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生産と製造をむすぶ「生乳取引」
~乳製品の価格が決まるまでのしくみ~

酪農と乳業について

酪農生産者と組合組織の構造

酪農生産者と組合組織の構造

- 集められた生乳はどう取引されるの? -

酪農家のもとで生産された生乳はどのような経路で工場に届くのでしょうか。
酪農家の多くは、農協などの組合組織に属し、農協は都道府県単位で農協連合会等を形成しています。この連合会が「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法」に基づき、農林水産大臣または知事から指定を受けた地域の指定生乳生産者団体(指定団体)の会員となり、酪農家で生産された生乳は、この指定団体が複数の乳業メーカーに販売を行っていました。これを「一元集荷 多元販売」といいます。
その後、畜産経営の安定に関する法律等の一部を改正する法律が2017年6月に成立・公布され、酪農家が指定団体に全量を出荷せず、部分的に他の集乳業者や乳業会社にも販売する「部分委託」も可能になりました。しかしながら、大部分の酪農家はこれまでの指定団体を通した取引を継続している状況にあります。

用途別取引とは

- 用途によって変わる「乳価」 -

牛乳・乳製品の原料となる生乳の価格を「乳価」と呼びます。乳価の決定については、“日持ちがしない”という特徴や、国の政策なども関わって、特有の仕組みがあります。
乳価は一般的に、「飲用向」(飲用牛乳に仕向けられる生乳)、「加工向」(特定乳製品に仕向けられる生乳)など、取引される生乳の仕向け用途別に違います。これは「用途別取引」と呼ばれ、「用途別に価格を定めて取引をする」ことと、「処理した結果(用途が決まった後)で価格が決定する」ことが特徴です。つまり、牛乳、バター、チーズなど、用途が異なる品種の乳製品を製造している工場では、複数の用途別乳価が発生し、構成比によって乳価も変動することになります。
取引価格を含めた取引条件は、4月から翌年3月までの1年間を契約期間とし、通常1年を通して同じ条件で取引されています。

図12:用途別取引の例
図12:用途別取引の例

乳価形成のしくみ

- 安定した価格で製品を供給するために -

乳価は、乳業メーカーと酪農生産者(団体)の合意によって決められます。合意形成の過程を「乳価交渉」と呼びますが、この交渉には、生乳需給状況、市場動向や経済環境、乳業者や酪農生産者の経営状況など、さまざまな要因を総合的に勘案して行われます。これらの環境は乳業メーカー、酪農生産者団体ごとに異なる要因や条件があるため、合意される結果(乳価)は取引ごとに変化します。ただし、大筋では業界全体で同じような傾向になっています。
用途別乳価や指定団体との取引などは、加工原料乳に対する補給金、生クリーム等向けやチーズ向け生乳に対する補助政策など、国の政策に大きく影響を受ける側面もあります。

加工原料乳生産者補給金制度

- 安定した酪農経営のために、補助制度があります -

特定乳製品向け生乳(加工原料乳)の量は、生乳需給の変動の影響を大きく受ける性格を有しています(2.乳製品の製造工場とは【製造と消費の動向】<バター・脱脂粉乳の場合>を参照)。このため、加工原料乳地域の酪農経営を安定させ、生乳の再生産の確保を図るため、国が制定した補助制度のひとつに「加工原料乳生産者補給金制度」があります。この制度は、2000年度までは加工原料乳生産者の生乳生産費(保証価格)と乳業メーカーの支払い可能価格(基準取引価格)の差額を、補給金として国が補填することから「不足払い制度」と呼ばれていましたが、2001年度に改正され、加工原料乳価格は指定団体と乳業メーカーの交渉で決められることとなり、補給金は不足払い方式から単価方式となりました。また、酪農家が創意工夫を生かして経営展開できる環境整備や、需給状況に応じた乳製品の安定供給の確保が図られるよう、畜産経営の安定に関する法律等の一部を改正する法律が2017年6月に成立・公布されました。これにより、加工原料乳生産者補給金制度については、これまで指定生乳生産者団体に販売委託する生産者に限られていた補給金の交付対象を拡大し、計画的に乳製品向けに仕向ける全ての生産者を対象とし、さらに一定の地域から集送乳を拒まずに行う事業者を、申請に基づき指定し、補給金と併せて集送乳調整金を交付すること等を内容とする改正を行い、2018年4月1日より、新制度に移行しました。
2021年度の補給金単価は、加工原料乳1㎏あたり8.26円、集乳調整金1kgあたり2.59円、交付対象数量345万tと定められています。