MEMBER

第79回 発酵食品としてのチーズの機能特性や楽しみ方

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第79回 発酵食品としてのチーズの機能特性や楽しみ方
日時
平成26年8月25日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館3階 A会議室
講師
学校法人日本医科大学 日本獣医生命科学大学 応用生命科学部長・教授(農学博士) 阿久澤 良造
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
管理栄養士 荒牧 麻子
毎日新聞記者 今井 文恵
日本経済新聞 編集委員 岩田 三代
江上料理学院 院長 江上 栄子
評論家・ジャーナリスト 木元 教子
作家・エッセイスト 神津 カンナ
科学ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当者
乳業協会:白川専務理事、石原常務理事他
専門誌記者
【内容】
従前より「TPP」に関する講演・意見交換を計画していたが、未だ決着を見ていない中で今回採り上げる状況ではない(8月25現在)と考え、交渉の進展がみられ明確な方向性が示されるまで延期させていただくことと致したい。
そこで今回は、委員の先生から「発酵食品としてのチーズの効能や楽しみ方をテーマとしてはどうか」とのご提案があったので、これをテーマに、チーズの研究では第一人者であり、当協会の理事でもある日本獣医生命科学大学応用生命科学部長、農学博士の阿久澤教授に「発酵食品としてのチーズの機能特性や楽しみ方」と題してご講演をお願いした。
- 1. はじめに -

演題の「発酵食品としてのチーズ」には、チーズが発酵食品ということを分からないで食べている方がかなりいるのではないか、また、それならば、チーズも発酵食品の一つであることを理解して頂こうという趣旨も含まれているかと思います。プロセスチーズ等は、発酵食品かというと、発酵したものを原料とした食品になります。発酵食品としてのチーズということで、チーズが発酵したらどのような特性を有するのかということ、またテーマの中には楽しみ方も含まれていまして、本日の話は、非常に広範囲の内容になります。
それでは、発酵食品としてのチーズはどのような特性、機能、特徴を有しているのか、そして更にそのチーズをどのように楽しむのかについてお話いたします。

- 2. 発酵食品と保存性 -

発酵食品に共通する特性、また様々な発酵食品としての特性をチーズに当てはめるということで話を進めます。
バイオプリザベーションという言葉がありますが、これは、微生物を利用して保存性を高め、発酵する資源、原材料そのものより更に長期間おいしく食せる状態に保つことを言います。このことは、発酵食品と共通するところです。保存性を高めるための条件として3つの条件があります。1つ目は「温度」です。加熱によって品質に対して負の因子と言うか阻害するものを除外します。他方、低温にして負の因子となる微生物を発育しないようにしておくこともできます。2つ目は「水分」です。これは水分活性として論じますが、微生物は生きるためには水が必要です。微生物が必要とする以下の水分に留める環境を自ら作る。これも発酵の一つの手段です。3つ目は微生物が関わってpH環境を作ります、微生物は発酵過程において負の因子となる他の微生物の生育を抑制する物質を生成し、自らの生育環境を整備します。発酵は、これら3つの条件によって、負に働く微生物の生育を抑制する環境を作るということとも言えます。

- 3. 発酵、醸造、熟成 -

「発酵」と「醸造」そしてチーズの場合は「熟成」という言葉を使いますが、どういう使い分けをするのか。簡単に言いますと「発酵」と言うのは今お話したように微生物が原料に都合よく作用することであり、微生物が分泌する酸素が原料に作用し、化学変化を起こさせることです。「発酵」はファーメンテイションといいます。その語源はラテン語ので「湧く」という現象「フェベレ」らしいです。酵母が糖を分解しアルコールを生成すると同時に二酸化炭素を出している状況、これを「湧く」すなわち「発酵」と言うわけです。それでは「醸造」について、これは発酵の一つの手段として考えられます。そして「熟成」はこれも一つの手段なのですが、目標とする食品にふさわしい性質を持たせる操作ということでチーズの場合は使用する微生物がそういう状況、すなわち、ふさわしい品質を作るのですが、中には微生物を使わなくても「熟成」と言える場合があります。微生物がそこに働かなくても日にちを重ねることによって原料中の成分が並び変わって、テクスチャーが変わるとか、このようなことも一つの「熟成」と言えます。チーズの場合は微生物が原料であるミルク成分に作用しての「熟成」、即ち「発酵」ということです。
次に、「発酵」と「腐敗」といことですが、これはどこを境にしてよいものか、皆さんも食事の中で経験されていることだと思います。好まれる形での働きを「発酵」と言い、悪臭などを有する物質を生成する場合を「腐敗」という。有益であれば「発酵」であり不利益をもたらすものであれば「腐敗」と言うことになります。ですから、ある意味ここには個人差が生じてきます。一般にタンパク質や脂質の代謝現象は腐敗に採られ易く、チーズはタンパク質、脂質の代謝がメインになりますので、ある線を超えるとこれは腐っているというように捉えられます。逆に炭水化物を代謝にする発酵においては比較的「腐敗」として捉えられる状況から遠いところにあると言えるのではないでしょうか。

- 4. 発酵食品と微生物 -
発酵食品と微生物

発酵食品と微生物との係りを上表に示しました。このように発酵には微生物が利用されますが、微生物の利用の仕方に、かなり違いがあります。またその微生物の種類も様々であるということを知って頂きたい。酵母カビあるいは、細菌を単用するなど、大きく3つに分けられます。また、それらを組み合わせることもあります。カビと酵母、カビと細菌、細菌と酵母さらに、それら全部を併用するというものもあります。細菌を単用する代表的なものに発酵乳、ヨーグルトがあります。チーズの場合、種類によってさまざまですが、細菌である乳酸菌は、大方のチーズで使われています。乳酸菌単用によって作られるチーズは多い。カビと乳酸菌を併用するチーズとしてはカマンベールがこれです。カビと細菌と酵母の併用ではウオッシュタイプのチーズが代表的なものです。このように様々な微生物が単用、あるいは併用によって多様であり独特な風味を有する製品に作り上げていくことが想像頂けると思います。まさにチーズはこれら微生物を駆使した発酵食品であることがお分かり頂けると思います。