- 1. 乳和食とは -
乳和食の意義
日本人が好んで食べる伝統的な食事である和食は、米飯を主食に、主菜や副菜に魚介類や野菜類を多く使い、脂肪分も少ないことから、健康的な食事と考えられている。また、和食は、醤油や味噌などの保存性の高い発酵調味料が多く使われており、その結果、現代日本人にとっては、食塩が多いことも特徴である。
一方、日本人の健康にとって、極めて深刻な問題である「高血圧」の大きな原因として食塩の過剰摂取があり、このため、高血圧予防、高血圧症の治療の点から、減塩食が奨励されている。しかし、外食や弁当・惣菜などの調理済み食品への依存がますます強まっている状況の中で、食品の味の強度を維持する食塩の利用と摂取はなかなか減少していない。
そこで、味噌や醤油などの伝統的調味料に「コク味」や「旨味」を有している牛乳(「コク味」や「旨味」を確保するためには、乳脂肪の役割が重要であることから、「成分無調整牛乳」を利用することが必要)を組み合わせることで、食材本来の風味や特徴を損なわずに食塩やだしを減らし、美味しく和食を食べてもらう調理法として、永年、乳を利用した料理の研究を行ってきた料理家の小山浩子先生により提案されたのが「乳和食」である。なお、「乳和食」は、日本人のカルシウム不足の改善や、特に高齢者で不足しがちな動物性蛋白質を補うことができるなどのメリットもある。
以上のような「乳和食」の意義が評価され、現在、日本栄養士会や日本高血圧協会、日本高血圧学会減塩委員会においても「乳和食」の普及に対する取り組みが行われている。
乳和食の定義
味噌や醤油などの伝統的調味料に、「コク味」や「旨味」を有している牛乳(成分無調整牛乳)を組み合わせることで、利用されている食材本来の風味や特徴を損なわずに食塩やだしを減らし、美味しく和食を食べてもらう調理法。
乳和食の栄養的効能
最も重要な栄養的効能は、食塩過剰摂取の防止である。またこれに加え、日本人のカルシウム不足の改善や、特に高齢者で不足しがちな動物性蛋白質を補うこともできる。
なぜ減塩できるのか
牛乳を使うことによって和食の味噌・塩・醤油を減らして減塩食がなぜ作ることができるのか。このことは未だ科学的に研究中です。まず、「ミルク割めんつゆ」と「水割りめんつゆ」を作って試飲してみていただきたい。食塩相当量を比べると「ミルク割めんつゆ」が「水割りめんつゆ」に比べるとやや高くなっているのは牛乳中に塩分が0.1g入っているためです。以下の表の「普通のめんつゆ」、我々が通常食べているめんつゆに比べると食塩相当量は低い。
「水割りめんつゆ」と「ミルク割めんつゆ」(めんつゆ濃度は同じ)を飲み比べると「ミルク割」の方が塩味が強く感じる。牛乳で割ることによって塩味を強く感じるのはなぜか。牛乳は若干の甘味があるため塩味が増すのではないかと考えられます。牛乳には様々な成分が含まれています。そういった成分が「だし」の味を強めるのではないかとも考えられます。料理をする上で牛乳を使うことによって、味噌・塩・醤油を減らしてもおいしい料理ができることになるのではと思います。
- 2. 目からウロコの乳和食 -
『目からウロコのおいしい減塩 乳和食』という乳和食レシピ本が市販用で発刊されています。また、『乳和食のすすめ』という本は栄養士会のテキストとして出版されています。何れも日本高血圧学会減塩委員長の河野雄平先生に推奨のお言葉をいただいております。日本栄養士会はじめ日本高血圧学会、日本高血圧協会からは「だし」による減塩を薦めている中で牛乳による減塩も非常に見るべきものがあるという評価を頂戴しています。いろいろなメディアでも取り上げられています。
上の表でお示ししたとおり5つの調理法があります。
<ミルクをだしにする>
調理に用いるだし汁の全量、または半量を牛乳に換えてみましょう。牛乳には乳脂肪のコクとアミノ酸の旨み、乳糖の穏やかな甘味、わずかな塩味が含まれていますそれらが絶妙に溶け合ったまろやかなコクが料理に深みを与えてくれるので、その分、使う塩やしょうゆの量を減らすことができます。
<ミルクで割る・のばす>
めんつゆを割ったり、しょうゆやみそなどで煮たりするときに使う水を牛乳におき換えることで、しょうゆやみその量を半分に減らすことができます。調味料を減らしても、牛乳のコクが加わるため、味が物足りないこともありません。
不思議なことに、できあがった料理は牛乳が味を主張せず、コクと旨みだけがしっかり残って、食べ応え十分。これぞ“おいしい減塩”と、実感できるはずです。
<ミルクでゆでる・ゆで戻す>
野菜を煮たり、ゆでたりする際に、水の代わりに牛乳を使うと、野菜のコクと甘味がアップ。特に大根やじゃがいもは、牛乳と相性抜群で、クリーミーなおいしさに。また、高野豆腐などの乾物を戻すときに温かい牛乳を使うと、牛乳の旨みが中にしみて、いつもよりもちもちとした弾力のある食感に。野菜も乾物も、牛乳をたっぷり吸い込むことで、素材の味がより一層濃くなるのがミルクマジックです。
<ミルクで溶く>
小麦粉などを溶く際にも、水の代わりにぜひ牛乳を。衣やルーが牛乳のコクと甘味でワンランク上に。揚げ物なら、牛乳で溶いたミルク衣を食材にまとわせると、旨味がプラスされるだけでなく、加熱中に牛乳のたんぱく質が膜となって食材を包み込むので、油の吸収を妨げ、カラッとヘルシーな仕上がりに。また、米粉を牛乳で溶いて加熱すると、バターいらずのヘルシーな和風ホワイトソースになり、重宝します。
<ミルクにお酢を加える>
暖めた牛乳に酢を加えると化学変化が起きて分離し、カッテージチーズと乳清ができます。自家製カッテージチーズのさっぱりとした風味と軽い口当たりは、しょうゆやポン酢ともよく合い、和食の新しいおいしさが広がります。残った乳清(ホエー)も捨てないで!乳清には、もともと牛乳に含まれていた水溶性のたんぱくとミネラルがそのままたくさん含まれています。乳清のほのかな酸味はお酢の代わりに活用すると、減塩の強い味方になります。
この調理法を使用したレシピが次の表になります。
このレシピの中で「乳和食」「減塩」のきっかけとなったのが「ミルク茶碗蒸し」です。茶碗蒸しを作る時に牛乳を加えると塩味が強く感じられました。そこで、塩味を少し抑えてみたらちょうど良い味となった。これが「乳和食」のスタートだったのです。
また、「かぼちゃのミルクそぼろ煮」「さばのミルクみそ煮」は、乳和食の調理実習で採用している定番メニューです。従来牛乳料理は、決して「煮立たせない」ことが調理指導の鉄則でした。乳和食では、生の魚や鶏肉と冷たい牛乳を合わせてから加熱し、あえて牛乳を煮立たせます。そのことにより牛乳が分離し、牛乳の白さがなくなるとともに、牛乳の匂いも魚や鳥肉の臭みも同時になくなり、おいしくなるのです。更に「さばのミルクみそ煮」は、ミルクの甘味を消すために生姜ではなく、トウガラシを使います。ミルク煮にならないよう牛乳の使用量についても細かく検討されたレシピです。
以下は、一般的な夕食献立を乳和食にした場合の比較です。
食塩とカルシウムに注目すると、乳和食の場合は食塩が低く抑えられ、カルシウムが増えることになります。乳和食では乳タンパクが入るため肉、魚を減らしても牛乳からいろいろなタンパクを補うことができ、バランスの良い食事となっています。また、タンパク当たりの単価は、肉や魚より牛乳の方が安いので、経済的になります。
また、一般的な和食に比べて乳和食は大幅に減塩でき、更に調理が簡単・手軽になること、そして乳の旨みが生かされること、更にカルシウムが摂取でき栄養バランスの改善に繋がることが乳和食の特徴です。