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第99回 腸内細菌・プロバイオティクスと健康

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

シンバイオティクス

1989年にプロバイオティクスという概念が提唱されたのですが、これは実はアンチバイオティクス(抗生物質)に対する言葉として作られました。病原菌を死滅させる抗生物質によって病気を治すというのが近代医学だったと思いますが、有用な菌の力を借りて腸内フローラを改善する、予防医学的な発想がこの頃に出てきました。
この予防医学の重要性が広まることで、腸内フローラを改善する食品成分にも注目が集まるようになり、それがプレバイオティクスと名付けられました。そしてプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものを、シンバイオティクスという言葉で呼ぶこともあります。

プレバイオティクスの例 難消化性オリゴ糖

こちらはプレバイオティクスの例で、難消化性オリゴ糖を示していますが、砂糖(ブドウ糖+果糖)にハチミツなどに多く含まれる果糖という糖がいくつかつながっているのがフラクトオリゴ糖です。オリゴ糖というのは、糖が2つ~数個つながったものをいいます。
一方ガラクトオリゴ糖とは、乳糖という牛乳の中に含まれる糖に、ガラクトースという糖がいくつかつながったものです。
このフラクトオリゴ糖とガラクトオリゴ糖の2つが代表的なプレバイオティクスとしての働きを持つもの、ということになります。

ヒト母乳中のオリゴ糖

天然のプレバイオティクスでは、ヒトの母乳があります。ヒトの母乳にはヒトミルクオリゴ糖というのがありまして、これは昔からビフィズス因子と言われていました。母乳中にあるビフィズス菌を増殖させる因子のことを、ビフィズス因子と呼ぶのですが、こういうものが母乳中には含まれています。ここに示したラクトNビオースという構造を持つものを、ビフィズス菌は利用することができることになります。

- 免疫応答の活性化と感染防御 -
免疫とは、病気から体を守る防衛システム

今度は少しプロバイオティクスの働きについてご紹介します。まずは風邪の予防効果ですね。この免疫というものを簡単にいいますと、病気から体を守る防衛システムで、自分自身とそうでないものを区別して、自分でないものを排除するシステムです。これが正常に働いていますと病原菌やウィルスなどの感染症やがんから体を守ることができます。
そしてこのシステムが異常になってしまうと、アレルギーとか炎症性疾患・自己免疫疾患が起こります。

ヒト成人腸管について

ここで成人腸管についてもう一度見てみたいと思います。全長が7~9メートルで、非常にたくさんのひだがあり、表面積が大きくできています。全部広げるとテニスコート1.5面分になるといわれています。そこへ免疫に関係する細胞が非常にたくさん、体の全リンパ球の60~70%がここに存在します。腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)は免疫系を始めとして、ヒトの健康状態に非常に大きな影響を与えています。

1073R-1乳酸菌の摂取で風邪をひくリスクが約4割に低下した

このプロバイオティクスが、風邪をひくリスクに対してどのような効果があるのかを一つご紹介します。これは1073R-1乳酸菌の摂取により風邪をひくリスクが約4割低下したという結果を示しています。佐賀県有田町の健常なお年寄り57名、山形県舟形町の60歳以上の健常なお年寄り85名に実験したものですが、こちらのグループにはR-1ヨーグルトを摂取していただきました。その対照には牛乳を1日100ml飲んでもらい、風邪をひく危険性がどれぐらいあったかという実験です。
牛乳の群が1とすると、ヨーグルトを食べた群は3割~半分ぐらいに下がっており、この2つの結果を合わせて解析すると統計的にちゃんと意味がある結果になり、約4割低下しているという結果になりました。

- アレルギーの発症抑制、症状緩和 -
東京都内のスギ花粉症の推定有病率とその推移

これは免疫を抑制する働きについてです。東京都内のスギ花粉症がどのように増えてきたかを示していますが、東京都全体でいいますと2016年度のスギ花粉症の有病率は48.8%で2人に1人が花粉症と言われています。だいたい10年ごとに調査をしてきているのですが、この30年間で約5倍に増えています。

免疫関連疾患の羅患率の増加

花粉症だけが増えているのかというと、実はそうではなく、喘息も20年間で3倍に増えています。それから先進国では自己免疫疾患という他の免疫の病気などもどんどん増えている状況にあります。

発症 生活習慣病 免疫系疾患

それがなぜ増えてきたのかをいろいろ考えてみると、遺伝的要因とか、食生活、科学環境、微生物環境ということがありますが、今のこの免疫の異常に関しては、私たちを取り巻く微生物環境が変わってきたことが大きな影響をしているだろう、といわれています。

衛生仮説

それがこの衛生仮説というものになります。
アレルギーの発症の少ないところと多いところの比較をしてみると、アレルギーの多いところというのは高衛生環境にある、つまり微生物とのふれあいが少ない場所で、そういうところでアレルギーの発症が多い。したがって免疫アレルギーの疾患が増加したのは、微生物との接触機会の減少が原因ではないかと考えられています。

アレルギー患者の腸内にはラクトバチルス菌が少ない

実際にアレルギー患者の腸の中を調べてみますと、乳酸菌の一つであるラクトバチルス菌が少ないという結果が得られまして、腸内細菌叢の悪化がアレルギー増加に関係している可能性があるのではないかということになりました。

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防

それならば、この腸内細菌叢をプロバイオティクスを使って変化させることでアレルギーを予防できないかということを考えた方がいらっしゃいます。どういうことをやったかというと、妊婦さんとお母さんにこの乳酸菌を食べてもらいました。対象は、家族歴からその子どもがアトピーになる危険性の高いお母さんの159名です。そのお母さんに出産前2~4週間と、生まれてきた新生児に6か月間、ラクトバチルス菌を食べてもらう。その結果、子どもが2歳になった時のアトピー性皮膚炎の発症率が対照群に比べて半分になったという結果がありました。

プロバイオティクス乳酸菌の経口投与によるアトピー性皮膚炎の予防

発症しやすいお子さんのお母さんを選んでいるので、50%の方が発症してしまうのですが、この菌を食べておくと2歳の時にアトピー性皮膚炎の発症率が半分になったということで、これは非常に画期的な結果です。
アレルギーを予防する、あるいは発症を抑えるということは、どんな医薬品にもできていないんです。それがこういう乳酸菌つまりプロバイオティクス、食品として使えるもので可能なのだということが分かりまして、それ以来、乳酸菌が免疫に対して非常に有効なのではないか?といろいろな研究が進められるようになりました。

- 様々な機能をもつプロバイオティクス -
Medicine

これはもう2001年の研究ですので20年ぐらい前の結果ですが、その後同じような研究が2015年までにだいたい17件ぐらい行われました。先ほど半分になったという結果をご紹介しましたが、いろいろな結果を合わせてみますと、発症リスクは約2割低下するというのが今の状態になります。ヒトの腸内細菌というのは、それぞれ人によって全然違いますので、どのようなプロバイオティクスがあうかということも違ってくる。そういう研究が進んでいかないと、この有効率は上がっていかないと考えられます。

腸内環境もエコロジーの一部 すべてはつながっている

これは先ほどご紹介した光岡知足先生の本からの引用ですが、腸内環境もエコロジー、生態系の一部である。地球、地域、人、それから腸、すべてはつながっている。腸内環境も生態系の一部なので、つまり腸内フローラのバランスを整えることが最も身近なエコロジー対策でもあると。

自然とふれあうことの意味

「近代化が進み、都市生活が広がることで、動物・植物・微生物による食物連鎖のつながりが断ち切られ、自然界の調和は大きく崩れてしまいました。菌たちが日常から遠ざけられることで衛生状態は良くなり感染症も減りましたが、その半面、体に備わった免疫力が低下したことは否めません。自然との調和を取り戻すことは容易ではありませんが、腸内フローラもそうした自然の一部です。腸内細菌との共生を図ることがこれまでの生活を見直す一つのきっかけになるはず」というのが、光岡先生の言葉です。

腸内免疫系

腸の免疫系というのは非常に複雑なことをしていまして、常在菌、私たちの腸内細菌、あるいは有用な微生物、食品に由来するタンパク質といった安全なものは受け入れる働きをしています。それがちゃんと働くことを免疫寛容(めんえきかんよう)といい、正常に働いていると健常な状態といえます。しかしそれが破綻すると、食物アレルギーやいろいろな炎症性の腸の疾患が起こってしまいます。病原菌やウィルスというのは腸管からたくさん入ってこようとしますので、これを排除しなければいけない。そういう複雑なことをこの腸管免疫系は行っています。
それがこの腸内細菌が必ずあることで、この調和がうまく取れていることになるわけです。その調和が崩れてしまった場合には、プロバイオティクス、あるいはプレバイオティクスでここを調整してやることによって、このような免疫系のシステムがちゃんと動くようにしてやろうというのが、このプロバイオティクス・プレバイオティクスが免疫に対してどういういい影響をしていくかということの考え方の一つになっています。

特定保健用食品の健康表示

現在の特定保健用食品は8月現在で1,068品目ですが、いわゆるヘルスクレーム、健康表示というもののに「おなかの調子を整えたい方に」というのがあります。これは乳酸菌やオリゴ糖、食物繊維などがそれに当たるわけですが、特保の約4割を占めます。売り上げの約半分が整腸作用に関係する商品だといわれていて、特保の中でも整腸作用というのが非常に大きな分野になっているわけです。
今まで各社が作ってきたこういうものというのは、基本的には整腸作用を売りにしてきていますが、それ以外に先ほどのR-1ヨーグルトは風邪をひきにくくするとか、病原菌から体を守るとか、いろいろな作用があることがわかってきているわけです。

内臓脂肪を減らすのを助けるガセリ菌SP株ヨーグルト

これらの話とはまた全然違う話が出てきていることを最後にさせていただきます。
ひとつは、内臓脂肪を減らすのを助けるガセリ菌ヨーグルト、ということで、整腸作用や免疫とかとはちょっと違います。多少関連はしているのですが、脂肪に働きかけて、脂肪というのは分解すると脂肪酸になるのですが、その分解や吸収されるのを抑制する、そういう働きがこの菌にはあるということです。
右下の図の左側は脂肪の塊、脂肪滴ですが、その脂肪滴が、この菌があるとどうも大きくなるらしいんですね。こちらは小さいままなのですが、この菌があると脂肪滴が大きくなる。そうすると、脂肪滴を分解する酵素というのは周りから攻撃をしますので、中の方は分解ができないわけですね。その分解を抑えて吸収を抑制する。そうすることで内臓脂肪を蓄積しないようにしてやる。そういう働きがある、ということをいっているのがこの菌です。

肥満児 ガセリ菌SP株を摂取した場合

もうひとつは、免疫に関係する部分もありますが、腸というのは余計なものが勝手に体の中に入ってこないように、すごく硬いバリアを作っているんですね。とにかく腸の表面の細胞がお互いにがっちりつながって固めていて、なかなか入れない。しかし何らかの不具合があると、腸管バリアが破れて、いろいろな炎症を起こす物質が入ってきてしまいます。そうすると、その入ってきた物質がいろいろな臓器で炎症し、ちょっとずつ痛いという状況になるんですね。それが病気の基になったり、肥満の基になるという考え方が最近出てきていますので、その腸管のバリア機能を保護する、あるいは高めてやることによって、炎症を起こす物質が入ってくるのを抑えてやる。そうして体の健康を保ってくという考え方のものがこれです。
ここにそれを示した図があります。脂肪の蓄積と内臓脂肪の炎症とありまして、肥満の時には脂質・脂肪がどんどん入ってきてしまうため、それをまず押さえる。ガセリ菌があるとこれを抑制する。もう一つは炎症を起こす物質というのが、腸のバリアを破って血管の中に入って、いろいろな脂肪組織とか、内臓に炎症を起こしてやる。これが肥満につながる。それをこの入ってくるのを抑えてやる。そうすることで炎症を抑えて、肥満にならないようにしてやる。このような考え方をしているのがいわゆ「トクホのガセリ」というやつです。

尿酸値の上昇を抑える明治プロビオヨーグルトPA-3

もうひとつ、またこれもちょっと違う考え方なのですが、いわゆる痛風の元になる尿酸です。この尿酸値の上昇を抑えるヨーグルトというのが販売されています。これは特保とはちょっと違う最近できた制度で、必要事項を届け出ることで健康機能が表示できる「機能性表示食品」です。このラクトバチルス菌、これもガセリ菌の一つですが、PA-3という菌で、これが入っていることによって、尿酸値が体の中で上がってくるのを抑える働きがあります。この尿酸の基になるのはプリン体といいまして、このプリン体というのは私たちの遺伝子を作っている核酸という物質の一部です。例えばそういう核酸がたくさん入っている食べ物を食べると、痛風になりやすいということでいわゆる贅沢病と言われてきた病気です。核酸を分解してプリン体をまず作る。この菌が腸の中で作るのですが、それを自分で使ってしまうので、人の体内への吸収を抑制することができるということで、尿酸値の上昇を抑えるような働きがある菌、それを使ったヨーグルト、として販売されています。
プロバイオティクスの働きが、整腸作用や、免疫に対する作用だけではなくて、いろいろなところに展開されているというのが今の状況です。