一般社団法人日本乳業協会

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牛乳・乳製品から食と健康を考える会

第99回腸内細菌・プロバイオティクスと健康

3.プロバイオティクスとプレバイオティクス

ここまでが腸内細菌についての話ですが、プロバイオティクスとプレバイオティクスについてもう少しご紹介します。
このプロバイオティクスというのは、体にいい働きをする微生物のことですが、その言葉が作られたのは1989年です。

メチニコフとヨーグルト不老長寿説 プロバイオティクスの概念の原点

メチニコフとヨーグルト不老長寿説
人の健康は腸内細菌で決まる!光岡知足 著(技術評論社)より引用

それよりもっとずっと前に、そのプロバイオティクスの概念の原点となるようなことを打ち出したのがメチニコフという方で、ヨーグルト不老長寿説を唱えられました。この人はロシアの微生物学者で、免疫に関係する細胞を見つけてノーベル賞をもらっています。

老化はなぜ起こるのかについての研究で、老化とは腸内細菌の生成する腐敗物質による自家中毒であるという仮説を立て、ではどうしたらいいのか、ブルガリアの長寿者はヨーグルトを常食しているではないか、ではヨーグルトに含まれる乳酸菌で腸内環境を改善すればいいのではないかという結論を得て、それをこの「長寿の研究」という本の中で述べています。
これがプロバイオティクス、体にいい働きをする乳酸菌、あるいはそういうものの原点となる考え方になります。

プロバイオティクス・プレバイオティクスの健康効果

プロバイオティクス・プレバイオティクスの健康効果

プロバイオティクスというのはビフィズス菌や乳酸菌などで、適切な量を摂取することでヒトに有益な作用をもたらす生きた微生物のことをそう呼んでいます。

プレバイオティクスは食品成分です。菌ではなくて食べ物の方で、難消化性の食品成分でヒトはなかなか消化できないものです。最初に申しましたように、食べ物は小腸で消化して吸収され、そこで消化・吸収されなかったものは大腸に行きます。そうすると、そこに腸内細菌がたくさんいるので、その腸内細菌の餌になる、そういうものがこのプレバイオティクスです。

その働きには非常にいろいろあるのですが、例えば腸内フローラのバランス改善、消化管運動の制御、便秘・下痢の防止などで、いわゆる「整腸作用」といわれているものです。これは「特定保健用食品」の健康表示として認められているものになります。それ以外にビタミンを合成するとか、乳糖の消化性を高める、発達を促進するといったことがありますが、例えばこの乳糖の消化性を高めるというのは、牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする乳糖不耐症というのが最近問題になっていますが、これを改善する効果がプロバイオティクスにあると考えられています。

それから免疫系の働きを高める、アレルギーを予防する、がんを予防する、腸内感染を防御するというような働きがあるともいわれています。
免疫の働きに対する作用以外にも骨粗鬆症や、動脈硬化に対する予防効果も報告されています。

有用な菌の力を借りる、予防医学的な発想

シンバイオティクス
人の健康は腸内細菌で決まる!光岡知足 著(技術評論社)より引用

1989年にプロバイオティクスという概念が提唱されたのですが、これは実はアンチバイオティクス(抗生物質)に対する言葉として作られました。病原菌を死滅させる抗生物質によって病気を治すというのが近代医学だったと思いますが、有用な菌の力を借りて腸内フローラを改善する、予防医学的な発想がこの頃に出てきました。
この予防医学の重要性が広まることで、腸内フローラを改善する食品成分にも注目が集まるようになり、それがプレバイオティクスと名付けられました。そしてプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものを、シンバイオティクスという言葉で呼ぶこともあります。

プレバイオティクスの例、難消化性オリゴ糖

プレバイオティクスの例 難消化性オリゴ糖

こちらはプレバイオティクスの例で、難消化性オリゴ糖を示していますが、砂糖(ブドウ糖+果糖)にはちみつなどに多く含まれる果糖という糖がいくつかつながっているのがフラクトオリゴ糖です。オリゴ糖というのは、糖が2つ~数個つながったものをいいます。
一方ガラクトオリゴ糖とは、乳糖という牛乳の中に含まれる糖に、ガラクトースという糖がいくつかつながったものです。
このフラクトオリゴ糖とガラクトオリゴ糖の2つが代表的なプレバイオティクスとしての働きを持つもの、ということになります。

ヒト母乳中のオリゴ糖

ヒト母乳中のオリゴ糖

天然のプレバイオティクスでは、ヒトの母乳があります。ヒトの母乳にはヒトミルクオリゴ糖というのがありまして、これは昔からビフィズス因子と言われていました。母乳中にあるビフィズス菌を増殖させる因子のことを、ビフィズス因子と呼ぶのですが、こういうものが母乳中には含まれています。
ここに示したラクトNビオースという構造を持つものを、ビフィズス菌は利用することができることになります。

免疫応答の活性化と感染防御

免疫とは病気から体を守る防衛システム

免疫とは、病気から体を守る防衛システム

今度は少しプロバイオティクスの働きについてご紹介します。
まずは風邪の予防効果ですね。この免疫というものを簡単にいいますと、病気から体を守る防衛システムで、自分自身とそうでないものを区別して、自分でないものを排除するシステムです。これが正常に働いていますと病原菌やウィルスなどの感染症やがんから体を守ることができます。
そしてこのシステムが異常になってしまうと、アレルギーとか炎症性疾患・自己免疫疾患が起こります。

ヒト成人腸管について

ヒト成人腸管について

ここで成人腸管についてもう一度見てみたいと思います。全長が7~9メートルで、非常にたくさんのひだがあり、表面積が大きくできています。全部広げるとテニスコート1.5面分になるといわれています。そこへ免疫に関係する細胞が非常にたくさん、体の全リンパ球の60~70%がここに存在します。腸内細菌叢は免疫系を始めとして、ヒトの健康状態に非常に大きな影響を与えています。

1073R-1乳酸菌の摂取で風邪をひくリスクが約4割に低下

1073R-1乳酸菌の摂取で風邪をひくリスクが約4割に低下した
Makino S, Ikegami S, Kume A, Horiuchi H, Sasaki H, Orii N.
Reducing the risk of infection in the elderly by dietary intake of yoghurt fermented with
Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1.
British Journal of Nutrition 104(7):998-1006 (2010).

このプロバイオティクスが、風邪をひくリスクに対してどのような効果があるのかを一つご紹介します。これは1073R-1乳酸菌の摂取により風邪をひくリスクが約4割低下したという結果を示しています。
佐賀県有田町の健常なお年寄り57名、山形県舟形町の60歳以上の健常なお年寄り85名に実験したものですが、こちらのグループにはR-1ヨーグルトを摂取していただきました。その対照には牛乳を1日100ml飲んでもらい、風邪をひく危険性がどれぐらいあったかという実験です。
牛乳の群が1とすると、ヨーグルトを食べた群は3割~半分ぐらいに下がっており、この2つの結果を合わせて解析すると統計的にちゃんと意味がある結果になり、約4割低下しているという結果になりました。