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牛乳・乳製品から食と健康を考える会

第99回腸内細菌・プロバイオティクスと健康

4.アレルギーの発症抑制、症状緩和

東京都内のスギ花粉症の推定有病率とその推移

東京都内のスギ花粉症の推定有病率とその推移
東京都福祉保健局 花粉症患者実態調査報告書概要版より(2017年12月)

これは免疫を抑制する働きについてです。東京都内のスギ花粉症がどのように増えてきたかを示していますが、東京都全体でいいますと2016年度のスギ花粉症の有病率は48.8%で2人に1人が花粉症と言われています。だいたい10年ごとに調査をしてきているのですが、この30年間で約5倍に増えています。

免疫関連疾患の羅患率の増加

免疫関連疾患の羅患率の増加
N Engl J Med, Vol.347, No.12 September 19,2002 www.nejm.org

花粉症だけが増えているのかというと、実はそうではなく、喘息も20年間で3倍に増えています。それから先進国では自己免疫疾患という他の免疫の病気などもどんどん増えている状況にあります。

生活習慣病と免疫系疾患の発症

発症 生活習慣病 免疫系疾患

それがなぜ増えてきたのかをいろいろ考えてみると、遺伝的要因とか、食生活、科学環境、微生物環境ということがありますが、今のこの免疫の異常に関しては、私たちを取り巻く微生物環境が変わってきたことが大きな影響をしているだろう、といわれています。

衛生仮説 微生物との接触機会の減少が原因か

衛生仮説

それがこの衛生仮説というものになります。
アレルギーの発症の少ないところと多いところの比較をしてみると、アレルギーの多いところというのは高衛生環境にある、つまり微生物とのふれあいが少ない場所で、そういうところでアレルギーの発症が多い。したがって免疫アレルギーの疾患が増加したのは、微生物との接触機会の減少が原因ではないかと考えられています。

アレルギー患者の腸内にはラクトバチルス菌が少ない

アレルギー患者の腸内にはラクトバチルス菌が少ない
Bjorksten, et al., Clin Exp Allergy, 29, 342-346 (1999)

実際にアレルギー患者の腸の中を調べてみますと、乳酸菌の一つであるラクトバチルス菌が少ないという結果が得られまして、腸内細菌叢の悪化がアレルギー増加に関係している可能性があるのではないかということになりました。

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防
M. Kalliomaki, et al. The Lancet 357, 1076 (2001) の報告による

それならば、この腸内細菌叢をプロバイオティクスを使って変化させることでアレルギーを予防できないかということを考えた方がいらっしゃいます。どういうことをやったかというと、妊婦さんとお母さんにこの乳酸菌を食べてもらいました。対象は、家族歴からその子どもがアトピーになる危険性の高いお母さんの159名です。そのお母さんに出産前2~4週間と、生まれてきた新生児に6か月間、ラクトバチルス菌を食べてもらう。その結果、子どもが2歳になった時のアトピー性皮膚炎の発症率が対照群に比べて半分になったという結果がありました。

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防
M. Kalliomaki, et al. The Lancet 357, 1076 (2001) の報告による

発症しやすいお子さんのお母さんを選んでいるので、50%の方が発症してしまうのですが、この菌を食べておくと2歳の時にアトピー性皮膚炎の発症率が半分になったということで、これは非常に画期的な結果です。
アレルギーを予防する、あるいは発症を抑えるということは、どんな医薬品にもできていないんです。それがこういう乳酸菌つまりプロバイオティクス、食品として使えるもので可能なのだということが分かりまして、それ以来、乳酸菌が免疫に対して非常に有効なのではないか?といろいろな研究が進められるようになりました。

Medicine アトピー性皮膚炎と食物アレルギ―の発症リスクが約2割低下

Medicine

これはもう2001年の研究ですので20年ぐらい前の結果ですが、その後同じような研究が2015年までにだいたい17件ぐらい行われました。先ほど半分になったという結果をご紹介しましたが、いろいろな結果を合わせてみますと、発症リスクは約2割低下するというのが今の状態になります。
ヒトの腸内細菌というのは、それぞれ人によって全然違いますので、どのようなプロバイオティクスがあうかということも違ってくる。そういう研究が進んでいかないと、この有効率は上がっていかないと考えられます。

様々な機能をもつプロバイオティクス

腸内環境もエコロジーの一部 すべてはつながっている

腸内環境もエコロジーの一部 すべてはつながっている
人の健康は腸内細菌で決まる!光岡知足 著(技術評論社)より引用

これは先ほどご紹介した光岡知足先生の本からの引用ですが、腸内環境もエコロジー、生態系の一部である。地球、地域、人、それから腸、すべてはつながっている。腸内環境も生態系の一部なので、つまり腸内フローラのバランスを整えることが最も身近なエコロジー対策でもあると。

自然とふれあうことの意味

自然とふれあうことの意味
人の健康は腸内細菌で決まる!光岡知足 著(技術評論社)より引用

「近代化が進み、都市生活が広がることで、動物・植物・微生物による食物連鎖のつながりが断ち切られ、自然界の調和は大きく崩れてしまいました。菌たちが日常から遠ざけられることで衛生状態は良くなり感染症も減りましたが、その半面、体に備わった免疫力が低下したことは否めません。自然との調和を取り戻すことは容易ではありませんが、腸内フローラもそうした自然の一部です。腸内細菌との共生を図ることがこれまでの生活を見直す一つのきっかけになるはず」というのが、光岡先生の言葉です。

安全なものは受け入れる免疫寛容を健常に

腸菅免疫系

腸の免疫系というのは非常に複雑なことをしていまして、常在菌、私たちの腸内細菌、あるいは有用な微生物、食品に由来するタンパク質といった安全なものは受け入れる働きをしています。それがちゃんと働くことを免疫寛容(めんえきかんよう)といい、正常に働いていると健常な状態といえます。
しかしそれが破綻すると、食物アレルギーやいろいろな炎症性の腸の疾患が起こってしまいます。病原菌やウィルスというのは腸管からたくさん入ってこようとしますので、これを排除しなければいけない。そういう複雑なことをこの腸管免疫系は行っています。

この腸内細菌が必ずあることで、この調和がうまく取れていることになるわけです。その調和が崩れてしまった場合には、プロバイオティクス、あるいはプレバイオティクスでここを調整してやることによって、このような免疫系のシステムがちゃんと動くようにしてやろうというのが、このプロバイオティクス・プレバイオティクスが免疫に対してどのようないい影響を及ぼすのかということの考え方の一つになっています。

特定保健用食品の健康表示

特定保健用食品の健康表示

現在の特定保健用食品は8月現在で1,068品目ですが、いわゆるヘルスクレーム、健康表示というもののに「おなかの調子を整えたい方に」というのがあります。
これは乳酸菌やオリゴ糖、食物繊維などがそれに当たるわけですが、特保の約4割を占めます。売り上げの約半分が整腸作用に関係する商品だといわれていて、特保の中でも整腸作用というのが非常に大きな分野になっているわけです。

今まで各社が作ってきたこういうものは、基本的には整腸作用を売りにしてきていますが、それ以外に先ほどのR-1ヨーグルトは風邪をひきにくくするとか、病原菌から体を守るとか、いろいろな作用があることがわかってきているわけです。

内臓脂肪を減らすのを助けるガセリ菌SP株ヨーグルト

内臓脂肪を減らすのを助けるガセリ菌SP株ヨーグルト
雪印メグミルク(株)2015年4月9日 ニュースリリースより引用

これらの話とはまた全然違う話が出てきていることを最後にさせていただきます。
ひとつは、内臓脂肪を減らすのを助けるガセリ菌ヨーグルト、というもので、整腸作用や免疫とかとはちょっと違います。多少関連はしているのですが、脂肪に働きかけて、脂肪というのは分解すると脂肪酸になるのですが、その分解や吸収されるのを抑制する、そういう働きがこの菌にはあるということです。
下の図の右下は脂肪の塊、脂肪滴ですが、この菌があるとどうも大きくなるらしいんですね。こちらは小さいままなのですが、この菌があると脂肪滴が大きくなる。そうすると、脂肪滴を分解する酵素というのは周りから攻撃をしますので、中の方は分解ができないわけですね。その分解を抑えて吸収を抑制する。そうすることで内臓脂肪を蓄積しないようにしてやる、そういう働きがある、ということをいっているのがこの菌です。

腸はすごく硬いバリアを作っている

肥満児 ガセリ菌SP株を摂取した場合
雪印メグミルク(株)2015年4月9日 ニュースリリースより引用

もうひとつは、免疫に関係する部分もありますが、腸というのは余計なものが勝手に体の中に入ってこないように、すごく硬いバリアを作っているんですね。とにかく腸の表面の細胞がお互いにがっちりつながって固めていて、なかなか入れない。
しかし何らかの不具合があると、腸管バリアが破れて、いろいろな炎症を起こす物質が入ってきてしまいます。そうすると、その入ってきた物質がいろいろな臓器で炎症し、ちょっとずつ痛いという状況になるんですね。それが病気の基になったり、肥満の基になるという考え方が最近出てきています。
その腸管のバリア機能を保護する、あるいは高めてやることによって、炎症を起こす物質が入ってくるのを抑えてやる。そうして体の健康を保ってくという考え方のものがこれです。

ここにそれを示した図があります。脂肪の蓄積と内臓脂肪の炎症とありまして、肥満の時には脂質・脂肪がどんどん入ってきてしまうため、それをまず押さえる。ガセリ菌があるとこれを抑制する。
もう一つは炎症を起こす物質というのが、腸のバリアを破って血管の中に入って、いろいろな脂肪組織とか、内臓に炎症を起こしてやる。これが肥満につながる。それをこの入ってくるのを抑えてやる。
そうすることで炎症を抑えて、肥満にならないようにしてやる。このような考え方をしているのがいわゆ「トクホのガセリ」というやつです。

尿酸値の上昇を抑える明治プロビオヨーグルトPA-3

尿酸値の上昇を抑える明治プロビオヨーグルトPA-3
(株)明治HP(https://www.meiji.co.jp/dairies/yogurt/meiji-pa3/)より引用

もうひとつ、またこれもちょっと違う考え方なのですが、いわゆる痛風の元になる尿酸です。この尿酸値の上昇を抑えるヨーグルトというのが販売されています。
これはトクホとはちょっと違う最近できた制度で、必要事項を届け出ることで健康機能が表示できる「機能性表示食品」です。このラクトバチルス菌、これもガセリ菌の一つですが、PA-3という菌で、これが入っていることによって、尿酸値が体の中で上がってくるのを抑える働きがあります。

この尿酸の基になるのはプリン体といいまして、このプリン体というのは私たちの遺伝子を作っている核酸という物質の一部です。例えばそういう核酸がたくさん入っている食べ物を食べると、痛風になりやすいということでいわゆる贅沢病と言われてきた病気です。
核酸を分解してプリン体をまず作る。この菌が腸の中で作るのですが、それを自分で使ってしまうので、人の体内への吸収を抑制することができる。尿酸値の上昇を抑えるような働きがある菌、それを使ったヨーグルト、として販売されています。

プロバイオティクスの働きが、整腸作用や、免疫に対する作用だけではなくて、いろいろなところに展開されているというのが今の状況です。