- 5. 牛乳とメタボリックシンドローム -
図6のデータは、2005年にイランから出たもので、牛乳・乳製品摂取状況とメタボリックシンドローム(MS)の該当者比率を示している。「あなたは1日に牛乳・乳製品を何回摂っていますか?」の回答を4段階に分けた場合のメタボリックシンドローム該当者は、摂取回数が増えるに従って減少してくることを示している。この場合は男女一緒に解析しており、またイランと日本の食生活の違いもあることを考慮する必要があり、そのまま日本人も同じとはまだ言えない。
図7は、牛乳・乳製品摂取回数の最も少ない1.7回以下の人達がメタボリックシンドロームになるリスクが1であるとした場合、乳製品摂取回数が増えるとそのリスクが減少することを示している。
おそらく、世界で初めて出たデータである。肥満に関しては2000年に紹介され新たな知見として注目されたが、メタボリックシンドロームとしてくくった時も、牛乳・乳製品をたくさん摂っている人達の方が少なくなるというデータである。
メタボリックシンドロームには、肥満、血圧、血糖、血清脂質等色々な要因があり、このうち何項目に当てはまるか、牛乳・乳製品がどの項目に効果があるのかをみた結果を図8に示す。
血液中の中性脂肪(TG)に関しては影響が出ていないが、ウェストに関しては、牛乳・乳製品摂取量の多い人の方が、ウェストが細い傾向を示している。高血圧の人も少なく、善玉コレステロール(HDL)が低い人も少ない傾向を示している。これらイランのデータでは、ウェスト、血圧、HDLコレステロールに効果が出ている可能性を示している。これらをまとめると、メタボリックシンドロームに効果を示した、ということになる。
また、ほぼ同時にアメリカからも同様のデータが出された。図9のデータは女性のみ約10000人での調査となっている。こちらは、牛乳・乳製品の摂取回数を5段階に分けて、最も少ないグループは、1日0.91回以下、最も多いのが1日3.00回以上となっている。
前データと同様に0.91回以下の人達がメタボリックシンドロームになるリスクを1とした場合、乳製品摂取回数が増えるとそのリスクが減少することを示している。3回以上摂っているグループでは、30%程度メタボリックシンドロームのリスクが低下している。メタボリックシンドロームは牛乳・乳製品だけで決まるわけではなく、年令、エネルギー摂取量、運動、喫煙などが影響するため、それらの要因を調整した後のデータで示しており、牛乳・乳製品を多く摂っている人の方がメタボリックシンドロームの人が少ないといえる。
図10は、摂取回数をカルシウム摂取量に換算し5段階にグループ分けしたもので、1日摂取量が516mg以下の人たちがメタボリックシンドロームになるリスクを1にした場合の摂取量に対するメタボリックシンドロームになる変化を示している。カルシウム摂取量の増加に伴い、メタボリックシンドロームになるリスクが低下している。
では、イランデータと同様にメタボリックシンドロームのどの項目に効果があるのかをみた結果を図11、図12に示す。
ウェスト回りが88.9cm以上、BMI30以上、さらにHDLコレステロール50mg/dL以下、さらに血圧35/85mmHg以上、2型糖尿病にあてはまる人の割合が、カルシウム摂取量の増加と共に減少している。中性脂肪に関しては、イランのデータと同様に影響が現れなかった。以上から中性脂肪以外は色々なメタボリックシンドロームの項目に牛乳・乳製品の効果がある可能性を示している。単に痩せるだけではなく、色々な効果が期待できる可能性が得られた。
2005年にこのデータが出され、興味を持ったものの、日本人に当てはめてみると、日本人1日のカルシウム摂取量の平均が500mg強という現状から、アメリカのデータのカルシウム摂取量のグループ分けでは、最も少ないグループとなってしまい、効果が顕著な1日1284-4211mgのグループのような摂取量の日本人は殆どいない。つまりこのアメリカのデータをもとに、日本人もメタボリックシンドロームになり難いとはいえない。また、イランのデータもイランと日本の食生活が恐らく大きく違うと考えられ、同様に日本人も牛乳を飲むことで良くなるとはまだいえない。
そこで日本人独自のデータを摂る必要があると考え、研究を行った。
- 6. 牛乳・乳製品摂取とメタボリックシンドロームに関する横断的研究 -
この報告は、2010年に日本栄養・食糧学会誌に発表した、日本人を対象としたものである。
以下に調査の概要を示した。対象者を20~60代の乳業メーカーの勤務者にしている。批判もあったが、協力が得られやすいことを理由に対象者とした。45,008セット送付し、11,026セット回収、解析対象者8,659名で行った。尚、対象者には目的である牛乳・乳製品摂取とメタボリックシンドロームの関係調査であることを伏せて行った。
なお、世界的には80cmの方が基準としてよく使われている。
判定基準を次に示す。この基準は国が行っている検査項目と同じであるが、女性の腹囲のみ、やや厳しく90⇒80cmとした。
「牛乳・乳製品の摂取量が多い人ではメタボリックシンドロームの有病率は低い。」との仮説の下、図13のような結果を得た。カルシウム摂取量の最も少ないグループを1とし、カルシウムとして100~200mg(牛乳コップ半分から1本程度)、200~300mg、300mg以上に分けた場合のメタボリックシンドロームのオッズ比は、女性の場合では、牛乳を飲むか飲まないかで大きく変わってしまう結果となり、1日に100~200ml飲んでいる人達からそれ以上飲んでいる人達は、飲まない人達に比べ、メタボリックシンドロームのリスクが40%少ないという結果になった。一方男性の場合は、徐々に低下する傾向を示した。
では、女性の場合、100mlでいいのか、100と300mlの違いはないのかとなると、メタボリックシンドロームとしての差は現れなかったが、その中身をみると、図14、図15に示すように、腹囲は飲む量に関係なく飲むだけで低下し、2cm程低下する。一方、収縮期血圧は飲む量が増加すると低下し、HDLコレステロールは増加する。アメリカとイランでは傾向が見られず日本のみの結果であるが、中性脂肪は飲む量の増加と共に減少した。
この結果から、100~200mlより300ml飲んだ方が、これらの因子には効果があることがわかる。さらに大量に飲むことでより大きな効果が期待できるかに関しては、そこまでのデータがないため、これらの実験結果からは明確な回答はできない。
男性の場合は、図16、図17に示すように血圧のみきれいな傾向がみられたが、これ以外の効果は見られなかった。