第95回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会開催

多様化するプロセスチーズとナチュラルチーズの出現

多様化するプロセスチーズとナチュラルチーズの出現

戦後、ずっと乳製品の王座の座にあったのはバターでした。しかし、1966年に生産量と家庭内消費量でチーズが抜き去りました。
日本で発達したのは、日持ちがして、食べやすい味に加工したプロセスチーズです。三角形の6Pチーズ、ベビーチーズ、スティックチーズなど、独自の形が生まれて、食の西洋化の波に乗って、60年代には消費量が年々20%以上も増え続けました。
フィラデルフィアクリームチーズは1970年発売、カッテージチーズは1955年に協同乳業が製造を始めていますが、知られるようになったのはやはり70年前後からです。1972年にはスライスチーズが発売されました。
こうしてチーズの多様化が始まりましたが、最も衝撃的だったのはが、ナチュラルチーズの登場でした。

それにはピザの流行が関わっています。ピザが入ってきたのはアメリカ経由で、最初はピザパイと、英語で呼ばれていました。
ピザの第1次ブームは1970年代の中盤です。それ以前から冷凍ピザは売っていましたが、皮が固くバリバリで、具は少なく、とても感動できる味ではありませんでした。
ところが、ブームに乗ってやってきた専門店のピザは、何といってもチーズが溶けてビヨンと伸びるのが感動的で、衝撃的でした。
ほかに、フランス料理のオニオングラタンも1973年頃から人気が出て、ちょっとしたブームになりました。スープの上にフランスパンとチーズをのせてオーブンで焼くと、やはりチーズがとろけて伸びるのが受けました。

このように、新しく紹介された料理を通して、チーズにはナチュラルとプロセスの2種類があること、そしてナチュラルチーズは加熱すると溶けて伸びることが一般に知られるようになりました。後に、とろけるスライスチーズが開発されてプロセスチーズも溶けるようになりましたが、日本人の溶けるチーズ嗜好は非常に強く、例えば最近ブームになったラクレットチーズとチーズダッカルビもその現れです。
チーズダッカルビは、チーズがメートルも伸びている写真がインスタ映えで話題になって、人気を集めています。

チーズの裾野を広げた1970年代のチーズケーキ・ブーム

チーズの裾野を広げた1970年代のチーズケーキ・ブーム

先ほど名前を挙げたクリームチーズとカッテージチーズは、そのまま食べるのではなく、ケーキの材料として使われ、チーズの裾野を広げました。
戦後のケーキは、1960年代まではショートケーキ、モンブラン、シュークリームの三つが人気を誇り、「三種の神器」と言ってよいほどで、それ以外にはあまりバリエーションがありませんでした。
そこに出現した最初の大ヒット作が、1970年代のチーズケーキでした。そもそもチーズをケーキに使うこと自体が、青天のへきれきでした。
カッテージチーズとクリームチーズは両方とも塩気がなくてやわらかく、生クリームにかわるケーキづくりに最適の材料だったので、マンネリを打ち破る救世主として洋菓子店が飛びつきました。

チーズケーキは、当時の「an・an」や「non-no」など、新しい女性誌が盛んに紹介して、ブームを牽引していきました。
チーズケーキブームの特徴は、長期にわたって何度も多発し、長続きしたことです。70年代にこれほど頻繁に女性誌で紹介されたケーキは、ほかにはありません。チーズケーキの人気は衰えることを知らず、それ以降も現在にいたるまで、チーズを使ったケーキやチーズを使ったデザートは、ことごとく注目を集めています。1990年に前代未聞のブームを巻き起こしたティラミスも、その系譜につながる一つです。

チーズを使ったスイーツの系譜

チーズを使ったスイーツの系譜

ティラミスは間違いなく、戦後の流行食の中でも最大級のヒット作です。
ブームのきっかけは、1990年4月12日号の女性誌「Hanako」に載った、「イタリアン・デザートの新しい女王、ティラミスの緊急大情報いま都会的な女性は、おいしいティラミスを食べさせる店すべてを知らなければならない。」という記事だったというのが定説です。
記事はたったの8ページしかなく、しかもその号のメイン特集ではありませんでした。しかし、発売直後からイタメシ屋にティラミス目当ての女の子たちがどっと押しかけて、最初は「また女たちが何浮かれてんだ」と面白半分で取り上げていた男性週刊誌も、次第にこれは無視できないと思ったらしく、異様な流行現象に対する真面目な分析記事を載せるようになりました。気がついたら、あらゆるメディアを席巻して、ティラミス一色になっていました。「ティラミス食べなきゃ時代に遅れる」という雰囲気が世間にあふれ、あの岩波書店の入社試験にも出たそうです。

波及効果は広範囲にわたって、猛スピードで全国展開しました。ブームは約2年で鎮静化しましたが、しっかり定着して、今も人気は健在です。
なぜティラミスはかくも記録的な速度で普及して大ヒットしたかといえば、まず、当時のイタメシブームに乗ったことが一つです。そして、70年代の大ヒット以来、洋菓子界に君臨してきたチーズケーキの一種だったことが大きい。
しかも従来のチーズケーキと違って、とろとろ、ふわふわしたやわらかい食感が、これまでのチーズケーキとは違う新しさを感じさせ、あのヒットが生まれました。
このとてつもないヒット商品で沸き立った食品業界とメディアは、ポスト・ティラミスを必死で探し回るようになりました。

最初に浮上したのは、意外にも、大手パンメーカー製の「チーズ蒸しパン」です。1個120円の商品で、今も健在です。第1号だった日糧製パンのチーズ蒸しパンは、90年11月に月産600万個を記録し、それでも品切れ状態が続くという売れ行きを示し、他社がいっせいに同じような商品で追随しました。
その後、「焼きたてチーズケーキ」というのもありました。直径18センチのホールケーキがたったの500円で、窯出しの熱々ホカホカが買えるのが受けました。タコ焼きやお好み焼きの発想です。

92年頃から全国各地で行列のできるブームが起こり、東京のトップは銀座松屋地下のマゼランという店で、1日2000個から2500個も売れ、常に40~50人が列をなしていました。その後、窯出しバームクーヘンや窯出しカステラなど、いろいろな「窯出しスイーツ」がヒットしますが、焼きたてチーズケーキが「窯出しスイーツ」の第1号です。
2000年代以降は、完全に新しいチーズスイーツは出現していないものの、例えばゴルゴンゾーラを使ったちょっと塩気のあるチーズケーキ、スティック状のチーズケーキ、ティラミスのバリエーション、チーズシュークリーム、チーズプリンなど、従来のものに少しアレンジを加えたチーズスイーツができ、そのたびに必ずある程度はヒットしています。最近ではドリンクタイプのチーズケーキをコンビニで発見しました。

インターネット時代は、みな自分の知りたい情報にだけしかアクセスしないので、知っている人は知っているが、知らない人は全く知らないというように、ブームが局所的になって、以前のような右向け右の大ブームは起こりづらくなっています。しかし、チーズスイーツに関しては、ティラミスやチーズケーキの成功体験が頭に刻み込まれているためネット上のアクセス数が安定して高く、いつでも人気が保たれる傾向があります。

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