- 1. はじめに -
厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部には四つの室があり、第一室が乳及び乳製品、食肉及び食肉製品の食品衛生と環境衛生に関する研究を行っているところで、食中毒菌の試験法に関する研究等を行っている。第二室は水産食品その他の食品の製造工程における微生物及び有害物質の制御に関する調査及び研究魚介毒の迅速検出法に関する研究を行っている。第三室は食品微生物のリスクアセスメント及び食中毒菌の食品からの検出法の検討を行っている。第四室は食中毒に関連するウイルス、最近ノロウイルスがよく聞かれると思いますが、試験法及び対策を考えている。このように、厚生労働行政に対し、基礎的な科学的知見に関する情報を提供することを主体に仕事を行っている。
単に基礎的なことだけではなく、行政の支援部門としてレギュラトリーサイエンス(『科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学』)、行政に役立つような研究を中心に行ってきている。
平成13年(2001年)9月にBSEが発生し、平成15年に「食品安全委員会」が内閣府にでき、リスク分析の枠組みの中で、食品は「リスク管理」と「リスク評価」を分けるということで、独立した評価を行った上で行政施策を行っていくことになった。
以降、当国立の研究機関は内閣府からも直接指示命令を受けることになり、二重に仕事が増えることになった。管理側にいろいろ考察し助言する場合は管理の立場で、評価をする場合は評価者としての立場という二つの性格を持ったポジションである。評価と管理を同じ人間が行うから問題であるというわけではなく、ポジションによって考え方を変えて対応している。
- 2. 牛海綿状脳症(BSE)とは -
BSEは牛の病気の一つで、「BSEプリオン」と呼ばれる病原体が、主に脳に蓄積し、脳の組織がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、死亡すると考えられている。
この病気は、1986年にイギリスで見つかり、1994年までは牛の病気として扱われ牛の間で広まった経緯にある。広まった原因としては、BSE感染牛を原料とした肉骨粉を飼料として使ったことが考えられた。最初の牛がどうしてそのようになったかはわかっていない。
当初、「狂牛病」という言葉を使っていたが、この言葉は「狂犬病」をイメージし、牛から牛に直接うつるような印象を与えたが、そのようなことは全く心配ない。これは餌を介してのみ伝染する、つまりプリオンを食べることで拡がっていく病気である。牛が震えてバタバタ倒れる事態になったとしても、人がそこから感染することはないが、最初に「狂牛病」というイメージで報道がなされたため、多くの方が不安を感じる状況になった。このことから、「狂牛病」という呼び方は止め、牛海綿状脳症(BSE)という言い方に変更した。
1994年までは牛の病気とされていたが、1995年に英国で変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)患者が初めて確認された。vCJDとBSEとの関連性が示唆され、公衆衛生上の問題となり、1995年からは人との関連を持った非常に重要な疾病となった。
我が国では、これまでにvCJD患者が1人確認されているが、日本で感染したのではなく、英国滞在時に感染した可能性が有力と考えられている。
<牛海綿状脳症(BSE)とは>
- BSEは牛の病気の一つです。「BSEプリオン」と呼ばれる病原体が、主に脳に蓄積し、脳の組織がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、死亡すると考えられています。
- この病気が牛の間で広まったのは、BSE感染牛を原料とした肉骨粉を飼料として使ったことが原因と考えられています。
- また、1995年に、英国で変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)患者が初めて確認されました。vCJDはBSEとの関連性が示唆されています。
- 我が国では、これまでにvCJD患者が1人確認されていますが、英国滞在時に感染した可能性が有力と考えられています。
<肉骨粉(にくこっぷん)>
- 牛や豚などの家畜をと畜解体する時に出る、食用にならない部分をレンダリング(化製処理)した後、乾燥して作った粉末状のもの。
- 主に飼料や肥料として利用された。
- 現在、牛から牛に BSE がまん延したのは、BSE感染牛を原料とした肉骨粉などの飼料を使っていたことが原因と考えられていることから、我が国では牛などの反すう動物を原料として作られた肉骨粉は牛以外の家畜なども含め飼料等への使用が禁止されている。
- 又、我が国は、すべての国からの肉骨粉の輸入を禁止している。
- 3. プリオン -
プリオンとは、感染性を有するたん白質様の病原体を意味する造語(proteinaceous infectious particles)である。感染型プリオンが正常型のプリオンと出会うと、それを感染型に変えてしまうメカニズムが働いてしまう。感染型プリオンが溜ってくると神経細胞に影響が出て、脳の細胞が穴が開いたようにどんどん減ってしまい死に至る。プリオンのタンパク質は正常な動物の中に存在し、神経の伝達をスムースにする働きを持っており、これが異常型であると異常型がどんどん増えていくという状態になる。
つまりBSEの原因としては、異常プリオンタンパク質が体の中に入ってくることで、相当長い潜伏期の後に異常型が増加し発症に至る。行動の異常、運動失調等の神経症状があり、発病後は2週間から6カ月の経過で死亡する。診断するには、脳の中の異常プリオンタンパク質を検出することで判断しているが、まだ生前の診断での確実な判断には至っていない。
BSE発症原のプリオンの体内分布は、プリオンが多く集まるところとして、脳に60%程度、せき髄24%、その他に背根神経節というのがせき柱にあり、背骨からせき髄が出る出口のところに神経節という固まり部分で、この部分に溜っている(3.6%)。このため、せき柱は現在危険部位として取り除くことになっている。あと回腸の遠位部とは、盲腸と繋がるところから見て2m位のところまでをいい、ここで見つかっている。
これらを特定危険部位(SRM:Specified Risk Material)として除去しており、これらで99%以上の除去率になっている。
<プリオン>
- プリオンとは、感染性を有するたん白質様の病原体を意味する造語(proteinaceous infectious particles)。
- 牛海綿状脳症(BSE)やヒトの変異型クロイツフェルト・ヤコブ病 (vCJD)の原因と考えられている「異常プリオンたん白質(PrPsc)」とは別に、正常個体内にはもともと「正常型プリオンたん白質(PrPc)」が存在する。
- 両者のアミノ酸配列は同じであるが、唯一立体構造が相違していることが知られている。
<牛海綿状脳症(BSE)について>
- 1. 原因(病原体)
- 異常プリオンたん白質(たん白質の一種)
- 2. 症状
- 長い潜伏期間の後、行動異常、運動失調などの神経症状を呈し、発病後2週間から6か月の経過で死亡。
- 3. 診断法
- 脳から異常プリオンたん白質を検出することにより診断。現在のところ、生前診断法はない。
仮説ではあるが、伝達経路は、食べることで腸に入り、回腸の遠位部のパイエル板に取り込まれ、そこから神経を通りせき髄に上がり、最後は脳の延髄の閂(かんぬき)部に溜ることになり、その後脳全体に広がりスポンジ状に変化してくると推察している。さらに進行して、せき髄、脳だけではなく末梢神経に見つかってくると筋肉を食べるのが危なくなってくる。ただし、順序としては、脳に溜るのが先であるため、特定の危険部位を除いておけば、筋肉には末梢神経があるが、まだ溜っていないため安全に食べられるといえる。