第91回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

生乳流通制度改革の内容

改革の中身が、主に二つ。一つ目が補給金の交付要件から指定団体共販への参加が除外される。今までは指定団体に出荷した酪農家にだけ補給金を払うという仕組みだったのが、これからは指定団体に出荷していない酪農家にも補給金を払うように変わる。要は、指定団体とその他の販売選択肢とが政策的には同等の扱いになるということで、これは実質的に指定団体制度が廃止されたということ。政府として指定団体共販に酪農家を集めることはもうやめるということなので、廃止と言っていいのではないかと思う。
あとは現行の全量委託原則の廃止というのがあり、今の農協と酪農家の契約は、基本的に酪農家の生産した生乳を全て指定団体に出荷するという内容になっている。これは全量委託と言うが、生産した生乳を全て農協に出荷する仕組み。来年4月以降は部分委託もできるようにする。今までは農協に出荷する場合は、全部農協に出荷しないといけなかったのが、来年4月からは農協に出荷しつつ、別の、例えば卸売業者に売ってもいい。同時に、農協以外のところにも売ってもいいと変わる。これもいろいろと問題があり、農協共販を都合のいい時だけ使うフリーライダーの懸念がある。つまり生乳が売れる時は卸売業者に高く売るけれども、いざ生乳が売れなくなって余った時だけ農協に出荷するみたいなことをされてしまう恐れがある。
既に野菜では起きていて、高く売れるものに関しては直接販売するけど、直接販売で売れない野菜を農協に押し付けるという場合もある。そうすると、農協に悪いものばかりが集まるという形になってしまうので、それは農協にとっても非常に問題だろうということ

制度改革の狙いと影響

どういう影響が出るかという話だが、指定団体に出荷していなくても補給金をあげる、あるいは、農協に出荷しつつ他のところにも出荷できるようにするということなので、この制度改革によって農協以外のルートの販売が増えるという可能性がある。つまり、農協共販のシェアが低下する可能性がある。どの程度低下するかというのが、実はなかなか難しいが、私の感覚からすると、あまり減らないのではないかとも思っている。例えば今97%ありますが、これが50%になるとか、40%になるということは多分ない。97%が90%ぐらいになる可能性は否定はできないが、いずれにしても直ちに一気にシェアが下がるという話でもないと思う。

部分委託が最大限進んだ場合のシナリオ

大事なのは、確かに制度自体は全く違うものに変わるが、変わったからといって、すぐに実態が今と全く違うものにすぐに変わるとも思わない。なぜかというと、やはり酪農家にとって、農協に出荷するメリットは大きい。指定団体制度がたとえなくなったとしても、酪農家にとって農協に出荷するメリットはある。そのメリットというのが共販の3原則という形で非常にメリットがあるので、たとえ国の政策の裏付けがなくなったとしても、農協に依然として出荷する酪農家は多く、主流であり続けるだろうと思っている。
逆に、このことは何を意味しているかというと、今回の指定団体制度改革が、現実に存在する問題に対応して行われたものではないということを証明している。普通は、例えば指定団体制度があるせいで酪農家が農協に嫌々出荷しているのだったら、指定団体制度がなくなったらみんな農協に出荷しなくなる。しかし、これは確実にそうなると思うが、指定団体制度がなくなったからといって、みんな農協を抜けて勝手に販売し始めるなんて考えられない。やはり依然として生乳流通は農協が主流という状態が続く。
だからといって改革されても何の問題もないかというとそうではなくて、むしろ政府の意図が問題である。政府は農協共販を通じて酪農家同士が助け合うという現状の仕組み自体が望ましくないと思っているのは間違いなく、むしろ酪農家同士は助け合うのではなく、もっとお互いに競争しなさいと。これは国際競争も含めて。そうすれば非効率な酪農家がいなくなって、いわゆる大規模な酪農家だけ残ったら、これは政府が考える意味での酪農の発展につながるということ。そのために、お互いに競争させるような仕組みを無理矢理入れようとしている。
さらには、生乳流通における農協の影響力の低下を通じて、国内の酪農やあるいは乳業など既存の主体以外の企業、例えば小売業や外資の参入を促す意図があるものと思われる。やはり今の指定団体と乳業メーカーという体制だと別の企業が入り込む隙間がない。しかし指定団体のシェアを小さくしていけば、割り込む隙間ができてくるので、そういうところを狙って外資とか小売業が直接牛乳の生産に割り込んでくるというのを意図している。実際にあるかどうかは別にして、政府としては外部から企業にどんどん参入してもらって競争を活発化させようとしている意図があるのは間違いない。
そうすると何が起きるかというと、農協共販では牛乳・乳製品の安定供給を目的にして、ずっと今まで事業を進めてきが、これが非常に競争的になってしまうと、今まで計画的に行われていた牛乳・乳製品の安定供給というのが乱される可能性がある。特に販売競争というのは一般的に、酪農家同士の販売競争が強まると、これは経済学の基本的なことだが、価格が下がる。乳価下落、所得減少が起きる可能性があり、さらには安定供給に影響が出てくる可能性がある。この辺が懸念として考えられる。

乳製品の関税構造

もう一つの貿易の自由化、国家貿易、乳製品の関税の話に移る。
輸入製品に課せられる税金が関税だが、乳製品関税と言うと何か高いイメージがあるが、実は高いのは特定の品目だけである。国内酪農への影響が大きい特定の少数品目には非常に高い関税が掛けられており、実質的に輸入ができないぐらいの関税が掛けられている。高いのは脱脂粉乳とバターで、100%を超えるぐらい。バターを輸入しようと思ったら、139%の税金を払わないといけない。とても輸入できたものではない。ただし、足りなくなった時のために安い関税で輸入できるという制度が設けられていて、それが国家貿易制度である。
この一部の品目以外の多くの品目は、関税が低かったり、あるいは無税である。特に輸入量の多いナチュラルチーズは30%ぐらいしか関税率がないので、かなり低い。よって非常にたくさんのチーズ、20万tを超えるチーズが毎年日本に輸入されているという状況になる。

主要乳製品の国家貿易制度

国家貿易制度は、主要な乳製品の輸入を国が管理する制度で、脱脂粉乳やバター、ホエイといった乳製品が対象になっている。実務を担うのは農畜産業振興機構で、国が海外乳製品の輸入売り渡しを行う。いつどれぐらいの量、どういうものを入れるかも含めて国が判断する。輸入する業者とか売り渡し先は入札で決める。国家貿易によって乳製品の輸入が行われているのは二つの場合があり、一つが1995年に発効したWTO協定に基づく輸入があり、これは脱脂粉乳とバターの関税を高いままにした代わりに、日本に毎年一定量の乳製品輸入を約束した。毎年、大体生乳換算で14万tぐらいの乳製品を輸入するという約束をしているので、毎年それに相当する乳製品を輸入している。これは余っている、足りないにかかわらず輸入しなければならない。
もう一つが足りない時。基本的には1番の枠で乳製品を輸入するが、それでも国内で乳製品が足りない場合は、追加輸入を行う。不足などで乳製品価格の高騰が起きた、あるいは可能性を含む場合が追加輸入。マスコミでは緊急輸入と言われることもあり、正式に言うと追加輸入が正式名称である。高い関税を掛けている品目も完全に輸入できないようにしているわけではなくて、国家貿易制度を通じて必要な時だけ必要な量を輸入するという非常に賢いやり方をやっているわけである。

TPP、日EU・EPAにおける乳製品関税の扱い

このように日本は乳製品を輸入してきたが、この体制が大きく変わる可能性が出てきた。TPPと日EU・EPAの中身は、乳製品に限って見ればそんなに大きくは変わらない。これまで日本が経験したことがないような大幅な関税撤廃・削減をこの二つの合意で受け入れることになった。
やはり大きいのはチーズ。ナチュラルチーズで関税が撤廃される。現在の関税率の29.8%がゼロになる。あとは脱脂粉乳と質的に似ているホエイ。これはチーズを作る時にできる副産物で、このホエイの関税も撤廃される。国産の脱脂粉乳に影響が出る可能性がある。TPPではホエイは撤廃だが、EUとのEPAでは撤廃でなくて削減。削減でも7割ぐらい削減するので、かなりの削減。
あとは、撤廃はしないけれども、TPPに参加している11か国やEU諸国を対象とした関税割当制度の導入。関税割当とは数量上限付きの関税削減、あるいは撤廃の制度である。例えば日EU・EPAで合意されたのは3.1万t。1年間3.1万tの上限でカマンベール、モッツァレラなどのナチュラルチーズを無税で輸入できるようにする仕組みが作られた。EU・EPAなので、EU諸国だけが恩恵を受けることができる。
乳製品の内容で比べると、TPPよりもやはりEU・EPAの方が少し踏み込んだという印象がある。実はTPPでは、カマンベール・モッツァレラの関税は維持ということだったが、日EU・EPAでは3.1万tの上限付きだが撤廃にしてしまった。TPPでは守ったのはソフト系チーズだが、日EU・EPAではその部分も撤廃してしまう。やはりチーズに関しての影響は大きいと思う。

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