第95回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会開催

2000年代の健康ブームと牛乳

2000年代の健康ブームと牛乳

さて、最後の結びに入ります。
文明開化から今日までの150年間に起こった食の流行現象を調べていて気がついたのは、いかに体によい食べ物のブームが多かったかです。
70年代のファストフード、80年代のエスニック料理、90年代のイタメシなど、私が名づけた「ファッションフード」は、時代ごとにトレンドが移り変わっていきますが、いつでも変わらないのが、健康になりたい、健康に役立つものを食べたいという欲望です。
そんなわけで、健康食と健康法、ダイエットの変遷も調べるようになりました。
まず戦後の本格的な健康ブームは、高度経済成長が落ちついた1970年代から始まり、時代を追うごとに健康食の種類と数が多くなって、2000年代に爆発します。

2000年代は、日がわりで健康食あるいはダイエット法が現れて、はやっては消えることを繰り返しました。発信源は主にテレビの健康娯楽番組でした。
2000年以降にはやったものを挙げてみますと、ザクロ、豆乳、にがり、寒天、データ捏造が発覚して有名になった納豆ダイエット、朝バナナダイエット、プチ断食、1日1食ダイエット、酵素、ポリフェノール、チョコレートとカカオ、赤ワイン、黒五、コエンザイムQ10、オルニチン、グルコサミン、ココナツオイル、アサイーなどなど。

最近では赤カブのビーツがスーパーフードとして人気を得たりしていますが、これでも、まだまだ氷山の一角です。中にはかなり怪しいものも含まれています。酵素は完全な疑似科学と言われていますし、最近、グルコサミンは膝に効かないと言われています。にがりにいたっては、死亡事故が起こりました。
このように、これさえ飲めば、あるいは食べれば元気になる、病気が治る、痩せると謳う方法は、今は「スーパーフード」と呼ばれる食べ物は、2000年代までは「1品健康法」「1品ダイエット」と呼ばれていました。

その元祖は最初に話したように牛乳でしたが、残念ながら、2000年代の1品健康法、1品健康食に牛乳は入りませんでした。それどころか、牛乳は体に悪いバッシングする声が大きくなったり、乳脂肪は太ると敬遠されたりで、消費離れが目立つようになりました。
非科学的な健康法、ダイエットの蔓延に対する危機感と反省からか、2010年代に入ってからは、お医者さんの書いたダイエット本、アンチエイジング本が次々に登場して、社会的な影響力を持つようになっています。

例えば、南雲吉則というお医者さんがいます。ゴボウ茶を提唱している人です。この人が書いた「「空腹」が人を健康にする」という本は、2012年の総合ベストセラーランキングに食い込んでいます。
食べ物ではありませんが、2014年度の年間ベストセラー総合第1位は、何と「長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい」という、トホホなタイトルの本でした。日本人は健康本が大好きなのです。

数ある医者の健康本の中で息が長いのは、糖質制限関連書です。今は「糖質オフ」という言い方がポピュラーになっています。
もともと糖尿病の治療食でしたが、確実に痩せられて効果が高いダイエットとして一大ブームになって、もう5~6年経っています。
また、高齢者の健康寿命を延ばし、認知症を防ぐためには、若いとき以上に動物性たんぱく質を摂取すべきという認識も広まっています。それらの影響が大きいと思いますが、空前と言われる肉ブームが今も続いています。
今回のブームは、牛の赤身肉や熟成肉、鶏胸肉と、低脂肪で高たんぱくの肉が特に注目され、これまで肉を敬遠していた女性とシニア層が参入したことが特徴です。
だったら牛乳ブームも起こってもよいのですが、ヨーグルトブームは起こっても、牛乳ブームの兆しはあまりないようです。

幕末から現代までの牛乳をたどってきて思うのは、不老長寿の妙薬とか完全栄養食とか保健食品とか、健康関連の言説ばかりが語られていて、味やおいしさといった、魅力に関する言説が、見事なほど、ほとんど見当たりません。
70年代に第1次自然食ブームが起こったときに、「より自然に近い環境で飼育された乳牛のミルクの低温殺菌牛乳こそが本当の牛乳である」という言説が普及しました。
これも、味というよりは安全性中心の視点です。機能や栄養、安全性の部分だけが注目されるから、体にいいから飲もう、逆に体に悪いから飲むのをよそう、太るから飲まないとなってしまう。

それでは、牛乳というのは、いったいどこがおいしいのか。それは鮮度なのか、乳脂肪の高さなのか、殺菌法なのか。どこで判断するべきなのか。
嗜好には個人差がありますし、メーカーはよりおいしい牛乳をつくろうと努力していると思いますが、本質的なおいしさを語る言説があまりにも少ない。
味に個性が少なく、組み合わせる相手を引き立てるのが牛乳の特性であり美点だとは思いますが、ワインのようにテイスティングをしながら、味の基準がわかりやすい言葉で語られると、飲み物としての魅力がもっと備わるのではないかと、150年の歴史、言説、流行現象などを調べていて感じました。

これで終わります。ご清聴、どうもありがとうございました。

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