第91回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

日EU・EPAの影響試算

影響試算を簡単に示すと、価格低下の影響は全ての乳製品に出る。需要が実際に減少するのは、ホエイに置き換わってしまう国産の脱脂粉乳とハード系のナチュラルチーズの需要が減少する前提の下で行い、2015年度に発効したとして、15年後にどうなるかという前提である。
国内乳価は関税撤廃・削減分下がって、国産ナチュラルチーズの82%、国産脱脂粉乳の25%の需要が減ると想定する。基本的には北海道に直接的な影響が出るが、輸入乳製品が入ってきた結果、北海道で生乳が余ってしまい、余った生乳を他府県に送って処理するという行動に出ると仮定する。そうすると、生乳では、北海道で脱脂粉乳・バター向けが30%減。チーズ向けが69%減。余った生乳が都府県に移出される結果、都府県で約54万tの生産が減少し、生乳生産額ベースで約1,100億。かなりざっくりした計算ながら、最悪の場合そのぐらいの影響が出る。実際にはここまではならないと思うが、最大の影響額としてはこれくらいが想定される。

迫力のある乳製品輸入論

国内の酪農に影響が出るようなEPAとかTPPは良くないと思われる方が多いと思うが、山下一仁さんのような乳製品輸入論者は、バターなどへの高関税は撤廃すべきだと言われている。バターは輸入でいいではないかと。北海道は飲用にした方が高く売れるのだから、乳製品をやめて飲用乳中心でやるべきと。その方が北海道酪農にとってもいいと言われ、なかなか迫力のある考えである。一般の消費者からしても、何か乳製品が安くなるならそれでもいいではないかということを考える方もいるかもしれない。

バター・脱脂粉乳の生産は後回し

しかし、そう簡単には行かない。これは北海道、都府県でも同じことだが、生乳の処理には順番がある。北海道の指定団体であるホクレンが生乳を乳業メーカーに配る場合に優先順位がある。優先順位が高いのが飲む牛乳で、次に生クリームの優先順位が高い。牛乳や生クリームというのは日持ちがしないので、注文量に応じてその都度作っていかなければいけないので、優先的に配分していく。チーズはもともと乳価が低いので、計画的に量をある程度決めて分配するので先にという形になる。一番最後に残った生乳でバター・脱脂粉乳を作る。つまり後回しになっている。
後回しになる理由は、まず一つ目が脱脂粉乳・バター向けの乳価は低いということ。牛乳や生クリームと比べると低い。これは酪農家の側の都合。二つ目は、生乳が余った時は、保存期間が長い脱脂粉乳・バターにするしかないということ。捨てるわけにもいかないので、取りあえず脱脂粉乳・バターにして保存しておかなければいけない。じゃあ足りない時はどうするのかというと、その時は輸入できる。牛乳や生クリームは輸入できない。日持ちしないものはなかなか輸入するのが難しい。脱脂粉乳やバターは日持ちがするので輸入可能である。

季節的な過不足の発生①

生乳は何年かおきに、日本全体で余ったり足りなくなったりするという現象が起きるが、それ以外に季節的に見ても毎年必ず余っている時期と足りない時期というのが必ず起きる。これは年間トータルで見て、過不足がない時でも必ず季節的には余っている、足りないという状況が生じる。これは、生乳の生産量と牛乳の消費量のずれが生じるので起きる。生乳の生産量が青で、牛乳に処理している量が赤で、例えば春先は赤と青を比べると青の方が多いので、余っている時期。逆に夏、9月、10月ぐらいは消費の方が多いので、この時は足りない。都府県のグラフなので、足りない時は北海道から生乳を持ってきて処理するような形になる。牛乳の処理量が8月は少ないが、学校給食がないので少ない。

季節的な過不足の発生②

牛乳の消費量は夏に多く冬に少ない。逆に生乳の生産量は、夏から秋に掛けて少なくなって、逆に春に掛けて多くなり、真逆の動きをしているので、生乳は夏に足りなく冬に余ることになる。その結果バターと脱脂粉乳の生産量は冬場に多く、夏場は少ない。北海道の乳製品工場は、夏場は乳製品に回す生乳がないので、2日に1回しか工場が動かないという話もある。

バター・脱脂粉乳は調整弁

バターと脱脂粉乳は調整弁の役割を果たしていて、もしバターと脱脂粉乳を全て輸入品にしてしまうと、冬場に余った生乳の処理が非常に難しくなる。冬だけ無理やりバター・脱脂粉乳の製造をすると、乳業メーカーの採算が取れない。冬しか動かない工場をどうやって運営するのかという話になる。また雇っている人をどうするかという話になり、非常に大きな問題になる。もしも乳製品の製造ができなくなると、どうやって処理をすればいいのか。たたき売りしかないという話になる。冬場は牛乳をたたき売りすると、酪農家の乳価が下がってしまう。最悪売り切れないと廃棄せざるを得なくなる。もともと冬場は牛乳が売れないわけで、その中でいくら安売りしても売り切れないという事態も当然出てきて、酪農家の収入が減ってしまう。
冬場は生乳生産を減らせばいいのではないかと思うかもしれないが、生乳の生産は急に増やしたり減らしたりが難しい。新鮮な牛乳や生クリームが必要であるならば、バター・脱脂粉乳の国内生産の維持がセットで必要である。牛乳と生クリームだけ日本で作っておけばいいと簡単には言えない。バターと脱脂粉乳がないとうまく調整できない。これが非常に大事で、だからこそこのバターと脱脂粉乳に対しては高い関税を掛けて、国内生産きちんと守っているという意味がある。

結論と展望

結論と展望であるが、日本の酪農制度は生乳流通の面では農協共販を中心とした安定供給。輸入の面では、政府による輸入管理の二つの軸で成り立ってきた。ところが、生乳流通制度改革やTPP、日EU・EPA合意により、乳製品の関税が撤廃ないしは削減されようとしているが、これまでの酪農制度の根幹を大幅に変えるものである。
補給金制度は牛乳・乳製品の安定供給と酪農経営の安定を、例えば農協共販に生乳を集めることで達成しようとしたり、あるいは高い関税と国家貿易制度によって、安定供給と酪農経営の安定を目指してきたわけである。今回この制度を変えようとしているわけで、農協共販ではないところを増やそうと、あるいは乳製品の関税を下げようとしていて、今までの前提が全部変わってきてしまう。
これから先、牛乳・乳製品の安定供給や酪農経営の安定をどういうやり方で実現するのかを、きちんと議論しなければいけが、政府はそれを全く示していない。言いすぎかもしれないが、市場に委ねるということで、競争を通じて調整するようにということなのだと思う。これもおかしな話で、自由に競争させるとうまく行かないからこそ50年前に補給金制度を作ったのであり、それをまた元に戻すという話で、歴史に学ばないというのはこういうことなのかなと思う。もともと市場メカニズムで調整できるならやればいいが、うまく行かないからこそ補給金制度を作って調整してきたにもかかわらず、それを全部ひっくり返すような話をしているので、やはり関係者からすると、何のための改革なのか分からないという話になり、多くの関係者の受け止めはそういう方が多いのではないかと思う。

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