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第88回 食料クライシスの引き金、それは畜産物の激減

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
Q1.とても北海道というのは酪農に向いている地域かなと印象として持っているのですが、寒暖の差も激しいですしね。北海道のゴルフ場を見た時に牛が歩いているんですよね。何か草を食べているのです。ゴルフ場は追い出さないのですよ。だから共生しているのかなと思って。そんなふうに慣れ親しんでいるのですが、酪農の牛にとって一番住みやすい環境というのはどういうところなのでしょうか。
A1.
  • 牛というのはもともと草原である程度仲間で生活していた動物です。単独ではないです。それでおそらくはそういう意味で言うと、ある程度近いエリアで、仲間がいるということがおそらく安心しているのではないかという気がします。というのは、牛というのは面白いもので、放牧しておきますと大体出産時期も同じです。野生の牛です。そうすると、出産時期は大体同じですから、5頭も6頭も1か所に子牛が集まってくるのです。親が集めるのですが。そこに必ず若い雌牛が保母役でいて守っているわけです。そういう習性があるのです。ですから、牛というのは基本的に単独よりは集団である程度広いところですが、それが一番安心しているようです。ですから、おそらく放牧していても、そんなに散らばらないです。ある程度は散らばりますが、餌の関係で。でも、こっちの牛があっちに行ったとかいうことはあまりないのです。結構見えるところにいるのです。
Q2.けんかして追い出したりは。
A2.
  • 牛はけんかをほとんどしません。雄がいたらどうか知りませんが、雌牛はほとんどけんかをしないです。狭いところで50~60頭飼っているところは、結構ありますけど、私は少なくともけんかをしている姿は見たことがないです。結構仲がいいです。
Q3.逃げ出す牛はいないのですか。
A3.
  • 逃げ出す牛はそれは牛の勝手ですから、これはしょうがないのですが。今は電線で囲いますから、ビリッと来るともう近くに行きませんから。北海道ではたまに逃げて、汽車にぶつかったとかそういうのはありますけど、まあ今はないでしょう。
  • 質疑応答
Q4.私もスーパーカウっていうのを聞いた時に、これはやっぱり牛にとってはあまりに過酷ではないかと思って。牛のオーバーワークに対する反撃がそろそろというお話を伺って、いや、確かに人間に都合良く変えてくるのが家畜ですが、最近の科学技術はちょっと行きすぎているところもあるのかなということは感じておりました。
先生のお話しの放牧で飼うという動きは、既に日本でもいくつか始まっているとは承知しているのですが、もう改良に改良を重ねてきた今の牛が元に戻るっていうのは、これは多分難しいとは思うのですが。そうすると、よそから連れてくるということしかないのでしょうかということですね。
あとはニュージーランドの話が出ましたが、オランダとかデンマークみたいな酪農大国というのはどういう現状なのでしょうか。
あとは今現在、日本で産出しているぐらいの乳量を、先生がお話しされたこれからの酪農で得るとすると、牛の頭数というのはかなり増やさなければいけないのでしょうか。それはどのぐらい必要で、それを飼うだけの日本に国土はあるのだろうかというあたりを疑問に思ったものですから教えていただければと思います。
A4.
  • 今、日本に出の悪い牛がいるかということで、最初の質問だったのですが。おそらく今、牛群検定で見ますと、あ、これは駄目な牛だよっていうのはいます。乳があまり出ないという牛がいます。だから、それが第1候補になるかと思います。それが多いのですが、でも元に戻るかというと、これ今どう改良するかというと、優れた雄牛を交配するんです。そうでない牛を交配すれば、当然能力は下がっていきます。あとはオランダの話ですが、これは日本とは全然違います。一つは動物福祉というのがキーワードになっておりまして、牛は本来草で飼うものというのが生業ですので、日本で言うと有機牛乳になりますかね。それでそもそも配合飼料を食べさせることはあまり行われていません。それで今、有機牛乳ってすると、値段も高く付けていいことになっているのです、EUでは。値段が高いのです。これ、その代わり昔の牛のやり方で飼っていますよというレッテルを貼ると、高く売ってもいいのです。そういうことですから、場合によっては日本もそういうことが可能になるかもしれませんが、一部なっています。500mlで500円なんていう牛乳があるでしょう。あれは大体そういう牛乳です。EUではそこまではないですが、そういうことで特に動物福祉という点で言うと、日本とは少し相容れないところがあります。
    それから3番目ですが、計算したことがないのですが、一つは牛というのは二つ役目がありまして、一つは牛乳生産。肉質は悪いですが、牛肉生産というのが可能になっているのです。それで、多少増やすことによって、頭数は増えなければいけないのですが、それが肉資源として、決していい肉ではないです。でもそれが実際に使われています。ですから、日本で今6割が中級牛肉なのです。要するにホルスタインの肉と輸入牛肉。ですから、まずいと言ってもそれほどまずいわけじゃなくて、霜降り肉が異常なのです。ですから、そういう意味で言うと、どれぐらい頭数が増えるかというのを実は試算したことがありませんが、大体はやってやれないことはないです。ただ、そういう肉としての利用というのも出てきますから、全く乳だけを考えなくてもいいですということになります。
Q5.今大体廃用牛でやっているのは4回ぐらいというお話がありましたが、8回ぐらい生ませようというのが先生の将来へのプロジェクトなのですが、それでも肉質はそんなに落ちていかないのですか。
A5.
  • やはり悪いでしょう。ただ、さきほど言った8回というのは、昔の飼い方で行くとそれぐらいのお産が普通であったということで。今、結構増えているのは何かというと、最初のお産の時、雄の黒毛和種と交配することが多いのです。それで黒毛和種と乳牛のF1の交雑ですね。それが今日本で大体、30%から35%が黒毛和種の血が入った肉牛です。それぐらいになっています。それは高く売れます。ですから、8産目の母親の肉は多少悪くても、最後それを生ませれば経済的には大体乳牛より1.8倍から2倍値段が高いですから。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q6.放牧の土地というのは、富山県と同じぐらいとお話しされましたが、休耕田って普通に住宅地だったり、平場と言うかそういうところにありますね。で、今周りもそういうような人が住んでいるようなところも含めて休耕田っていっぱいありますが、それでもなおかつ先生はそういうところにも放牧をしていこうと。面積だけで言えばそうなのかもしれませんが、その辺はどうなのでしょうか。
A6.
  • 私はそれは放牧するというのではなく、そういう土地を使って牛の飼料を作ればいいと。放牧はやはり山だと思います。今、とても人の住まなくなった集落が多いですから。そこはもう近くに人家というのはほとんどありませんから。おそらく放牧するとすれば、そこら辺になると思います。人間の近くで飼ったら、においがするとか、鳴き声がするとか、できないです。私も昔住んだところで、自転車で5分ぐらいのところに、30頭ぐらいの酪農の方がおられたのですが、昔は野原で何もなかったと言うんですよ。ところがどんどん住宅が増えてくると、分かっていたはずなのに臭いとか、ハエが出るとか、鳴き声がするとか、そういうので結局廃業しました。だから人間がいるところは無理だと思います。
Q7.大々的にプロジェクトを組んで、そういう廃村だったり、普通に何もない状態で放牧できるような状態にするにはかなり大がかりでは。
A7.
  • 私は、そういうことを専門にやるような人材を育てなければ駄目だと思っているのです。簡単に言ったってある程度そういう専門知識がないとできるものではありませんので。ですから、それこそ儲けが出るまで時間がいっぱい掛かりますから。もうそれこそ税金を使ってもいいと。それぐらいの気構えでやらないと駄目だろうと思います。補助金の一部を使えば何でもできますよ。
Q8.なかなか何かやろうということは大変なことですね。そして、日本は割と山岳でほぼ激しかったりして、岩山とかが多くありますね。そうすると飼った牛をまとめて搾乳するという手間は、牛がいるところへ行って集めるわけですね。
A8.
  • さきほど言った搾乳ロボットというのは、牛にちょっと教えますと、自分でトコトコ歩いてくるんです、乳が張ると。牛の方が。ですから、集める必要は全然ないのです。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q9.搾乳ロボットは、今、日本ではいくら位するのですか。
A9.
  • 私が聞いたのは300台ぐらいで、1台3,000万円ぐらいします。ですが、頭数と使用期間で言うと、人を雇うより安いそうです。ただ、60頭が管理できるマキシマムですので、60頭単位で増やしていかないといけないんです。80頭だと1台では間に合わないし。かといって2台入れると少し余るし。そういうことがあって、今おそらく私が聞いたよりはずっと増えていると思います。
Q10.一般の消費者から見て、放牧の牛の乳の方がいいという、何か栄養面とか清潔さとか、何か良い点、長所がありましたら教えていただきたいということ。それから先ほどから出ています、例えば山で住まなくなった集落で放牧するという場合などですが、規模は大規模に集約されたものでなくても、小規模でも採算が成り立っていくのかどうか。先ほど、ロボットは60頭単位とお話しありましたが、ロボットも改良していけばいろいろ何頭っていうのは変えられると思うので、その放牧が成り立つための規模というのはどのぐらいなのか教えていただければ。
A10.
  • まあ放牧で飼った牛乳がすばらしいかと言われると、それはちょっとよく分からないのですが。ただ、乳房炎っていうのはこれ、細菌感染で起こります。それでほとんどそれは牛舎の中で飼われているものです。それで大体床から感染することが多いのですそれはもう微生物のたまり場ですから。そういう意味で言うと、おそらく綺麗な牛乳が得られるだろうと。
    栄養面から言って特別優れているということは、牛の乳ですので、それほどあるとはちょっと思えないのですが。でも、それをよしとする人は必ずいますので、まずはそこを対象にするということになります。
    それで、小規模の搾乳ロボットがあるかないかということなのですが、おそらくこれは実は搾乳ロボットを作っているのは、主要メーカーは3社しかないのです、世界で。だから日本にあるのは全部オランダ製なのです。それでそれが60頭ぐらいということになりまして。1990年代ぐらいだと思いますが、日本の研究所でも搾乳ロボットの研究を始めたんです。これから必要だろうというのでやったのですが、1年ぐらいたって少しは進捗したかと思ったら、開発禁止令が出ました。ですから、日本的なものに合わせて作ったのであれば、おそらく60頭ではないと思います。ちょっとそこら辺は分かりません。ただ、日本で開発をやめたということだけは事実です。そんなの必要ないと思ったのでしょう。
Q11.搾乳ロボットは、そんなにすばらしいのですね。
A11.
  • たまに1割ぐらい、搾乳ロボットが嫌いな牛がいるそうです。そうすると、それは人間が絞らないと駄目なんだそうです。ただ、機械はちゃんとはじくんですよ。こう行って、機械の入るところに入らないと、自動的に扉が閉まって、そういうところはみんなある1か所に追い込まれるんですよ。ここに入った牛は、手で搾乳しなきゃ駄目だなって。1割ぐらいいるそうです。
  • 質疑応答
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Q12.私たちは乳牛というと、すぐにホルスタイン、あるいはジャージーとかって、例えばこれは脂肪が多いとかってありますが、乳牛は種類は多いのですか。
A12.
  • そんなに多くはないです。今、例えばインドとか行きますと、全く別の種類がいるのですが、先進国で言うと、スイスではブラウンスイスがいるぐらいで、あとはやはりジャージー・ホルスタインが多いです。あとはマイナーなのはいますが、少なくとも日本にはその二つしかいません。ジャージーが1万頭ぐらいです。ブリティッシュフリーシアンというのがこれ、ホルスタインの一種なのですが、これイギリスの牛なのですが、実は乳の出は悪い。だけど肉質が結構多いんです。だからイギリスは乳も肉も、ある程度両立させようとして作った牛がブリティッシュフリーシアンなのです。ですから、ホルスタインはあくまでも乳専用ですから、肉質をある程度犠牲にしていたということは仕方がないことなんです。おそらく日本にはそれしかいません。
Q13.同じ人間でも、おっぱいが大きくてもあまりお乳が出ない人っていたりしますよね。牛もそういうことってあるんですか。
A13.
  • それは分かりませんが、一つ言えることは、乳がたくさん出る牛になると、乳房は大きくなります。これは事実です。生まれた時からではないです。それでどうなるかというと、私も牧場で見てびっくりしたのですが、ブラジャーをしています。要するに地面をこするわけです。ですから、普通の牛はそんなことはないですし、踏んづけることもないのですが、あまり大きくなりますとね、ブラジャーをして。かっこよく見せようということではなくて、乳頭を傷つけないように。
Q14.大きければたくさん出ると。
A14.
  • それは言えるようです。はっきりしたことは分かりません。ただ全体にそういうことは言えます。人間の場合は、飲ませるのが下手だとかっていうのもあるでしょう。出が悪いとか出ないと言うよりも。結構保健師さんに聞きますと、飲ませ方が下手なお母さん、結構多いそうです。それが乳が出ないというふうに。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q15.お乳の出が良くなるのにマッサージをしますね。牛もするのですか。
A15.
  • それはしないです。
Q16.もう既に今でも牛が集まってきて、それで実際の搾乳はもう機械を使って搾乳するという設備を使われているところはたくさんあると思うのですが。つまり、ロボットとそのそういう搾乳設備と言うか、それの一番の違いというのは何ですか。
A16.
  • 一番大きいのはロータリーパーラーと言って、1回に10頭か20頭搾乳するのですが、その一番の違いは搾乳時間が決まっている、決まっていないんです。搾乳ロボットは、牛が乳が張って、絞ってほしいなと思って自分でトコトコ行く。だから24時間かまわないんです。真夜中でも来ます。ところが人間が集めてする機械。それは人間の時間に合わせて絞っているのです。ですから、朝例えば5時だとか、夕方の5時だとか、もう時間が決まっているわけです。だから必ずそこに人がいなければいけない。それが一番大きな違いではないかと思います。
Q17.これからの課題と言いますか、付加価値ある牛乳を開発するって大事なことだと思うのですが、先生のお話を聞いていると、国産の稲藁だけで育った牛のミルクですという売り方は、その放牧をさせる消費者側からのバックアップになるような気もするのですが、その辺ぜひ乳業メーカーの方に研究・開発していただけたらと。ご感想がおありでしょうか。
A17.
  • 日本でやはり一番問題になるのは、稲藁の場合は農薬の問題がありますす。農薬をいかに入らないようにするか。しかも解毒性と言ってもかなり脂肪に解けやすい農薬が多いものですから、場合によっては、牛乳の脂肪の中に入ってきます。それで、もし宣伝するのであれば、脂肪の中に全くこういう農薬が含まれておりませんと。今の状態でもできます。そういうやり方というのは、安心かなと。特に若いお母さんたちは非常に敏感ですから、できれば脂肪の中の農薬類を調べるっていうのは、非常に簡単なことですから、うちのこのミルクはもう調べた上で入っておりませんと。では他のは入っているのかと言われると困るのですが、特に若いお母さんは、それだけ子育てで敏感ですから、場合によってはセールスポイントになるかもしれません。