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第79回 発酵食品としてのチーズの機能特性や楽しみ方

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 5. 牛乳成分と微生物の共同作用 -

原材料と微生物、メインの微生物である乳酸菌と共同作用によって、発酵乳製品やチーズにはどのような機能が付与されるのかについてお話を致します。牛乳が微生物の力によって他の食品へと形を変えるということについて。まず、牛乳の脂質の部分、クリームを発酵させて作ったものがバターです。これも発酵乳製品の一つ。ヨーグルト・チーズの場合はタンパク質・脂質・糖質を利用して牛乳から別の特性を持った乳製品に変化したものです。これらをもう少し具体的に示すと生乳の脂質部分、クリームに乳酸菌を添加して一定の温度、時間で発酵させると酸味、香り、特にジアセチル臭がメインとなる香り成分ですが、濃縮されたジアセチルは汗臭い匂いと表現したら良いのかと思いますが、ある意味悪臭ですが、極々微量ですと芳香性に富んだ香りとなります。発酵させたクリームからチャーニングといったある種の撹拌操作によって脂肪粒を取りだしてバターにします。一方、タンパク質や乳糖を利用して作る代表的な製品としてヨーグルト、チーズがあります。これも牛乳に細菌、乳酸菌を加えることによって乳糖から乳酸を生成させて酸性、酸味をもたらし、そして、その酸性に傾けたところにチーズの場合は酵素を加えて凝乳をおこして凝乳物を集めてチーズにします。ヨーグルトの場合は脱脂乳、牛乳に乳酸菌を加えて酸を生成させ、その酸が牛乳のカゼインというタンパク質同志が集まった形の凝乳を起こします、これがヨーグルトです。いずれにしてもクリーム部分、脱脂乳部分に乳酸菌が作用して酸を生成する特徴を利用しています。酸によって凝乳または凝乳酵素が働きやすい条件、風味が作られます。

- 6. 乳酸菌による機能性の付与

チーズ、発酵乳、共に言えることですが、ミルクの成分と乳酸菌の絶妙な共同作用による産物です。牛乳の脂肪、タンパクと乳糖などの成分に対して乳酸菌や凝乳酵素が働き新たな美味しさ、機能性を付与することになります。乳酸菌が乳成分を利用して新しい機能を生み出しています。その生みだされた機能が発酵乳の場合ですと特定保健栄養食品として、特保マークをつけた製品として利用されています。そのような新たな機能というものはどういった機能なのか。「新たな」と言うことですので原料素材に無い、すなわち牛乳成分にはない成分または牛乳成分に潜在しているものが顕在化されてプラスされるなどです。そして、新たな成分生成によって風味、テクスチャー(食感、口触り)、さらには健康を調節する成分が形成されることもあります。さて、チーズにはどのような機能が付与されるのでしょうか。栄養特性、嗜好特性、健康調節特性、これらを第一機能、第二機能、第三機能、3つの機能と言われますが、これらについてお話致します。
多くの方々は健康調節機能に係る成分について興味を持たれるのですが、やはり食品である以上美味しさ、嗜好特性も重要です。個人的には健康調節特性は栄養特性の内の1つであると考えております。健康調節特性は1970年代に栄養特性から新たに、ある意味で独立した形で3つ並列した特性として考えられるようになった経緯があります。3つの機能が揃って初めて食品としての価値が評価されると考えています。さらに、保存性安全性も付加され高評価食品、優れた食品といえるのでしょう。チーズは栄養素が豊富であり、熟成によって美味しさを増し、健康への寄与成分も顕在化し、さらに保存性も高まり安全な食品として日々いただいている優れた食品の代表です。

- 7. チーズの栄養特性

チーズの栄養特性は、下表を見て頂くとお分かりになると思います。

チーズの栄養特性

成分の比較として牛乳、卵(全卵)、大豆、豆乳から作られる豆腐を示しております。チーズはゴーダからブルーまでの各種です。この表からタンパク質、脂質、糖質をみるとチーズはおおよそ牛乳の10倍の数値を示しています。このことは、チーズは牛乳を凝乳させたものからホエイ部分、水分を取り除いて10倍程度に濃縮された製品であるということが分かります。
エネルギーを表で見てみると10倍より低い数値です。このことからチーズは栄養素密度が高いことを示しています。エネルギー当たりの栄養価が高いものほど食品としての栄養価値が高いと言われています。チーズは牛乳よりもエネルギー当たりの栄養価は高い食品だということがこの表からもお分かり頂けると思います。
炭水化物(糖質)は、この表で見ると牛乳の4分の1以下になっています。これはチーズ製造上の特徴で、この点がヨーグルトと違うところで、牛乳成分を凝乳させたものからホエイという水溶性の一部を取り除く工程があります。この工程によって糖質部分が排除されることで4分の1程度になるし、更に熟成過程で乳糖は乳酸菌の餌となり分解されることで糖質含量は減少します。
カルシウムは、チーズの種類によって様々です。例えばパルメザンチーズは牛乳の10倍以上、カマンベールはそこまで行きませんが4倍程度になります。このことは、水分含有量に関連します。パルメザンは超硬質タイプで水分含量が非常に少なく、他のチーズより乳成分が一段と濃縮されたものです。カマンベールは、この表のチーズ中では水分含量が多く、割合的にはカルシウム含量が少ないことになります。
ビタミンAは、微量ですが特徴的です。チェダーチーズは、他のチーズよりも多くのビタミンAが存在しています。これは、レッドチェダーといって赤っぽい色のチェダーチーズです。このチーズにはカロテンという色素が添加されており、カロテンはビタミンAの前駆体、体内でビタミンAに変換されるものであるため、ビタミンAの含量が多くなっています。
ビタミンB12も、チーズ中に多いことが特徴です。脂肪含量が多く水分含量が少ないパルメザンチーズ等は、濃縮されていることもあり多く含まれています。水分含量が多く脂肪含量が比較的少ないカマンベール等でも、この程度含まれます。ビタミンB12は、脂肪含量に由来するビタミンであることも1つの要因です。
栄養素はチーズの製造方法、熟成の仕方、使う原料乳によっても様々な含量になりますが、おおよそカルシウムは牛乳の10倍、糖質は牛乳の4分の1以下、ビタミンは多く存在する。これがチーズの栄養素含量の特徴であると言えると思います。この栄養特性をまとめると栄養成分組成は、チーズによって異なるものの主要な栄養成分はタンパク質と脂肪である。なぜかというと、凝乳を構成する凝乳物として得たカゼインおよび脂肪に由来するからである。そして、チーズを作る際に水分として排除される部分に存在する成分も、その一部が凝乳として得るカゼインタンパクとの相互作用によってチーズ中に移行してくるものもあるということです。
例えば、ラクトフェリンという機能性に富む成分がありますが、昔は水溶性、ホエイに存在するということでチーズには移行していないのではないか言われておりましたが、チーズにも移行して残っていることが最近の常識となっています。チーズのタンパク質や脂肪は、熟成過程によって低分子化、例えばタンパク質はアミノ酸1個1個がおよそ100個以上繋がったものです。100個以上繋がったものが熟成中に乳酸菌が持つ酵素あるいは凝乳させるために加えた酵素、さらには生乳中に存在する酵素によって分解されて小さい単位のペプチドに分解される。更に、そのペプチドは1個1個のアミノ酸に分解されます。その低分子化が新たな機能を生むことになります。
牛乳の脂肪は、不飽和脂肪酸より飽和脂肪酸含量が高いのが特徴です。次が、オレイン酸で代表される不飽和脂肪酸です。また、コレステロールは、最近話題になっているトランス脂肪酸と併せて心疾患との相関が言われております。しかし、反芻動物が産生するミルク中の脂肪に含まれるトランス脂肪酸は正の相関は無いと言われています。さらに、トランス型の共役リノール酸は、癌抑制とか免疫調節とか体脂肪低減に働く脂肪酸として注目されています。他方、飽和脂肪酸あるいはコレステロールについては、逆に負の相関があると言われています。
炭水化物は、乳糖として存在し熟成過程で、乳酸菌に資化され、減少してしまいす。ビタミンは、脂溶性ビタミン、特にAやBの供給源になります。またB12は、発酵途中で微生物によっても合成されますので、増化するチーズも存在します。チーズ中のミネラルは、製造上濃縮されて供給源となります。これらがチーズの栄養特性と言えます。

- 8. チーズの健康維持特性

1990年代以降の研究によって、牛乳に含まれる脂質の摂取と循環器系疾患リスクの直接的な相関は示されていないことがわかってきました。同量の乳脂肪をバターとチーズで摂取した場合、チーズとして摂取した方が血清コレステロール値は低いということです。この現象の詳細なメカニズムは分かっていないのですが、発酵作用がその要因になっているとされています。乳酸菌あるいは乳酸菌由来酵素によって生成される代謝産物などの共同作用です。例えばバターとチーズでは同じ脂質でありながら、両者間で異なる点は発酵と言う過程の有無であり、発酵による代謝産物が低い血清コレステロール値に影響していると推測されます。
アメリカのデータでは、乳や乳製品の摂取の最も多いグループは、非摂取グループより脳卒中、心臓発作の発症が15%低かった。次にカナダの循環器系の疾患データによると、乳製品の摂取が多い群では収縮機能、血圧、あるいはLDLコレステロール、アポBといってLDLの唯一のアポタンパク質、躯体を作るタンパク質ですが、これらが有意に低くなるということです。これらの詳細なメカニズムもまだ分からないのですが、発酵による代謝産物が影響を与えているのだろうと言われています。
また、脂肪摂取量の多いフランス人に循環器系疾患が少ない。これは赤ワインを多く飲んでいるフランス人は、赤ワインに含まれるポリフェノールが循環器疾患を低くしているのだろうということから「フレンチパラドックス」と言われていますが、そのことと同様にチーズ消費量と循環器系疾患との高い負の相関があるといわれています。

チーズ摂取量と循環器系疾患死亡率

上記グラフを参照すると、チーズの消費量が最も多いフランスでは循環器系疾患死亡者数が最も少ないことを示しています。赤ワインのポリフェノールのように明白な作用はわかってはいませんが、ここでも発酵食品であることの関与が一つの要因として考えられます。
いずれにしましても食習慣、食文化が背景にあると思われます。食する脂肪が何由来であるか、ミルクからの脂肪なのか加工植物油脂からの脂肪かによって健康への寄与は変わってくることが、これらの調査研究によって示唆されます。
トランス脂肪酸あるいは、飽和脂肪酸についても何由来の脂肪なのかということが非常に重要になってきます。

免疫機能を高める効果が最近注目されています。免疫機能と疾患、特に癌ですが免疫を高めることによって、そのリスクを低減するということが言われています。しかし、残念ながら人は歳を重ねるごとにその機能が低下していくことになります。加齢とともにタンパク質合成能力も低下してきますので、それを補足するためにもタンパク質を摂取しなければなりません。それも良質なタンパク質、つまり牛乳中に多く含まれるリジン、メチオニンを積極的に多く摂れることが必要です。その意味から、ミルクタンパク質はその条件を満たし、さらにチーズの場合は高いタンパク質含量を有することから、代謝疾患を予防すると伴に免疫機能を向上させることが言われています。ですから高齢になればなるほどリジンやメチオニンを多く含むタンパク質を摂る必要があると言うことです。

血液中の糖の数値を示すGI値(グリセミックインデックス)ですが、チーズと共に摂取した時はGI値が低下するという報告があります。チーズは製造上、その過程でホエイを排出することでホエイ中に存在する乳糖も排出されること、さらには、先ほども言いましたが熟成中の乳酸菌によって糖化されることからチーズ中の糖質含量は極めて低いのです。ですからGI値も低いことになります。さらに糖質含量の高い食品と伴にチーズを摂取した場合には、胃の中で糖質の滞留時間を延ばすことが可能になるためにGI値を低くすることが推測されます。例えば、白米をGI値100とした場合、カレーライスの場合はカレーと一緒に食べるのでGI値82、更にチーズをトッピングした場合67に下がるデータがあります。パンは92とするとチーズと伴に食べると71に下がります。GI値を下げるすばらしい食品だと言われています。

次に、虫歯予防効果です。虫歯は歯のエナメル質の脱灰化です。それを減少させるものとしてタンパクとリン酸カルシウムが結合した状態の牛乳タンパク質、カゼインが挙げられます。カゼインは、リン酸カルシウムが結合した形になっていて、これに脱灰化を減少させる役割があると言われています。また、カゼインがエナメル質表面に付着して保護すると言われています。それと噛むことによって唾液分泌物が、プラーク(歯石)のpHの低下を抑え虫歯になりにくくしています。噛むということ即ち唾液を分泌することが虫歯予防になるということです。

チーズは牛乳成分が濃縮されています。牛乳成分の「優等生」であるカルシウムも濃縮されていることが、チーズの有意性を示す一つです。牛乳中のカルシウムは、吸収率が高いとよく言われます。その要因としてCPP、カゼインホスホペプチドというものの存在が挙げられます。カゼインタンパク質の一部を構成しているカゼインホスホペプチドが熟成過程中に分断され遊離することからチーズ中のカルシウムの利用性はより高くなります。また、一般にカルシウム含量の高い食品を摂取した後は、骨吸収を促進し骨形成を抑制するPTHの産生が抑制されます。PTHというのは副甲状腺ホルモンでして、それを抑制することでカルシウムの利用性が更に高くなります。

乳製品の摂取と血圧ですが、これも多くの食品に言えることですが、乳製品の摂取が多い人はそうでない人よりも血圧が低いと言われています。これも、タンパク質が熟成中に低分子化されていく過程で生成してくるペプチドが、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を持つことから血圧を調節する働きをします。更に、カルシウムを多く含む乳製品の摂取により、結腸癌発症のリスクが低減される可能性が示唆されています。
チーズを食べることによる食塩摂取量を気にする方が多くいます。チーズを作る熟成を上手く進めるためには、ある程度の食塩量が必要になりますが、チーズ摂取量からすれば僅かだと言われています。チーズ中の食塩含量は、だいたい2~3%です。100gのチーズを食べた場合、食塩量は2~3gです。食べる量によりますが、あまり気にする必要はないと思います。しかし、食塩摂取量は少なくしなければならないことから、低い塩濃度でも熟成を上手に進められる技術も考えていかなければなりません。

カマンベールチーズとカルシウムについて。カマンベールチーズの表皮(白く少し硬いところ)には、カルシウムが多く濃縮された状態で存在します。カルシウムは熟成中に徐々に表皮のカビ部分に移行します。カビの代謝物であるアンモニアによってアルカリ化して、遊離状態で存在しているカルシウムがリン酸カルシウムとして不溶化され沈着します。
カルシウムの利用性です。カルシウムは消化されて小腸を通過、大腸に近づくと小腸上部は微酸性環境なので、カルシウムが遊離した状況で存在するため、腸管を単独で通過することができ吸収されます。しかし、大腸に近くなるとアルカリ環境になってきます。アルカリ環境下でカルシウムはリンと結合して不溶性になってしまうので、不溶性のリン酸カルシウムは腸管を通過することができず、吸収されないことになります。ところが、牛乳やチーズでは多くの酸性アミノ酸で構成されているカゼインホスホペプチドが存在することから、その近くに存在するカルシウムはアルカリ化、即ち不溶化するのを防がれ腸の下部まで単独で腸を通過することができるため利用性が高いということになります。

タンパク質の低分子化とは、タンパク質が分解されることによりペプチド断片が生成されることです。生成ペプチドによって抗酸化作用、血圧調整、免疫機能向上、アルコール性肝障害低減作用等を示すことになります。次にタンパク質を構成するアミノ酸ですが、牛乳、発酵乳とチーズ中に遊離で存在するアミノ酸を比べると100g中に、カマンベール500mg、ゴーダ(10ヶ月)560mg、チェダー(11カ月)788mgで牛乳5.92mg、発酵乳23.61mgとなり、チーズ中に多いことがお分かりかと思います。
下表は、チーズ中ペプチドとして解明されたものです。

チーズ中の生理活性ペプチド

この他、未知のペプチドも沢山存在します。血圧調節や抗酸化作用を示すペプチドや鎮静作用を示すペプチドといった様々なペプチドがチーズ中に顕在化します。
低分子化は様々な酵素が、例えばタンパク質に順次アタックし、ペプチド、アミノ酸へ、そして更にアミン、アンモニアなどへ、乳糖はグルコース、ガラクトースへ、脂質は脂肪酸、各種揮発性成分へと変化します。
下図は、チーズ熟成中の主要成分の変化です。

チーズ熟成中の主要成分の変化

ここでは食感に影響するもの、あるいは味や香りに影響するものとして大雑把に示しました。いずれも牛乳の主要成分からチーズを作る際に使われる酵素によって生成されています。このことが、熟成中に起こっていることになります。