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第81回 ミルクは何故白いのか?
~その白さの奥に広がる神秘の世界~

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
Q1.硬質チーズと歯の関係ですが、硬質チーズを摂取することによる効果ではなくて噛むことによる効果なのでしょうか。
A1.
  • 噛むことにより唾液の中にリン酸カルシウムやタンパク質が出てきて、それがエナメル質をコーティングすることによります。
Q2.硬質チーズが虫歯予防になることをWHOが「ほぼ確実」と認めている訳ですから、今後、機能性表示ができることになった時に表示しても良いと考えてもいいのでしょうか。
A2.
  • 表示したいところではありますが、有効成分の特定やどれ位の量が入っていなければならないといったことがあります。チーズは種類や作り方によって一定にはならないため難しいのではないかと考えます。
Q3.ミルクの白はカゼインミセルが乱反射するということですが、白くないミルクは無いと考えて良いのでしょうか。全ての乳は白という色を持っているという理解で良いのでしょうか。また、乳糖が無いミルクがあるとのことでしたが、乳糖の働きでエネルギーのご説明はありましたが乳糖の血糖値正常維持、浸透圧調整、雑菌から仔を守る働きは乳糖が無いミルクでどのように代替しているのでしょうか。3つ目は牛乳風呂に浸かるだけでも美肌効果はあるのでしょうか。
A3.
  • 私の知る範囲やこれまで読んだ論文では全てのミルクにカゼインミセルがあり、白さの濃淡はありますが白という色はあります。2つ目の質問ですが、これは不思議に思っております。乳糖が仔を守る機能があるとしたら、何故水生動物は必要としないのかを私自身も知りたいと思っています。3つ目は、昔ヨーロッパの貴族のご婦人たちはホエー風呂に入っていました。そういうことから、牛乳風呂にも十分効果は有り得ると考えます。
    ただ、牛乳風呂やホエー風呂にはタンパク質もありますから、細菌が増殖して臭くなってしまうのではないでしょうか。美肌効果に一番可能性の高い物質はリン脂質で脂肪球皮膜ですとか、その中でもスフィンゴミエリンといったものです。ホエーの中には脂肪も一部残っていますし脂肪球皮膜の残骸も入っていて、それらに効果があるのではないかと考えます。
  • 質疑応答
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Q4.1つ目は、カゼインミセルの構造そのものがよく判っていない中で、どのようにその中にリン酸カルシウムを封じ込めているのか、どのようにお考えでしょうか。2つ目は、粉ミルクは、ミルクには沢山判っていないことが多くありながら、それがどのようなプロセスで作られて、どのような成分を変化させているのかをお聞きします。
A4.
  • 1つ目ですが、リン酸カルシウムがどのようにカゼインミセルの中に入っているのか。サブミセル説にしてもナノクラスター説にしてもリン酸カルシウムの小さな塊があって、それがカゼインに結合していてミセルのようなものになっています。ミセルそのものが分散しているのでリン酸カルシウムも分散している。どれ位の大きさのリン酸カルシウムがカゼインとどのように結合しているのか。リンの部分にカルシウム等が結合する訳ですが何個位結合するのかとか細部は議論が分かれるところです。
    2つ目は、赤ちゃん用の粉ミルクにしても水生動物用の粉ミルクにしてもそれらを分析し成分的にその動物に合うように調整します。例えば、ヒトのミルクですとカゼインタンパク質とホエータンパク質の割合は、ホエータンパク質の方が多いためカゼインにホエータンパク質を上乗せしたりします。脂肪の組成も違うため牛乳の組成をベースにしますがそこに植物性の脂肪を加えたり、それから牛乳にはカルシウムが多いのですがヒトの場合は牛乳に比べると少ないため「脱塩」と呼ぶミネラルを減らす操作をしたりして成分的にほぼ同じにそろえることをします。水生動物用の粉ミルクは脂肪が50%以上あるため、成分をそろえることはできても粘着性が強いため粉にすることが難しく、凍結乾燥の製法を使います。
Q5.西洋ではフルコースの食事の後、デザートとしてチーズが出ます。日本ではチーズは前菜的な食材として扱われています。西洋人はチーズが虫歯予防になると判っていたから食事の最後にチーズを食べる食習慣になったのでしょうか。
A5.
  • チーズが虫歯予防になると気付いてその習慣になったかはわかりませんが、非常に理に適った食事の仕方だと思います。日本でも食事の最後にチーズを食べることは良いのではないでしょうか。食事の最初でもいいと思いますが、より効果的なのは食事の最後ではないでしょうか。
Q6.女性にとって肌の乾燥は切実な問題です。水分保持効果の実験で60歳台の実験はないのでしょうか。60歳台でもその効果はどの程度期待できるのか、また毎日の食事で乳製品をどの位摂取すれば効果が出るのかお伺いします。
A6.
  • 残念ながら、60歳台の実験結果はありません。個人的な印象ですが、酪農家の奥様達の中にはご高齢の方でも肌がつやつやされている方を見受けますので、60歳台でも効果はあるのではないかと思いますが、科学的なデータではございません。
Q7.男性と女性が同じように牛乳・乳製品を摂取したとしたら、どちらが美肌効果があるのでしょうか。
A7.
  • 牛乳・乳製品はメタボにも効果があり、肥満ですとか心臓病のリスクを下げるといわれています。男性と女性でどちらに顕著に効果が現れるかというと女性の方です。しかし、何故そうなるのかよくわかっていません。
Q8.牛乳で顔を洗っても美肌効果はあるのでしょうか。
A8.
  • ある程度はあると思います。脂肪成分が牛乳には含まれていますので、効果はあるのではないでしょうか。化粧品にもアミノ酸を入れた商品もあります。顔に存在する様々な菌でタンパク質が分解されアミノ酸になって、吸収されることはあり得るのではないでしょうか。
  • 質疑応答
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Q9.和食にミルクは合わないということで給食にミルクを出さないことにしたところがありましたが、虫歯予防効果や肌水分保持効果がある乳製品を給食に取り入れたら良いのではないでしょうか。また和食に牛乳・乳製品は合わないといった議論もあったと思いますが。
A9.
  • 和食の良さというのは、ひとつは食材がバラエティに富んでいてどのような食材でも取り入れられるメリットです。また、調理法も和食の歴史の中で海外のいろいろな調理法を取り入れてきて現在の調理法が確立されていると思います。
    和食というのは、非常に「懐の深い食文化」ではないかと思います。そのような和食に「乳」は合わないということは自己矛盾しているのではないかと感じます。必ずしも液体の牛乳だけでなくヨーグルトやチーズだとかバラエティに富んだ乳製品を給食に提供することもできますし、乳製品を料理に使うことも考えてはどうでしょうか。カルシウム摂取ということからも牛乳・乳製品は欠かせないものではないでしょうか。
Q10.1つ目は確認です。虫歯予防効果ですが乳製品を体内に摂取してからの効果ではなく口中にあるときにリン酸カルシウムが供給されて虫歯の穴を塞ぐという理解でよろしいのでしょうか。昔から牛乳は「噛んで飲め」と言われましたが、口中に含む時間が長いほうが効果があるのでしょうか。2つ目は、「脂肪球皮膜粉末」はどのようなものでしょうか。それと、脱脂粉乳と牛乳ではどちらが美肌効果があるのでしょうか。
A10.
  • 1つ目は、そのとおりです。2つ目のご質問ですが、この実験はよつ葉乳業様が実施された結果です。脂肪球皮膜というのは脂肪を包んで安定化させるタンパク質群です。これを取り出す技術をよつ葉乳業様はお持ちで、その技術で取り出した物質を使った実験です。脱脂粉乳と牛乳の効果の差は脂肪が含まれているかそうでないかの違いで、おそらく牛乳の方が効果は高いのではないかと思います。牛乳の美肌効果の実験はされていないようなので詳細は判りません。
Q11.硬質チーズは噛むことによって唾液が出ることで虫歯予防効果があることが判りましたが、チーズ中の成分が有効ということは考えられないでしょうか。
A11.
  • これまでに読んだ虫歯予防関係の論文では成分まで踏み込んだものは無く、単に硬質のチーズを噛むことにより唾液の分泌が多くなるとしか書かれていません。ただ、硬質チーズは長い時間をかけて熟成させてタンパク質が分解されてアミノ酸ですとかペプチドができていますので虫歯には効果がなくても他の病気に対して効果がある。
    東海大学の井越教授の研究によりますとペプチドにがん細胞を抑える効果があると発表されております。虫歯だけでなく全般的な効果が期待できると考えております。
Q12.ケトン体が脳のエネルギーになるという情報は非常に新しいです。今、世間で流行っている低炭水化物ダイエットを裏付けるために良い資料だと思います。牛乳を飲んでダイエットする考え方が今以上に盛んになってもよいと思います。タンパク質についてです。タンパク質は最終的にアルブミンとグロブリンになればよいので、カゼインでなく植物性タンパク質でもよい訳です。ヒトの場合は雑食性なので進化の過程で動物性たんぱく質が優位だということが仮説なのでそれで不足する分を植物性で補って生き延びたとしたら、植物性タンパク質がなければなりません。カゼインを植物性タンパク質と一緒に摂取するということをどのように考えたら良いのでしょうか。
A12.
  • カゼインの場合はアミノ酸組成が優れているのですが、含硫アミノ酸がやや少ないので含硫アミノ酸を多く含む大豆タンパク質と一緒に摂取すると相互に補完することになります。
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Q13.9種類の必須アミノ酸の中でカゼインは生物価がどのような組み合わせでも100になれば良いのですが、順位の優位はあるのでしょうか。
A13.
  • そのことについて私は確実にお答えできません。但し、最終的にはアミノ酸になるのですが、その前段階としてペプチドができて、そのペプチドがカルシウムの吸収を高めたり、必要な物質を運搬することに使われたり、腸管の中で免疫細胞に働き機能を高めたり等の機能があります。カゼインにもありますし、大豆タンパク質にもあることが報告されています。いろいろなタンパク質をバランス良く食べることは理に適った食べ方だと思います。
Q14.哺乳類の仔は生まれて数ヶ月はミルクだけで生きています。大人にもそのような効果が牛乳にあるということになれば、飲用により説得力が生まれるのではないでしょうか。また、経済効率から様々な食物を摂取しないで牛乳だけで保管できれば、その効率は高くなり経済的にも良いのではないかと考えます。
A14.
  • 栄養素密度が高い食品(牛乳・肉・卵・大豆等)、は1gや1カロリー当たりの栄養素が高いため、同じ栄養素を満たすためにはより少ない摂取量で満たすことができると言えます。
Q15.カゼインミセルの構造ですが、2種類に見える理由は処理の仕方によるものとお伺いしましたが電子顕微鏡の解像度の問題ではなく同一の電子顕微鏡で見ても2種類なのでしょうか。
A15.
  • 電子顕微鏡で撮影する場合「固定」という操作をします。化学薬品で固定したり、凍結させて固定したものを薄く切るのですが、切る道具の切れ味の差によっても映像が変わってきてしまうことがあります。
Q16.最近はスプリング8(大型放射光施設で様々な分析に利用される施設)のような設備を使ってもカゼインミセルの構造は解明できないということでしょうか。
A16.
  • 世界中で今も研究は進んでいますが、今のところ解明されていないと言ったほうが良いと思います。
Q17.日本最古の医学書「医新方」に「乳を飲む」という記述がありますが、日本では牛乳を飲み始めたのは明治時代からだと記憶していたのですが、日本人に母乳以外のどの動物の「乳」を飲む習慣があったのでしょうか。
A17.
  • 日本にミルクの文化が入ってきたのは大化の改新の頃です。その頃のお経の中に昔の乳製品がいろいろ書いてあります。その中の一つが「醍醐」です。現在の醍醐味に通じています。その当時の乳製品は薬としての効果を謳ったもので、摂取すると「万病皆除く」というような記述で、貴族階級だけが享受して庶民階級には拡らなかった。
    鎌倉時代に乳製品は廃れてしまうことになり、江戸時代になると徳川吉宗の時代になるとミルクを飲むようになりました。それは、今で言う「加糖練乳」のようなものを作り、江戸の雉橋で販売していたとされています。真偽はわかりません。牧場は現在の千葉県にあり、そこは「酪農の里」言われ日本で最初の牧場とされています。歴史は古いのですが、途中、中抜けしています。
  • 質疑応答
  • 質疑応答
Q18.牛以外の動物の乳を飲むことはあるのでしょうか。
A18.
  • 山羊、羊、駱駝、馬などがあげられます。馬のミルクはモンゴルで飲まれています。馬のミルクは牛や山羊にくらべヒトのミルクに成分的に似ています。山羊、羊や水牛のミルクはタンパク質や脂肪が高いので美味しいのではないでしょうか。ただ、それらは独特の臭いがあります。それは、脂肪酸の中にカプリン酸というのが原因です。カプリンの意味はもともと山羊という意味です。