日EU・EPA交渉の大枠合意に係る要請事項について
今回の日EU・EPA交渉において、基幹的な乳製品であるバター及び脱脂粉乳については、国家貿易を維持し、限定的な民間貿易枠の設定に留めたことは、日本の酪農乳業への影響を最小限に抑えた交渉成果であったと受け止めています。
一方、チーズやホエイについては、長期間での段階的な関税引き下げやセーフガードの設定などの配慮が行われました。しかし、チーズについては、基幹的なハード系チーズやクリームチーズの関税を撤廃することとしたことに加え、ソフト系チーズについても、「関税割当制度を適用し、国産のチーズ振興と両立できる範囲に留めた」としているものの、その影響が懸念されます。
近年、国が策定した「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(以下「基本方針」)の下、北海道においてチーズの生産能力が大幅に強化されるとともに、6次産業化が進められる中、チーズ製造プラントが全国で数多く操業を開始しており、今回の合意がこうしたプラント経営にも、徐々に影響を及ぼしていくのではないかと危惧しております。
乳業としては、引き続き高品質で日本の食文化や日本人の嗜好に合ったチーズ等の開発に努めることは当然のことですが、EUからの輸入乳製品との競争力を維持・確保する観点から、以下の事項を国に対して強く要請いたします。
- 要請事項 -
- 1:乳製品の関税削減・撤廃による乳業者及び生産者への影響を緩和するための新たな国内対策の実施
- 2:特に、チーズ及びホエイの関税削減・撤廃によるEUからの輸入チーズとの競争力を維持・確保するとともに、基本方針に基づき国産チーズの付加価値の向上と需要の拡大を図るため、生産者対策の実施による加工原料乳の供給確保、及び国内乳業への影響の緩和と競争力を強化するために必要な対策(輸入チーズと競争可能な価格での安定的な生乳調達環境作り、国産チーズの需要拡大のためのマーケティング、商品開発、生産合理化等の支援)の実施
また、プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズの関税割当制度については、関税の削減に伴い、早晩、制度の維持が困難になると考えられるため、制度撤廃に向けた工程を明確にし、関税割当制度の弾力的運用を行うとともに、撤廃の際の影響を最小限にとどめるために必要な対策の検討 - 3:基本方針に基づき、目標とする750万トンの生乳生産を確保するため、畜産クラスター対策をはじめとする生乳生産基盤強化のための施策の実効性をさらに高めるとともに、家畜衛生条件の改訂交渉を含む乳用牛の輸入をも視野に入れた画期的な追加対策の検討・実施
- 4:EUから輸入される乳製品との競争力を強化するため、生産品目のシフト対策の実施及び乳業工場の再編対策の強化
- 5:脱脂粉乳・バター・チーズ等のEU枠の発給については、国内需給への影響に鑑み、国内で乳製品を製造する乳業者に優先して配分すること
- 6:以上のような乳製品の輸入環境の変化を踏まえ、基本方針を見直すとともに、必要な対策を基本方針の中に明確に位置づけること