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第108回 高校生と語ろう“ミルクの未来”

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

高校2年生 2名から論文発表

指導担当 高校2年生 2名から論文発表

牛乳の廃棄を防ぐために

牛乳の廃棄を防ぐために

学校からの課題である研究論文のテーマを考えていた際、なかなかよい案が思い浮かばず行き詰まっていました。そこで、自分たちの身の回りで興味があるものを探っていたところ、牛乳には飲料以外の使い道があることを知り、それに関してより知見を広げたいと考えました。

研究動機

研究動機

さらに、コロナや冬休みの休校期間中の牛乳の消費量減少が著しいというニュースを聞き、牛乳が捨てられてしまう危機に直面しているのだと知りました。そこで、牛乳の需要を増大させる方法や、牛乳を再利用する方法を考案することで、牛乳の廃棄量を削減する一助となりたいと考えました。

美容パックなど

美容パックなど

初めに、牛乳を再利用する方法を調べ、手軽に制作できるバスミルクや美容パックに着目しました。初めはネットで見つけた作り方に沿って美容パックを作り、その性能を上げるために異なる材料を加えるなどしてみました。しかし、その効果を検証する方法が見つからず、美容パックでの検証の余地はあまりないと考えました。さらに、バスミルクはその制作過程の手軽さから、みずから改良の余地を見つけることができませんでした。
そこで、私たちが次に注目したのはカゼインプラスチックです。カゼインプラスチックとは、牛乳に最も多く含まれるたんぱく質であるカゼインを主成分としたプラスチックで、自然環境下で水と二酸化炭素に分解されるという生分解性を持っています。私たちは、牛乳からカゼインプラスチックを制作できるという性質を利用することにより、廃棄予定の牛乳の量を減らすとともに、何か役に立つものをつくることができるのではないかと考えました。

指導担当 高校2年生 2名から論文発表

カゼインプラスチックの制作方法

カゼインプラスチックの制作方法

まず、カゼインプラスチックの制作方法をご説明します。熱した牛乳にお酢を1滴ずつ滴下し、ガーゼで沈殿した固形物をこし取ります。その後、固形物を水洗いし、固まったら水分を取って気泡を抜きます。さらに、成形をし、固まるまで乾燥させます。完全に固まるまでは数日間かかりました。

実際に制作したカゼインプラスチックの試作品

カゼインプラスチックの制作方法

スライドの写真のとおり、白色で比較的固く、ほんのりと牛乳の独特のにおいが感じられました。

カゼインプラスチックの改良

カゼインプラスチックの改良

実際に制作過程における牛乳とお酢の比率や、電子レンジの加熱時間によってその質を上げる余地があるのではと考えました。しかし、何をもって改良とみなすかや、カゼインプラスチックの用途が定まっていなかったため、模索しながら実験を行う必要がありました。そこで、カゼインプラスチックの性能を調べることにより、それが何に適しているかの案を提示しようと思いました。

研究内容

研究内容

結論として、カゼインプラスチックは幼児用食器に適していると考えました。理由は、独自で行った4つの検証に基づきます。これから、その4つの検証について一つずつお話ししていきたいと思います。

1.耐熱性

耐熱性

4つの検証のうち一つ目は、耐熱性についてです。約100度の熱湯に3時間ほどカゼインプラスチックを浸けました。写真は実際に鍋に浸している様子です。

形状

形状

その結果、写真のように変化し、熱湯から出した直後のものは形状が保たれていたものの弾力性がありました。さらに1週間放置すると、もとのカゼインプラスチックと同じ形状に戻りました。
このことから、カゼインプラスチックは熱可塑性があるとまではいかなくても、そこまで耐熱性があるとは言えないという結論に至りました。

2.耐薬品性

耐薬品性

続いて耐薬品性です。この検証では、弱酸性と弱アルカリ性、2種類の洗剤をそれぞれ水で希釈し、カゼインプラスチックを3時間ほど浸しました。検証の前後で質量変化の確認と、ルーペを使用した表面の変化の確認を行いました。

変化と課題

変化と課題

結果として、検証の前後で質量の変化や表面の変化が見受けられなかったものの、使用した洗剤により着色してしまいました。そのため、耐薬品性はあるものの、色などが残ってしまうことが課題だと考えました。

3.不透水性

不透水性

不透水性は、カゼインプラスチックを2時間水につけた後の質量変化を確認することで検証しました。初め質量変化がなかったため、不透水性があると考えられていました。しかし、カゼインプラスチックをつくる際に、気泡があるものとないもので個体差があることも考慮すると、気泡が生じてしまったものは水を通してしまう可能性もあるため、一概に不透水性があるとは言えないと考えました。

4.耐咬合性

耐咬合性

耐咬合性の検証では、カゼインプラスチックに鉄球を落とし、落としたときの高さから、カゼインプラスチックが耐え得る衝撃の値を算出するという方法をとりました。その際、鉄球が落下する間に働いた空気抵抗や、落下後に発生した音エネルギーや熱エネルギーはごく微小であり、鉄球による位置エネルギーは全てカゼインプラスチックを割るのに用いられたと仮定しました。また、結果の正確性を上げるために3回行った上で、その平均値を求めました。

比較検証

比較検証

カゼインプラスチックが割れる前、割れた後、断面の写真で、横の列が同じカゼインプラスチックを示しています。特に断面の写真を見てわかるように、内部の空洞の有無に大きな違いがあります。

位置エネルギー

位置エネルギー

求めた位置エネルギーと照らし合わせると、内部の空洞が大きいほど衝撃として耐えられるエネルギーの大きさが小さいことがわかりました。そのため、耐咬合性を高めるためには、より密度が高いカゼインプラスチックをつくる必要があると考えました。密度を高める方法までは今回検討し切れていませんが、カゼインプラスチックの試作品を制作した際、全て手作業で行った影響により、成形の段階で加えられた圧力に大きな差が生じてしまったと考えられるため、実用レベルのものを制作するためには、一定水準の圧力を加えることができる機械が必要であるという考察に至りました。

一般的なプラスチックとカゼインプラスチックの比較

一般的なプラスチックとカゼインプラスチックの比較

以上の4つの検証結果から、カゼインプラスチックと一般的な幼児用食器に使用されているプラスチックとの比較を行いました。一般的なプラスチックと同様に、カゼインプラスチックは熱耐性があまりありません。そして、耐薬品性はあるものの着色してしまうことが問題だということが考察できました。また、不透水性や耐咬合性に関しては、カゼインプラスチックを制作する際に一定以上の圧力を均等に加えられる機械を用いることにより、その密度を高めることで容易に改善ができるのではないかと考えました。

一般的なプラスチックとカゼインプラスチックの比較

結論

結論

結論として、カゼインプラスチックには、耐薬品性、不透水性、そして、耐咬合性が一定以上あります。このことから、カゼインプラスチックは幼児用食器の素材として適切であると考察しました。幼児用食器はあくまで幼児用ですので、そこまでの熱湯は要らないと考え、カゼインプラスチックの欠点である耐熱性があまり備わっていないことは大きな問題になることはないと考えました。

課題

課題

最後に、検証から見つけられた課題として、このようなことが挙げられます。各検証で説明した課題に加え、牛乳の保管場所なども新たな課題として挙げました。その解決方法の一つとして、よりコンパクトなスキムミルクを使用した場合も、カゼインプラスチックをつくることができるのかを検証する余地があると考えました。