.
  • アーラフーズのホームページによると、オーガニック牛乳には主に次のような定義があります。
    ・牛は放牧が義務(一般の牛乳はオプション)
    ・放牧期間は4月15日より11月1日まで行い、最低6時間の日照時間で放牧する(一般の牛乳は6ヶ月の放牧だけが義務づけられている)
    ・1頭あたりの放牧面積:0.1~0.2ヘクタール(一般の牛乳は定義なし)
    ・牛舎における1頭当たりの面積:6㎡(一般の牛乳は定義なし)
    ・エサは、飼料に関する法律に則り、かつ100%有機栽培により生産された飼料(一般の牛乳は飼料に関する法律に則った飼料を用いる)
    ・投薬後、出荷を停止する期間:薬品により求められる期間の2倍(一般の牛乳は薬品により求められる期間)
    ・出産後1日間は子牛は母牛と同じスペースで飼育(一般の牛乳は定義なし)
  • 質疑応答
Q13.35ページで、3つほど先生が課題として挙げられているのですが、特にデンマークを参考にしているということですが、デンマークでは一元化されたデータ管理及び活用というのは、具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
また、先ほど実動労働時間が後継者にとって問題と言うか、長く働くのが嫌がられているというお話だったのですが、例えばITの活用などによって実際にデンマークでは実動労働時間が減っているのか教えていただければと思います。
A13.
  • データ管理をするとどれぐらい労働時間が減るかについては、現地で調査しておらず、十分にお答えができません。
    データベースの活用についてですが、デンマークでは、飼養されているすべての牛の乳量、乳成分、体細胞数、飼料給与状況、飼料単価、乳価、繁殖記録等といった記録がデータベースとして保存されています。また、話を聞いて印象に残っていることは、全国の牧草地までデータベースが構築されていることでした。たとえば、自分の地域名を入力すると、その地域ではどういう種類の牧草を、どういう組み合わせで捲くのがよいかということが瞬時にわかるようになっています。恐らく日本の農家も経験では分かっていると思うのですが、地域名を入れるだけでベストバランスの草の種類や割合も分かり、時間の短縮になるということがあります。
  • 質疑応答
Q14.非常に個人的な興味なのですが、韓国に何回か行かれて韓国料理をたくさん召し上がっていると思うのですが、そこに牛乳が使われている料理があったり、注文すると牛乳を持ってくるとか、牛乳はどの程度韓国に溶け込んでいるのでしょうか。
A14.
  • 韓国の宮廷料理で、お粥に牛乳を混ぜる「牛乳粥」という料理があるそうです。話がそれますが、日本ない牛乳文化として、銭湯に行く人が、浴室に牛乳を持ち込んで飲む習慣があります。今もあるかどうかわかりませんが30年前は一般的でした。銭湯に行く時の必需品といえば歯ブラシと牛乳なのです。湯船に浸かって牛乳を飲みます。日本でも「銭湯で牛乳」という習慣がありますが、飲むのは風呂上がりですね。それから、普段の食生活の中で子どもの加工乳はとても定着しています。
Q15.韓国では給食で牛乳は飲みますか。
A15.
  • 飲みます。給食は今だんだん無償化の傾向があり、小中学校は大体無償化なのですが、高校もこれから無償化しようということです。あとは有機とか環境保全型特別栽培も使おうということで、そちらは日本よりも進んでいますね。食育をしっかりやろうというところはあります。
Q16.先ほどオーガニックの話が出ていたのですが、最近日本でもイオンがビオセボンっていうのを展開して、本格的にオーガニックの製品をスーパーマーケットみたいな形で展開していますが、このあたりは日本はどんなふうに展開されるのでしょうか。
A16.
  • 日本はきわめてオーガニックの勢いが弱い国だと思います。今やEUでは市場規模が4兆円近くで、アメリカでは5兆円近く。これに対して、日本が今1,800億円ぐらいだそうです。有機農業の取組面積は、全耕地面積の0.5%程度といわれています。
    今ちょうど農水省の食料・農業・農村政策審議会のなかに、果樹・有機部会がありまして、世界の潮流としてオーガニックマーケットが急激に増えるなかで、どうすれば日本でもマーケットを広げられるかという議論をしています。なぜ、海外の動きとは対照的に、日本ではなかなかマーケットが広まらないのかということも議論のひとつに入っています。日本では産物と一言でいっても、有機JASの認証を取得したものと、認証を取っていない有機がある。また、特別栽培農産物があり、さらにはエコファーマー農産物があるといったように、安全性を唄う農産物といっても、さまざまな定義、コンセプトの農産物があり、消費者にはわかりにくい。これが市場規模が小さく留まっている要因のひとつではないかという意見が出されました。JAS有機の認証が始まって20年近く経ちましたが、一般消費者に聞くと、有機よりも「無農薬栽培」がもっとも安全性が高いという意見が多いそうです。このため、いろいろある基準をある程度整理したほうがいいのでという議論もされています。牛乳に関しては、有機で生産されたものは少ないと聞いておりますが、日本でどれぐらいあるかご存じの方はいらっしゃいますか。
    ちなみに、先日、東京でおこなわれた「北海道チーズ展」に行った時、かなりの数のチーズが紹介されていましたが、有機チーズはわずか1種類だけでした。
  • --日本乳業協会から回答--
    正確なことは覚えていませんが、オーガニックは餌から始まるので、まず食べさせる飼料は、多年生作物の場合は3年間化学肥料と化学農薬を与えないとか、そういった基準があって、濃厚飼料も含めてとなると、そういう飼料を調達するのは難しいという問題があります。
    あとは放牧地とか草地も一切化学肥料と化学農薬を与えないで3年間(注:多年生牧草の場合は2年間)過ごさなければいけなくて、その間に相当収量が落ちてしまいます。乳の量もそれに合わせて落ちますので、その期間持ちこたえられるかという非常に厳しい課題があます。それでなかなか増えない面があるという気がします。何社かやっていますが、あまり増えていません。
  • 質疑応答
Q17.多分、有機と普通のものとで味がすごく違うなら売れると思うのですが、多分目隠して食べたら分からないから無理だと思うんですね。やっぱり普通に旬のものを食べればそれなりに減農薬じゃなくても普通においしいので。農水省は農家の収入を上げようとして有機に力を入れたいのだと思うのですが、あまり成功しないのではないかと思っています。だから牛乳で有機がどれぐらい日本で売れるでしょうか。今、牛乳は日本だとやっぱり150円から200円ぐらいの1Lパックが有機だと多分300円ぐらいになっちゃうと無理だろうなと。価格的に厳しいかなと私は思います。
A17.
  • そうですね。牛乳は毎日飲むものなので、消費者として価格に敏感になるのは仕方ないと私も思います。私も一時低温殺菌の牛乳を飲んでいました。味は明らかに違い、おいしいと感じました。ただ、280円とか300円となると、継続的に買い続けるのはむずかしく、通常の牛乳に戻りました。ミルクのおいしさがストレートに感じられるので、飲みたいとは思うのですが。有機の場合、通常の牛乳と明らかに違うというより、生産方法に対してどこまでその価値観を共感できるかということになり、伝え方に工夫が求められるように思います。
Q18.お話を聞いていて有機栽培の野菜はいっぱい食べる人がいてもつかどうかという話だったのですが、うちの娘が連れ合いの転勤で今上海に暮らしておりまして、もう10年目ぐらいになっているのですが、食材を集めるのに心配ではないか、親の方が日本で心配していたんです。そうしたら日本人社会で、日本人が向こうで無農薬野菜を作っていて、それを日本人相手に売ってくれるから大丈夫よと。どこまで大丈夫かは分からないのですが、そういういう形で自衛を図っていたみたいです。
今日お話を伺っていて、動物福祉の話と、ついこの間もありましたが、豚コレラでの殺処分という言葉。この言葉二つが成り立たないって言うか、並立するのがとても不思議な感じがして。もしデンマークで豚コレラみたいな、あるいは鳥インフルエンザみたいなそういう病気が起こった時は、どういう処置をなさるのでしょう。
A18.
  • 家畜伝染病と動物福祉は切り分けて考える必要があるように思います。殺処分される家畜の映像は確かに見ていて心が痛みますが、蔓延を防ぐには他に方法はないのではないかと思います。
    動物福祉についてですが、基本的にはできるだけ快適な環境で、良質な栄養を与え、苦痛やストレスのない状態で飼育すべきだという考えに基づいて飼育や処置をしようという概念です。
    早くから動物福祉に着目し、現在も先進国として厳しいルールが敷かれているのはEUです。1960~1970年代から動物福祉の重要性を訴え、1990年代に入り、次々と法制度を作りました。EUでは一定の要件を満たす農家に補助金が支払われますが、動物福祉の遵守も支給の条件のひとつになっています。
    日本では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村等で提供される食材の調達条件のひとつとして、「動物福祉の考え方に対応した飼養管理がされていること」が明記されました。つまり、オリパラの食材としての条件を満たすには動物福祉への対応が求められるようになりました。
    こうした考えが打ち出される前から、日本でも多くはありませんが、動物福祉に配慮した飼育方法を実践している畜産農家がいます。そのひとつの養豚場に行ったことがあります。養豚場は、動物福祉の考え方に基づいた設計になっていました。たとえば、出荷直前の豚がいる豚舎には、自動的に豚の体重を測る「オートソーター」という装置がありました。豚1頭だけが通れる大きさで、床が体重計になっています。もし出荷に適した体重であれば、自動的に扉だけが開く。基準以下であれば、再び給餌の部屋に通じる扉だけが開く。多くの豚の中から取引先が求める体重の豚だけを探し、その豚だけを出荷のための部屋に追い込むのは豚にとってもストレスになる。このストレスを軽減する装置でした。
     もう一つが「フリーストール」というものです。母豚は人工授精から妊娠・出産までの期間、ストールという柵で過ごすのが一般的です。しかし、この養豚場では、人工授精後から出産1週間前までは、一定のスペースで群のなかで飼育されます。自由に運動もできるわけです。ただ、こうした動物福祉の取組によって、豚肉に付加価値が付くのかというとまだそこまで行っていません。もし、消費者が動物福祉は望ましいことだから、実践している農家の豚肉であれば、100gあたり150円が200円になっても、「ぜひ買おう」となれば、多くの農家が前向きに取り組むのではないかと思います。単に生産者だけに動物福祉を求めるのではなく、消費者の理解や支持があってこそ広まるように思います。
  • 質疑応答
Q19.さっきのオーガニックやアニマルウェルフェアの話と関連して、乳脂肪分の違いで。いろいろな商品が売られているとありました。27ページの方ではオーガニック牛乳は買い取り価格に上乗せされるとありました。例えば消費者が選択する時に、オーガニックとか、ちゃんと環境規制を守っていますよとか、動物福祉をちゃんとやっていますよとか、そういうマークがあって、何か選択できるようになっているのか。そして価格には反映されているのかお伺いしたいのですが。
A19.
  • オーガニックは確かオーガニックミルクとパッケージに表示されておりましたので、誰が見ても分かると思うのですが、動物福祉とか環境に関しては、表示そのものはなっていないと思います。また、動物福祉を遵守しているからといって小売価格に転嫁されるということもありません。ただ、EUの共通農業政策のなかで、動物福祉を遵守することが、農家に支給される直接支払いの条件の一つとなっているので、消費者が負担をするというより、政府が負担をしているという考え方だと思います。
- Q&Aの補足:森永乳業株式会社 東倉執行役員からのコメント -

少し補足をさせてください。アニマルウェルフェアとか環境関係のことが小売価格に直接のっている国はほとんどないと思います。ただ、補助金を支給する前提として、例えば何かの環境規制に応えることを生産者に課している場合はあります。また、アニマルウェルフェア基準をきちんとやっているところには、ちゃんと補助金をあげますという施策などもあるようです。そういう仕組みがあるので、逆にそのような規制に沿って生産者はしっかりやるっていうことは、ヨーロッパでは特にあるようです。日本はまだ残念ながらそこはありません。

それから1頭あたりの年間乳量を国際比較について、最初の方で国別に乳量が何でこんなに違うのかという議論があったので、少し補足をさせていただき、日本の酪農家を少しフォローしたいと思います。

なぜ違うのかというと、まず牛の品種の問題、餌の違い、環境、改良などがキーワードになると思います。一番の差の原因は餌が違うことによります。例えば極端な例では、ニュージーランドやオーストラリアは乳量が少ないですが、ニュージーランドはほとんど濃厚飼料と言われる穀物を給与しておらず、放牧して草だけ食べさせている。そうするとこれぐらいしか乳量が出ないということがあります。オーストラリアもそれに近い飼い方をしています。

それから一つ気を付けなければいけないのは単位です。「kg ECM/yearcow」とあり、これは1年間にどれだけ搾れるかを指していますが、このECMというのは乳成分で補正をしているということです。濃い牛乳の乳量が多くなるように補正をしています。薄いとたくさん乳量が出ます。これを補正しているので、若干バイアスが入っています。日本の牛乳は他の国に比べると薄いので、そういう意味では量はもっと出ています。
日本の牛乳は飲用に使うケースが多く、60%以上が飲用向け牛乳になっています。ただ、薄い薄いといっても乳脂肪分が3.5%~4.0%ありますので決して薄くはないのですが、ニュージーランドとかヨーロッパは乳製品に向ける乳が多いので、もっと濃く搾る傾向があります。濃いと1kgの生乳から得られる乳製品の量が増えるということで、乳業メーカーからするとその方が歩留まりが良くなりますが、濃い牛乳になると乳量は少なくなるので、濃い牛乳はこの絵で言うと多く出るように見えているということです。そういう意味で、日本の牛乳は大体、何も補正しないと9,000kgぐらいは出ていると思います。

また、気候や環境も大きな影響を及ぼしています。デンマークの地図でいうと、ホルスタインという牛は、このデンマークのちょっと南、ドイツの北側にホルスタインという場所があってここの原産です。つまりホルスタインにとっては、デンマークとかドイツとかオランダが出身地なので、そこが一番適した環境というわけです。ご想像の通り非常に涼しいところです。牛は草を食べておなかで発酵をさせますので、おなかの中で熱を持ちます。ですから非常に暑いのが苦手な動物です。このあたりは大体気温が20~30度がいいところで、30度も行かないですよね。また、ホルスタインの場合は温度25度、湿度60%を超えるとストレスを感じると言われているぐらいですが、日本の場合に置き換えると、その環境は実は梅雨のころで、それを超えてからの夏はさらにあがりますよね。最近はさらに温暖化が進んでいるので、牛にとっては本当に過酷な環境のなかで、酪農家さんは何とか牛舎の中を涼しくしようと頑張ってくれています。例えば埼玉では40度超えという中で、頑張って牛を搾っている方がたくさんいらして、そういう方のところでも牛は1頭あたり1年間で8,000kgぐらいは十分搾っていらっしゃる。そういう意味で、非常に頑張っていただいていると思っています。

それと、先ほどのアニマルウェルフェアと関連しますが、ここに示された数字は1年でどれだけ搾るのかという数字です。では一生涯でみるとどうなのだ?というところが、アニマルウェルフェアの観点で非常に大事だと思っています。残念なことに日本ではそこはまだまだ足りていないところがあり、1年に9,000kg~約10,000kgほど搾ってはいますが、平均で一生涯に2.7回ぐらいしかお産ができない、つまり2.7回ぐらいしか搾っていない状況です。単純に計算すると一生涯で約30,000kg搾っているかどうか、という数字になりますが、例えばニュージーランドなどでは、10年ぐらいは普通に搾っているというところもあります。そういう意味では、1頭について生涯で何kg搾るのか、ということのほうが大事ではないかと、いま酪農家の中でも少し潮目が変わってきていて、そういう飼い方をしようという人たちが増えています。つまり1頭あたり一生涯に40,000kg~50,000kgぐらい搾ってあげようよと。その方が牛にも優しいし、もっというと、赤ちゃんをたくさん産んでくれた方が商売のプラスにもなるし(実入りもいいし)、ということにもつながります。そういう考えが、遠くからですが結果的に動物福祉へと近付いてくると思います。

今までの日本では動物福祉という概念がさほどありませんでした。きちんとした規格や取り組みがようやくはじめられてきたところなのですが、じゃあ、できていないのかというとそうではなくて、牛を大事に飼おうという酪農家の方々はたくさんいらっしゃいます。一番足りないのは面積で、みんなを放牧させるとか、広いところで飼うことは、十分にはできていないかもしれませんが、生産性に直接結び付くところでもあるので、牛にストレスを与えないで飼う、という方向に向かわれていると思います。

それとこれは個人的意見ですが、一番気を付けなければいけないのは、アニマルウェルフェア、つまり動物福祉と、愛玩動物の飼育における動物愛護とが、日本の場合は少しごっちゃになっているなという気がします。
動物愛護というのは、どちらかというと“かわいそう”とか“かわいい”といったことで、それと産業動物は必ずしもイコールではないだろうなと思います。だからそこのところをはき違えないように考えていかないと、日本の風潮としては、何となくファッションのように進みかねないので危ういなという気がしています。動物愛護と動物福祉をひとまとめにして考えはじめると、おそらく何もできなくなるような気がします。そこら辺が少し気になっているところです。